東京周辺のエスニックな肉料理を食い尽くすこの連載「東京エス肉めぐり」は祝一周年! 記念すべき第12回は、私、サラームが13年間ひたすら通い続けてきた東京の炭火焼きグルメバーガーの老舗、三軒茶屋ベーカーバウンスだ!
誰が呼んだか「バーガー好きのグレイスランド(聖地)」。みんな大好きなこのお店をここに改めて紹介しよう!
アメリカ門外漢のサラームが13年通い続ける肉の店
三軒茶屋駅から徒歩7分、世田谷の閑静な住宅街に足を踏み入れると、突如として古い日本家屋を吹き抜けに改装したこのお店が現れる。アメリカンダイナーと言うだけあって、店内は1950年代~60年代のアメリカの商品ポスターやロックンロールのレコードジャケットが飾られ、BGMもオールディーズやロックンロールが大音量で流れ、いかにもな雰囲気を出している。
でも自分は、一度もアメリカには行ったことがない。ケバブならしょっちゅう現地で食べているが、ハンバーガーは本場で食べたことがないのだ。
オールディーズもロックンロールもあまり聴いたことがなく、アメリカンアクセントの英語なんかもちろん喋れない(フランス語とヒンディー語は喋れますよ!)。そんなアメリカ門外漢の自分だが、この店は13年も前から「肉を愛する同好の士」として温かく迎え入れてくれたのだ! 私サラームにとっては三茶のホームスウィートホームなのだ!
そんなわけで、今回は連載1周年、しかも世間はクリスマス&年末年始ということで、料理のセレクトは店主の渡邉貴広さんにおまかせして、5名のエス肉兄弟団は出されたものを存分に喰らおうではないか!
まずはBBQチキンとフライドフィッシュがお目見え。食が細ければこれ1皿でお腹一杯?
アメリカンダイナーにふさわしく、バドワイザーで乾杯していると、最初に運ばれてきたのは肉がぶ厚いBBQチキンとフライドフィッシュ。甘口のBBQソースが淡白な鶏肉に良く合う。魚はカジキだろうか。こちらもホクホクしていて、タルタルソースを絡めたカリカリの衣との食感の違いが楽しい。
料理の付け合わせにはグリル野菜。ズッキーニに赤パプリカ、茄子、エリンギを鉄板の上でオリーブオイルを回しかけて焼いたものだ。さらにその隣にはチーズを混ぜ込んで、やはり鉄板の上でグリルしたマッシュポテトが付く。食の細い人ならこの一皿でお腹一杯になってしまうほどのボリュームだ。
スパイシーポークから肉汁が染み出してくるぞ
続いてはスパイシーポーク&チーズオムレツ。こちらも厚さが3cmはありそうなぶ厚い豚ロースを炭火で焼き、焦がしバターを垂らし、特製のガーリックサルサをのせてある。
一口切ると、肉の断面の淡いピンク色が美しい! それでいて透き通った肉汁が染み出してくる。よくぞここまでジャストに火を通しているなあ! ジューシーな豚肉と唐辛子とにんにくの効いた辛いソースとの相性も最高。さらに横に並ぶクリームチーズを溶かし入れたオムレツと一緒に食べると、卵で辛さが中和される。これはすき焼きと溶き卵の関係と同等かもしれない。
ぜひ試して欲しい、その名も「ステーキハウス」というワイン
鶏、豚と来たので、次は牛だろう。それならば、バドワイザーではなく、アメリカの赤ワイン、その名もステーキハウスにチェンジだ! ワシントン州のこのワイン、フルボディかつ、ラズベリーやブラックベリーなど森の甘い果物の風味が強く、炭火焼きステーキやハンバーガーのスモーキーさに負けないワイルドな強さがある。ベーカーバウンスに行ったら是非試すべき。
本能をくすぐる、300gのリブアイステーキ!
予想どおり、次は300gのリブアイステーキが来た! 焼き加減はもちろんレア。炭火焼きならではの香ばしい香りと味が食欲をそそり、本能をくすぐるのだ~!
赤身の肉塊をガツガツとステーキナイフで切り、口に放り込む。表面はカリカリに焼けているのに、しっとりと真っ赤な内側には肉汁がジュワ~! うわ、たまらん! 切歯と犬歯で肉を立ち切り、小臼歯で噛み砕き、大臼歯ですりつぶし、旨味を舌で味わい、ほんの数十秒前まで肉塊だったものを胃袋に入れるのだ!
美味い、美味すぎる! 口の中でとろけるような和牛もいいが、赤身の肉らしく強い主張をしてくるリブアイステーキも最高だ! にんにくと玉ねぎのピュレ、赤ワインやバターを使ったステーキソースも日々進化しているし、この肉の旨味と炭火の香ばしささえあれば、人生どんな辛いことがあっても乗り越えられるゥ~!!
店主の渡邉貴広さん「炭火焼きは若い頃に和食の店で修業していた時に魚を焼いて覚えました。肉を炭火で焼くと、遠赤外線効果で、外側はカリっと焼けて、中に肉汁が閉じ込められる。その肉汁が沸騰し始めの頃が一番美味しいんです。その上、炭火焼きは油が落ちるので、量をたっぷり食べられる。当店では、女性の方でも大きなステーキ一枚ペロっと食べてしまうんです」
バーガー祭りのはじまりだ~!
300gのリブアイステーキはさらにもう1枚、いや、もう2枚はいけそうだが、この後はお店の人気料理であるハンバーガーだ。アボカドバーガー、ベーコンチーズバーガー、チリバーガーの3つのバーガーが一度に運ばれてきた。うっひょ~バーガー祭りだ!
ハンバーガーのパテは牛の挽肉を練っただけのものではなく、包丁で粗くざく切りにした牛の様々な部位の肉を練って固めてある。そのため、歯ごたえがしっかりしていて、肉汁も多い。そしてこちらも当然、炭火で焼いている。
アボカドバーガーは肉の強さをアボカドが和らげ、優しい味わい。スパイシーな味が好きなら自家製のチリコンカンを挟んだチリバーガーがオススメだ。僕の一番のオススメは自家製のスモーキーなベーコンと辛口のスイスチーズを挟んだベーコンチーズバーガーだな。
サラームはこのハンバーガーを2年間頼み続けた
13年前、このハンバーガーを初めて口にした時の衝撃がどんなだったか、さすがに今では覚えていない。しかし、それから毎月2回以上のペースでこのお店に通い始め、毎回ベーコンチーズバーガーだけを延々と頼み続けた覚えがある。BBQチキンやリブアイステーキ、BLTサンドイッチなど、他のメニューに目が行き、頼めるようになるまで、なんと2年間かかったのだ。ハンバーガーから抜け出すまで2年!
渡邉さん「この世のどこにもないハンバーガーというのが開店時のコンセプトでした。当時は手切りにした肉を練ったパテを炭火で焼くハンバーガー店なんて、私の知るかぎり他の誰もやっていませんでしたから。普通の挽肉を使うだけに満足出来ず、牛の部位から選定し直すと、牛の味って部位によってこんなに違うんだと初めて知りました。今はモモ肉、バラ肉、肩バラ肉、腕肉を合わせてパテを作っています。こうした独創的なアイディアは和食の修行のおかげかもしれません」
ハンバーガーを3つたいらげると、さすがに5人の団員もお腹が満たされてきた。ダメ押しにたまりしょう油につけたサイコロベーコンをつまんだ後、食後のデザートに濃厚なブラウニーとストロベリーバナナパイをいただこう。
鶏豚牛、ハンバーガー、デザートまでたんまりといただき、お腹一杯&気分も最高。それでいて一人約4,500円というコスパの良さ。これだからこの店に通い続けてしまうのだ!
「これまで13年続けてきて、奇をてらったもの、ものすごいものを追いかけた時期もあります。しかし、今は初心に戻って、シンプルで素直に美味しいものを作りたいと思っています。メニューのほかにも、こんな料理が食べたいというリクエストも歓迎です。お気軽に声をおかけ下さい」
汝、肉を愛する者よ。炭火を目の前に立てば、中東のケバブもアメリカンダイナーのハンバーガーも違いなどないのだ!
紹介したお店
ベーカーバウンス
住所: 東京都世田谷区太子堂5-13-5
TEL:03-5481-8670
r.gnavi.co.jp
プロフィール
サラーム海上 Salam Unagami
音楽評論家/DJ/中東料理研究家。肉食。中東やインドを定期的に旅し、現地の音楽と料理シーンをフィールドワークし続けている。活動は原稿執筆のほか、ラジオやクラブのDJ、オープンカレッジや大学での講義、中東料理ワークショップ等、多岐にわたる。著書に『おいしい中東 オリエントグルメ旅』(双葉文庫)、『21世紀中東音楽ジャーナル』(アルテスパブリッシング)ほか。朝日カルチャーセンター新宿にて「ワールド音楽入門」講座講師、NHK-FM『音楽遊覧飛行エキゾチッククルーズ』のDJを担当。中東や東欧の最新音楽をノンストップDJ MixしたCD「Cafe Bohemia~Shisha Mix」(LD&K)も発売中。www.chez-salam.com
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