日本人なら絶対ハマる!ペルー料理のトロトロ牛肉と多彩なソースが食べたことのない美味しさ【東京エス肉めぐり第8回】

家では自炊ベジタリアン、外食は肉、というスタイルを貫くエスニック料理の研究家であるサラーム海上さんが東京近郊のエスニックな肉料理を食べ歩く連載です。連載第8回目に訪れたのは、五反田のにぎやかなゾーンにあるペルー料理店「アルコイリス」。和食と同様にユネスコの向け文化遺産に認定されているペルー料理。その多彩さに触れてきました。(五反田のグルメランチ

日本人なら絶対ハマる!ペルー料理のトロトロ牛肉と多彩なソースが食べたことのない美味しさ【東京エス肉めぐり第8回】


Arco Iris 五反田店の「セコ・コンビナド」

東京周辺のエスニックな肉料理を食い尽くすこの連載「東京エス肉めぐり」第8回は夜の街、五反田西口にある老舗ペルー料理店アルコイリス五反田店で「セコ・コンビナド」。牛肉とポテトのトロトロ煮込みプラス豆の煮込みをご飯の上にぶっかけた、肉、豆、野菜、米の全部のせ四位一体のワンプレートだ!

 

ペルー料理……? 

魚介のマリネ「セビーチェ」をはじめ、近頃何かと料理が話題になることが多い国ペルー。南アメリカ大陸の西部、赤道のすぐ南に位置する国である。

 

紀元前から古代文明が栄え、16世紀まではマチュピチュ遺跡で有名なインカ帝国の中心地として栄えた。現在の人口は約3,000万人。

 

日本の3.4倍の大きさを持つ広大な国土は、砂漠が広がる太平洋岸部のコスタ、アンデス山脈の高地シエラ、アマゾン川流域のセルバの三つに分けられる。さらに赤道に近い熱帯性気候の北部と四季を持つ南部、また標高差によって気候は大きく異なる。

 

ほかの南米諸国より食材が多種多様!

「でも、南米料理なんて焼き肉か豆の煮物ばっかりでしょう?」と知ったかぶりをするでないぞ。上に挙げた地勢および気候の要因により、ペルーには他の南米諸国と比べて圧倒的に多種多様な食材がもたらされているのだ。

 

それに世界中で食べられている野菜のうち、唐辛子、トマト、じゃがいも、とうもろこしはペルー原産ということもお忘れなく。さらにもう一つダメ押しなのが、ペルー料理は食材の豊富さとソースの種類の多さによって、日本食よりも先にユネスコ無形文化遺産に認定されていたのだ! おお、オレも知らなかったよ~! 

 

では、ペルーを代表する肉料理ってなんだろう? シュラスコはブラジルだし、アサードはアルゼンチンだし……。う~ん、思いつかないのでお店の人に聞いてみよう!

 

五反田駅から徒歩3分のペルー料理店「アルコイリス」へ 

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アルコ・イリス五反田店はJR五反田駅から徒歩3~4分のところにあった。1階にヘアサロンが入ったビルの階段を2階に上ると、明るく広い店内に4人テーブルが10台ほど並んでいる。

 

メニューはエスニック料理店のお決まりであるフルカラーの写真入りだ。それを開くと、まず種類の多さに驚いた。牛のステーキ、魚のグリル、鶏のロースト、魚や鶏のフライ、中華料理のような炒め物や炒飯、スパゲッティ、肉や豆の煮込み、もちろんセビッチェまで何でもあるのだ。写真を数えると全部で60種類以上、スープだけで6種類もあった! 

 

どれも美味そうだが、何を頼んでいいかまったくわからないので、お店の人にこの連載の趣旨を話したうえで、聞くことにした。

 

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「シュラスコのような肉料理ですか? ペルーにはブラジルのシュラスコのように国を代表する肉料理は存在しないんですよ。それぞれの地域でそれぞれに異なった肉料理を食べているからです。それでも肉がたっぷり食べたいのなら〈パリヤダ〉を頼むと良いですよ。一皿にチュラスコ(牛ステーキ)、牛の心臓(この日は心臓が品切れのため小腸)、チョリソー、鶏肉のローストが全部のっかっているんです」とウェイトレスのジナさん。おお、肉の全部盛りは当然頼みます! その他は何がオススメですか? 

 

ランチ一番人気は牛肉とじゃがいもと玉ねぎの炒め物

「平日のランチメニューで日系人のお客さんに一番人気があるのは牛肉とじゃがいもと玉ねぎの炒め物〈ロモ・サルタード〉、それから牛肉とポテトの煮込み〈セコ〉の二つね。ディナータイムで人気があるのはじゃがいものチーズソース、〈パパ・ア・ラ・ワンカイナ〉。それから海老とご飯の入ったスープ、〈チュペ〉よ」

 

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なにやら説明を聞くだけで美味そうだ! それでは勧められるがままに全部頼んでしまおう。ペルーのビール、クリスタルとクスケーナで乾いた喉を潤していると、最初に運ばれてきたのは「パパ・ア・ラ・ワンカイナ」

 

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イギリスのジャケットポテトのような巨大なじゃがいもを柔らかく塩茹でして、2~3cm幅にスライスし、お皿に並べ、その上にチーズを溶かしたソースをたっぷりダラ~っとかけてある。トッピングにはゆで卵のスライスだ。初めて見る料理、早速頂きま~す! 

 

おお、これは素朴で美味しい。じゃがいものシンプルな味に濃厚なチーズのソースがよく合う。ペルー特有の黄色い唐辛子のソース、アヒ・アマリージョをほんの少しかけると辛みと深みが増し、更に美味しくなる。

 

隠し味はまさかのあの調味料!

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二品目はランチで一番人気という「ロモ・サルタード」。そぎ切りの牛肉を大きめに切った玉ねぎ、トマト、フライドポテトと一緒に炒めたものだ。これもシンプルな味付けだ。まるで中華料理の牛肉とじゃがいも炒めを食べているようなどこか懐かしい味がする……と思ったら、使っている調味料はなんとしょう油とのこと。

 

「日本食とペルー料理は全く違う料理のように思われるでしょうが、ペルー料理でもしょう油を使うなど、調味料の使い方は重なっているんです。日本食との一番の違いはチリソースを使うことです。でも、食材のバリエーションの豊かさという点では私は日本食に親近感を感じます。私のひいお婆ちゃんは日本から来た移民の一世だったので、子どもの頃には小鉢の料理、酢の物や野菜の煮物を食べて育ちました。川があって、自然が豊かで、私の田舎の風景は日本の田舎ととてもよく似ています」

 

なるほど、ペルーは歴史的に日本との結びつきが深い。17世紀初頭から日本人が移住していたし、現在では日系ペルー人の人口は10万人と言われている。日本食にノスタルジーを感じるジナさんのようなペルー人も少なくはないのだろう。

 

ペルー料理はエキゾチックというよりノスタルジック

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三品目は「チュペ」。ご飯とたっぷりの海老を入れた黄唐辛子と牛乳のスープ。黄唐辛子のソースを使っているのが目新しいが、「海老のミルク雑炊」という名前で日本の洋食屋さんにあってもおかしくないような素朴さだ。これもエキゾティックと言うよりもノスタルジックな料理で胃腸に沁みるなあ!

 

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ここでお店のオーナー、新垣善博さんが現れた。新垣さんはアルゼンチン生まれの日系人。留学生として1980年に初来日し、ペルー系日系人の奥様と知り合い、1992年にアルコ・イリス本店を川崎にオープンした。当時は日本経済のバブル期で、ペルー、アルゼンチン、ブラジルなどから10万人以上の日系人が仕事を求めて日本に押し寄せていた。そのため、お客さんは日系人ばかりだったという。

 

「開店当初は日本人は怖がって全然来なかったね(笑)。それが変わったのはほんの7~8年前ですよ。今ではランチタイムにはペルー人や日系人が来るけれど、夜は日本人のお客さんが中心だね。五反田店はこの近くにペルー領事館とブラジル領事館があるので、そこに集う日系人を目当てに2000年に開いたんですよ、ハハハ」

 

おお、さすがは日系アルゼンチン人、商才がありますね! では日本でペルー料理が流行しはじめたきっかけはなんだったのだろう?

 

今はちょっとしたペルー料理ブーム

「それはマチュピチュ遺跡のおかげ。日本のテレビ番組で世界遺産の人気投票が行われて、マチュピチュが一位になってからです。マチュピチュってどこにある?とインターネットで調べて、ペルーにあると知った人が、今度はペルー料理を食べたいと流れてきた。それが少しずつ増えてきた。今はちょっとしたペルー料理ブームですよ。ここを開いた頃には都内にウチを含めて3軒しかペルー料理店はなかった。今は7店くらいある。以前は埼玉、群馬、浜松など、日系人が住む工場地帯にしかなかったからね」

 

なるほど、標高3400mの高さに建つ天空の城マチュピチュは日本人が選ぶ世界遺産の人気投票で何度も一位に輝いている。さらに2007年には「新・世界七不思議」にも選ばれているくらいだから、観光地としてのペルーの人気も高まり、それが世界的なペルー料理の再発見に繋がったのかもしれない。今ではイスタンブルでもロンドンでも、お洒落な魚介レストランにはペルー料理のセビーチェが欠かせないくらいだ。

 

「セビッチェは日本にはない緑色の小さなレモンを使うんです。あれがあれば日本でもセビッチェがもっと美味しくなるのにねえ……」と新垣さんも遠い目。

 

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そして、四品目は肉の全部盛り「パリヤダ」だ。チュラスコ(牛ステーキ)、牛の小腸、チョリソー、鶏肉のロースト、グリーンサラダが一皿にガーンと盛られている。牛の小腸こそ臭みを取るためカレーのようなスパイスで味付けられているが、他の肉は、これまでこの連載で取り上げてきたブラジルのシュラスコやアルゼンチンのアサードのようにシンプルな塩味だ。もう腹八分目は超えているが、オレはシンプルな焼き肉ならいくらでも食べられるのだ。新垣さん、ペルー料理とアルゼンチン料理の違いはなんでしょう?

 

「アルゼンチン人は肉だけ、ペルー人は内臓だけ」

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 「全然違いますよ。アルゼンチン人は肉しか食べない。ペルー人は中身(内臓)ばっかり(笑)。アルゼンチン料理は誰が作ってもそこそこ美味しく出来るけれど、ペルー料理は安い材料を使うから料理人の腕によって味が変わるんです。ペルー料理は何よりもバリエーションが多いね。魚介が豊富。自然も豊かで海もあり、アンデス山脈、アマゾンの熱帯雨林もある。耕地によって同じ野菜や果物でも味が違う。だから料理によって同じ野菜でも違った品種のものを使い分けたりもします。アマゾンの料理は川の魚やパパイヤやバナナを使うんだよ。ウチのお店の料理は私の妻の実家がある首都リマの料理ですよ」

 

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最後に運ばれてきたのが「セコ・コンビナド」。「コンビナド」という名前の響きからして重量級だが、スペイン語で「盛り合わせ」の意味だ。牛肉とじゃがいもの煮込み「セコ」、豆をにんにくや玉ねぎとともにドロドロになるまで煮こんだ「フレホール」、そして、たっぷりのご飯と玉ねぎのスライスが一皿にのっかっている。しかもすごいボリュームだ! セコの濃褐色はペースト状にしたコリアンダー=香菜のソースとのこと。大きな牛肉の塊にナイフを入れると、柔らかく煮えていてトロトロだ。

 

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牛肉を褐色のソースに点けてから口に放り込むと、これは美味い! 見た目は欧風のビーフシチューに似ているが、味はまったく違う。どちらかというと、前回のこの連載で取り上げたインドネシアの牛肉煮込み「ルンダン」に似ているが、香菜ソースはやはりそれとも異なる独特の切れの良い味である。黄唐辛子のソース、アヒ・アマリージョを振るとさらに風味が増す。それにしてもこれは美味い! セコのソースだけでもお替りしたいくらいだが、さすがにもうお腹ははち切れそうだ。

 

今夜はなにもかもが初めての味だった!  

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食休みをしていると、新垣さんが赤ワインのような濃い紫色をした飲み物を大きなグラスに入れて差し入れてくれた。「チチャモラーダ」と呼ばれる乾燥紫とうもろこしを煮出した飲み物とのこと。葡萄ジュースを麦茶で割ったようなさわやかな味だが、後味にクローブの甘い香りと刺激が残る。今夜はなにもかもが初めての味だった! 

 

まったく自慢にならないが、東京エス肉団団長の私、サラームは生まれてこのかた新大陸=アメリカ大陸に足を踏み入れたことが一度もない。いわば旧大陸に囚われの身である。なので中南米料理についてはまったく知識がない。しかし、自分に知識がないことを知り、こうやって偉大な先人たちに頭を垂れて臨めば、学べることは無尽蔵にあるのだ! それにしてもセコはまたすぐにでも食べに戻りたいなあ………。

 

 

紹介したお店

Arco Iris Bembo’s 五反田店

住所:東京都品川区東五反田1-15-5 第5本宮ビル2F

TEL:03-3449-6629

http://r.gnavi.co.jp/mwjbmrvc0000/

 

プロフィール

サラーム海上 Salam Unagami
音楽評論家/DJ/中東料理研究家。肉食。中東やインドを定期的に旅し、現地の音楽と料理シーンをフィールドワークし続けている。活動は原稿執筆のほか、ラジオやクラブのDJ、オープンカレッジや大学での講義、中東料理ワークショップ等、多岐にわたる。著書に『おいしい中東 オリエントグルメ旅』(双葉文庫)、『21世紀中東音楽ジャーナル』(アルテスパブリッシング)ほか。朝日カルチャーセンター新宿にて「ワールド音楽入門」講座講師、NHK-FM『音楽遊覧飛行エキゾチッククルーズ』のDJを担当。中東や東欧の最新音楽をノンストップDJ MixしたCD「Cafe Bohemia~Shisha Mix」(LD&K)も発売中。www.chez-salam.com

 

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