世界一美味しいという評判はガチ! 肉とスパイスの旨味が詰まったインドネシア料理「ルンダン」【東京エス肉めぐり第7回】

家では自炊ベジタリアン、外食は肉、というスタイルを貫くエスニック料理の研究家であるサラーム海上さんが東京近郊のエスニックな肉料理を食べ歩く連載です。連載第7回目に訪れたのは、目黒通り沿いにあるインドネシア料理の人気店「チャベ」。鶏の丸焼きや、「世界一美味い」との評価もある肉の煮込み「ルンダン」、そしてお馴染みの「サテ」など、たっぷりといただいてきました。(目黒のグルメアジア・エスニック料理

世界一美味しいという評判はガチ! 肉とスパイスの旨味が詰まったインドネシア料理「ルンダン」【東京エス肉めぐり第7回】

目黒のインドネシア料理「チャベ」へ

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東京周辺のエスニックな肉料理を食い尽くすこの連載「東京エス肉めぐり」第7回は目黒通りに面した「インドネシアレストラン チャベ 目黒通り店」で激レアなバリ風チキンの丸焼き「アヤム・ブトゥトゥ」をはじめ、ハラルな肉料理をタンマリ行ってみよう!

 

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インドネシアは人口2億3,800万人と世界第4位の人口を誇る。赤道にまたがって東西5,100kmにわたり点在する13,000以上の島からなる巨大な国である。人口の76%をイスラーム教徒が占める、世界最大のイスラーム人口国であり、さらにキリスト教やヒンドゥー教、伝統信仰なども広く信仰されている。民族においてはマレー人を中心に約300の民族からなり、言語もインドネシア語が公用語となっているが、それぞれの地域で580以上の異なる言語が今も話されている。「多様性の中の統一」とはインドネシア独立時に掲げられたスローガンである。

 

そんなインドネシアの料理は、1990年代のバブル末期にバリ島がリゾート好きの間で大流行したこともあり、バリ島料理を中心に日本でもそこそこ知られるようになった。辛いケチャップ状の調味料サンバルで味付けた炒飯のナシ・ゴレンや、茹でた野菜にピーナッツソースをからめて食べるガドガドなどは、今もお洒落なカフェのランチメニューなどでよく見かける。


チャベにももちろんそうした定番料理はあるが、日本ではまだまだ知られざるインドネシア諸地域の伝統料理こそ、この店の醍醐味だ。

 

メニューはなんと70種類超!

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チャベは、揃ってインドネシア料理にハマった大平夫妻が、ジャワ島出身の女性シェフ、スタミさんと立ち上げたレストラン。2002年に武蔵小山で開業し、2005年に目黒通り店をオープンさせた。お店のメニューには、なんと70種類以上のインドネシア料理が鮮やかな料理写真と簡単な解説文付きで掲載されている。お店のウェブサイトでもそれらを見ることが出来るので、事前に食べたい料理を決めてから訪れると良いだろう。今回も3日前までに予約が必要な料理を2つ頼んでから、お店へと出向いた。

 

ドリアンの誘惑……!

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7月中旬の日曜の午後、大人4名、子ども1名の計5名で目黒通りに面した広いお店に足を踏み入れると、玉ねぎと果物と都市ガスが混ざったような甘~い匂いが漂っている。待てよ! もしかしてフルーツの王様ドリアン?! 


「そうなんです。熟れてきて、何カ所か皮が破裂してきたので、ちょうど食べ頃ですよ」とオーナーの大平正樹さん。ドリアンもそそられるが、しかし、今回はエス肉めぐりだ! 初心貫徹! 肉行ってみよう! 肉!

 

 

まずは牛肉のスープ、シーフード、サラダから

「最初は予約していただいた牛肉のスープ、ラウォンです。ジャワ島東部の町マランの料理です。中のもやしは自家製です。ご飯にかけても美味しいですよ」とオーナーの奥様、大平あきさんが運んできたのは真っ黒なスープ! 中には牛肉とみじん切りのネギやセロリ、小さなもやしが浮かんでいる。レモンをしぼって、早速一口いただいた。

 

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これは滋味豊かなスープだ! 牛肉の出汁と生姜、クミン、コリアンダーなどのスパイス、そして未知の真っ黒なスパイスまたはハーブがミックスして、独特の爽やかな漢方薬のような味を出している。マレーシアの豚スペアリブ漢方煮込みの肉骨茶(バークーテー)や韓国のサムゲタンにも通じる。しかし、この黒い液体は何を使っているのだろう?

 

「ラウォンに使う黒い木の実があるんです。スパイスの種類が多すぎて私も覚えきれないんですけど(笑)。続いてはシーフード・ダブダブです。ダブダブというのはスラウェシ島北部の町マナドの唐辛子やトマト、玉ねぎのソースです。こちらはイカとからめてセビーチェのように作りました」 

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以前、チャベでいただいた揚げ茄子のダブダブのせも美味かったが、イカは更に美味い。トマトと玉ねぎ、ピーマン、香菜に赤唐辛子を組み合わせたダブダブはチュニジアやモロッコの海岸沿いの町でも似たものが存在するし、現在、世界中でブレイクしているペルー料理のセビーチェとも確かに共通する。

 

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三品目はジャワ島中部の料理トランチャム。テンペ、ココナッツ、もやし、きゅうり、さやいんげんなどを小さく刻み、ココナッツフレークやライム、赤唐辛子などで和えたサラダだ。インドネシアの納豆ことテンペは大豆をテンペ菌で発酵させ固めた発酵食品。一時、日本でも紹介されたが、最近はあまり話題に登らなくなってしまった。臭い納豆の苦手な僕には臭くないテンペはうれしい食材なのだが、納豆の他に豆腐や味噌やしょう油までが存在する発酵食品大国、日本ではテンペの居場所はないのかなぁ。

 

いよいよ肉。まずはサテ!

さっぱりとした料理が続いたので、そろそろ肉料理だ! まずは串焼き盛り合わせ、サテ・チャンプル! おお、これは豪華! 6種類の異なった肉の串焼きサテが一つのお皿にてんこ盛りなのだ! その内訳はまず鶏の串焼きピーナッツソースのサテアヤム、続いて鶏の串焼きサンバルソースのサテサンバル、牛肉の串焼きのサテサピ、マトンの串焼きのサテサンビン、鶏のつくね串焼き レモングラス風味のサテリリッ、最後が海老の串焼きのサテウダン。

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焼き串を外すと、一つ一つの色や固さが異なり、それぞれに異なる味付け、調理法で作られていることに気づいた。牛肉のサテは後述するルンダンのように一旦柔らかく煮こんだものを焼いている。鶏のつくねはレモングラスが効いていて、しかもフワフワの食感。サンバルソースとピーナッツソースの鶏のサテも食べ比べが楽しい。これは手間がかかっている! こんな料理が食べたかったのだ! サテ・チャンプルをもう一皿追加お願いします!

 

「そうなんです。牛肉のサテは肉を串に刺したまま、鍋で柔らかく煮こんでから、焼いています。他にも一旦蒸してから焼くものもあります。6種類の異なる味と食感を楽しんで下さい。そして、次は牛のルンダンです。ルンダンはCNNトラベルの「世界でもっとも美味しい料理TOP50」の1位に選ばれているんですよ! 寿司よりも上位なんです」

 

マジすか! ルンダンが寿司よりも上位とはこれ如何に? 帰宅してから調べてみると確かにCNNの記事が出てきた。

 

ルンダンの旨味をいつまでも味わっていたい……!

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ルンダンはインドネシア最大の島、スマトラ島西部の町パダンの伝統料理で、牛や山羊、羊の肉をココナッツオイルと唐辛子、生姜、ターメリックなどのスパイスで長時間煮こんだもの。インドやパキスタンのカレーに似ているが、汁がなくなるまで煮詰めてあり、保存食にもされる。肉とスパイスの旨味が詰まったルンダンは、ほんの少しの量でご飯を何杯も食べられるため、今ではパダンだけでなく、インドネシア全土で人気の料理となっている。チャベのルンダンもソースが甘辛くて、肉は柔らかく本当に美味い! サテに続き肉の味をいつまでも味わっていたくなる! ああ、なぜオレは牛のように四つの胃袋を持っていないのだろう!? そうすればいつまででも味を反芻出来るのに!

 

チキンの丸焼きが登場だ!

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今度は笑顔がチャーミングな女性、シェフのスタミさんがメインディッシュ、バリ風チキンの丸焼きアヤム・ブトゥトゥを運んできてくれた。平皿の上にバナナの葉を広げ、その上にバナナの葉で包んだチキンの丸焼きがのせられているのだが、第一印象とにかくデカイ! そして持つと重い!

 

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テーブルの上で、長時間蒸してカーキ色に退色してしまったバナナの葉を一枚一枚開いていくと、鶏肉と無数のスパイス、そしてバナナの葉の青々しさが混じった複雑な香りが広がっていく。その中からは茶色いミックススパイスのソースがたっぷり塗りたくられた大きな鶏が現れた。

 

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肉の横にゴロっと転がるレモングラスの茎やインドネシア料理独特のダウンサラムの葉をどかして、鶏の胸の部分にナイフを入れると、軟骨や骨まで一気に切れてしまう。肉は水分がほどよく抜けて、蒸したと言うよりも半分スモークのような状態だ。いったい何時間、蒸せばこうなるんだろう? 

 

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「これも手間がかかる料理なんです。前日からソースに漬け込んで、当日はバナナの葉に包んで、四時間くらい蒸すんです。スタミさんはジャワ島東部の町マランの出身で、この料理はバリ島の料理ですが、今ではスタミさんの得意料理です」

 

ササミやモモ肉にはスパイスソースが絡まってインドのカレーよりももっともっと複雑な味わい。そして、鶏のお腹を切り開くと、中からは小松菜がたっぷり出てきた。この小松菜とソースだけでご飯何杯でも行けそうだ! 既にお腹ははちきれんばかりだが、ソースをなめるのを止められない!

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「チャベの料理はスタミさんの味です。大抵のインドネシア人は自分の町の料理だけで満足してしまい、他の地域の料理にはまったく興味を持たないんです。でも、彼女はいろんな地域の料理を試して、勉強して、アレンジしてくれる。彼女のご主人は日本人で、料理が大好きな人なんです。だから彼女の料理は元々はご主人を喜ばすための料理なんですよ」

 

なるほど、愛するご主人のための料理が美味くないわけな~い! 我々エス肉兄弟団の大人四名、子ども一名、全員がもう満腹です~!

 

 

断食月「ラマダン」の現場に遭遇

夕暮れになると、いつのまにかインドネシア人の団体客で広いお店が満員になった。ちょうどイスラーム教の断食月、ラマダンの期間だ。イスラーム教徒のインドネシア人は昼の間は断食をして、日が暮れると一斉に食事を始めるのだ。
 

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「この近くにインドネシア大使館やインドネシア人学校、モスクがあり、沢山インドネシア人が住まわれているんです。なので国家行事や宗教行事があると、ケータリングを頼まれることも多いんですよ。お店のお客さまの比率は日によって異なりますが、日本人とインドネシア人がちょうど半々くらいです。働いている私しか日本人が店内にいないこともありますし、日本人だけで満員になってしまうこともあります」

 

客席のインドネシア人たちはスマホのアプリで日没の時間をチェックしていて、目の前に料理が置かれても誰も手を付けていない。そして、18時59分の日没とともに一斉に食事を始めた。


「ラマダン・ムバーラク!(ラマダンおめでとうございます)」

 

インドネシア料理の魅力とは?

チャベのメニューには日本に暮らす都会育ちのインドネシア人が知らない田舎の伝統料理が幾つも含まれている。チャベで初めてそれらを食べて、好きになったインドネシア人も多いそうだ。そんなインドネシア料理の魅力とはなんだろうか?

 

「知っても知っても、こんな料理があるのかと今も発見があるし、まだまだわからないものだらけなんです。だから興味が尽きない。最近は辛い料理が流行っているので、タイ料理のような辛さを求めて来店するお客様もいらっしゃいます。香菜を求めて来る人や、魚醤を求めて来る人もいらっしゃいます。でも、インドネシア料理は基本的に辛くはない甘じょっぱい料理です。もっと普通に美味しい料理です。なので、もっともっと普通に食べに来ていただければうれしいです」

 

紹介したお店

インドネシアンレストランcabe目黒通り店

住所:東京都目黒区目黒3-12-7 バルビゾンビル48

TEL:03-3713-0952

プロフィール

サラーム海上 Salam Unagami
音楽評論家/DJ/中東料理研究家。肉食。中東やインドを定期的に旅し、現地の音楽と料理シーンをフィールドワークし続けている。活動は原稿執筆のほか、ラジオやクラブのDJ、オープンカレッジや大学での講義、中東料理ワークショップ等、多岐にわたる。著書に『おいしい中東 オリエントグルメ旅』(双葉文庫)、『21世紀中東音楽ジャーナル』(アルテスパブリッシング)ほか。朝日カルチャーセンター新宿にて「ワールド音楽入門」講座講師、NHK-FM『音楽遊覧飛行エキゾチッククルーズ』のDJを担当。中東や東欧の最新音楽をノンストップDJ MixしたCD「Cafe Bohemia~Shisha Mix」(LD&K)も発売中。www.chez-salam.com

 

過去の「東京“エス肉”めぐり」はこちらから

                             
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