常連の声で生まれたおでん、揚げずに焼くカレーパン…コロナ禍で生まれた「起死回生の新メニュー」のたくましさ

緊急事態宣言は解除されてもまん延防止等重点措置の該当地域をはじめとして、それ以外の地域でも飲食店に対する営業時間の短縮要請が続いています。制限下での営業に多くの飲食店さんが苦心していますが、この機を利用して新メニューの開発や既存メニューのブラッシュアップにいそしむ店主もいる。遠のいた客足を呼び戻すため、さらなるパワーアップのために奮闘する、飲食店さんを2店紹介します。浅草の「ほしや」さんと、船橋の「ソレイユ」さんに共通するのはお客さんの声でした。(浅草のグルメおでん

常連の声で生まれたおでん、揚げずに焼くカレーパン…コロナ禍で生まれた「起死回生の新メニュー」のたくましさ

およそ2ヶ月半にわたった首都圏の緊急事態宣言。解除されてから3週間あまりが経ったが、現在でもまん延防止等重点措置の該当地域をはじめとして、それ以外の地域でも飲食店に対する営業時間の短縮要請が続いている。制限のなかでの営業に多くの飲食店が苦心しているが、なかにはこの機を利用して新メニューの開発や既存メニューのブラッシュアップにいそしむ店主もいる。

 

遠のいた客足を呼び戻すため、さらなるパワーアップのために奮闘する、飲食店の「起死回生の一手」を取材した。

 

まずは、東京浅草にある干物料理専門店「ほしや」を訪ねた。以前、干し網の使い方について教えてくれた干物のプロフェッショナルである。

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干し物、乾物をテーマに、様々なオリジナル料理を提供

 

以前の記事はこちら。

 

「ほしや」では二度目の緊急事態宣言を受けて、とある新メニューの提供を開始。今ではお店の看板メニューになっているそうだ。まさに起死回生。詳しく話を聞いてみた。

 

常連の声から生まれた新メニューが大人気に

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店長のともなさん。休日だったため、愛犬との散歩中に取材した


 ――コロナ禍に始めた、新メニューってなんですか?

 

ともなさん(以下省略):「おでん」です。今年の1月、二度目の緊急事態宣言が発令された翌日から始めました。お客さんに「緊急事態宣言中、なにか新メニューつくろうかな」って相談してみたら「冬だし、おでんがいい」って声が多かったんですよ。

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ほしや自慢のおでん

 

――お客さんの要望だったんですね。

 

はい。時短営業でお酒を飲みにくる人も減るし、軽いつまみよりもしっかり食べられるメニューのほうが喜ばれるだろうなと思っていたので、おでんはアリだなと。冬でも換気しなきゃいけなかったからお客さんには寒い思いをさせてしまったんですけど、おでんなら温まるし、屋台感覚で楽しめる。日持ちするのでロスも減らせて、一石二鳥でした。

 

――今の状況にはもってこいのメニューですね。

 

あと、おでんに合わせて日本酒も置くようにしました。熱燗に合うものと、おでんの出汁割りにして美味しいものを仕入れていますよ。

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干物定食に付くおでんも地味にうれしい

 

――干物を売りにしているお店としては意外なメニューですが、反響はいかがでしたか?

 

好評です。いつもはあまり食事をされないお客さんがおでんは頼んでくれたり、いつもビールのお客さんがおでんの時だけは日本酒を飲んでくれたり。緊急事態宣言下という厳しい状況のなかで、思った以上におでんが活躍してくれましたね。

 

――おでんの香りに誘われて、新規のお客さんも増えそうですね。

 

だとよかったんですけど、この状況なので新規のお客さんはなかなか増えなかったですね。常連さんにはこの1年間、本当に支えられました。だから、感謝の意味も込めて、お客さんに食べたいおでんの具を聞いて日替わりで入れるようにしました。最近のヒットは春菊です。あと、高野豆腐の干物も「ほしや」ならではの具ですね。おでんの出汁が染み込んで人気ですよ。

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おつまみとして楽しめるよう、濃いめの味付けに

 

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箸でほろほろとくずれる鶏の手羽元「かしわ」

 

――うわあ、食べてみたい! どんな味付けなんですか?

 

私が大阪出身ということもあり、関西風です。昆布と鰹で出汁を取り、茶色く濁らせないのが特徴です。ちなみに、3月からはおでんの出汁を使った親子丼も始めましたよ。

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鶏肉に出汁が染み込み、ご飯が進む「親子丼」。シメにピッタリ

 

――そんなの絶対うまいじゃないですか!

 

おでんの出汁と、かしわを使った親子丼です。元々はかしわを消費するために賄いで作っただけなんですけど、これが思った以上に美味しくて。すぐにメニューに加えてしまいました。

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卵は鶏肉をとじるのではなく、目玉焼きとしてオン

 

――暖かくなってきましたが、今後もおでんは続けるんですか?

 

続ける予定です。正直、緊急事態宣言がいつまで続くかわからなかったので、はじめはつなぎメニューとして考えていました。でも、今やおでんが可愛くなってきちゃって(笑)。出汁を継ぎ足していくと、どんどん美味しくなっていくんですよね。そしたら、もっとこだわっていきたいなと思うようになりました。

 

――干物と並ぶ、お店の看板メニューになるかもしれませんね。

 

そうなるように、これからも我が子のように育てていきます。定番のおでんダネだけでなく、乾物の具も試していきたいですね。例えば干し椎茸なんて、椎茸そのものの旨みとおでんの出汁が相まって、絶対に美味しいと思います。

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一番人気は出汁が染みた大根

 

――確かに、以前に教えていただいた「干し椎茸のスープ」は抜群でした。

 

あとは、旬の食材もどんどん入れていこうと思います。今の季節だったら、玉ねぎやタケノコ。夏は練りものを減らして野菜をメインにした「冷やしおでん」を考えています。ほうれん草やナス、トマトは夏バテ防止になるだろうし、煮浸しのような感覚で食べやすいですからね。

 

――もはや、おでん屋さんといってもいい力の入れようですね。

 

最近では、おでんの仕込みが間に合わなかったときに、お客さんから「今日、おでんないの?」って言われますから(笑)。ちなみに、3月にお店が4周年を迎えたんですけど、その際にお客さんから「赤提灯」をプレゼントされました。

ここまで来ると、やめ時がわからなくなっちゃいますね。少なくとも、厳しいコロナ禍を支えてくれた常連さんから「やってほしい」という声がある限りは、続けていきたいと思います。

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お客さんからプレゼントされた、おでんの提灯

 

紹介したお店

ほしや
東京都台東区雷門2-13-1 KAMINARI 1F
03-6873-4481
http://hoshiya.tokyo/

 

空いた時間を生かし「カレーパン」をブラッシュアップ

 

続いて訪れたのは、千葉県北習志野にある「ケーキとパンのお店 ソレイユ」。こちらも以前に取材をした、人気のベーカリーショップだ。

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「ケーキとパンのお店 ソレイユ」。日本一のパン職人を決める「ベーカリー・ジャパンカップ」で優勝経験もある名店

以前の記事はこちら。

 

店主の鈴木さんは、もともとパン作りにおいて尋常ならざる探究心を持っていた。そんな鈴木さんがコロナ禍だからといって立ち止まるはずはない。そう思い話を聞くと、やはり空いた時間を利用して、すべてのメニューを徹底的に見直したという。しかも、あるメニューは賞までとってしまったというから驚きだ。

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店主の鈴木さん。パンが焼き上がるまでの間、お話を伺った

 

――緊急事態宣言中は何をしていましたか?

 

鈴木さん(以下省略):一度目の緊急事態宣言の時からカレーパンを研究していました。元々うちではあまり人気がなかったんですが、ブラッシュアップしたことで今ではお店一番の人気商品になりましたよ。

 

――以前のカレーパンとは、どう違うんですか?

 

味、具材、見た目、全て違います。また、コロナ禍で冷凍パンの全国配送も始めたので、冷凍でも品質が落ちないようにベースとなるパンから工夫しました。

 

――例えば、具材は何が変わったんでしょう?

 

以前のカレーパンは自分でカレーからつくり、フランスパンの生地で包んでいました。もちろん美味しかったんですけど生産性が悪く、オリジナリティが足りなかった。そこで、自分が納得できるバターチキンカレーを探し求め、具材として使わせてもらうことにしました。それをベースに、玉ねぎ、粗挽きソーセージ、ゴーダ、モッツァレラ、ゴルゴンゾーラの3種類のチーズを加えています。特に、ゴルゴンゾーラが味の決め手ですね。仕上げにケーキ屋らしく、はちみつとシナモンパウダーをかけています。はちみつとゴルゴンゾーラの相性は最高ですよ。

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改良を重ねた「ハニートリプルチーズカレーパン」。一口目からチーズとカレーが溢れてくる逸品

 

――うまそう……。

 

食パンではなく、玄米食パンのもちもちとした食べ応えもポイントですね。ちなみに、見た目は厚いんですが、この厚さが冷凍しても水分を保っていられる秘訣です。

 

――そこまで計算されているんですね。

 

あと、スパイスメーカーのSB食品が主催していた勉強会にも足を運び、スパイスの研究もしました。そこでシナモンとの相性は意外性があって面白いと発見し、カレーパンにかけることにしたんです。味のアクセントにもなるし、何より香りが最高です。

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チーズのまろやかさと、様々なスパイスが口の中で混じり合う

 

――揚げないカレーパンというのも珍しいですよね。

 

確かに日本でスタンダードなのは揚げたカレーパンですが、うちにしかできないオンリーワンを強化しようと思いました。それに、北習志野はご年配の方が多いエリア。お客様にできるだけ健康でいてもらいたいという思いもあって、揚げずに焼いたカレーパンで勝負したかったんです。

 

――お客さんの反応はどうですか?

 

当初は、想像しているカレーパンの形状ではないため、戸惑っている様子でした。でも、買ってくださったお客様は「脂っこくないからぺろっと食べられちゃう」「小さいけど食べ応えがあるから1個で満腹になれる」と好評でしたよ。あと、昨年のカレーグランプリ2020では、チーズカレー部門で金賞を受賞させていただきました。

 

――えっ、すごい……! というかカレーグランプリってなんですか?

 

「日本一のカレーパンはどれだ?」を合言葉に、日本カレーパン協会が主催する、カレーパンの日本一決定戦です。ベーカリージャパンカップのように自らエントリーするのではなく、インターネット投票で日本一を決める大会なので、一般のお客さんから支持されたということ。素直に嬉しかったです。ついでにいうと、グランプリに向けてつくった「カレークロワッサン」もQBB賞(バラエティ部門)で銀賞をいただきました。

 

――ダブル受賞! カレーパンはもともと不人気だったのに、すごい。

 

売り上げも、「ハニートリプルチーズカレーパン」は10倍以上になりましたね。もともと一番人気だったクロワッサンは年間5,000〜6,000個ほど出るんですが、わずか半年でカレーパンがそれ以上に売れてしまって……(笑)。ニュース番組やお昼の情報番組など、テレビでもたくさん紹介していただきました。

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――爆発的にヒットしていますね。ちなみに「カレークロワッサン」もかなり気になるんですけど。

 

名前の通り、ソレイユで一番人気のクロワッサンの生地を使っています。生地が少し甘いため、ルーはピリ辛のキーマカレーです。仕上げにふりかけたコショウとガラムマサラの香りが引き立っていますよ。最大の特徴は食感。一口目のサクサク感に加え、ルーと一緒に食べたときの不思議な食感は他では味わえないと思います。

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「カレークロワッサン」。不思議な食感がクセになる

 

――もともとの人気メニューであるクロワッサンにも、カレーパンの研究成果が生かされたわけですね。

 

もともと、クロワッサンはソレイユで一番自信のある商品です。だから、この生地でカレーパンを作ったら、美味しいに決まってるじゃん!って感じで作りました(笑)。ただ、やっぱりお客さんが喜ぶものこそが看板商品なんですよね。そういう意味では、うちはケーキ屋でもありますが、今の看板はカレーパンたちですね。

 

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看板商品のカレーパン。冷凍配送も受けていて、全国から問合せがあるそう

 

――まさに、起死回生のメニューになったわけですね。

 

そうですね。思い返せば、やはり2020年は大変な一年でした。3月にテレビで取り上げられたこともあって、コロナ禍でもお客さんは減らなかったんですよ。でも、多忙による無理のしすぎで体調を崩したり、お客さんからのクレームが異常に増えてしまったりして……。

 

――当時は特に、多くの人がストレスを抱えていましたからね……。

 

それで、毎日のように謝っていたら今度は私が病気になってしまい、店を休業することになったんです。そこから再開することができたのも、カレーパンのブラッシュアップを含めて仕事全体を見つめ直すことができたのも、スタッフが支えてくれたから。例えば、パンを説明するポップはスタッフが作ってくれます。私はパン作りだけに没頭し、その美味しさや特徴を伝えるためにスタッフが最大限サポートしてくれる。SNSでも毎日発信してくれて、フォロワーさんや冷凍パンの受注も増えています。ピンチを脱し、ここまで支持されるようになったのは間違いなくみんなの力ですね。

 

――なんだか、一段といい店になったように感じます。今後もパンの研究を続けていきますか?

 

そうですね。ただ、体を壊したこともありますし、まずは自分たちが無理しないでやれる範囲を探ってみようと思います。その上で、より多くの人に美味しいパンを届けるためのアプローチを考えていきたいですね。例えば、冷凍パンの全国配送をより強化して、パンをギフトとして贈る文化みたいなものが作れたらいいなと思います。

 

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再開後は品数も絞っている。買ってもらいたい商品がわかりやすくなり、お客さんの滞在時間も短縮できるため、感染対策にもなっているようだ

 

紹介したお店

ケーキとパンのお店 ソレイユ
千葉県船橋市習志野台2-73-14
047-440-8181
https://cakepainsoleil.stores.jp/

 

***

 

現時点(4/15)では1日の感染者数は4,000人を超え、多くの地域でまん延防止等重点措置が適用されている。未だ先行きの見えない状況に、多くの飲食店関係者が不安な日々を送っていることだろう。協力金でいったんは凌げたとしても、時短や休業による客離れが進みいずれ立ち行かなくなるのはあまりにも辛い。

 

しかし今回再訪した2店舗のように、飲食店はみな諦めることなく研鑽を積み、逆境をたくましく乗り越えようとしている。

しばらく足が遠のいていた馴染みの店を久しぶりに訪問してみたら、思わぬパワーアップを遂げているなんてことも、あるかもしれない。

 

著者プロフィール

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小野洋平(やじろべえ)

1991年生まれ。編集プロダクション「やじろべえ」所属。服飾大学を出るも服が作れず、ライター・編集者を志す。自身のサイト、小野便利屋も運営。

http://yajirobe.me/
Twitter:@onoberkon

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