店主夫妻の料理愛と酒愛がダダ漏れ...! 大塚「竹政」のパラダイスっぷりを紹介せずにいられない

高級割烹顔負けの居酒屋を紹介します。大塚にある「竹政」(東京都豊島区南大塚3-35-7)さんは、店主ご夫妻の料理への愛情、お酒への愛情をひしひしと感じられるお店です。レポートしてくれるのはイナダシュンスケさん。「気が向いた時にふらっと寄れるお店。それでいて出てくる料理は世の割烹をしのぐ逸品揃い。しかも店主ご夫妻はお酒が好きすぎて、その日本酒愛はお店のメニューにもダダ漏れ。もはやパラダイス」とのこと…!イナダさんの料理やお酒の楽しみ方も必読です。季節ごとに寄りたくなる素敵なお店、いかがでしょうか。(大塚のグルメ居酒屋

店主夫妻の料理愛と酒愛がダダ漏れ...! 大塚「竹政」のパラダイスっぷりを紹介せずにいられない

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ふらっと寄れる「高級割烹顔負けの居酒屋」がある

居酒屋が大好きです。でも割烹はもっと好きです。総じて割烹は扱う食材の質が良いし、一品ごとにかける手間も潤沢。もちろんお値段もその分高いので「どうしてもおいしい和食が食べたい」という、ここぞの時にキアイを入れて行くことになります。

ただ割烹は、キアイだけではなんともならない部分もあります。基本的には予約を入れて行くものなので、気心の知れたお店でない限り、突然気分が高まったからといってふらりと寄るわけにもいかず、一人で行くのも遠慮してしまいます。

その点に関して言えば、やっぱり居酒屋もいいものですね。ちょっとでも気が向いたらふらっと寄って、食べたいものだけ食べて、飲んで、サクっと帰る。日常的に伸び伸びと楽しめる空間です。

 

さて、今回ご紹介する「竹政」さんは、まさにその両方の良さを兼ね備えたお店です。かといってどちらかが中途半端ということもありません。気が向いた時にふらっと寄れるお店。それでいて出てくる料理は世の割烹をしのぐ逸品揃い。しかも店主ご夫妻はお酒が好きすぎて、その日本酒愛はお店のメニューにもダダ漏れ。もはやパラダイスです。早速、ある日のパラダイスっぷりをご紹介していきましょう。

 

【お品書き】

 

【椀物】じゅんさいとウニの冷やし椀

こちらのお店ではお通しとして必ず椀物(汁物)が出てきます。僕は和食の中でも椀物が一番くらいに好きなのですが、居酒屋だとメニューに椀物を置いている店はまずありません。実はこれが「割烹の方が好き」の最大の理由のひとつなのですが、それがこちらではその日ごとに違う内容で必ず出してもらえる。毎回のっけから楽しみでしょうがありません。

大塚・竹政の「じゅんさいとウニの冷やし椀」

蒸し暑かったこの日は、こちらの気分を見透かすかのように冷たいお碗。酒に合わせて気持ち濃い目でありつつ上品この上ないダシは、一流の割烹そのもの。この季節ならではのじゅんさいがまた嬉しいですね。

 

【1杯目】鍋島 summer moon

鍋島summer moon

正直に言うと、僕は日本酒をふだんあまり飲みません。よって全く詳しくない。でもこの店に来た時だけは1杯目から日本酒です。なぜなら椀物にはやっぱり日本酒を合わせたいから。なので日本酒の注文はいつも女将さんにお任せです。

今日も「今日の1杯目にふさわしいやつを」と、雑極まりない注文にもかかわらずこれを出していただきました。キリッとした辛口ですがフルーツのような甘い香りと微かな後口があって、椀物のウニとの相性がドンピシャ!

 

【向付】鰹の藁炙り 土佐塩造り

大塚・竹政の「鰹の藁炙り 土佐塩造り」

鹿児島出身なので子供の頃から鰹のタタキは嫌というほど食べてきました。鰹は案外個体差の大きい魚なので、おいしい鰹からそうでもない鰹まで一通り食べてきたつもりだったけど、ここのタタキは別次元。夏や秋は常連さんたちがこれを目当てに訪れる、この店のシグネチャーと言っていい料理です。産地よりも身質を徹底して重視する仕入れの吟味ももちろんなのですが、まるで燻製のような強い芳香を纏う炙りの技術も一般的な藁焼きとはあきらかに違います。大将にそのことを尋ねると、その驚くような工夫をあっさり教えていただけました!

普通の藁焼きは、とにかく藁をぼうぼうと燃やし、その炎でカツオの表面を炙るのですが、こちらの藁焼きは北京鍋で間接的に藁を燻すのだそうです。そこにカツオを並べて蓋をする、つまりまさしく燻製ということ。カツオがしっかり薫香を纏ったらそこで初めて藁に火を付け、一気に焼き目を入れるのです。

実は「こんな凄い秘密、書いちゃっていいんですか?」と何度も大将に確認したんですが「構いませんよ」とのことなので書いてます。書きながらまだ、本当に大丈夫かなと不安にもなってますが、方法自体は真似できてもそれぞれの工程の絶妙な加減はそうそう真似できない、という自信の表れでもあるんだろうと思います。かっこよすぎです。

 

大塚・竹政の「鰹の藁炙り 土佐塩造り」分厚い

そしてどうですか、この分厚い切り身。もちろん厚けりゃいいってもんではないですが、この店の鰹は、ガブリと噛みつくこの厚さで一番生きるのは間違いないです。実際、大将はいろいろな厚みを実際に試した上で「これしかない」というところに辿り着いたとのこと。文明の極みみたいな厨房仕事で原始の本能が揺さぶられる、人類の到達点です。

そして、脇に添えられた薬味がまたニクい! 玉ねぎやミョウガ、大葉などをキリっとかっこいい味わいの特製ポン酢で軽く和えてある。鰹との相性は言わずもがななのですが、僕はあえて別々に食べます。なぜなら一つには、この旨味が凝縮した鰹を、鰹オンリーで口中をいっぱいに満たしたい、という煩悩まみれの欲望。そしてもう一つはこの薬味自体が最高の一品料理だからです。正直これだけで延々飲めるやつです。

 

【2杯目】サッポロ 白穂乃香

サッポロ 白穂乃香

ビール大好きな僕としては、スモーキーで塩のキマった鰹にこれを合わせるために1杯目のビールをあえて我慢したとも言えます。しかもこの知る人ぞ知るビール、上面発酵で無濾過の濁りという超変態ビールで、メーカーさんも限られた信用のおける飲食店にしか卸さない幻のビール。というのも、酵母の生きたこのビールは非常に繊細。かつダイナミックな味わいは、酒好き大魔神の大将と女将さんのお眼鏡にかなったのも納得の味わいです。

 

【油物】穴蝦蛄(アナジャコ)のから揚げ

ビールが少し残っているうちに前倒しの油物を。大将が素材を見せてくれます。

穴蝦蛄

穴蝦蛄、初めて実物を見ました。なかなかのモンスターです。麻痺攻撃とか仕掛けてきそうです。蝦蛄の名がついていますが、分類学上は類縁の遠いエビ目のモンスター、もとい生物。これに片栗粉をまぶしじっくり揚げたものがこちら。

穴蝦蛄のから揚げ

「尻尾の方から食べるといいですよ」という大将の言葉に従ってそうすると、ほっくりと甘い、いかにもおいしい海老という味わいと共に、一口目からミソの濃厚な味わいが! 「味噌がぐっーと身の下の方まで入り込んでるんですよ」とのこと。たしかに噛み切った断面に鮮やかなオレンジ色のミソがはっきり見えていました。そのミソも、いわゆる海老ミソとは一味違う、どこかホヤを思わせるような清涼感のある磯の香りと濃厚なコク。

あえてベタに言わせていただきましょう。これは世界最高の海老フライ。今後の人生で、見かけたら絶対食べるであろう新しい大好物が爆誕した瞬間でした。

 

【3杯目】大信州 ヒカリサス

大信州 ヒカリサス

さてここでまた日本酒に戻ります。またもお任せでこの後の料理に合わせてもらいました。1杯目に続いてこちらもキレの良い飲み口にほのかなフルーツの香り、こっちの方がより浮かれた感じで華やかです。

ちなみにこちらのお店、お酒と一緒に出してもらえる水もこちらの蔵元大信州の仕込み水なのです。

 

【焼物】太刀魚の塩焼き

太刀魚の塩焼き

このサイズ感が写真で伝わりますでしょうか。太刀魚というのは帯のように長くて薄い魚のはずですが、これは身の厚さが3センチくらいあります! 元の魚体は両手伸ばしたくらいあるんじゃないかという大物。

上身はホクホクとしつつ、しっとり。しっとりと言っても水っぽいわけではなく、水のようなサラサラの脂が全体に行き渡っているような印象です。とにかく淡白なのに旨味が濃い。そして黒い皮膜に覆われた腹身。こちらがまた凄くて、言うなれば「飲める脂でできた大トロ」といった趣。あれ?太刀魚ってこんな魚だったっけ?と混乱します。

太刀魚の塩焼き

まずホクホクの上身は何もつけずに、そしてトロトロの腹身には添えられた大根おろしをこんもり乗せて、すだちもギュっと絞って、一口ごとにワンダーランド。そしてまたこの大根おろしそのものも抜群なんです。アクだけ流して辛味は残す職人の技。このお店はこういうディテールがいちいちニクい!

 

【4杯目】白菊 にごり酒 どろんどろん

白菊 にごり酒 どるんどるん

最後にもう1杯、とお願いしたところ大将がカウンターの中から「あれ、出してあげて」と。「あれ」で通じて出てきたのがこれです。

「あたしはこれが一番好きでね」といつも寡黙な大将が珍しく饒舌です。「これがあるといつまでも飲んじゃう」。発酵が進んでると飲んでるそばからグラスの中で膨れてきて減らない、とか、実は燗でもイケる、など追加情報も満載で愛が止まりません。

いただいてみるとその愛も納得の個性的な味わい。一般的なにごりのイメージとは異なる、甘さを感じさせないドライな口当たりと綺麗な酸味、舌にザラつく感じもむしろ心地よく、とろりと抵抗なく喉を滑り落ちていく。確かに後を引く味わいです。ちなみにネーミングの「どろんどろん」は大将から蔵元さんへのご提案だったとのこと。愛が深いにもほどがある!

 

【強肴】きんちゃく茄子と鱧の揚げだし

椀物もそうですが、ダシをたっぷり張った料理はやはり日本料理の花形です。鱧を使ったこの季節ならではの揚げだし。

きんちゃく茄子と鱧の揚げだし

鱧というとひたすら淡白というイメージもありますが、こちらはしっとりと脂の乗った肉厚なもの。それが薄い衣に包まれてほっくりとしたおいしさです。きんちゃく茄子はとても身の締まった丸ナスで、揚げても柔らかくなりすぎず、さっくりした瑞々しさがあります。もうどっちが主役かわからない。それらを、味付けは優しいのにしっかりと濃い味わいのダシが受け止める、日本料理ならではの喜び。最後まで堪能しました。

 

 

今回は「食べたいものを選んで組み立てる割烹料理のコース風のデッキ」を楽しみました。料理はいずれもたっぷり量があるので、全て2人でシェアし、お酒もご覧のようにしこたまいただいて1人8,000円程度。こんな感じがこちらの王道の楽しみ方かと思いますが、もう一方の魅力が、その時期の旬の野菜を使ったちょっとした小鉢もの。写真は以前いただいた、鱧皮と胡瓜の酢の物、柿の白和え、新銀杏の翡翠揚げパルミジャーノ(!)。

 

鱧皮と胡瓜の酢の物

鱧皮と胡瓜の酢の物

 

柿の白和え

柿の白和え

 

新銀杏の翡翠揚げパルミジャーノ

新銀杏の翡翠揚げパルミジャーノ

 

こういったさりげない(でも見えないところにしっかり手のかかった)酒肴が、500円前後の申し訳なくなるような値段でいつも並んでいます。気軽にふらっと寄って、こういうものをつまみながらの1杯、なんてのもまた格別です。大将や女将さんは「うちは仕入れの値段で決めてるだけですよ」と笑いますが、それは言うほど簡単なことでもありません。

 

 

いかがでしたでしょうか。一見あたりまえのようであたりまえではない旬の小品から、仕入れ先との信頼関係なしにはあり得ない超一級の食材、そして技と経験が滲み出す板前仕事。そういったものが自由自在に楽しめて、食べることが好きな人ほどその一皿一皿に興味が尽きないこと請け合いです。さらにお酒好きな人ならば、それらが全て「うまい酒を飲ませる」という共通のベクトルに向けて一貫しているのがまた痛快。僕もまたぜひ季節ごとにお邪魔させていただきたいと思います。ご馳走さまでした!

(気が向いた時に気軽に寄れるお店ではありますが、お2人だけで切り盛りされているお店です。訪れる際は一度お電話等されることをおすすめいたします)

 

紹介したお店

築地 竹政
〒170-0005 東京都豊島区南大塚3-35-7 1F
10,000円(平均)

  

著者プロフィール

イナダシュンスケ

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鹿児島県出身。京都大学卒業後、食品メーカー勤務などを経て円相フードサービスを設立。多ジャンルの飲食店を経営する傍ら、食文化に関する著書も手がける。最新刊に『人気飲食チェーンの本当のスゴさがわかる本』(扶桑社刊)

イナダシュンスケ「みんなのごはん」過去記事はこちら

                             
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