こんにちは。料理研究家の河瀬璃菜です。
最近、グルメ関係者に会うたびに、揃ってオススメされるお店があります。
「あのお店は行ったほうがいい」
「あそこへ行くと宇宙とつながれる」
「大地の息吹を感じる」
と、尋常じゃない評価……!
宇宙とつながれるってどういうこと?そこまで言われると気になる~!と実際に訪れてみたら、本っ当に最高だったので紹介します!
お店の名は「燗酒bar Gats(ガッツ)」。
燗酒とお料理のペアリングが楽しめるお店です。
熱燗にそこまでの熱量を持ってなかった私ですが、こちらに行ってから燗酒の概念が大げさでも何でもなくガラリと変わりました。
それでは、めくるめく熱燗ワールドへご招待いたします!
お酒は食材で、熱燗は調理。燗酒×料理に感激
こちらはマスターのマサさん。コワモテですが、とっても気さくでチャーミング!そして何より日本酒への愛がめちゃくちゃ熱い!
マサさんはプロのジャズミュージシャンでもあるそう。
この日も、終始マサさんの熱い日本酒トークに、1つの素晴らしいライブを観たような気分になりました。
さっそくお料理の1品目。左からきんぴらごぼう、菜の花とイカの酢味噌がけ、卵焼き!
1品に対して1種類(1人前半合)の熱燗が出てくるペアリングスタイル。食事もおまかせで、その日によって色々なお料理が出てきます。すべてマサさんに委ねればOK!
1品目に合わせるのはこちら。「にいだしぜんしゅ」(仁井田本家・福島県)の純米吟醸。
「日本酒はお米からできているから、熱燗=炊きたてご飯みたいなものなんだよ。おかずを口の中で食べながら、お酒を飲んで追いかけてみて!」
教えの通り、口の中できんぴらを食べながらいただくと、
おおお!?なんだこりゃーー!!!
口の中でお米の甘みと香りが広がって、料理と合わさると混ざり合った後にスッと綺麗に溶けていく感じ。
これまで私が飲んできた熱燗とは一体……!?
マサさんはこの「にいだしぜんしゅ」の蔵元、福島で300年以上続く仁井田本家公認のお燗番(※)なのだとか。
※お燗番:飲食店でお酒の燗の具合を見る専門の人。
「昔は料亭や料理屋さんには必ず燗番がいたんだ。その日の料理や気温、湿度に合わせて燗をつけるから、日によってつけ方も変わってくる。お酒は食材で、熱燗は調理なんだよね」
なるほど……。確かにお酒にはそれぞれ個性があるのに、ただ温めるだけ、ただ冷やすだけだと、美味しい食材を無駄にしているようなものですね。
それぞれのお酒を見極めて、最適な温度や時間で調理する……お燗番、奥が深い!
お次の料理が出る前に登場したのがこちら! 甘めの濃厚な醤油にすりおろした生姜。
となりのお酒はこちら。「竹雀(たけすずめ)」の純米 超辛口(大塚酒造・岐阜県)。
醤油に生姜を少し溶かしながらお酒を一口。
わ~~!醤油のコクと旨味、生姜のピリッとした辛さを、お酒が口の中できっちりまとめあげてくれた~~!
正直、普通に飲むと苦手な部類のお酒なのですが、この合わせ方だと
「えっ、なに?好き!!」と全然違う感想になりました。
こちらに合わせるお料理は鳥刺しと馬刺し!
これがまあ、美味い!
入る前は「本当にここかな?」と思うほどに“THE Bar”という出で立ちなのに、料理が本格的すぎる。最高か。
先ほどの生姜醤油にお肉のコクうまな脂、それを引き立ててくれるようなお酒の味わい。は〜、ニルヴァーナ……。
「純米酒はね、そもそも熱燗にしないと絶対に意味がないんだよ。それぞれのお酒を、適切に(燗を)つけることで、色々な表情を見せてくれる。
冷酒は冷や飯を食べているのと同じようなものだからね。酒造が大事に醸したお酒をしっかり調理して返す!これが愛なんだ!」
あ、熱い!カウンターに座るお客さんも食べるのを忘れるほど熱量あるお話。
お酒や酒造への愛に耳を傾けつつ、次のお酒に行きましょう。
何やら、これまでのお酒とうって変わって、まるでお茶のような濃いめの色合い。
一口飲んでみると、これまた衝撃の美味しさ……!なんて優しいの~~!包み込まれた〜〜!
こちらは「にいだしぜんしゅ」と、しじみ出汁を使った出汁割。しみじみとしじみが肝臓を癒してくれる……(言いたい)。
この日、一緒に行った友人が少し疲れ気味だったので用意してくださったのだとか。お客さんのその日の体調に合わせて燗をつける……なんたる繊細なホスピタリティー。
しじみ出汁割に合わせるお料理は、これまた優しい味わいの長芋と鶏肉の煮物。
この煮汁を飲みながら、お酒を飲むのが最高に美味しかった~~!煮汁までぺろり!
「うちでは、お酒に合わせて盃も変えてるんだ。よく盃を選ばせるお店もあるんだけど、俺からすると、お客さんに最後の味付けを任せちゃってるのと同じなんだよ」
確かに、先ほどの平盃でいただいた竹雀を、出汁割が入ったぐい呑で飲むと、全く違う味わいになり驚きました!
いわれてみれば、ワインでは品種によってグラスを変えるし、日本酒でそれぞれ盃を変えるというのもごく自然な話ですよね。
お次のお料理は揚げ物。椎茸にしんじょを詰めて揚げています。
プリッとジューシーな椎茸に、サクッとした衣……!しんじょだからか揚げ物でもしつこくなく、ペロッと食べられちゃいます。
合わせたのはこちらのお酒。「北安大國(ほくあんだいこく)純米生原酒 地酒屋こだま別誂 米旨熟成」(北安醸造・長野県)。
飲んだ瞬間、これは何だ!?と目を見開いてしまうほど、フルーティーで上品で爽やかな香りと甘み!まるで上質なりんごジュースを飲んでいるような味わい。
「エルダーフラワー(※)を入れることでこの香りと味わいを作ることができるんだよ」
※エルダーフラワー:主にヨーロッパで用いられるハーブの一種。甘い香りが特徴。
マサさんは元バーテンダー。だからこそ型にとらわれない、独創的なお酒の調理ができるんですね。
いよいよメインディッシュ!チーズ入りのクリームソースがたっぷりとかかった豚肉のロースト!
お肉の火入れ加減とソースの味のバランスが最高~~!
こちらには、「秘蔵酒 純米太陽」(太陽酒造・兵庫県)。
紹興酒のような、熟成された芳醇な香りが濃厚な豚肉に合う~~!
このメイン料理に至るまで5種類のお酒を飲んでいるのに、全く酔ってない!
いつもならフワフワしかけている頃なのに……すごい!でもなんででしょう?
「純米酒の熱燗は酒ではあるけど、次の日に残らず、二日酔いしにくいんだよ!この店でお酒を飲んで二日酔いになった人に出会ったことがない」
マサさん曰く、二日酔いはアルコールを分解しきるのが、目覚める時間に追いつかないことで起こる現象。
熱燗の温度は体温より高いため人間の身体は吸収しやすく、さらに純米酒は水と米のみだから分解もしやすい。だから純米酒の熱燗は次の日に残らないというロジックのようです(マサさんの個人的な見解です)。
ちなみに、私も、一緒に行った友人3人も、次の日はすっきり起きることができました!
熱燗最高!
最後のお料理は最高なアテ。マサさんのお母さんが漬けたという秘伝の梅干し!そして金山寺味噌と麹糖。
合わせるお酒はまるでロゼワインのような色合いが美しい「伊根満開(いねまんかい)赤米酒」(向井酒造・京都)。
赤米から作られているお酒で、鮮やかな見た目が素敵。味わいは甘酸っぱくて美味しい!これが日本酒なのか!?と疑うほど。
梅干しも「秘伝の梅干し」というだけあり、酸っぱすぎず甘すぎず、柔らかくふっくらとした口触りで美味しい~~!
あまりに美味しいので、思わずおかわりしてしまいました……!
最後のスイーツ代わりはこちら!
とろけるような甘さのあんぽ柿がのったクリームチーズ!砂糖は使わず、甘みは仁井田本家の麹糖とあんぽ柿の甘さのみ!
合わせるのはにごり酒。
「仁井田本家 自然酒にごり酒」に「仁井田本家の甘酒のブレンド」です。
こちらのお酒には甘酒と麹糖が含まれているそうで、まさに「大人のカルピス」とでもいうべき味わい!は~~~これも最高に美味しいわ……。
温める前のお酒と比べてみると、まるで別人!
いや、ほんと誰だよ!?何があったんだよ!!と言いたくなるくらいには別人。
「お酒を調理する」の真髄を垣間見た気がします。は~~奥が深い!これは確かに宇宙とつながりますね。
もちろん日本酒や熱燗に詳しくなくてもマサさんがしっかりとレクチャーしてくれるのでご安心を!
この日もたくさんのお話を聞かせてもらいました。情報量があまりにも多すぎて、全部書こうとすると1記事にはまとまり切らないほど。熱い夜だった……。
私の一番好きなお酒は「熱燗」といっても過言ではないくらいには熱燗が好きになりました!ごちそうさまです!
見た目は本格バーだけど、料理も美味しい燗酒バー ガッツ
熱燗の聖地、「燗酒Bar Gats」は渋谷駅から徒歩5~6分、神泉駅からは徒歩2分の好立地。細い路地を入った先に「Gats」と書かれた看板が見えてきます。
店名の由来は「なんとなく面白そうだったから!」だとか。笑
「でもガッツさんって呼ばれちゃって困ってるんだよ……」と笑うマサさん。
気さくなマスター、マサさんと、美味しいお料理、宇宙が見える熱燗ペアリングを楽しみたい方はぜひ行ってみてくださいね!
ペアリングのお店なので、遅刻は厳禁ですよ!
紹介したお店
営業時間:19:00~24:00頃(お客さんの状況による)
定休日:日曜
著者プロフィール
河瀬璃菜 りな助(料理研究家・フードコーディネーター)
1988年5月8日生まれ。福岡県出身。
レシピ開発、商品開発、食の企画やコンサル、レシピ動画制作、企画執筆、編集、イベントメディア出演、料理教室など食に纏わる様々な活動をしている。
SONY XperiaのCMやKIRIN本麒麟の広告への出演などその活動は多岐にわたる。
近年では地方を元気にするための6次化商品の開発に力を入れている。
著書「ジャーではじめるデトックスウォーター」「決定版節約冷凍レシピ」「発酵いらずのちぎりパン」 など
Blog: http://lineblog.me/linakawase/
Twitter:https://twitter.com/linasuke0508