突然ですが、皆様はランチというと何時に食べるものだと思いますか?
「昼時12時ごろに決まってるじゃないか」と思われる方がほとんどだと思います。
しかし・・・この街、歌舞伎町ではその限りではありません。
歌舞伎町は夜の街。
かつてほどのいかがわしさ、怪しさはなくなりつつあるとはいえ、依然として不思議な魅力と緊張感に満ちています。
そしてこの街は、夜が昼、昼が夜といった具合に一般社会とは真逆の感覚で日々を過ごす人たちが集まっています。
つまり深夜0時、日付が変わるくらいがこの街に生きる人々のランチタイムなのです。
しかし、夜の街で生きる人々がランチを食べる飲食店は、ファストフードやチェーン店がほとんど。その時間にランチっぽいものを食べようと思うと、自然とそうなってしまうのです。
そんな中、深夜0時〜朝7時という時間帯に営業し、歌舞伎町の人々の胃袋を満たし続けるお店を見つけました。
お店の名前は「深夜いたりあん あかはる」。歌舞伎町にできて8年になるというそのお店は、歌舞伎町の住人の方々をメインに、新宿の夜ならではのお客さんが出入りします。
お店はまさに都会の中の隠れ家。こんなところに入っていっていいの?と思うようなビルの地下にあります。
一年中お祭りをしているような非日常感たっぷりの歌舞伎町で、どこかホッとさせてくれるような安心感も漂っています。
深夜とは思えないハイレベルなイタリアンに舌を巻く
こちらが「深夜イタリアンあかはる」の店主の赤春さん(右)。お隣は、金曜、土曜にサポートでいらしているスタッフの方。
赤春さん、もともとは大阪でお店をされていたのですが、8年前に歌舞伎町でお店を開いたのだそう。常連のお客さんは、歌舞伎町という土地柄らしい人たちばかりなのだとか。
早速、アンティパストの中から茄子のチーズ焼き(税込1,000円)をチョイス!
赤春さんがスピーディな手つきでなすを輪切りにし、ソースパンでじわじわとナスに火を通していきます。
誰もが気になる「一体どうして深夜にイタリアンを提供しようと思ったのか」という質問をぶつけてみたところ、
「漫画の『深夜食堂』を実際にやってやろうと思って。自分が飲食店などで勤めていると、お店が終わって自分たちが出かけようと思う時間には、同業である他の店も休んでいる。同じような経験をしている人たちのために、自分たちが仕事を終えた時に自分が行きたいと思えるような料理を提供するお店を作ったんだ」
そんなお話を伺っているうちに目の前に置かれた「茄子のチーズ焼き」。
途端にふわりと鼻をかすめるチーズの香り!手でちぎることでバジルの香りも際立ち食欲をくすぐります。
じっくりと火が通され、程よくオリーブオイルを吸ったナスはトロトロ!
同じくとろ~りと溶けたチーズが口の中で絡み合います。皿の底に敷かれたトマトソースの酸味もアクセントになり、全体の味を引き締めています。
とても深夜ランチとは思えない!そして、ワイルドに見える赤春さんが作ったとは思えない繊細な美味しさ・・・
次に気になったのが、手書きのメニューに書かれた「娼婦風スパゲティ」の文字!
イタリア語で「プッタネスカ」といい、「プッタ」はイタリア語で娼婦を意味するのだそうです。ある意味、歌舞伎町という街にはぴったりのメニューではないでしょうか。
こちらがその娼婦風スパゲティ(税込800円)。
ブラックオリーブとケッパー 、そして大きめに切られたにんにくが入っており 、上には豪快に粉チーズがかかっています。
丁寧に煮込まれることで感じるトマトの甘み、そしてオリーブのコクとにんにく、ケッパーの香りがソース全体に行き渡っていて、塩味が強めなのにいくらでも食べられてしまいそう…。
「ナポリって、歌舞伎町みたいな街なんですよ。ナポリというのは、マフィアが仕切っているので、娼婦もたくさんいる。娼婦というのは夜に仕事があるから、昼間は寝ていてメルカート(市場)に行くことができず、買い物ができないので有り合わせで作ることになる。
そこで、イタリアの家庭には絶対にある材料のオリーブ、ケッパー、にんにくといった有り合わせのもので作ったことから娼婦風と呼ばれるようになったんだよ」
そんな経緯で生み出された料理が、深夜0時過ぎの歌舞伎町のイタリアンで出されていることに、何か運命的なものを感じずにはいられませんでした。
そして、あかはるで絶対に食べておきたいのがピザ(税込800円)!なんとこちらのピザは、注文を受けてから生の生地を焼き始めます。
「一からピザ生地を焼くのなんて大変じゃないでしょうか」と尋ねると、「やっぱり自分が来たいと思えるお店を作りたいからね」と笑う赤春さん。
小さなキッチンで王道のイタリアンを出すために、仕込みにはそれ相応の時間をかけているのだそうです。
ガス火でも美味しいピザが焼ける、専用の道具を使って作られたピザは絶品!
もっちりとした生地と、とろーり伸びるモッツァレラチーズ、甘くてフルーティーなミニトマトの相性は抜群!
表面の軽い焦げ目の香ばしさも素晴らしい!こちらの表面の焦げ目は、ピザ窯や大きなオーブンがないとどうしても再現しづらいのですが、それをわざわざバーナーで炙って作るという芸の細かさ。
ところでこちらの娼婦風スパゲティとマルゲリータ、どちらもお値段が3桁代。普通のイタリアンと考えてもめちゃくちゃ安くないでしょうか…!?
「そうそう、だから今後悔しているの」と豪快に笑う赤春さん。
「午前0時という時間は、このお店に来る人にとってはランチタイム。ランチというとラーメン屋、牛丼などといったものを食べる人が多いんだから、それと同じくらいの値段にしてあげないといけないんじゃないか?と考えたんだよ」
こんなにワイルドな雰囲気なのに、働く人への心配りが素敵すぎる!
とはいえ、お酒も提供するお店ですので、チャージ500円とワンドリンクの注文は必要になります。それを差し置いても安い…!
「何かメインになるものを」ということでお願いしたのが、「鰤のバルサミコソース」(税込1,600円)。
盛りつけがめっちゃ綺麗…!何度もいますが深夜0時を過ぎての食事なんですよ、これ。そしてあのワイルドな店主 赤春さんが作ったんですよ?
ナイフを入れてみるとふんわりとして、食べる前から身のやわらかさが伝わってきます。
一切れ口に運ぶと、表面の焼き目がカリッとしていて中はふんわりアツアツ!噛めば噛むほどブリのうまみが染み出してくるようです。
バルサミコソースの深いコクと酸味が、脂がよく乗ってこってりとしたブリにマッチしています。
鰤のバルサミコソースで終わりにするつもりが、どうしても食べたくなってしまい、シメにいただいたのは「ポルチーニ茸のリゾット」(税込1,800円)。
ポルチーニ茸の他、パンチェッタと食感が残るように切られた玉ねぎが入っています。チーズがたっぷりと入ったリゾットのこっくりとした旨味に、ポルチーニ茸の香りが合わないはずはありません。
クリーミーなソースに包まれていながらも、お米の一粒一粒にかすかに芯が残るように炊き上げられていて、おじややおかゆとはまた違うきちんとしたリゾットです。
ポルチーニ茸の香りに加えて、パンチェッタの油分と塩気がより味わい深くしてくれます。すでに結構な数を食べていたにも関わらず、ペロリと平らげてしまいました!
歌舞伎町ならではのお客さんと、ドラマを知る赤春さん
食後に一杯、コーヒー(税込400円)をいただきながら(こちらもエスプレッソマシンで 抽出されたカフェルンゴでした)お話を伺いました。
「歌舞伎町という立地でお店をされていると、正直怖い目にあったこともあるのではないでしょうか」と尋ねてみたところ、
「こういった繁華街の雰囲気が好きでやっているからね」と笑う赤春さん。
キャバクラに通うお金を作るために会社のお金を横領してしまったお客さん。酔っ払ってお店の前で粗相をしてしまったお客さんと、その人に説教をして4時間正座をさせたというお客さんなど…赤春さんの口からは強烈のエピソードが飛び出します。
超常連のお客さんが犯罪に手を染めてしまい、テレビで顔を見ることになったなんてこともあるのだとか…。こうした軽妙なトークも、あかはるで食事をする醍醐味でもあるのかもしれません。
手早く料理を作りながら、お客さんとのコミュニケーションを取り続ける赤春さん。
「深夜イタリアンあかはる」は、夜の仕事をしている人も、二軒目三軒目としてこの店を見つけた人もほっとさせてくれるような、温かい雰囲気をまとったお店でした。歌舞伎町という街で、疲れた心を癒す心の拠り所となっているお店なのかもしれません。
お店を出ると、外はかなり明るくなり始めていました。早朝の歌舞伎町には、酒が入って少し足取りが不確かなホスト風の男性や、これから帰っていくのであろう華やかな服装の女の人が行き交っていました。
この街で生きている人たちにとっては、この時間が終業時間。今まで生きてきたのとは全く正反対の時間の進み方に、非日常感を感じることができます。
深夜とは思えないハイレベル、かつあのワイルドな店主が作ったとは思えない繊細なイタリアンを頂きながら、歌舞伎町の非日常を味わうことができる名店でした。新宿でお酒を飲んだ時の二軒目三軒目として、是非行ってみてくださいね。
深夜0時という時間帯が 少し行きにくいと感じる方は、土曜日のみ22時から朝の5時までの営業となっているのでその時間に訪ねてみてください。
紹介したお店
深夜いたりあん あかはる
住所:東京都新宿区歌舞伎町1-4-12 ナカヨシビル B2F
TEL:03-3204-8558
営業時間:月〜金 0:00〜7:00(L.O 6:00)、土 22:00〜翌5:00(L.O4:00)
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