まいど憶良(おくら)です。
美味しいビールを飲みたい。
美味しいビールっていったいなんだろう。もしそう思ったら、その答えが、もしくはそのヒントが、ここにある。
そう聞いて、広島市は中区にやって来ました。
そして訪れたのはビール製造工場でもなく、大きなビアホールでもない、ここ、「ビールスタンド重富」さん。
小さな酒屋さんです。
一日たった2時間の営業、ツマミなし、2杯限定…でも行列ができる店
その外観はもう、完全に街の酒屋さん。
立ち飲みで、定員は10名。
その魅力っていったい、何なんでしょうか。
ビールスタンド重富の魅力はその注ぎ方。
全く同じビールが、サーバーと注ぎ方で違う味になるんです。
基本のメニューは4種類。
中身は同じビール。
その注ぎ口が2種類。
そして注ぎかたを変える事で違った味わいを楽しめるんです。
そんなことがあるんでしょうか。
3月~1月までの11か月間は「アサヒ樽詰生ビール」。
2月は、キリンラガー・サッポロ黒ラベル・サントリーモルツが10日間交代で飲めます。
泡を一杯出しているなぁ、と思いながら見ていると、そのまま捨ててしまいました。
美味しいビールを提供するために出来る事はすべてする、という姿勢が凄いと思います。
さて、どんな注ぎかたがあるんでしょう、そして、どんな味わいになるんでしょうか。
メニュー順にご紹介します。
表メニューの注ぎかたその1 壱度注ぎ
最初の一杯にお勧めの注ぎかた。
注ぎながらビールをグラスの中で回転させることで、余分な炭酸ガスを抜いて、同時に雑味を泡に閉じ込めます。
スッキリとしたのど越しと苦みの少ないビールになります。
表メニューの注ぎかたその2 弐度注ぎ
一度注ぎで爽快感の素となっていた粗い泡を、口当たりのよいなめらかな泡に入れ替えます。
その泡の質は2種類あるサーバーで変わります。
昭和サーバーは柔らかい泡、平成サーバーはもっちりとした泡を楽しめます。
表メニューの注ぎかたその3 参度注ぎ
炭酸が苦手な方向きの注ぎかたで、マイルドな味わいのビールになります。
たっぷりと泡立てたビールが、じっくり待つことでホップの香りが華やかに香り立ち、余分な苦みと炭酸が抜ける事でまろやかな旨味が引き出されます。
注ぎ始めから注ぎ終わるまで5分ほどかかりますが、待つ甲斐のあるビールと言われています。
表メニューの注ぎかたその4 重富注ぎ
特別な注ぎかたでなく、現代の通常の注ぎかた。
クリーミータップで作る泡と、苦みと炭酸を逃がさず閉じ込めたビールはキリッとしてシャープな味わいです。
注ぐ勢いや、泡の作り方などを変える事で
何度も楽しめるというのも面白いですが、
ビールを注ぐところをずーっと見ているだけでも面白いと思ったのも
これが初めてでした。
泡に閉じ込められた苦みをすくい取って捨てて、再度泡を入れる。
グラスの外についた泡は水につけて落としてから
静かに目の前に置かれました。
きめ細かい泡の粒が美しい。
昭和の弐度注ぎと重富注ぎで乾杯しました。
旨っ!
これまでのレポートでも、お酒が自慢のお店だと言われようが、とにかく1杯目はビールにこだわってきた私ですが、もう一度言います。
旨いッ!
途中でグラスを交換して飲み比べてみますと、味の違いがはっきりします。
違うビールなんだと言われると、あぁ、そうだね、というくらい味わいが違います。
なるほど、こういう所を楽しむ店なんだ、と、この時点では思っていました。
さて、あっという間に1杯目を飲み干すと、後1杯しか飲めません。
裏メニューから選んだのは重参注ぎ。
重富注ぎのビールに参度注ぎの泡をトッピングしたもの。
なので、注文すると2杯同時に提供されます。
ビールが大好きな彼氏と、ビールが苦手な彼女が一緒に楽しめるメニュー。
彼女の苦い泡を彼氏のビールに移すことで、1杯は苦く、1杯は甘みを感じる仕上がりになっています。
では出来上がる過程を見る間にインタビューをしてみました。
広島を日本一ビールの美味しい街にしたい
広島を美味しいビールの発信源にしたいという思いがこのお店のスタートだったと言います。
初代である重富博氏が大阪で生ビールに出会い、その味に惚れ込んで兵庫県西宮市のアサヒビール工場で指導を受け、技術を身に付けました。
と、提供を始めたのが昭和の初め頃だったと言います。
毎日のようにビールサーバーの出前講座を開いていた2代目を経て、現在のマスター、重富寛さんが、ビールを通じて広島を元気にしたいという思いを込めて、ビールを注いでいるお店なんです。
「ウチのビールは美味しくない!」
突然、衝撃的な言葉がマスターから飛び出しました。
憶良 : ええっ!!
でも、ビールの美味しさを知りたいならココだ!という評判のお店なのに?
マスター : 実は、私はビールの注ぎ手日本一になるつもりはないんです。
確かに、全ビールメーカーの生ビールセミナーにも通いましたし、ドラフトコックの分解、手入れも何度となくしてきました。
生ビールを美味しく提供する原理、原則は学んできたんですが、私の入れるビールはまだまだだと思います。
泡きり3年注ぎ8年と言われるように、ビールを美味しく注ぐには長い時間かけて腕を磨いていく必要があるんです。
私がしたいのはこの技術を沢山の方に伝えて、美味しいビールの注ぎ手に増えて欲しい、という事なんです。
一人で注ぎかたをマスターするのでなく、注ぎ手の育成をしたいんです。
私の本業は酒屋ですので、技術を広めて、本当に美味しいビールを、美味しいまま提供できる人が増えて行って、業界全体が活性化してくれればと考えているんです。
そして、そのきっかけになりたいと思っています。
例えばこのサーバー(写真手前)は、私の確認した限りでは25店舗にしか残っていないんですが、先ほど飲んでいただいたように、このサーバーを使って注ぐとまた違った味わいになります。
そんなサーバーが世の中からなくなってしまうかもしれない。
しかも、このサーバーを造れる技術をもった職人さんも、もういなくなってしまうかもしれないという、瀬戸際の所まで来ているんです。
ひとつの物がなくなってしまう、それはそれで仕方ないのかも知れないのですが、
ちょっと待って、本当にそれでいいんでしょうか。
そう問いたいんです。
ビールは、元々美味しい物なんです。
サーバーやグラスなどをしっかり手入れして、美味しいまま出せれば、お客様には満足して頂けるものと思っています。
でも、残念なことに、そのまま美味しく提供出来ているお店は多くありません。
その原因のひとつは、とにかく安い提供する事が大切になってしまったお店が多い事。
これはこれで、そういう需要があって、それに応えているお店がある。
それも一つの選択肢ではあるのですが、それによって、美味しくないビールを飲んでしまっていることがもったいないなぁ、と思うんです。
いい道具があり、美味しくビールを注ぐ技術があって、そして、飲み手も本当に美味しいビールを求めている。
そういう環境を造って行くことで、初めて皆さんが美味しいビールを楽しめるんだと思っています。
重参注ぎをいよいよ飲んでみます
重参注ぎが到着しました。
苦みが少なく、旨味、甘味を活かしたビールと、
メニューの通り、面白い形の泡の乗った、苦みを楽しむビール。
これは、劇的に違う味です。
そして飲み比べると笑ってしまうくらい、どちらも美味しい。
ビールに対する世界観が変わってしまいそうです。
手前が絶滅するのではないかと言われているサーバー。
20~30万円するとあって、気軽に設置できないという事もあるかと思いますが、なくなってしまうのは、確かにさみしいです。
今までこのサーバーの存在すら知らなかったくせに、私が言ってしまう事がちょっと心苦しいのですが、一度味の違いを体験してしまうと、なおさらさみしく思います。
耳で飲まずに、舌で楽しんで飲んで欲しい
マスター:今のお客さんは、耳でお酒を飲んでいるのではないかと思う事があります。
銘柄、麦、酵母、作り手、醸造年度を頭に入れて飲んで、ああ、そうだね、そういう味だよね、という、答え合わせをするような楽しみ方をしているんじゃないかと感じる事があるんですよ。
そうではなくて、自分の舌で美味しい、そうでないという判断をしてほしいという願望があります。
お客さんが美味しいビールを求め、それに注ぎ手が答える、そういう形が理想だと思いますし、またそうでなくてはならないと思うんです。
日本の美味しいビールを後世に残すには、サーバーを作る技術と、注ぎ手の技術、そしてお客さんの味覚の3つをすべて残さないと、意味がないのではないかと思っています。
マスター:とりあえずビールっていう言葉がありますが、そこにあるのは、お客さんがそれほど美味しいビールを期待せずに、ビールを注文している事。
そして、お店も経験の浅いアルバイトにビールを注がせているという現実なんです。
お客さんはとりあえず、 とは言ったものの、美味しくないビールを求めていないと思うんですよ。
それに対して、お店は「ビールぐらい注げるじゃろ」と、こだわりのないビールを提供してしまう。
お客さんも、お店もビールにこだわれていないことを、勿体ないと感じるんです。
お客さんには、高くてもいいから、美味しいビールを飲ませてよ、と言ってほしいですし、それに応えられるお店が増えて欲しい。
私はそれを望んでいますし、それを応援したいんです。
なるほど。ビールの話を色々聞けました。
店の入り口にはホップが植わっていました。
これがホップの毬花。
中の黄色いつぶつぶが苦みと香りの素、ルプリン。
折角なので食べてみますと・・・、苦い。
でも、嫌な苦さでなくて、爽やかな苦さでした。
人によってその日の気分で味を変えるビール
注ぎ方で、またサーバーでビールの味が変わるという体験が出来ました。
全く同じビールでも、今日はこんな味わい方をしたい、とか、次は苦みを利かせて、という楽しみ方が出来そうですし、こんな料理にあう日本酒をください、というオーダーの仕方と同じ感覚で、こんな料理に合う注ぎかたでお願いします…というビールの楽しみ方が出来たら、ビールはもっともっと楽しい飲み物になると思いました。
最初に感じていた、色んな味わい方を楽しむ店というだけでなく、ビールとの付き合い方を考えるきっかけになるお店なんだと感じました。
自宅で美味しくビールを飲む方法も教えてもらえる
自宅で美味しくビールを飲む方法を教えてもらいました。
お店のテーブルの上にある名刺のQRコードから、もしくはサイトのアドレスから見る事ができます。
ですので、ここではその内容をご紹介する事は控えさせていただきます。
是非、広島に行った際にはビールスタンド重富さんを覗いてみてください。
行列が少なかったら、ラッキー!という感覚で。
もしかしたら、ビールの世界感が変わるかも知れません。
広島元気プロジェクトについて、そしてビールスタンド重富についてはこちらから。
そして、お店に行く際は、是非営業カレンダーをチェックの上で!
広島の忘年会おすすめ店
プロフィール
憶良(おくら) : 元ゲームプランナー、元ゲームプロデューサー。
ゲーム企画講師や駄菓子屋店長などを経て現在に至る。
休日は高速道路を使わずに名古屋から鳥取あたりの温泉に行って浸かり、道中や行先の地元スーパーで珍しい食材を買い込むと例え深夜に帰ったとしても料理する。
その際食べ歩きにも積極的と、食に対してはかなり貪欲。
「美味しいものを食べている時、美味しいものについて話している時に悪いことを考える人はいない。」という持論を持っている。
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