他人と焼肉店に行くこと。それは、遊園地に行くことと似ている。
自分や相手が自ら「肉を焼くこと」は、提供された料理をそのまま口にするよりずっとエンターテインメント性がある。そこで得られるライブ感と焼きあがるまでのワクワク感、口に入れた瞬間の歓楽を相手と共有できる焼肉店は、遊園地の様々なアトラクションを相手と周り体験し互いに「楽しかった!」となることと一緒なのだ。
とにかく、焼肉店はアミューズメント施設ということである!
自ら肉を焼くというエンターテインメント性を根本的に持ち合わせている焼肉店。もしそこに、「大量の肉が安価で食べられるしサラダもおかわり自由」という付加価値がついたら……?
言わずもがな、最強だ。
富士急ハイランドと舞浜にあるテーマパークが合併したようなものである。
ということで今回は、4種類の肉が合計600グラムも盛り合わせられ1人前1580円!サラダは食べ放題というメニューが有名な焼肉店をご紹介!
5人前頼んだら店員さんに「嘘でしょ?」みたいな反応をされる
お店の名前は『韓国料理マニト』。
JR新大久保駅改札を出て信号を渡らずに右方向へ数分歩き、コンビニ「スリーエフ」手前の小道、通称「イケメン通り」に入りしばらく歩くとたどり着く。
近辺の店の多くが韓流ブームの後にできたものであるのに対し、この「マニト」はすでに14年この地で営業している。 今回、筆者がTwitterで「胃袋に自信のある方募集!」(現在、そのツイートは削除)と呼びかけたところ、応募してくれたのは以下の4名。
竹邊さん:
自称フリーター。長身美人の20代女性
石井さん:
プロのカメラマン。胃袋に自信があるという。24歳男性
浅川さん:
フリーライター。48歳男性
小川さん:
フリーの編集者。40歳男性
▲店内
筆者を入れると合計5名。平日の午後3時ごろに入店。
メンバーの誰かが「この時間に来られる人っていうのは、ろくな仕事してないですよね」と言っていたが、高度なギャグだったのだろうか。
さて、まずは全員で乾杯。
そしてお目当ての「赤字セット」を注文!
1580円で4種類で合計600グラムの豚の塩焼き、野菜は食べ放題という太っ腹なセットである!
ちなみに、12周年記念の品らしいが、お店は今年で14周年。2年間も12周年記念の品を提供しているとは、それはそれで太っ腹!
筆者が「(5人いるので)5人前で」と言うと、「2人前で十分ですよ」と店員さん。
「『赤字セットを5人で5人前オーダーするなんてテメェこのやろうマジで赤字だろ』ってことですか?」と食い下がると、「いや、普通は2人でひとつが限界の量だから食べきれないんじゃないかなーって。
僕が食べるんじゃないからオッケーだよ」と注文を受け入れてくれた。
メンバーにも、「シェアして食べるんだと思っていたのに」と糾弾されたが、だったら胃袋に自信のある人を集めた意味がない。筆者の中では、最初から「全員でひとつずつ」と決まっていたのだ。
大量のお肉とご対面
▲『赤字セット』の600グラムの肉。1人前。
かくして600グラムが5人前、合計3キロもの肉が運ばれてきた。
1人前でも圧倒的な存在感である。こんな量の肉、ふつうの生活をしていたらお目にかかることはない。 この日の肉は、 ・ サムギョプサル(豚三枚肉) ・ セセリ(鶏首肉) ・ 中落ちカルビ(牛) ・ カシラ(豚頭肉) 豚の塩焼き4種のはずが、牛(中落ちカルビ)が入っている。どうやら、今は14周年記念としていつもの『赤字セット』に中落ちカルビが入り、お値段そのまま1580円になっているとのこと。
鶏肉(セセリ)も入っているが、セセリは鶏の首からとれる希少部位。
本当に赤字になるのでは、と心配になってきた。
食べ放題の野菜は、ゆでキャベツとドレッシングつきレタス。こちらも、かなり大量。
5人前も頼んだせいか、テーブルは肉と野菜であふれかえっている。1カ所に3人前の肉を集めるのが精いっぱいだった。
肉も野菜も期待以上の味!
お肉には、焼く前に店員さんが塩こしょうを振ってくれ、食べる際は自家製の焼き塩を付ける。肉質に自信がある証拠だろう。 味噌だれも運ばれてきたのだが、おかわり自由の野菜(キャベツ)に付けるもので、肉用ではない。
サムギョプサルを見ると、厚くて相当な脂の乗り。600グラムで1580円という価格ゆえに、質が低かったら食べられないのでは、という心配が頭をもたげる。
だがしかし!
網でしっかり焼くと、無駄な脂はきちんと落ちるうえに、脂自体もくどくも臭くもない。噛むごとに脂の甘さ、赤身部分の猛烈なうまみが飛び出してくる。上等なベーコンを思わせる、強いうまみ。そのへんのサムギョプサル専門店のものよりも相当うまいぞ……。
これなら確かに塩だけでじゅうぶんだ。
鶏肉の中では希少部位のセセリ。
それが長いまま、どっかりと盛られている。脂はさほどなく、肉のうまみがとってもしっかり。4種類の中ではいちばんライトなので、オアシス感がある。
中落ちカルビは、脂はあまりなく、赤身主体。食べてみたところ、日本の焼き肉で食べる牛肉の味とはちょっと違った、濃いうまみと熟成の香りがある。かなり深い熟成を行っている印象。これも他のお店では味わったことのないおいしさ!
このお店の技術力を感じる。
カシラは、脂が少なくサムギョプサルよりかなりあっさりめ。コリコリした食感と軽快なうまみが楽しめる。
▲あまりにも美味しすぎて、一心不乱に焼くメンバー。
ここまで一通り食べて、わかった。このお店の『赤字セット』、こいつは安売りセットの適当な肉なんかじゃない。このお店が思う本当にいい肉を、信じられない量で出しているだけなのだ。
肉の焼き方には性格が出る
さて各人、必至に自分の肉を消化している。
ふと見ると、浅川さんの肉が2種類になっている。
「同じやつをどんどん食べているんですよ。サムギョプサルとカルビはもう完食」と浅川さん。
なるべく偏らないように、4 種類まんべんなく食べる人が多そうだけど、これはもしかしたら……!? と思い「几帳面な性格ですか?」と尋ねたところ、「缶詰を買って、同じやつをあとで買ったとして。買った順、つまり賞味期限の順番で食べないと気が済まなかったりします。賞味期限なんてどっちも2年先だったりするのにね」と浅川さん。
メンバー全員から「やっぱり几帳面なんだ」と言われていた。肉ひとつ焼くだけでも性格が出るとは……。
ひとり一皿は、やはり多い。しかし!
そうこうしているうちに、肉はほとんどなくなった。
みんな全然、野菜を食べないので肉より野菜を胃に入れていた筆者は……。
肉を半分しか食べられなかった。残すなんて最低の行為だ。しかし、もう胃に入らない……。
そこで現れた救世主は、写真を撮りながらも肉を完食した石井さんだ。他のメンバーが撃沈しているなか、石井さんは「俺、まだ食べられますよ」と、筆者の肉をひたすら食べていく。
そしてついに完食!
すごい!ありがとう!
各メンバーは、お店についてどう思ったか
また来たいって思いました。
肉が分厚いのも楽しいし。私的にはカルビが一番だったかな、でもセセリも珍しくてうれしい。焼き塩もポイントですよね。それにしても私は自信あったし朝からこのために何も食べずに来たんだけど、600グラムはギリギリ。
これ、ふつうの女性だときついんじゃないかな?
600グラムは食べ応えアリ!
でも僕はまだ余裕あるから、他のメニューも食べてみたくなりました。ここはワイワイやるのに最高のお店。ひとりで来たらちょっとつらいかもだけど
お肉の状態がとってもいい。
これだけの量、残念な肉質のお店だったら絶対食べられないよね。僕のいちばんはサムギョプサル!
いろんな専門店で食べてきたけど、コレは本当に美味しいよ。カシラも筋が少ないし、くどくないからスルスル食べちゃう
……(沈没)
お店の肉の「秘密」
マニトさんのお肉の秘密が知りたくなったので、店員さんに聞いてみたところ、「特別なことはなにもしてないんだけど、ものすごく新鮮っていうのはありますよ。このお店は、この裏にあるお肉の卸売店がやっているのね。だから、朝解体されたばかりのお肉がすぐに届く。それを切って出しているんです。
あと、どうでもいいけど、ひとり一皿頼む人たちは初めて見ました」とのこと。
なるほど!
お肉が新鮮だから美味しいんですね!
あと、ひとり一皿も頼んでしまいスミマセンでした……!
ある意味、恐ろしいお店『マニト』
お会計は、お酒もかなり頼んで5人で15,000円。
つまり一人約3,000円!
はちきれそうになるまでうまい肉を食べて、お酒もガンガン飲んで、それでこのお会計は奇跡だ。
ハイレベルなお肉を、恐ろしい量で出してくれる。そしてお代はびっくりするくらい安い……そんなお店、マニト。
東京コリアンタウンの底知れぬ力を見た気がした。
紹介したお店(東京都新宿区大久保)
※掲載された情報は、取材時点のものであり、変更されている可能性があります。
毎月29日は「肉の日」!29日に行くといいことあるかも!?
著者・SPECIAL THANKS
ライター/シマヅ
1988年生まれ。フリーライター。
武蔵野美術大学造形学 部芸術文化学科を卒業後、2年ほど美術業界を転々としていたが現在は主にWEB上で文章を書き生計を立てている。女性向けコラム、インタ ビュー記事、グルメレポート、体験記事など、幅広い分野で執筆活動を行う。
https://twitter.com/Shimazqe