「佐賀のダサダサデート」という企画が通ってしまった
困ったことに、先日、ライター田中(筆者)が冗談で出した企画が通ってしまいました。これです。
■タイトル
【佐賀のダサダサデートに行ってみた!】(仮)
■内容
おしゃれなデートに飽きたら、思いっきりダサいデートもいいものです。そこで、日本一ダサいデートができる都道府県はどこかというと……そう、佐賀です。何が名物か、どこか見所かもよく分からない佐賀をデートし、困惑した様子を紹介します。
ただの数合わせだったのがうっかり承認されてしまったため、なんとか佐賀デートを撮影しなければいけません。まずは佐賀がどこにあるかご存じない方も多いと思うので、地図を作りました。九州のココにあります。
飛行機を調べました。東京の羽田空港から佐賀空港まで、ANAの格安航空券でも片道28,000円前後。佐賀まで行くと、交通費が原稿料を上回ってしまうということで、都内でサクッと終わらせることにします。とはいえ、佐賀にはまったく詳しくないため、佐賀に詳しい助っ人はいないか探していると……。あった。
その名もFACTORY SAGA(ファクトリー佐賀)。響きからしてすごく詳しそうです。ここには佐賀県庁から派遣された専任スタッフが常駐しているそう。さっそく電話してアポを取りました。翌日、南青山という佐賀にしてはおしゃれな街にオフィスを構えたFACTORY SAGAさんへ。佐賀県出身の中島さんが出迎えてくれました。
FACTORY SAGAは、いったい何を行っている団体なのかお話を聞いてみると、企業や店舗とコラボレーションして、佐賀の観光や佐賀の食材をアピールしようと試みているそう。一例として紹介されたのは、SQUARE ENIXの人気ゲーム「ロマンシング サ・ガ」シリーズとコラボした「ロマンシング佐賀」キャンペーン。
田中:
「へえ~いいですね~あはは」
(ダジャレを本気でやっちゃうんだ……)
そんなFACTORY SAGAさんに本題を持ちかけました。
田中:
「佐賀=何もないイメージがあるため、なかなか特集すべきことが思いつきません。東京でできる佐賀デートってないでしょうか?」
中島:
「田中さんはまだ佐賀のよかとこば知らんとね。私たちがおすすめの佐賀グルメば食べてみんしゃい、見直すけんが!」
と、FACTORY SAGAのメンバーがピックアップする東京で食べられる佐賀グルメを紹介してくれるそうです。
中島:
「このお店に行ってみんしゃい。そこに佐賀出身のや~らしか女の子がおりますけん、注文は彼女たちに任せとけばよか」
田中:
(や~らしか? 女の私にいやらしい女性が色仕掛けで来るとは、佐賀は相当手詰まりなのでは……)
不安になりながらも送り出された筆者。まずは1軒目のお店に向かいました。
博多とんこつとはひと味違う「佐賀ラーメン」
やってきたのは、浅草駅から徒歩10分ほどのラーメン店「美登里(みどり)」。佐賀ラーメンなるものを食べられるらしいです。
お店の前で待っていたのは、佐賀県鳥栖出身のすずかちゃん19歳。今年の春に上京してきたばかりの女子大生。
すずかちゃん:
「こんにちは! まだ東京は不慣れですけど、佐賀出身としてがんばりますのでよろしくお願いします!」
田中:
「はじめまして。やらしい女の子って聞いていたけど、ピチピチでかわいいね」
すずかちゃん:
「えっ! 私のことや~らしかって言ってたんですか? そんなに子どもっぽいかなあ」
『や~らしか』の意味を聞いてみると、佐賀の方言で『かわいらしい』という意味なんだそう。主に赤ちゃんとか子どもに使う表現みたいですね。
田中:
「方言だったのかあ。すずかちゃんはまだ上京1年目なんだね。じゃあまだ方言でしゃべるの?」
すずかちゃん:
「うーん、東京ではあんまり方言はしゃべんないですね……。でも家族と電話するとちょっと出るかな?」
ちなみに佐賀の方言として「がばい」が有名ですが、あまり若い人は使わないんだとか。それに、「『がばい』って、どちらかというと『とっても』っていう意味だから、『がばいばあちゃん』って聞くと『どんだけ歳とったおばあちゃんなんだろう?』って思う」そうです。
さて、すずかちゃんがおすすめする佐賀ラーメンを注文。
すずかちゃん:
「博多のとんこつラーメンって、油っこいイメージがあると思うんですけど、佐賀ラーメンはあっさりしたとんこつなんですよ」
出てきたのは、透き通った白いスープに中太麺のラーメン。スープはたしかにあっさり!とんこつラーメンより、塩ラーメンを思い浮かべてもらったほうが近いかもしれません。スープにやわらかめの麺がからんで、体に優しいラーメンという感じ。
佐賀県出身の店主、古賀さんにも聞いてみましょう。
古賀さん:
「博多のとんこつは骨から出汁を取るときにグツグツと煮込むことが多いのですが、うちでは煮立てずじっくり出汁を取ります。佐賀県民の優しい人柄がこのスープに表れてると思います」
田中:
「トッピングも、博多ラーメンは高菜や紅ショウガが定番ですけど、佐賀ラーメンはシンプルですね」
古賀さん:
「はい。佐賀ラーメンのトッピングの定番は、チャーシューに生たまごですね」
今年で4年目の「美登里」。東京在住の佐賀県民たちが、懐かしい佐賀ラーメンを求めて訪れるそうです。
古賀さん:
「浅草駅からもちょっと歩くし、立地としては不便な店ですけど、わざわざ通ってくれるお客さんも多いんですよ。そんな人たちと佐賀話に華が咲きます。すずかちゃんはまだ1年目だけど、東京は慣れた?」
すずかちゃん:
「まあまあ慣れました。東京は遊ぶところがいっぱいで、原宿や新宿に行ったりして楽しいです。でも、人がちょっと多すぎるかな……」
田中:
「佐賀のいいところって何ですか?」
すずかちゃん:
「いいところ……何ですかね?(笑) とくにこれっていうのはないんですけど、鳥栖はすごく住みやすいところがいいところです。県庁の周りの、お堀の街並みが好きです」
田中:
「なるほどね。ホームシックになったりした?」
すずかちゃん:
「東京出てきてすぐなっちゃいました(笑)。家族や佐賀の友達にしょっちゅう電話しちゃいます」
古賀さん:
「佐賀が懐かしくなったら、このお店にまた来たらいいよ。東京にいても、佐賀を思っている人はたくさんいるからね」
佐賀出身の人でも佐賀のいいところはぱっと思いつかないけど、優しい味の佐賀ラーメンと同じく、優しい人が佐賀の良さなのかもしれないなと思いました。
酒のつまみは困らない!佐賀の珍味4連発
続いては、赤坂見附から徒歩3分の「九州郷土料理 赤坂有薫」に来ました。店の前で待っていたのは、佐賀県基山出身の美人系りょうこさん。
りょうこさん:
「お酒は飲めますか?佐賀の名物は、お酒と合わせてこそなんですよ」
田中:
「お酒大好きです!」
りょうこさんいわく、佐賀は九州の中でもめずらしく日本酒がおいしい県なのだそう。九州といえば焼酎だと思っていました。全米日本酒歓評会2014で、佐賀県小城市の「天山酒造」の「大吟醸 飛天山」と「七田 純米吟醸」が金賞を受賞したんだとか。全然、知らなかった…。佐賀やるじゃん。
席に案内されると、作務衣を着たおじさんが待ち構えていました。この方は「有薫」グループの会長で、福岡県久留米出身の髙山さん。「有薫」は、本格的な九州郷土料理やお酒を提供することで知られていて、九州出身の常連さんも多くいるそう。「本場より味が落ちるねと言われとうなかけん、九州から毎日いいものだけを仕入れるったい」とニヤリと笑う髙山さん。
髙山さん:
「今日はたっぷり飲まんね。酒ば用意するけんが、りょうこさんちょっとほめといて」
りょうこさん:
「あ、基山の方言で、おもてなしのことを『ほめとく』って言うんですよ」
何が出てくるかまったく聞かされないまま、佐賀グルメのおもてなしがはじまりました。まず1品目。秋の味覚だという「鬼菱(おにびし)」。石ころのような見た目ですが、水草の実なんだそうです。これを割って食べます。塩味で、素朴な味がします。
りょうこさん:
「うん、でんぷんの味!(笑)」
髙山さん:
「これはおやつったいね。『ひしやんよー』なんていって、お母さんにもらってよう食べた」
美味しいのか美味しくないのかで言えば、そんなに美味しくありませんが、それが郷土料理なのかもしれません。
2品目と3品目はカニです。まずは左の「がんづけ」という、小さなカニの塩から。
田中:
「うわっ、超しょっぱい! しかも塊がガリガリしてて、超かたいんですが……」
髙山さん:
「この塊が大きければ大きいほど、他のカニが入っていないっていう証拠。うちは漁師のおばちゃんが作ってる本物ば仕入れとるけんね。その辺の身が小さいがんづけとは違うったい」
りょうこさん:
「しょっぱいですから、こればっかり食べてたら体壊すって言われてるんですよね(笑)」
殻が柔らかいカニってわけではなく、本当にガリガリとした石みたいな食感で、がっつり塩味。まろやかさはありません。郷土料理は奥が深い…。
髙山さん:
「カニの身ば、にゃんにゃんぺーして食べるっとよ」
りょうこさん:
「そうそう、にゃんにゃんぺ!」
冗談かと思いましたが、「にゃんにゃんぺ」は実際に佐賀で使われる擬音だそうです。カニの甲羅ごと歯で噛み、身をこそいで食べるさまを表しているそう。佐賀弁は、擬音を多く使う文化なのだとか。
りょうこさん:
「母親からもよく、『ぎゃんしてぎゃんして、ぎゃんするったい!』って言われていました。ぎゃんっていうのは、こうっていう意味です」
髙山さんが「エイリアンっちゅう映画は見た?あれのモデルば連れてくるけん」と言って4品目に持ってきたのは、「わらすぼ」の干物。有明海に生息するハゼ科の魚で、別名有明のギャングとも呼ばれています。
りょうこさん:
「このギザギザの歯、見て! 生命力も強くて、干しても夕方まで生きているそうですよ」
この恐すぎるわらすぼどうやって食べるのかと言うと、干物を香ばしく焼いて食べたり、日本酒に入れて「わらすぼ酒」として飲んだりするそうです。さっぱりした薄味の干物で、なんだかくせになる味ですね。頭までカリカリっと食べられます。
髙山さん:
「腹にたまらん酒のあてばっかですまんね。最後にやっぱりアレば食べんと」
佐賀の珍味にうちひしがれそうになっていたところに登場したのは…「佐賀牛」!○○牛と呼ばれる銘柄牛の中でも、トップクラスの肉質として、名シェフたちからも絶賛されているというあの…。佐賀の名産の中でも、これだけは知っているという方も多いのではないでしょうか。
網で焼いた佐賀牛を、味付けは塩と薬味でシンプルに味わいます。さすが、お肉は柔らかく、脂が甘くておいしい!
髙山さん:
「肉の脂が受け付けなくなったっちゅう年配のお客さんでも、これだけは1人一皿食べたいっていうとよ」
気づいたらお酒がすすみすぎて、かなり酔っ払ってしまいました。りょうこさんもぐいぐい飲んで、陽気になってとってもかわいらしい。これが「や~らしか」の秘密なのかも。
田中:
「りょうこさんは、いつ佐賀を出たんですか?」
りょうこさん:
「高校を卒業してすぐ、アメリカに留学に行きました」
田中:
「全然佐賀っぽさは残ってないですもんね。佐賀に帰ることはありますか?」
りょうこさん:
「友人の結婚式で、先日も帰りました。でも、本格的に帰ろうという気はないですね……。佐賀はなんていうか、結束力が強くていいのですが、その分コミュニティも狭いので」
田中:
「なるほど、もっと広い世界でチャレンジしたいと思う人は、佐賀から出て行っちゃうんですね」
りょうこさん:
「だけど佐賀出身のすごい人はたくさんいるんですよ。早稲田大学の大隈重信とか、東京駅駅舎の建築を手がけた辰野金吾とか。お台場に大砲を納めたのも、佐賀の鍋島藩ですし」
佐賀の個性的な珍味のように、佐賀出身の人物は個性的な人が多いのかもしれません。佐賀には帰らないと言いつつも、佐賀を語るときのりょうこさんはキラキラしていました。これが故郷愛か。
田中:
「他県の人から、佐賀のことを聞かれたら何て説明しますか?」
りょうこさん:
「佐賀は、福岡と長崎の間にある県だよって言っています(笑)。佐賀の観光を聞かれることもあるんですけど、博多にも近いから博多に行ったら?ってすすめちゃいますね」
田中:
「佐賀かわいそう……」
まだまだ続く、や~らしか佐賀女子がおすすめする佐賀グルメin東京」は後編へ!方言動画もチェック!
著者・SPECIAL THANKS
- 取材協力
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■FACTORY SAGA
https://www.factorysaga.jp/■佐賀ラーメン美登里
住所/東京都台東区浅草4-24-1
電話/03-5808-5560
http://r.gnavi.co.jp/2grvejkj0000/
■赤坂有薫
住所/東京都千代田区永田町2-14-3 東急プラザ赤坂3F 溜池寄り
電話/03-3592-0394
http://r.gnavi.co.jp/g113900/
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