『週刊漫画ゴラク』(日本文芸社刊)にて大人気連載中のグルメ漫画『食の軍師』が4月1日(水)23時30分よりTOKYO MXでドラマ化されることになりました。皆さん、ご存知でしたでしょうか? 漫画原作者は泉昌之(久住昌之×和泉晴紀)名義になっています。
早速、漫画の原作担当、久住昌之さんと漫画担当の和泉晴紀さんに、『食の軍師』の魅力をたっぷりとうかがってきました。久住さんはご存知『孤独のグルメ』の原作者。和泉さんは30年来の久住さんの相棒で、お二人は泉昌之名義で20作品以上を発表しています。
――連載開始(2009年)のきっかけは?
【和泉】最初は週刊誌ではなくて、『週刊漫画ゴラク』の別冊で『食漫』という月刊誌が当時あって、そこでの読み切りとしてスタートしたんだよね。連載として続ける予定じゃなかった。
【久住】そうだっけ?それで読み切りで「おでん」を一本やったのか。最初の頃のこと覚えてないよ。
そう。その後もう一回『軍師』を続けて描くっていうわけじゃなかった。今じゃ4冊目が出るけど、当時は1冊になるなんて、全く思ってなかったからね。
――久住さんが、『食の軍師』執筆開始時に横山光輝さんの『三国志』にはまっていた、と別の記事で拝見しました。
そうそう、僕だけね。
――誰でも持っている小さなこだわりを、改めて描いて『食の軍師』にするというコンセプトについてお聞かせください。
以前にも、他の作品で『週刊漫画ゴラク』さんで書いたことがあるんですが「マニアック過ぎて、うちの読者には分からない」って言われたことがあって(笑)。それで、分かりやすいものをやりたい、っていうのが最初からあったんですよ(笑)。
――『食の軍師』は地方遠征のロケハンも、久住さんと和泉さんのお2人で?
編集の人と3人でね。基本的には、そのまま描いてるだけなんですよ(笑)。でも我々が見てきたものを料理して、そこに“軍師の味わい”を入れるのが久住君のアイデアなんです。
――だめな店はだめ!と正直に描かれるじゃないですか。奥多摩の鍾乳洞とか三崎口の一軒目(単行本第2巻・進軍の六「軍師、奥多摩へ」進軍の十二「軍師、三崎口へ」)とか……
すごいですよ!行くとびっくりしますから。
リアルというよりは、ただ面白い漫画を描きたいだけなんです。漫画だからね! 面白い漫画が良いわけで、本当にある店を貶めたいわけではないですから。主人公が意を決して入ってみたら、レンジであっためていた……そういう残念さが面白いじゃないですか。だから、毒舌でとかそういうのは何にもないですよ。
そんなに嘘は描いてないです(笑)
■「ラーメン二郎」なんて、そんな生やさしいもんじゃない
――夜中の2時にオープンする名古屋のラーメンとか(単行本第2巻・進軍の六「軍師、名古屋へ(二日目)」)すごいですよね。
忘れられない。あれはすごかったよね。
深夜1時くらいに行って、見てたんです(笑)。ア、開けはじめた!とか言って(笑)。漫画には描かなかったけど、じゃあ1時間待とう!って言って、近くに夜中までやってる中華料理屋があったんで、編集さんと3人で。
――飲んじゃったんですか?
そこ美味いんですよ(笑)。
それで3人で「ここでラーメン食べたいよねー。ここ絶対美味いよー」って(笑)。
「何であんなところ行かなきゃいけないんだ」って(笑)。
でも、そこが目当てだから……仕方なく(笑)。中華料理屋のラーメンは断念して、お目当てのラーメン屋に。僕は完食したんですけど、久住君と編集の人は、途中で逃げましたから!
スープに全部麺と野菜が隠れた時点で、もう良いだろう!と(笑)。
――そんなにすごいんですか?!
すごい。
――味のない、ラーメン二郎みたいな感じですか。
そんな生やさしいものじゃないです。あれは食べた人しか分からないな……
上にのっている野菜も味がないから、ソースをかけて食べる。
その下のスープも味がない。
うどんと焼きそばとラーメンが入った「ミックス」はもう歳だからできない、と言われて。
「良かった、助かった」と胸をなで下ろしたね(笑)。そうだ、僕らが行ったときに「初来店の友人を連れてきた若者」がいてね。で、その若者が「僕は野菜なしで、彼は普通ので」って言ったんで、「あ、この若者は、この初来店の若者にこのラーメンを食べさせようとしてるんだな」と思ったわけ。そうしたら、野菜ヌキの彼のところに味がついていないような茹で豚がドサーっと(笑)。おじさんが「野菜がない分、肉を入れておきました。サービスです!」って。絶句してたね(笑)。あれは強烈だったなあ……。でも、普段は普通にお店に行って、普通に食べていることを、漫画らしくおおげさに描いているだけなんですけどね。
■「諸葛亮孔明が出てくる」っていうのがデタラメ過ぎるじゃないですか
――『食の軍師』ドラマ化のお話が来たときは?
果たして『食の軍師』のドラマ化って、どうやるだろう?と。僕の作品では既に『孤独のグルメ』とその他にもドラマ化されていて、『孤独』の方で感じたのは、お金ばっかりかけるんじゃなく、キャスト・スタッフみんなで頑張ってちゃんとやればちゃんとできる、ということ。それがあったので、ドラマ化のお話が来たときは「浮き足だった企画じゃないといいなあ」と思いましたね。
まだ(第1話を)観られてないんですよ。
演出は『孤独のグルメ』で半分ご一緒した宝来忠昭さんですから、闘いの描写・見せ方が上手いのは分かっています。僕らの作品は漫画だから、何でも出来るじゃないですか、兵隊いっぱい出したり(笑)。それはテレビではできないので、宝来さんが「どうしましょうか?」って訊くから「人形……でいいんじゃない?」って答えました(笑)。漫画には何でも出来る自由がある。テレビでも、できるだけそんな漫画的な考えで、工夫してやればいいんじゃないかな、と思うんです。ドラマ化で儲けよう、って人がいっぱい集まってきて、ロケしてる周りにいっぱい腕組みして見ている現場っていうのは面白くないですよね。無理やりいろいろねじ込んで、どんどんどんどん面白くなくなってしまう。今度のはほんとうに頑張っているから、僕らも音楽作り甲斐がありますよ。
『孤独のグルメ』の時と同じメンバーですよ。『孤独のグルメ』の時はシーズンごとに1枚ずつ、だから計4枚のCDを作ったんですよ。
今回ももうずいぶん作ってますよ。30曲くらい作ってるんじゃないかな。
――軍師の登場シーンって、どんな音楽がかかるんでしょう?
自分で描いておいて何ですけど、「諸葛亮孔明が出てくる」っていうのがデタラメ過ぎるじゃないですか(笑)。そんなもん、どこにいるんだよっていう。だからその時空を越えたばかばかしさが出るといいな、とは思ってます。本当は日本で探した中国っぽい街でロケしているのに決まってるんだから(笑)。そこを音楽で、ちょっと中国的な音楽を流して「ここは中国です!」ってしてあげたい(笑)。三国志自体が荒唐無稽かつ古典の強さがあるから面白いんです。そういう下敷きがあるものってのは強いですよね。それを無理矢理入れてるな?って自分で思いながらやってるのがまた面白いんですよ。
■失敗しなくちゃ、何にも面白くないんですよ
――お店で、他の人を見ていると、自分の頼んだものは正解だったのかな?って気になっちゃいますよね。
あのメニュー食べようってお店行くじゃないですか。それでその場で隣の人のを見て、「あれ、美味そうだな~」って、つい頼むと絶対に失敗なんですよね(笑)。
今話しているように、失敗の話って、みんな笑うんですよ。だから失敗しなきゃダメなんで、わざと失敗したらつまんないけれど、何かやろうとして失敗すると、みんなその話は笑う。調べてから行くと、保険かけながら行ってるようなもんだから。失敗しないじゃないですか。それは面白くないから、そこはもう出たとこ勝負、ほんとうに勝負で(笑)。何を食べて、何を飲んだら漫画になるか、面白いものになるか、ってことしか僕らは考えていないんですよ。
――本郷は失敗して、勝負に負けてるから面白いですよね。
どう失敗して、どう負けるか(笑)。勝とうとしてるんだけどね(笑)どう勝とうとするか(笑)。
――力石の立ち振る舞いには、モデルがいたりするんですか。
いや、ないですよ。僕らの中での理想の立ち振る舞いでもない。単純に、本郷が一番苦手そうなやつを登場させただけで(笑)。本郷は考えすぎなやつじゃないですか、いつも。
策士策におぼれる。
力石はそれに対して、何も考えないで自然体で美味いもん食ってるから、本郷はそれがすごく苦手なタイプなんじゃないかなと(笑)。ちょっとかっこいい感じもしますよね。
■ドラマの弊害があるとしたら
テレビが始まると、今度は漫画で描く方が、実写版に引っ張られるんですよ。
あはははは(笑)。
キャラがまた変わってきちゃって、かっこよくなっちゃう。
いや、本当に、ドラマの弊害っていうのがひとつだけあるとしたら、その……『孤独のグルメ』のときも松重さんが出てきちゃうんだよね、漫画を描いてると、その声で聞こえてきちゃう。そうするともう、すごく邪魔(笑)。漫画の五郎のキャラとぜんぜん違うからね、年齢も違うし、感じも違う。声なんて聞こえてないわけですよ、漫画なんて。よく「漫画は誰がモデルですか」なんて聞かれたりするけど、あまりそういうのはないんですよ。でもね、今度は和泉さん、ドラマのあの2人に絶対影響受けちゃうよ(笑)。
本郷役の津田寛治さんの写真見て、「うわ、漫画そっくりじゃん!」って言ってくれる人もすでにいるんだよ。そうかなーって(笑)。既にみんな引っ張られてる(笑)。
でも、似てるよね。表情の作り方とか。漫画を見てやってるのか、目の感じとか似てますよ。力石役の高岡奏輔さんもすごくいい感じだよね。
――孔明役の篠井英介さんはいかがですか。
予告編を見た時は「ちょっとコミカル過ぎるかなぁ」と思ったんですけど、繋がった第一話を見たら、「この軍師、サイコーだな、篠井さんで正解!」となりました。2話以降がものすごく楽しみです。
■お互いがお互いを面白がり続けて30年
――お2人の30年にわたる創作活動についてお聞かせください。
僕らのは30年のワンパターン、なんです。デビューの頃から変わってないもん、だって。
いやでも人間ね、30年経つと変わってきますよ。俺はね、お弁当の食べ方、大事なものは後にしてたんだけど、今は逆に大事なもの先に食うようになってる。
――なんででしょう?
その方が合理的だと思って。
合理的とか言い出したよ(笑)。
だってお腹がだいぶいっぱいになってきているのに、美味いものを食べることは、ずれてるわけじゃないですか。
そうだね。
でも一番お腹が空いていて何を食べても美味いときはね、美味しいのは3番目くらいに食べるとかね。
『ダンドリくん』(泉昌之名義の1990年作)なんですよ。
――ですねー。
いやでもね、現場で名言も出るんですよ。こないだも池袋行ったら、ラーメン屋がすごいいっぱい出来てて、「うわー、また新しいラーメン屋が出来てる! 無傷じゃ帰れんな……」って(笑)。この台詞は、出ないですよ、僕からは!さっそく漫画に入れてます。
久住くん、そんなラーメン好きなわけじゃない。
好きだけど、和泉さんほど、ラーメン愛はないかな……。
今日もやっちゃったんですよ。
え~っ。
お昼に吉祥寺で出掛けにラーメン食べてきたんですけどね、たまには吉祥寺のホープ軒食べようと思って、ホープ軒の前まで行ったんだけど、なんか(気分が)違うな、と。振り返ったら、とあるそば屋がラーメンの暖簾を出しているんですよ。それで、え!?って。ラーメンやってるのは知ってたけど、暖簾も出すくらいなら、行ってみるかと(笑)。やっぱりね、ホープ軒行ったら良かったなーと思いましたね(爆笑)。
暖簾にやられた(笑)。
――やっぱり、失敗がおもしろいですね。
基本的に外食しないんですよ。今日この取材と、(漫画の)軍師の取材があるから、それに合わせて計画して。
外出があると「チャンス!」って(笑)。
たとえば今日だったら、道すがらどういう流れでここまで来るかってのを考えます。家出てまず御茶ノ水行って、御茶ノ水近辺のラーメン屋行って、と。ついでにディスクユニオンに寄って、それからここまで10分くらいで来られるから……と考えて逆算すると、2時半には出なきゃならない。電車が御茶ノ水まで23分。全部頭に入ってるんだけど、待てよ、御茶ノ水でラーメン食べると3時半くらいになっちゃうな、そのあと『食の軍師』の取材に行って5時半くらいに食べることになる……2時間しかないと、あまりお腹が空かないな。これは困る!ならば吉祥寺で食べたほうが、まだお腹が空くな、と。
その微調整を、カロリーメイトでするんですよ(一同爆笑)。
カロリーメイト完璧なんですよ。1本100kcalですからね。1時間持ちますよ。
――ほんとうに和泉さんがダンドリくんなんですね。
まさにダンドリくんです。
一日24時間、2,400kcal必要だと、1時間100kcalですからね。カロリーメイト1本分です。
僕はそういうのが一切なくて、全て出たとこ勝負。だからちょうどいいんじゃないですかね。
おもしろがってくれるんです。
――お互いがお互いを。
いつまで経ってもヘンだなって(笑)。
――これからの泉昌之名義での活動を教えてください。
『食の軍師』を出来るところまで続けますよ。(両腕をいっぱいに広げて)たしか『三国志』ってこれくらいあったでしょ?(一同爆笑)。【終】
和泉晴紀さん、久住昌之さん、ありがとうございました!
【人物紹介】津田寛治さん演じる主人公・本郷播(ほんごう ばん)は、美味しいものにこだわると同時に、自らの内にいる「食の軍師」の助言にしたがって、飲食店を食べ歩く際には完璧な食の組み立てを追い求める中年男。トレンチコートと帽子がトレードマーク。
本郷の行く先々で鉢合わせするのが、高岡奏輔さん演じるパーカー姿の青年、力石馨(りきいし かおる)。食事スタイルは本郷と異なって洗練されているので、本郷は一方的に力石をライバル視。
そして本郷の脳内にいるのが、篠井英介さん演じる食の軍師=諸葛亮孔明。本郷の食事スタイルに対し、有効な兵法を進言してくれる「軍師」です。
食の軍師 兵法の一「おでんの軍師」あらすじ
ここは人っ子一人いない商店街の一角にある昔ながらの屋台のおでん屋。トレンチコートに身を包んだ男・本郷播はおでんを完璧に攻略すべく足を急いでいた。しかし、いきなり現れた若い男・力石に注文の先を越されただけでなく、その見事な陣立てに驚愕する。おでん者として負けられん!本郷はわが師と仰ぐ諸葛亮孔明に教えを乞う。ここに本郷と力石の食をめぐるバトルが勃発する!
▼『食の軍師』(TOKYO MX)
2015年4月1日放送開始 毎週水曜日23:30~24:00 全13回予定
GYAO!でも無料見逃し配信開始!
©久住昌之・和泉晴紀/日本文芸社・食の軍師製作委員会