東京大学に来ている。
私の母校だ。
ウソだ。
齢18の頃、人生における一発大逆転を狙っていたわたしは、予備校の「東大進学クラス」に入った。
そして、二か月で出て行った。
クラスの子たちから疎まれていたことが原因なのではない。
試験科目があまりに多すぎたのだ。
予備校の先生の怒号を聞きながらわたしは悟った。
「人生にはもっとゆとりが必要だ」と。
「8科目も9科目も勉強しなきゃならないなんてナンセンスだわ」
「めんどくさいわ」
「3科目でいいじゃない」
「パンがなければケーキを食べればいいじゃない」
怠惰の連鎖は限りなく続いていった。
そんなゆとり教育の賜物であるわたしでも何とか「大学生」になれた。でも、心のどこかで今も後悔することがあるのだ。「あの時もっと頑張っていたら、私も東大生になれたのかしら・・・」と。
何度か東京大学の文化祭に行ってみたことがある。クールで、コミカルで、押しつけがましくないインテリの空気に満ちた素敵な文化祭だった。悔しかった。
レゴ部が作った見事な都庁の模型を見て「すごいですね」と言いながら心の中で泣いた。
コンプレックスを携えて今回わざわざここ東京大学・本郷キャンパスに馳せ参じたのは安田講堂に放火しに来たわけでも赤門に落書きをしに来たわけでもない。
学食を食べに来たのだ。
きゃつらがどんなモノを食べて毎日暮らしているのかが気になる。「敵を知るにはまず味覚から」と言うじゃないか。
いや、そんなことわざは存在しないけど、とにかく東大生が普段食べているものを知りたい。
食堂へと続く道の途中にショーケースがあって、周囲を東大生たちが取り囲んでいた。みんな恐ろしいほどに無言で、じ・・・っとケースの中を見つめている。その光景はさながら老人の最期を看取る親族のようだ。
ケースに近づくと、中身が見えてきた。亡骸などではなかった。
美味しそうな食品サンプルだ。
しかも麺類が異常に多い。
見渡す限り麺類ばかり。
一番の名物は「赤門ラーメン」というやつらしい。名前の通り赤くて、何とも辛そうだ。
きゃつらの頭脳の栄養源となっていたのは麺類だったというわけか。この食券機はメニューの種類ごとに色分けされているらしいのだが、麺類である黄色が陣地の約半分あまりを占めているのであった。「黄色の麺類さんが19枚のパネルをお取りになりまして、パリ挑戦権獲得!!おめでとうございます!」という児玉清の声が今にも聞こえてきそうである。
あんなに麺類を推していた券売機で私が押したのは「エコノミー」なのである。だって気になったんだもん。「M限定」も気になったけど。マゾヒスト向けの定食なのだとしたら材料を想像して震える。
とりあえずエコノミー定食のあんかけご飯を食べてみる。
あんとご飯がちゃんと馴染んでふわふわしている。粘り気はそんなに強くなく、味付けも薄めで、とっても優しい。田舎のお母さんみたいだ。ミルキーなんかよりこっちの方がずっと「ママの味」だという自信がある。
あんかけご飯+ひじき+お味噌汁で410円。『バランスよく食べたいけどお金はあまりかけたくない』 エコノミー定食はそんな若者たちの思いを汲んで生まれたメニューだそうだ。学生に対する愛情がひしと感じられる。
同行した友人は「赤門ラーメン(ハーフ)」を頼んでいた。「名物」と書いてあるメニューをちゃんと食べておこうとする人のことをきっと「大人」と呼ぶのだろう。
「麺の上に麻婆豆腐のタレがかかったような味」と非常に分かりやすい説明をしてくれた。
がっつり食べたい通常サイズは400円、小腹が空いた時のためのハーフサイズは340円です。
知的融合および文化的交流
時間も余ったし、せっかく東大にいるので東大生たちと心の交流を図りたい。 うまくいけば友だちになれるかもしれないし、もっとうまくいけば、結婚してもらえるかもしれない。
近年「恋愛しない若者」が急増中とのことなのでその辺について質問してみることにした。東大生って男子高出身者が多そうだし、恋愛とかも奥手なんじゃないかな。ともすれば全員童貞なんじゃないかな。
心を開いてくれない東大生
私はこの食堂で結局6人の男の子に話しかけたが、そのうちの5人に恋人がいることが分かった。
スマホの将棋ゲームから一瞬たりとも目を離すことなくカレーを食べ続けるさまがクレイジーだが、インカレのテニサーで出会った彼女がいるメガネ男子。
高校の時からの彼女がいる天パ男子
なぜかコートを着たままご飯を食べていた勿論彼女がいるイケメン
彼らは皆一様に私のことを警戒していた。質問されたことにはちゃんと答えるがそれ以上は決して心の内を見せないようにしていて、不審者に対する防犯意識がきちんと行き渡っている良い大学だと感じる。
同時に突然人の家に乗り込んで夕飯まで横領し、家族に迷惑そうな顔をされてもさほどめげないヨネスケのメンタルを羨ましく思った。
みんな普通に恋人がいるし、大学生活を楽しんでいるようだし、結婚もしてもらえなさそうなので食堂を出た。
東大生には「勉強は出来るけど、運動も円滑なコミュニケーションも恋人も就職も出来ない。孤独な夜に耐えかねて毎晩泣いている」ような人々であってほしいと強く願っていたのだが、やはり勉強が出来る人はその他のこともソツなくこなせるのだろうか。
学内にあるドトールに入ったら可愛い女の子がいたので声をかけた。
アイドルのような顔をしているが、工学を学んでいるのだという。
「文学部みたいに人間の気持ちを読み解く勉強は面倒くさくて私には無理。鉄とかプラスチックとか、そういう物質のことを研究するほうがよっぽど簡単」という言葉を聞いてなんだかこの女の人のことが好きになった。
「さっき食堂にいる男子に声をかけたらみんな恋人がいたんです」と言うと、
「彼らが将来就職する企業や機関(特に理系)はレベルが高すぎて、女性の数がごくわずかしかいない。だから女性が身近にいる今のうちに嫁候補を確保しているのではないか」という見解を示してくれてすごく納得した。
ちなみに彼女の在籍するクラスには女子が2人ほどしかおらず、完全に「オタサーの姫(女性がほとんどいないようなコミュニティで、男性たちからお姫様のようにちやほやされる女性のこと)」状態になるが、寄ってくる男は彼女自身を好いているというよりは『女の子だから』言い寄ってきているような気がする、と複雑な心境を明かしてくれた。
お話しているだけだと普通の大学生とそんなに変わらないような気がしたが、最後に声をかけたお姉さんによると「東大生のほとんどが富裕層の家庭出身で、男でもピアノやバイオリンを弾ける人がゴロゴロいる」らしく完全に打ちのめされた。もう二度と東大生と張り合おうとなんてしない。
ただ一つ言えることは、東大生協の書籍部は町の本屋さんよりもはるかに充実しているので一度行ってみることをお勧めする。
あー、学食のエコノミー、おいしかった。
暇な女子大生(id:aku_soshiki)
「暇な女子大生が馬鹿なことをやってみるブログ」を書いている女子大生もといフリーライター。好きな男性のタイプは洗濯物の畳み方が几帳面そうな人で、好きな食べ物はエビチリです。
ブログ:http://joshi-daisei.hatenablog.com/
ツイッター:https://twitter.com/sada_freejd29
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