田園都市線駒沢大学駅から歩いて10分ほど、駒沢公園裏手のもの静かな住宅街に「かっぱ」はある。
店名の看板だけが光っていて、それ以上の説明はどこにもない。煮込みの名店として名をはせるが、それを知らなきゃ、とても入れそうもない。勇気を試される店構え。マンガ「孤独のグルメ」でも、駒沢公園の煮込み定食編の舞台として登場、「はふ。うん、うん。見た目どおり原寸大にウマイ」との評価をくだされている。
布ではなくって、暖簾は縄だ。
しめ縄を連想したからだろうか、なんだか厳粛な心持ちになりつつ、店内に入った。
カウンターのみ9席。17時から24時30分までの営業で、ランチはない。禅僧のごときストイックさをまとう店長さんが、落ち着いた声調で「いらっしゃいませ」とつぶやく。先客たちは私語をせず、ただ黙々と煮込みをかっこむ。視線は一途に丼にそそがれ、箸を動かすリズムもキビキビしている。ピンと張りつめた空気だ。
20年以上営業を続け、店主は代替わりをしているが、独特の緊張感は代々受け継がれてるものだとか。
丁寧に使いこまれているカウンター、磨きこまれたシンク、必要最低限の張り紙。キレイに片付いた店内は無駄がなく、仕事の細かい寿司屋のよう。
なにを注文するか悩む必要はない。なにせメニューは煮込み一択だ。アルコール類も一切ない。酔わず語らず、米と煮込みと向き合おう。
「ご飯の量、どうします?」と問われるので、ご飯のサイズだけ答えれば良い。ご飯は大・並・小の3サイズ。並でも普通の店の大盛りぐらいある。それほど胃が大きくない私は、小で充分だった。
煮込みも並・小と2つのサイズがあるのだが、何も言わないと自動的に並が出てくる。小にしたい人はあらかじめ、そのむね宣言しよう。
持ち帰りは専用窓口があるので、そこで店主と取引をする。300円で別売りしているタッパによそってもらうか、容器を持参してくるかだ。食事しているあいだ、主婦とおぼしきオバちゃんが何人かやってきて、持ち帰りを注文していた。ちょうど腹のすく頃合であったし、近くの住人が夕飯のオカズにでもするのだろうか。
▲煮込みと小ご飯 800円
無言でトンと置かれた煮込みとご飯。そして、大根の漬物。
底の浅い皿に、たぷたぷに注がれた煮込みと汁。
すりきり一杯注がれてるので、カウンターに置くさい、皿からちょびっと汁がこぼれる。
どの席もちょびっとこぼれていたようなので、アクシデントというよりも、意図的な演出なのだろう。受け皿に溢れるぐらい日本酒を注ぐのと同じ手法だ。
モツを使っていない牛の煮込みだ。赤身肉、こんにゃく、豆腐を味噌とショウガで煮込んでいるようだ。
かなり濃そうな色合いをしているし、実際けっこう濃い味つけなのだが、ショウガの風味で後味はさっぱりと重くない。これならいくらでも食えそうだ。半分ぐらいは煮込みと白米を交互に食らい、残り半分に達したら、汁ごと丼にぶっかけサラサラすするのもいいだろう。
たるみのないピリッとした空気感から、私語厳禁との都市伝説も噂されるが、同行者と「見た目より濃くないっすね」「噛みごたえありますね」と感想をヒソヒソ語りあう分には問題なかった。
とはいえ、到底、雑談するような雰囲気ではないので、チャッチャと食ってチャッチャと会計しチャッチャと退店。入店から退店まで、ほんの7分ほどの出来事であった。
お店の情報
かっぱ
住所:東京都世田谷区駒沢5-24-8
作者 松澤茂信(まつざわしげのぶ)
東京別視点ガイド編集長。
るるぶとか東京ウォーカーが積極的に載せないようなとこばっかし巡ってます。
そういう人生です。けっこー楽しいです。
(編集:編集プロダクション studio woofoo)
東京別視点ガイド:http://www.another-tokyo.com/
Twitter:https://twitter.com/matsuzawa_s