• 編み笠柚子の百合根饅頭 甘くほろ苦い、昆布なる料理

    編み笠柚子の百合根饅頭
    甘くほろ苦い、昆布なる料理

  • 野菜の炊合せ 甘く、淡い苦味を持った昆布なる料理

    野菜の炊合せ
    甘く、淡い苦味を持った昆布なる料理

  • 昆布なる料理

    昆布なる料理
    昆布なる料理とは昆布の姿のように長い余韻を残す料理、或いは岩礁に付着し一歩たりとも動かず群生し多様なコロニーを形成する生態のように、時間軸において、自然や社会との共感覚を得られる料理を指しています。言い替えると、外部環境に合わせるために交感神経の働きを高め、「闘争と逃走」の臨戦態勢をとる忙しない動きではなく、自然や社会の動き、そして体の内部環境を整えるべく副交感神経の働きを高めた「消化と休息の反応」の動きと類似する、はんなりとして余韻の長い動きを持つ味、食材、料理になります。

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  • 昆布なる味とは四大味覚に当て嵌めて考えると、主に甘味と苦味に当たります。五大味覚とするならばうま味も相当すると思います。

    ・甘味はゆっくりと感じられ長く後を引き、狭く深い味わいがある。つまり線なる味であり一次元的で、並行する線と線とを繋げ面にし二次元へと導く関係性の強化機能。そして左右の二方向の動きを内包し、それらはそれぞれに開閉の弁を持つ。

    ・苦味はゆっくりと感じられ、広く深い味わいといつまでも続く余韻がある。つまり面なる味であり二次元的で、古い自意識(概念)の終焉と新しい自意識(概念)の誕生を促し、立体的で空間を作る再生機能。そして二方向へ捻じれる回転の動きを内包し、それらはそれぞれに開閉の弁を持つ。


    　これらは味覚を受容した際の、舌の実際の動きから得られる感覚です。

    ※昆布の持つうま味成分であるグルタミン酸には脳を活性化させる効果があることは良く知られたことです。それはつまり、交感神経の働きを高めるということになります。しかし、それでも昆布なるものが副交感神経の働きを高めるするのは、その全体的な効果としてです。また四大味覚の機能性についてはここでは軽く触れる程度にしておきます。
    　　
    　これらの味覚と同じ動きを見せる食材をパターン思考で探ると、主に穀物と野菜(山菜・海藻を含む)に当たり、栄養素で捉えるとミネラルとビタミンと食物繊維に当たるのではないかと考えています。

    ※穀物の主な栄養素である糖質・炭水化物がここに当て嵌まらない理由は、上記の苦味の機能で示した通り、ある概念に内包された概念は構成要素の数に差異があることと捻じれにより位置をずらすためです。

    　
    　野菜や穀物の美味しさとは？との問いに「滋味深い」という返答が多いかと思います。滋味とは、「１ 栄養があって味のいいこと。栄養豊富でおいしい食べ物。２ 豊かで深い精神的な味わい」とあります。
    　しかし、変動の激しい外部環境に遅れまいと全力で追い掛ける現代人に、或いは分かり易い味と合理的な情報でパッケージ化された料理を頻繁に口にする現代人に、１は頭で理解できても、数十年も前のゆっくりとした時代に言葉にされた２の意味を果たしてどのくらい感じられるでしょうか？

    　
  • 　数十年に亘り、日本料理は分かり易い料理＝鰹なる料理ばかりを追い求めてきたように思います。それはきっと、この昆布なる料理＝分かり辛い料理の美味しさを時代に合った言葉に変換できなかったことと味わい方を提示できなかったこと、そして人の意識を外向させる社会環境があったからではないかと思います。それは即ち、黙々とした職人が忙しなくビジネスを追い掛ける料理人へと変貌してきたとともに、その価値の理解や注視が徐々に失われ、浅くなってきたことに他なりません。


    　精神的な味わいとは、体の内部環境を覗き見ることであり、それは生理学的に「休息と消化の反応」といわれる、副交感神経の活動が高まり優位になる状態の時に得られる感覚だと思われます。その時、体の内部では「次の活動に備える状況」が作られています。この反応を得るのは、昆布なる料理が持つ、ゆっくりとした動きが意識を内向させるからではないでしょうか。

    　そして精神的に味わうとは、その動きを感覚器を使い、追うことになります。
    　例えば、水を飲むとします。その水の流れを体の内部に備わった感覚器を使い、どこまで追うことができるでしょうか。喉元まででしょうか。或いは食道まででしょうか。それとも胃に流れ落ちる所まで追うことができるでしょうか。或いは胃を通過して腸へと流れるところまで追えるでしょうか。
    　これは食物と個人差と状態と状況によります。
    　これが胃に食物が溜まった状態であれば、せいぜい食道までかもしれませんが、朝一番の空腹の状態であれば、そしてそれが冷たい水であれば人によっては腸に流れ落ちる動きを感じ取ることも難しくはないでしょう。
    　いずれにしても、意識が体の内部環境に向けられていることに違いはありません。もう少し説明するならば、


    　例えば、固い食物繊維を口にした際には噛む動きと音の動きに意識は引き寄せられます。京料理の八寸に登場するような難解な料理、或いは初めて食べる料理を目の前にすると、人は戸惑い、骨格筋を動かす大きな活動を弱め、思考を巡らせ能動的に味わおうと試みます。
    　味わおうと試みた後の行動は個々によりますが、このように意識が内向することが分かります。
    　
    　
    　
    　
  • 　昆布なる料理を食した際に感じる、「なんとなく安心する」感覚。これは交感神経の活動が高まり心肺へと集まっていた血液が、昆布なる料理を食したことで、副交感神経の働きが高まり、血液が胃腸へと下り、物理的に重心が安定する動きと、脳と心肺の活動が弛緩する動きから得られるものではないでしょうか。或いは栄養が消化・吸収され、「内部環境の恒常性が維持」されるからでしょうか。


    　　一方で、分かり易い「鰹なる料理」ばかりを食すと、強く逞しくなったような気になりますが、その実、食べ終えた後に疲労感を憶え、短気で喧嘩っ早く傷つきやすい、或いは体を壊し精神を疾患する、脆い人間になり易いのではないかと疑いを憶えないでしょうか。
    　四大味覚で鰹なる味の動きを分類すると、塩味と酸味に相当し、栄養素で捉えるとタンパク質と脂質と糖質に該当するのではないかと考えています。


    ・塩味は比較的素早く感じられ、余韻も比較的短い。つまり点なる味であり0次元で、自意識の存在の拡大を促し一次元へと導く前進機能を持つ。そして前後の二方向の動きを内包し、それらはそれぞれに開閉の弁を持つ。

    ・酸味は最も早く感じられ、余韻も短い。つまり線なる味であり一次元的であり、それぞれの次元を一つ引き離す、関係性の選別機能を持つ。そして上下の二方向の動きを内包し、それらはそれぞれに開閉の弁を持つ。
    　
    　昔の人は、個々の仕事にある発見と開発に喜びを得て、嬉々として、一日中遊ぶように働いていたと聞くこともあります。その力はどのように作られていたのでしょうか。それは恐らく、生活の部分的なことから全体的なことに至るまでの、幾層にも重なる構造における緊張と弛緩にバランスがとれていたからではないかと考えます。

    　そのひとつに食事のバランスがあります。

    　今よりも人と物事とそれらの関係が少なかった昔は、人は意図もたやすく意識を内向させることができたのではないかと想像します。食事に掛ける時間もその分量に比べ長かったのではないでしょうか。それにより消化と休息の時間を持て、感情と感覚の調和のとれた持続的な生活を送り易かったのではないでしょうか。


    　
  • 　感情は外向的な身体性の活動を促し、具体的な思考に結びつきます。感覚は内向的な身体性の活動を促し、抽象的な思考に結びつきます。前者はデザイン思考、後者はパターン思考に繋がり易いと言えるかもしれません。そして大まかに分けると、デザイン思考とは開発であり、パターン思考とは発見なのだと思います。
    　
    　そう考えると、昔の人は開発に繋がる感情表現と骨格筋の大きな動き、発見に繋がる感覚認知と人体内部を整える小さな動きといった、様々な動きに調和を取り、人体に備わった全方位の動き(前後・左右・上下・捻じれ・開閉)を躍動させることで、緊張と弛緩のバランスを図り、持続的な活動を活き活きとさせていたのかもしれません。
    　
    　
    　味に味を重ね、形を洗練させ、色に明るさと鮮やかさを求め、分かり易さと早さと強さを重ねていくと、交感神経の活動は高まり続け弛む時を得ません。意識は外向し、他人の評価を気にかけ、自他を比べることと、またデザイン思考は模倣が容易であることから競争性を高めることになります。それでも体を充分に使いエネルギーを消費し、また充分な睡眠を取れば、その間、副交感神経の活動が高まりバランスをとることができるでしょう。しかし、現代社会の発展は体を使う機会を減らし続けています。高まり続けた自意識と競争心によって生じた悩みにより眠れない夜を過ごすことになるかもしれません。


    　料理を構成する要素を見ていくと、味、食材、料理法があります。そして味には機能という明確なパターン性があり、食材には機能と色と形のパターン性とデザイン性が混合してあり、料理法にはこれらを結び付け、同種の結び付きには増幅を、異種の結び付きには相乗するといった足し算と掛け算を合わせた明確なデザイン性があります。この一次元から三次元に至るまでの様々な重なりは奥行きと幅を生むということであり、また同時に空間を生むということでもあります。

    　
  • 　食事においては、この空間と人の感覚器が結びつきます。この空間は様々な電気信号となり、人体の様々な神経を通り、それにより脳と血管と筋肉に様々な反射や反応が生みます。人は神経の動きをはっきりと感じることはできないと思いますが、脳や血流や内臓や骨格筋の動きはある程度感じることはできます。この一つ一つの断片的な動きが料理を構成する要素と同じく複合的で多重的であり、そこに様々な落差があるために人は流れを感じるのだと思います。それはつまり時間と空間を感じるということではないでしょうか。


    　料理そのものを味わうということは、ここで言う時空間に含まれる様々な要素を感じるということです。要素をより多く長く感じることは時の流れに滑らかさや細やかさを生むことになり、人はそこに癒しを憶えます。それは食事に掛けた時間に比例します。一方で要素をより強く早く感じることは空間に広がりを生むことになり、人はそこに楽しみを憶えます。それは味を感じるまでの時間に反比例します。
    　

    　これを鰹なる料理に限定すると、意識を外向させ、交感神経の活動を高め優位にし、血液を脳や心肺に集めた状態時の、主に舌筋と骨格筋の緊張度合いと理解の深さ、つまり「旨い！」という感覚は空間的な広がりに比例し、
    　
    　これを昆布なる料理に限定させると、意識を内向させ、副交感神経の活動を高め優位にし、血液が脳や心肺から下降し胃腸へと流れる状態時の、主に舌筋と骨格筋の弛緩度合いと感知、つまり「美味しい」という感覚は時間の長さに比例するのです。

    　
    　そう考えますと、料理そのものの美味しさは料理そのものに含まれる動きを生む機能とそのデザインにあり、同時に人体そのものの機能と人体に意識的に或いは無意識に生じるデザインにも因ると言えます。そして前者は作り手に委ねられ、後者は受け手に委ねられます。

    　当店では、この昆布なる料理により着目し、京料理を構成する鰹なる料理と昆布なる料理との調和のとれた会席料理を提供していきたいと考えています。難解で、手間が掛かる昆布なる料理の代表である乾物の黒々とした、或いは古ぼけた茶に鰹なる食材と味を掛け合わせながら、「今」を直視せざるを得ないほどの、目に焼き付く洗練させた形を付け、

    　
  • 　生鮮野菜の明るく鮮やかでありながらどことなく寂しさを憶える緑に、視界がぼやけ焦点が遥か先の「未来」と「過去」へと繋がってゆく、淡い味を付けることで、柔に然なる絶を、寒に然なる温もりを重ね、激しく優しい自然の鼓動を表現し、皆様に豊かな時と空間を楽しんで頂けるよう努めていきます。
    　
    　そして伝統的な日本料理、京料理、或いは会席料理に遥か昔より構造化されながらも長らく忘れ去られてきた、昆布なる料理の持つ美味しさに焦点を当て、皆様の食事に古く新しい視点を提供していきたいと考えています。


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    記事一覧
    ・塩味による舌筋と舌周辺の筋肉の動きと心理作用　　https://editor.note.com/notes/n279cca5c929f/edit/

    ・甘味による舌筋と舌周辺の筋肉の動きと心理作用　　https://editor.note.com/notes/necc73a1f6ed4/edit/

    ・酸味による舌筋と舌周辺の筋肉の動きと心理作用　　https://editor.note.com/notes/n3293eff04c49/edit/

    ・苦味による舌筋と舌周辺の筋肉の動きと心理作用　　https://editor.note.com/notes/n94028524502a/edit/

    ・かつお思考　　https://editor.note.com/notes/n7098f87ec36d/edit/

    ・こんぶ思考　　https://editor.note.com/notes/nefeec2cc824f/edit/

    ・食事と心理　　https://editor.note.com/notes/naf46d45e7a9f/edit/

    ・食事は時空間をデザインする　https://editor.note.com/notes/n33221c2eda0d/edit/
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