まいど憶良(おくら)です。
大阪発祥のうどんと言えば、メジャーなものだときつねうどん。
もうひとつは全国的にはそれほど知名度が高くない、でも、メッチャ旨いうどん。
それが、「かすうどん」です。
街で頻繁に見かけるというほど多くはないものの、大阪にはかすうどんを看板に掲げるうどん屋さんはそれなりにあります。
では、大阪で一番旨いかすうどんを食べさせる店は?
大阪で一番うまいかすうどんは?と訊くと、多くの人が「龍の巣のかすうどんはウマイで」と言います。
しかし、不勉強な物で、私、龍の巣といううどん屋さんを知りませんでした。
ならば、と、さらなる聞き込みを開始。
…しかしいくら探しても龍の巣といううどん屋さんは見つかりません。
と、聞き込み中に新たな情報が。
「龍の巣って、安くホルモンが食べられる店やったら知ってるで」
「そうそう、ひょっとしたら、一番旨いかすうどん出す店って、ホルモン屋の龍の巣ちゃうか?」
「俺も、あそこのかすうどんがナンバーワンやと思うで」
…なるほど、うどん屋さんじゃなかったんですね。
そんなこんなで今回お邪魔したのは「龍の巣 心斎橋本店」。
看板にホルモン、焼き肉、かすうどん、かすもつ鍋と、しっかり書かれています。
店内にうどん屋の雰囲気は無し。ホルモン・焼肉屋さんの感じです。
でも、メニューにはしっかりと名物かすうどんの文字が。
早速注文しました。
これがかすうどんの主役、あぶらかすです。
と、言われても、関西の人はただ単に「そーやなぁ」としか思わない方が多いでしょうし、関西圏以外の方は、「ええっ、そもそもあぶらかすって、何なの?」という方もおられると思いますので、解説させていただきます。
そもそも「あぶらかす」とは?
もともと、食用油を作るために牛の腸や脂肪分の多い内臓部分を鍋などで加熱し、油を取ったその「残りかす」なので「あぶらかす」と呼ばれたようです。
そしてこのカスの部分をなんとか利用できないかと料理に入れてみたところ、意外と美味しい、いや、むしろ旨みが凝縮されていて、これをメインに食べたいほど旨いぞ!
ということで、より美味しいあぶらかすを作る技術が磨かれていったのだとか。
全国的にも牛を解体し、食用油(ヘット)や馬から馬油(まーゆ)を作っているところでは同様のあぶらかすを使った料理もあるようです。
大阪の油カス、徳島や山口の煎りカス、広島の煎じガラと、全国区ではない物の、地域に根付いた郷土料理的ポジションで親しまれているようです。
沖縄のあぶらかす(あんだかしー)は豚から取りますし、富士宮焼きそばの決め手、「肉カス」もラードを作った残りカスを揚げたものですね。
大阪のかすうどんとは?
大阪のかすうどんと言えば南河内が発祥で、地域特有の料理という認識でしたが、あまりに旨いので大阪を中心に少しずつ浸透していったという背景があります。
ただ、ネーミングが「かす」だけに、いまだに「天かす(天ぷらのかす)が入ったうどんやろ?」とか、「何かの加工品の残りカスが入ってんねんな」とか、「いや、カス食べるて、どうなん?」など、まず食べてみようという人がさほど多くなかったようです。
それがB級グルメブーム以降注目を浴び、じわじわとその支持者を集めているんです。
「あぶらかす」を極めていくうちにホルモン焼きも提供するようになった
龍の巣のかすうどんについて、今回担当頂いた木村さんにお聞きしました。
憶良 : かすうどんで有名なお店、ということですが、店内はあきらかにうどん屋さんではないですよね。
なのに、なぜここまでかすうどんの知名度が高いんでしょう。
木村さん : もともと龍の巣が、かすうどんの旨さを知ってもらおうというところからスタートした店だからと思います。
あまり詳しい話は立ち上げスタッフしか知らないのですが、ある日社長がふらりと入った店でかすうどんを食べたところ、そのあまりの美味しさに「これだ!」と叫びそうになったのだとか。
こんなうまいものがあったなんて。これはイケる。
と、その魅力に取りつかれたそうです。
憶良 : なら、あぶらかすうどん専門店になりそうなものですが?
木村さん : 実はよりおいしいかすうどんを目指すあまり、あぶらかす自体を作り始めました。
そのついでと言うと変ですが、いいホルモンが手に入るので、これも食べてもらおうということでホルモン焼き、焼き肉も提供するようになりました。
憶良 : なんと、ホルモンの方が副産物なんですね。
木村さん : かすうどんを求めて店に入って、「ついでに」とホルモンを食べて帰られるお客さんもいます。
憶良 : 逆に、表の看板を見てホルモンを食べに来て、かうすどんにとりつかれるお客さんもいると…。
龍の巣のかすうどんと、他のかすうどん。一体何が違うんでしょう?
木村さん : では、そこのところは実際に食べてみて、感じてみてください。
憶良 : これはうどんだしですね。
木村さん : いえ、実は返し醤油と、水だけです。もちろん自社オリジナルで、単なる返しではないですが、本当にこれだけなんですよ。
木村さん:うどんはあぶらかす工場から一緒に送られてきます。
憶良 : あぶらかす工場?
木村さん : はい。いいあぶらかすを探すこと2年後に理想のあぶらかすに出会い、それを使っていたんですがそれに飽き足らず、自分であぶらかすを作り出したのはお話した通りです。が、それでも満足できず、とうとう工場を作ってそこでオリジナル製法のあぶらかすを作るようになったんです。
という、こだわりまくりのあぶらかすを入れて
こんな感じ。うどんもつやつや。
つゆを入れて
とろろこんぶと
ねぎを入れたら完成です。
シンプルな、かすうどんです。
これがあぶらかす。
これだけを食べてみましたが、スーパーや市場で一般に売っているものとは、旨味や深みが全然違うものでした。
角の立たない柔らかいうどん
大阪うどんらしく、腰が強くなくて、もちっと柔らか。
そして角(エッジ)のない丸い麺。
これは商人の街大阪の、角を立てず柔らかにという気質にも由来しているのだとか。
七味がありましたので入れました。
ん?
八味?
これもオリジナル配合の物で、いわゆる七味に京の黒一味を加えたものです。
入れるとピリリとアクセントになり、更にあぶらかすの持つ甘みも引き立ちます。
かすうどんの面白さは、中盤以降。
あぶらかすからどんどん出てくる旨味成分がつゆに溶け出して、味がどんどん変化していきます。
汁も一滴も残さず、あっというまの完食です。
いやぁ、美味しかった。
最初シンプルだったつゆが、勝手に味変していき、後半どんどん深みを増していく、ドラマ性の高いうどんと言えましょう。
憶良 : 今日は本当にありがとうございました。
木村さん : はい、ありがとうございました。
なっ、なんだってェ!取材終了直前に発覚した衝撃の事実
憶良 : ほんとうに美味しかったです。 作るうえで、何か秘訣はありますか。
木村さん : 気持ちを込めて、ですね。
同じ手順で、同じように作ったものでも、気持ちのこもった作り方をしたか、マニュアルだけ守って作ったかでは味が違うんです。
私の持論ですが、ハイボールでさえ、気持ちを込めたものとそうでない物は味が違ってきます。
ここは、理屈じゃないですが、そういう不思議なことが実際あるんですよ。
まぁ、とにかく一度は食べてみて頂きたいです。
素材もそうですが、気持ちも味わって頂き、かすうどんの魅力を広く皆さんに伝えたいと思っています。
とにかく絶対的な自信を持ってます。
何度も言いますが、「とにかく一度食べればわかっていただける」と思っています。
憶良 : そうですね。人気No.1メニューですものね。
木村さん : あっ。
憶良 : えっ?
木村さん : いや人気ナンバーワンは、かすうどんではないです。
なるほどなるほど、人気ナンバーワンではないと…。
なっ!なんだってェ!
そ、それでは一番は何だっ!?
木村さん : ぶっちぎりの人気は、スタミナかすうどんです。
憶良 : おおっ、確かに、メニューに二重丸が付いている。こっ、これは一体どういう…。
木村さん : これも食べて頂ければ、分かっていただけると思います。
と、言うことで、急遽スタミナかすうどんも食べてみました。
人気No.1、スタミナかすうどんは衝撃的に旨い
つゆを温め、うどんを茹でて
あぶらかすを入れるまでは同じ工程。
ここに、牛ばら肉の煮込みがトッピング。
ボリュームもなかなかです。
中央に鎮座するのは、蘭王のたまご。
色艶が違います。
そして、擦ったニンニク。
焦らすように、黄身の周りぎりぎりを熱し、
最後に黄身の中央部に熱を加えます。
人気No.1メニューの出来上りです。
甘辛に煮込まれていますが、砂糖の甘さよりあぶらの甘さが感じられる仕上がり。
そして何よりニンニクの香りが食欲を刺激します。
たった今同じようなメニューを食べたとは思えないくらい、私の箸が止まりません。
旨いっ、旨いぞ。
八味を入れて。
バラ肉、ニンニク、そしてもちろんあぶらかすの旨味が混ざり合って、これはもう旨み大騒ぎの味。
トドメに蘭王の玉子。
そりゃ、ナンバーワンメニューになるでしょう。
木村さんの、「食べて頂ければわかると思います」というセリフのままですね。
解説不要です。
旨い。
既にかすうどんを知っている方と、かすうどんを知らない方には、是非ノーマルのかすうどんを食べて頂きたいです。
特にかすうどんを食べている人には、この「かす」の仕上がりを是非試して、味わってほしいと思います。
そして龍の巣のかすうどんを食べたことがある方は、是非スタミナかすうどんを食べて欲しいと思います。
単にいろいろ入れただけの物ではない…と、満足できる逸品だと思います。
結構豊富なかすうどんのバリエーションも楽しいですが、ホルモン屋としての龍の巣も絶大な支持を得ているという名店です。
ホルモンを食べて、お酒を飲んで、シメにかすうどん、なんていうのもイイですね。
朝6時まで営業しているというのも凄いっ。
なかなか食べ物屋さんが空いていない時間に旨いかすうどんが食べられるのもありがたいです。
営業時間、場所など詳しくは公式ページへ。
心斎橋・梅田・京橋・福岡・新宿でも、龍の巣のホルモンとかすうどんが楽しめます
心斎橋モトミセ
梅田本館
梅田ハナレ
京橋店
春吉店
新宿三丁目店
シン新宿三丁目店
著者プロフィール
憶良(おくら) : 元ゲームプランナー、元ゲームプロデューサー。
ゲーム企画講師や駄菓子屋店長などを経て現在に至る。
休日は高速道路を使わずに名古屋から鳥取あたりの温泉に行って浸かり、道中や行先の地元スーパーで珍しい食材を買い込むと、たとえ深夜に帰ったとしても料理する。
その際食べ歩きにも積極的と、食に対してはかなり貪欲。
「美味しいものを食べている時、美味しいものについて話している時に悪いことを考える人はいない」という持論を持っている。
ブログはこちら: