花火職人に聞く夏の思い出 ~受け継がれる花火家業と打ち上げ現場~

花火に昔懐かしい思い出を抱くのは、花火を観る私たちだけではありません。職人である花火師さんも、そこに過去の想い出や、今、そして未来への希望といった思いを込めているそうなのです。そこで今回は、花火師さんにインタビューを行い、知られざる花火師の仕事や現場、仕組みについて、過去と現代を比較して語っていただきました。(花火大会 東京)

花火職人に聞く夏の思い出 ~受け継がれる花火家業と打ち上げ現場~

真夏の風物詩である花火。夜空に打ち上がる美しい花火に、自分の「過去の想い出」や「今の思い」を重ねる人も多いのではないでしょうか。

実は、花火に昔懐かしい思い出を抱くのは、花火を観る私たちだけではありません。職人である花火師さんも、そこに過去の想い出や、今、そして未来への希望といった思いを込めているそうなのです。

 

そこで今回は、花火師さんにインタビューを行い、知られざる花火師の仕事や現場、仕組みについて、過去と現代を比較して語っていただきました。

 

題して、「花火職人に聞く夏の思い出 ~受け継がれる花火家業と打ち上げ現場~」。ぜひ、幼い日に見たあの懐かしい花火を思い出しながら読んでみてください。

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▲(株)丸玉屋小勝煙火店担当の「冬のお台場レインボー花火」

 

打ち上げ現場で芽生えた花火師の情熱

インタビューにお答えいただいたのは、東京府中に本社がある(株)丸玉屋小勝煙火店の現四代目社長を父に持つ花火師・小勝康平さん(34歳)です。

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▲(株)丸玉屋小勝煙火店の現四代目社長を父に持つ花火師・小勝康平さん(34歳)

 

――まずは小勝さんが花火師になられた理由からうかがいました。

家が花火業をやっていたので幼い頃から憧れはありました。

しかし、火薬取り扱いの年齢制限があるため、18歳になるまで打ち上げ現場には行けなかったんです。幼い頃は1回100円や200円のお小遣いで、花火の筒洗いなどの手伝いをしていたのですが、実は、夏に友達と遊べなくて嫌だと感じていたんですよ。

 

それが18歳の時に初めて打ち上げ現場に携わって、感動したことが大きなきっかけになりました。夏の印象が“友達と遊べない”から“花火は面白い仕事だ!”と一気に印象が変わったんです。それ以来、現在に至るまで父の背中を見ながら花火師をやらせていただいております

 

――花火師というと、昔ながらの職人の印象があり、肉体労働で体力も要求されるイメージもあります。そのあたり、実際はいかがでしょうか?

実際は、意外と普通のインドアな人が多いですよ。夏になると「ああ~辛い」と言いながらみんな動き出します(笑)。

それに、昔と比べて効率化が進んで現場自体が楽になっている面もあります。櫓(やぐら)を組むなどの力仕事も、朝の涼しい時間帯にやってしまって、午後の炎天下の時間はゆっくり休めるようにしようとみんなで言っています

 

――効率化のお話がありましたが、過去に比べて最近の花火や花火大会はどういった部分が特に進化していきているのでしょうか

やはり電気点火が主流となったことでしょうか。安全性が向上したことはもちろん、演出面でも一斉に点火出来るようになり、昔と比べると派手で凝った花火が打ち上げられるようになりました。

昔の手で点火するやり方では「せーの!」でいくらやっても、やはり完全に同時に付けることはできませんでしたから、演出は大きく変わったと思います。

 

先輩たちに聞いたところでは、電気点火を当社が導入したのが20~30年ほど前かららしいのですが、当時は停電など失敗も多かったそうです。

それから、インターネットの普及によって気軽に色々なところの花火の映像が見られる時代なったため、お客様の花火に対する目線も厳しくなってきていると感じています。例えば、プログラム中で音楽を取り入れてリズミカルに打ち上げる花火ショーなど、演出面で創意工夫しないと満足して貰えない状況だと思います。

 

当社でも「ハナビリュージョン」といったコンピュータ制御システムをいち早く取り入れ、お客様に満足して頂けるように日々研究をしています。

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▲コンピュータで制御して打ち上げる「ハナビリュージョン」

 

素人のイメージする花火師、本当の花火師のすがた

続いて、私たちがイメージする花火師の姿と本当の姿の違いについて、さまざまな質問にお答えいただきました。知られざる花火師の素顔を、ちょっぴりのぞいてみましょう。

 

――ずばり、花火師さんはモテますか?

人それぞれじゃないでしょうか(笑)。

でも、初対面の方々とお会いした時や友人などに紹介される時に、「花火師」というだけで凄く興味を持っていただけることはあります。ただ、それでモテるということは無いと思いますよ(笑)

 

――着火してすぐに離れないといけない印象もありますが、花火師は走るのが速いのでしょうか?

それも花火とは関係なく、個人差ですね(笑)。

ただ、僕自身はスポーツが得意だったので、小学校の時は6年間リレーの選手で、中学でもバスケをやっていました。さきほど体力の話と同じで、昔と違って今は電気点火などの技術もあるので、足の速さは特に必要ないと思います。

 

――花火師さんならではのトラブルやアクシデントはありますか?

危険をともなうイメージがあるかもしれませんが、実際には安全面に配慮して行っているので怪我もほとんどありません。火薬の取り扱いに関しても、電気点火が主流となっているため安全に作業できています。

ただ、花火の筒の設置などに関しては大きいものでは10キロ~15キロ程の重量があるので、出し入れの際に怪我する場合もあります。

 

――打ち上げで使う発射台はどのように移動させているのでしょうか?

基本的には花火に発射台というものは無く、花火は専用の花火筒で打上を行っています。大型花火の尺筒も車と手で運んで設置します。花火筒はあらかじめその場に設置されている物ではないため、毎回当社の工場からトラックで花火打上現場まで運んで設置するんです。

 

そして打ち上げが終わったら、再びトラックに積んで工場へ戻し、洗いと安全チェックを行い、また別の花火打上現場で使用する……という形で、同じ筒を何度も使います。

ただし、一晩で同じ筒を何度も使用することはほとんどありません。そのため「5000発打ち上げの花火大会!」の場合、それだけの数の大小様々な花火筒を用意して、打ち上げとなります。

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▲大小さまざまな花火玉。花火大会の日は、何千発という玉と、それを打ち上げるための筒が用意される

 

大昔、江戸時代などは火薬の厳格な規制もなかったため、花火師というのは命がけの仕事でもあったそうです。技術の進歩により安全性は増しましたが、夜空に咲く一瞬の芸術に賭ける花火師さんたちの情熱や苦労は、現代も変わらないことが小勝さんのお話からうかがえます。

 

「打ち上げ花火=手動」のイメージは古く、いまは電気点火へ

続いて、一般の人が知ることができない花火大会や打ち上げ現場の裏側について、お話を伺いました。

 

――打ち上げ現場は職人の方が点火して、走って……といった賑やかなイメージもありますが、実際はいかがでしょうか?

一晩で何千、何万という花火が上がる花火大会の打ち上げ現場は、戦場のようなイメージがあるかもしれません。

しかし実際は電気点火で事前にセットされたスイッチを点火していくだけなので、意外と落ち着いた雰囲気の中で行われています。

 

ただ、“揚薬(あげぐすり)”と呼ばれる花火玉を上空へ打ち上げる際に使用する火薬の点火はもの凄い迫力があります。

“揚薬(あげぐすり)”を打ち上げる時の音は、花火を観ているみなさんには「ボンッ!」という点火音で聞こえていると思いますが、打ち上げ現場では「ズドーン!!」と大砲と打つような音と振動が響きます。その迫力は、現場でしか味わえない醍醐味だと思います。

 

――裏側とは少し違うかもしれませんが、花火師で得したことなどはありますか?

花火師という仕事柄、さまざまな花火をたくさん観るができることですね。

とくに、全国でも有名な大曲や土浦と言った花火競技会などに行くと、他の花火屋さんの花火も見る事ができるので「得した!」と感じます。

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▲土浦の競技会で打ち上げるスターマイン

 

進化する花火演出の背景にあるものは?

最後に、進化する花火演出や、今後の花火大会や花火業界についてお聞きしました。そこには、日本国内だけでなく海外の影響もあるようです。

 

――花火師である小勝さんから見て、今の花火業界はどのような特徴があるのでしょうか?

海外の規模の大きさには注目してしまいますね。インドのドバイなどが代表的ですが、近年のカウントダウンイベントなどで行われる海外の花火イベントは、演出面のスケールが凄くて圧倒されます。

 

日本国内では花火予算は市でやっている場合は税金、基本的には企業協賛での打ち上げが多い市の商工会議所の人が地元の会社やお店の募金によって成り立っています。花火大会の有料席の収入だけでは成り立たないですね。なので企業協賛が大多数になります。

 

海外だと数十億円程度の予算がつくようですが日本だと多くても数億円程度。予算的に難しい面もありますが、機会があれば是非海外で行われているような、短時間に大量にド派手な花火を打ち上げるような演出を日本でやってみたいという憧れはあります。

 

その一方で、日本国内での伝統的な“芯物”と呼ばれる何重にも芯の入った手の込んだ花火は海外には少なく、日本独自のものです。こうした“三重芯”や“四重芯”などの日本の伝統花火の継承も今後は大切だと思います。

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▲2015年の伊勢奉納煙火競技会で打ち上げた丸玉屋小勝煙火店の10号、四重芯変化菊

 

まとめ

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▲(株)丸玉屋小勝煙火店の特徴でもある「輪(リング)」と、コンピュータが融合した特別プログラム「ハナビリュージョン」

 

電気点火の普及や海外の花火のお話など、今も花火の世界は進化を続けていることが伝わってきました。

小勝さんによると、花火師さんも365日打ち上げをしているわけではなく、1年の多くは玉を作っている期間なのだそうです。

 

だからこそ、打ち上げ現場がある花火大会の日は花火師さんにとっても特別な日なのだとか。時代は変わっても、花火師さんたちの花火に賭ける想い、「花火大会の雰囲気を楽しみに来てほしい」という想いは変わらないものだと言えるでしょう。

 

自分自身の想い出はもちろん、連綿と受け継がれてきた花火師さんたちの歴史や想いも感じながら、今年は打ち上げ花火を楽しんでみてはいかがでしょうか。

 

※掲載された情報は、リサーチ時点のものであり変更されている可能性があります。

 

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