今年も春が来た。子どもの頃は、入学式にクラス替えにと春は毎年わたしをドキドキさせた。今ではもうそんなこともない。ドキドキの唯一の種である確定申告も無事に済ませ、フリーライター2年生のわたしはひとり呑気に「中野通り」を歩いていた。名物の桜はまだ五分咲きだった。今年はこの街で春を迎えるのだ。
ぐるなびの「みんなのごはん」でお世話になっている編集者のTさんから、突然ショートメールで「幹事の味方」という媒体での執筆依頼が来た。「幹事の味方」とは一体どんなサイトなのだろう?と見てみると、TOPページに「飲み会・合コン・同窓会など全ての宴会の幹事さんに役立つ情報が満載!」とある。
すぐに「すみません、出来ません」と返信をした。わたしは飲み会も合コンも同窓会も苦手である。別に人と話すのは嫌いじゃないのだが、大人数の飲み会となると、その話題の無軌道なカオスっぷりを前に、だんまりを決め込んでしまうことが多い。大体、それ以前にわたしは酒をあんまり飲まない。
「でも、“幹事”だからといって決して大人数というわけじゃなくてもいいですよ」と編集者。宴会が苦手なわたしのキャラを既に織り込み済みの態度が腹立たしい。
しょうがないので、「大人数の飲み会はイヤですが・・・・・・1対1のデートならばむしろやりたいです」と提案してみたら「じゃあそれで」とOKが出てしまった。
そんななし崩しデートの相手役に抜擢された男性はこの人
「だれ?」とお思いの読者さんが多くおられると思うが、narumiさん34歳である。
narumiさんの説明を簡単に行うと、
・東京都出身
・早稲田卒(文学部)
・超有名IT企業勤務
・趣味はトライアスロン
・有名ブロガー
・休日はもっぱらブログ執筆&食べ歩き
・昨年ぎっくり腰を患う
・今年ダイエット本を出版
・ライター業も本格的に開始
ざっくり言えば、わたしのブロガー仲間である。1年前に初めて会った時は「優しくて素敵な人」と正直ちょっぴりときめいた。しかし、ブロガーにとっての大きな目標である「本を出版する」を先にやられてしまってからは、「くやしいけど素敵な人」という剛力彩芽の歌のタイトルみたいな複雑な思いを彼に抱くようになった。デートに誘ったのも、自分の中にあるモヤモヤとした気持ちに区切りをつけたかったのかもしれない。
34歳の思い描くデートはあまりに庶民的で地味だった。
私にとっての理想のデートは「ヘリコプターに乗る」か「船に乗る」の二択だったのだが、narumi氏が高所恐怖所だということなので船に乗ることにした。
(以降、なんか面倒くさいのでnarumiさんのことは「N」と表記。)
冷淡なNに対して独り相撲のわたし。
クルーザーも捨てがたかったが、「赤提灯系居酒屋」が大好きなNのことを思いやって屋形船に決定。屋形船にも提灯ついているし、きっと気に入ってくれるだろう。
~数日後~
「おーい!」
「ハア・・・ハア・・・ごめん遅くなった・・・仕事が片付かなくて・・・」
お疲れ様です
で、船は何時に出るんだ?走った方がいい?
出航は18時です
「あと45分もあるじゃねえか。なんでこんなに早く呼び出した?舟宿は駅から歩いて10分って書いてたぞ」
待ち合わせには100%遅刻するNさんのことを考慮した上での時間設定ですよ~~~~?
舟宿には余裕を持って行くべし!
大人数で貸し切る場合はまだ調整がきくかもしれないが、少人数のお客さん複数組で乗り込む乗合船の場合は、集合時間に遅れないように注意しよう!大体「乗船時間の15分前」に来ればOKのところが多いが、駅から歩く時間や乗船前の手続きの時間も考えて30分前くらいには舟宿に着いておきたいところ。
※「舟宿」とは、屋形船や釣り船を置いている施設のこと。
「見渡す限りビルばっかりなんだが・・・本当にこの辺から船が出るのか?」
「おっ、看板があったぞ・・・!」
住宅街に唐突に現れる「屋形船・つり船」の看板。「江戸」感のあるフォントが心をくすぐる。
「乗船場はこちら」という文字がイマイチ信じられないような場所に舟宿はあった。
どうやら私たち、到着したようです
屋形船の乗船場はどこにある?
東京の屋形船は大体「東京湾・お台場~隅田川・スカイツリー前」が定番の周遊コース。
私たちが利用した「舟宿 平井」は品川駅そばにあったが、浅草橋や晴海、浜松町、お台場辺りにも多くの舟宿がある。
外観に趣きアリ。
桜が、咲いている・・・
船だ!
出航の時を待つ屋形船たちが所狭しと並ぶ。
さすがの34歳も思わずシャッターを切る。
これはテンション上がるね
海の男はカッコいい
屋形船のスタッフさん。「漢!」と叫びたくなるたくましさ。鉢巻が似合いそう。心の中のあだ名は「ライザップ」。
タイプは違えどこちらも素敵。高校の文化祭で「アジアンカンフージェネレーション」の曲とか演奏しそう。若手芸人にも見えるのであだ名は「無限大ホール」。
受付で手続きを済ませたら、乗船時間になるまでひとまず待機。
待合所でお茶やコーヒー(無料)を飲んだり、オリジナルのお土産物や壁に貼ってある芸能人のサインを眺めたり。船に乗るまでの時間も楽しい!
いざ乗船。
ドキドキしてきた。
指定されたテーブルに着くと、もうお料理が・・・!
「ささ・・・まずは一杯・・・」
新鮮な海の幸を楽しもう!
揚げたての天ぷら!(エビ天は食べかけ)
船内のキッチンで揚げたばかりの天ぷらをスタッフさんがその都度お皿に乗せに来てくれる。フグやキス、イカやタコのすり身など、全部で8種類も!
食べる前の写真を撮らなかったことが悔やまれるずわい蟹。こちらは期間限定のサービスなのだという。
出汁がしっかりと感じられる渡り蟹のお味噌汁がまた美味。
「う、旨い・・・」
きめ細やかなお心遣い
お客さんは我々の他に7組いた。おじさんのグループが二組ほど、あとはカップルや女性二人組のお客様。座席は掘りごたつ式。わたしたちの席はデッキに近い一番端だった。
実は予約フォームの「ご質問・ご希望」の欄に「できたらデートなので端の方の席がいいです」と書いたのだ。
『もしかしたらどんちゃん騒ぎするお客さんがいるのかな』と思い何となくリクエストしたのだが、実際乗ってみると変なお客さんは1人もいなかったし、テーブルとテーブルの間隔もわりとあったので無用の心配だったかもしれない。お料理の好き・嫌いなどの要望も聞いて頂けるそう。親切な対応に感謝です。
景色を楽しむ
屋形船には大きな窓がついていて、東京の景色を360度楽しむことが出来る。橋や電波塔、すれ違う船の放つ光が美しい夜景となって船旅を盛り上げてくれる。
旧電波塔こと東京タワー
虹の橋ことレインボーブリッジ
橋マニアにはたまらない
東京スカイツリーまでの航路で、16もの橋の下を通過する。橋マニアにとってこんなに楽しいことはないのではないか。「前方に見えますのが○○橋です」とアナウンスが入るので橋に詳しくない方でも安心。『「言問橋」って名前、綺麗だな』と思ったことだけ覚えている。
デッキに出てみよう
前方のデッキに立てば春の夜風を感じることが出来る。この時は3月末で、あたりの空気もまだ少し冬の余韻を残していた。これからだんだん暖かくなるにつれ、ひんやりとした風に当たる気持ちよさをより感じられるに違いない。
気持ちよさに誘われて思わずタイタニックしてしまったとしても氷山の一角にぶつかるような心配はないが、東京湾が嫉妬の海と化してしまうことは避けられないだろう。
ごはんを食べたり、風景の写真を撮ったりするのに忙しくて、Nさんに伝えようと思っていたことを全然話せてないような気がする。
スカイデッキでBESTショットを撮ろう
スカイツリーの前まで来ると、碇が下ろされ船がその場で 数十分泊まる。 ツリーと桜並木をバックにみんな写真を撮っていた。スカイデッキ(船の上の展望デッキ)のベンチに座って『昔の人はこうして「風流」を味わっていたのかな・・・』などと思いをはせるのもオツ。
突然現れた「アイスクリーム」を売る船。
暇:「Nさん、今日は私のデート企画に付き合って頂きありがとうございます」
N:「お安い御用だよ」
「今度わたしと・・・本物のデートをしてくれませんか?」
えっ・・・・・・!
暇:「だって今日は・・・・・・」
暇:「厳密に言うと二人っきりではなかったし。」
そうだな・・・・・・
その前に、もうちょっとまともな服を着てくれないかな
春キャベツをイメージした私の最新ファッションは、赤提灯系サラリーマンにとって少々アヴァンギャルドだったのかもしれない。 コンサヴァティヴに身を包む機会があったら、その時もう一度アタックしてみよう。
屋形船の料金相場と周遊時間
わたしたちが利用した「舟宿 平井」の乗合船はカラオケ禁止だが、探せば乗合でもカラオケ出来るところや芸者さんとお座敷遊びの出来るところもある。ちなみに料金の相場は、乗船料・お食事代・お酒、ソフトドリンク飲み放題など全部込みで1人10,000円前後。周遊時間は2時間30分~3時間。お花見シーズン以外でも一年中楽しめる屋形船。デートや記念日、いつもの飲み会をちょっと豪華に盛り上げたい時などに利用してみるのはどうだろうか。きっと素敵な思い出ができるはず。
著者・SPECIAL THANKS
暇な女子大生
「暇な女子大生が馬鹿なことをやってみるブログ」を書いている女子大生もといフリーライター。春の楽しみは、桜に群がる老婦人の一群を眺めることです。
ブログ:http://joshi-daisei.hatenablog.com/
ツイッター:https://twitter.com/sada_freejd29