世界と日本における飲み文化の違いを、筆者(シマヅ)が探っていく企画、第3弾。前前回のアメリカ編でも前回の台湾編でも、意外とわたしたちが知らずにいた「飲み文化」を知ることができた。
今回は、ベトナムの飲み文化を紹介しよう。
……なぜ「ベトナムなのか」って?
理由は簡単。
日本には「エスニック料理(アジア)」というカテゴリーで、タイ+ベトナム+たまに台湾の合わせ技で料理やお酒を出している店が結構あるため、「一緒くたにせずハッキリしておこうぜ」と思ったからだ! (……正直な話、日本人の私からしたら「美味しければ何でもいい」というのが本音)
そこで今回協力してくれるのは、ベトナム南部の大都市・ホーチミン出身のマイさん(33)。日本に来てもう10年。日本各地のベトナム料理店に勤務後、現在は高円寺でベトナム料理店「マイ・ヒエン」を経営している。ベトナム人は、経営するお店に自分の名前をつけることが多いそう。
しかし、「自分のお店より友達のお店のほうがイイ!」とのことで、今回選んだお店は新宿駅東南口からすぐのところにある「バインセオサイゴン新宿店」。
手抜き無しの本場ベトナム料理が堪能できることから、日本人はもちろんベトナムの人たちにも支持される人気店だ。なお最近リニューアルオープンしたばかりで、店内はかなりオシャレ。
▲マイさん。メールでやり取りをしていたので女性だと思っていたが、お会いして初めて男性だと分かり「マイ=女性の名前」という日本人ならではのイメージに捉われていた自分に若干おどろいた。
「国の文化」は一緒くたにできない。でもお互い理解はできる。
▲筆者とマイさん。
現在のベトナムは、ベトナム戦争時(1960~1975年)に色々あったため、大ざっぱにいうと社会主義国家の「北ベトナム」と資本主義国家の「南ベトナム」が分割統治した国。その過去が、今でも人々の行動パターンに影響を与えているという。
南部出身のマイさんに「それって、日本で例えると関西と関東の違いのようなものでしょうか?」と尋ねたところ「ん? うん! 国といっても文化に違いがあるところは同じかもね!」とのこと。
外国の人と話をする際は、まず出身地をきこう!
喋るのが大好き!飲み会中は知らない人にも声をかける!会社の飲み会は上司の100%奢りが基本!
先ほどの事情があるので、マイさんの出身地である「南ベトナム」を中心に、ベトナムの飲み会文化を伺いました。
シマヅ:
ベトナムの人は、お酒とどんな付き合い方をするの?
マイさん(以下、マイ):
ハノイとかの北の人間と僕らのような南の人間は、だいぶ行動が違う。北の人たちは、かなりしっかりしているよ。給料はしっかり家に入れて、飲みに使うお金は少しだけ。 南の僕らの場合は、給料が出たらほとんど飲みに使っちゃうね! 「飲みに出るのが普通」なところもあるしね。とくに学生は絶対に毎日飲んでいるよ。北の人たちは、学生も社会人も飲むのは週に1回ぐらいじゃないかな。
シマヅ:
北と南では、想像以上に特徴差があるんですね……! 他にも、ベトナムの飲みで特徴的なことってありますか?
マイ:
「乾杯」かな。
飲み始めにはもちろんするんだけど、飲んでいる途中でいきなり「乾杯」とコールをすることもあるよ! 盛り上がるためでもあるけど、雰囲気をちょっと変えるっていう意味もある。
例えば、両隣の奴がケンカし始めたら、真ん中にいる奴が「うるせーお前ら! 乾杯だ!」って乾杯することがある。 「乾杯」のかけ声は、日本の人にとってはかなりうるさいレベルの音量で言うよ。コールをする人は大抵「俺がやる俺がやる!」みたいな、特に賑やかでうるさいキャラの人だからね。
あと、全然知らない他のテーブルにいる人ともグラスを合わせちゃうのが南ベトナム流だよ! いきなり乾杯しに行って、「この1杯は俺らのおごりだから!」と言って、どんどん知り合いを増やしてく。 とにかくね、南ベトナム人って人懐っこい人が多いし盛り上がるのが大好きだから、飲み会もすごくうるさいしすぐ乾杯するし知らない人にもガンガン話しかける。
▲ここで唐突にマイさんから「乾杯!」のコールが。
シマヅ:
そ、それは会社の飲み会でも同じなのでしょうか?
マイ:
会社の飲みだと違うね。個室でやることが多いし。そこは、北も南も同じじゃないかな。あと、会社の飲み会には部長とか偉い人が必ず来る。で、彼らが100%おごるのが普通。おごってもらうわけだから、平社員は好きなものを勝手にオーダーすることができない感じ。
だから、部長とかがどんどんオーダーを入れつつ「マイちゃん、何が食べたい?」って聞いてくれるのが一種の作法のようになっている。かわりに僕ら平社員は「部長! グラスが空きましたよ!」「何飲みますか?」などと言って飲み物に気をつかう。
あと、偉い人っていうのは尊敬の対象なので、その人の前でお酒をガンガン飲むのはちょっと恥ずかしいと思う気持ちがあったりするね。
シマヅ:
奢ってもらったり、奢ってくれるような偉い上司が相手だったりするからこそ、礼儀をわきまえているわけですね。
南ベトナムの人はお喋りと飲むのが大好き!ただ、会社の飲み会は北も南も同じ「ベトナム」!人懐っこいけど礼儀はシッカリ!
ベトナム料理は量も味も最高!レアキャラメニューもある。
シマヅ:
ベトナムの飲みではどんなものを食べるんですか?
マイ:
「絶対にコレ!」という食べ物は、あまりないんだけど、屋台だったらピーナッツとか、青マンゴーの漬物とか、えびせんとかをまず頼むかな。あ、ちょうどいいメニューがあった!
▲シャキシャキ青パパイヤのサラダ
シマヅ:
これ、量多すぎじゃないですか……?
マイ:
だよね分かる!
でも「本場」の食べ方をすれば、あっという間になくなるよ!
シマヅ:
本場の食べ方とは?
マイ:
青パパイヤのサラダをエビセンに載せて食べるんだよ!
やってみて!
シマヅ:
エビセンの魚介と油のコクが少し酸味のあるサッパリしたサラダと最高に合いますね! あと、エビセンが器の代りになるので箸でちまちま食べる必要がないから本当にいくらでも食べられます!
マイ:
でしょ?
だからね、サラダの取り分けとかベトナム人はほぼしないんだよ。このお店は日本にあるからトングが付いてきているけど、ベトナムではトングなんて使わないよ。トングは日本の文化だね!
シマヅ:
いや、トングは日本の物じゃないと思いますが……。
▲トングは使わない。これがベトナム流。
シマヅ:
ところで、ベトナムといえば生春巻をイメージするのですが……。
マイ:
ベトナムには春巻が3種類あるんだよ!
生春巻(ゴイ・クン)と揚げ春巻(チャーゾー)、そして蒸し春巻(バイン・クン)。日本でポピュラーな生春巻は、僕たちにとってはレストランの料理だね。
蒸し春巻はあんまり見たことないでしょ?
このお店には3種盛りがあるから食べ比べてみて!
▲巻きもの盛り合わせ。サラダに負けず劣らずデカい。
▲蒸し春巻(バイン・クン)
シマヅ:
皮がメッチャもちもちで、「春巻き」と言われなければ春巻きのイメージと合致しないんですが、それが新鮮ですごく美味しい!!
マイ:
バイン・クンは、まだ日本では浸透してないよね。でも、ベトナムだとバイン・クン専用の蒸し器があるくらいポピュラーなんだよ。
▲生春巻。ベトナム流の「みそだれ」をつけて食べる! ナッツの風味が食欲を刺激します。
▲揚げ春巻。私が食べる前になくなっていました……。
マイ:
揚げと蒸しにはこの中央にあるタレをつけて食べて!
シマヅ:
あ、これナンプラーですね。
マイ:
それタイ語ね。ベトナムだと「ヌクマム」って言うよ。あ、混同されるのが嫌だとは全く思ってないよ!
タイ料理のほうがベトナム料理より派手なのは確かだし。でも、ベトナム料理はタイ料理より少しサッパリしているからヘルシー。
ベトナムはベトナムで、良さを伝えていけばそれでいいと思う。
シマヅ:
そうですね。分かります。このパクチーサラダも頼みましょう!
マイ:
パクチーもタイ語……。
ベトナムではトングを使わない!春巻きは3種類あってどれも超美味!
ベトナムでは、女性がお酒を飲むのもタバコを吸うのもダメ!?
▲YouTubeで蒸し春巻の作り方を見せてくれるマイさん。途中からご友人とフェイスタイム(テレビ電話)を始めるマイさん。とにかく明るい。とにかく喋るのが大好き。
シマヅ:
ところで、ベトナムで主流のビールってありますか?
マイ:
「サイゴン」と「333(バーバーバー)」が2大ブランドで、みんなだいたい飲んでいるけど、ホーチミンの都会っ子たちの間で本当に流行っているのは「ハイネケン」!
学生でお金がないときは「ビア・ホイ」っていう安い生ビールを飲み、社会に出てから「333」を飲み、少し余裕が出てきたら「ハイネケン」に。ビールは出世の象徴みたいなイメージだね。
※ビア・ホイ:屋台などで飲まれる、世界でもっとも安いビールとも言われる銘柄。ジョッキ1杯で15円ほどだという。度数は低めで味もかなりライト、氷を入れて飲むこともある。
シマヅ:
では、会社の飲み会だとどのビールを飲むのでしょう?
マイ:
サイゴンか333かな。あ……ちなみに、女性もビールを飲むんだけど「女性はお酒を飲むものではない」という古い考えが一部に残っている。
だから、飲まない女性もかなり多く、各自でレモンソーダとか、ベトナムっぽいものとしてはタマリンドジュースなんかを飲むよ。
シマヅ:
タバコはどうなんでしょう?
マイ:
男性は吸う人が多いけど、女性のタバコはイメージがよくない。
もちろん彼氏や旦那がタバコOKならいいんだけど、ひとり身の女性はとりあえず吸わないほうがモテるよ。
ベトナムは、女性の飲酒喫煙について日本よりも厳しい!
日本の飲み会の、良いところと悪いところ+α
▲隣の席にベトナム人の女の子3人組が。速攻で反応するマイさん。冒頭で言っていたように、マジで知らない人にも気軽に声をかけるんだ、と感激した筆者。
シマヅ:
マイさんちょっと! 取材中なんでイイですか?
日本の飲み会のいいところと悪いところを教えてください!
マイ:
あ、ごめんね!
日本の人たちは、会社の飲み会で飲み過ぎてベロンベロンになることってあんまりないでしょ。ベトナムだったら、確実に全員飲み過ぎちゃうよ。
あと、偉い人が好き勝手にオーダーをするっていうのもあんまりないみたいだしね。以上が良いところ。 悪いところは、ルールを守りすぎるところ(笑)。会社でも友達同士でも、飲み会でちょっと盛り上がらないことってあるのに、酔っぱらって盛り上げないとかね。ケンカも少ないし。
シマヅ:
え、ケンカが少ない……?
マイ:
ベトナムは飲んでケンカすることって、とっても多いよ!
で、警察が来るのがすごく遅いから、その間に決着がついちゃう。警官が来た頃にはもうみんな別の場所に行っている。 でも本当に、日本の「ルールを守る力」ってのはすごいと思うんだよね。日本だと、禁煙席でタバコを吸うなんてありえないでしょ。ベトナムだと、タバコなんて好き放題に吸っちゃう。自分が吸いたい=吸う、なんだよね。自分のことばかりで、周りを見ていないっていうところがあると思う。 それと同じかどうかは分からないけど、飲み会でも、良いことも悪いことも話したいことは全部話す。だから、すぐケンカになっちゃうんだよね。
シマヅ:
でも、それっていいことかもしれませんね。日本だとすぐに自分の気持ちをおさえちゃうから。
ベトナムの飲み会、フリーダム過ぎ!でも、考えさせられる部分もある。
まとめ
ベトナムの飲み文化は、自由でハイパーフレンドリーなことが分かった。
お店のベトナム人店員のアンさんも、日本語は堪能だし写真撮影にも快く応じてくれる。
ただ、ベトナムは酒などに関して女性に厳しいところが難点かもしれないが、「ただの観光客」だったら問題ないので本場の蒸し春巻を食べるためだけに訪れる価値は充分にあるだろう。
ちなみに、マイさんは取材後、筆者を「ナンパ」することなく普通に帰っていった。
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著者・SPECIAL THANKS
ライター/シマヅ
1988年生まれ。フリーライター。武蔵野美術大学造形学 部芸術文化学科を卒業後、2年ほど美術業界を転々としていたが現在は主にWEB上で文章を書き生計を立てている。女性向けコラム、インタ ビュー記事、グルメレポート、体験記事など、幅広い分野で執筆活動を行う。
https://twitter.com/Shimazqe
編集/Concent編集部