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空気を読まない格闘家・青木真也の異端な格闘人生「殴り合ってわかりあえることなんかない」【中川淳一郎の「今も飲んでいます」第十二回】

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総合格闘家の青木真也選手をご存知だろうか?

 

デビュー以来、数々の猛者たちを得意の関節技でなぎ倒してきた、世界的にも有名な格闘家である。

 

格闘家といえば、余計な脂肪はつけず、試合前には契約体重以下に収めなくてはならないため、ストイックな食生活をしているに違いない! そして、何よりも健全でよく動くパワフルな肉体を保っている彼らの食生活は我々一般人にとってもダイエットや健康的な人生を送るうえで参考になるはずだ! ということで、青木真也選手と夕餉(ゆうげ)をご一緒させてもらった。

 

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青木さんをお誘いしたときには「都内だとありがたいです」という返事だけだったため、格闘家との食事会として妥当なのは鶏料理と判断。そして場所は普段自転車で移動している青木さんにとっても「そこまで遠くない」場所ということで新宿に。

 

こうした理由から、新宿駅西口で焼き鳥のおいしい店「鳥一」をチョイスした。

 

この店の特徴は、お通しが3つある点である。500円なのだが、自家製豆腐・食べ放題のサラダ・濃厚鶏スープがあり、これがすべてウマいのである。

 

 

そして、私は一時期この店のアスパラ肉巻き、えのき肉巻き、豚バラしそ巻にハマってしまい、こればかり食べていた。あとは現在はないが「紙カツ」的な薄いトンカツもビールのお供に最高だった(今は「おつまみソースハムカツ」がある)。私はあっさりとした鳥ではなく、コッテリとした豚がむしろ好きだったのだが、果たして青木さんは何を頼むのか?

 

ササミばかり食べるとかそういうことより、食べたいものを食べればいい

この日頼むものはすべて青木さんに任せることにした。それを我々もお相伴にあずかるということである。注文前に基本的な食事へのスタンスを聞いた。まずは飲み物を頼んだのだが、私とぐるなびのM編集者、そしてHWWA(一橋大学世界プロレスリング同盟)の後輩かつ現在雑誌編集者の“のりピーマン”選手が生ビールで、青木さんはウーロン茶である。酒は飲まないし、飲めない体質だという。

 

「今、シンガポールも拠点となっていますが、中華ばかり食べていますね。水分は普段から摂っているため、食事の時はあまり摂らないです。このウーロン茶をゆっくり飲みますね。ダイエットはちょっとやる程度ですかね。かつては船木誠勝の「ハイブリッド」に憧れていました。玉子の黄身を捨てて母親から怒られたりもしました。パンクラスサイコー! なんて思いましたし、“マット会の左翼”たる船木、高橋義生、田村潔司とかは大好きでした」

 

「さて、食事の話に戻りますが、一般人はそんなに意識して食事制限をしないでもいいし、食べたいものを食べればいいと思う。ササミばかり食べるとかそういうことより、食べたいものを食べればいい。お子さんにはケーキを与えてもいいと思う。お菓子を食べてもいいじゃないですか。ただし、自分は人から食べるものを押し付けられるのは嫌いです。そんなことは言いつつも、こうして会食に誘われた時に、食事の種類を指定したりすることはありません。気を遣われるのはイヤなんですよね」(青木さん)

 

その結果、頼んだものを全部紹介しよう。

 

 

【野菜】冷やしトマト

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【肉系の串】せせり(首)、レバ、ねぎ間、砂肝、はつ、ささみわさび、特製ふわふわつくね(温玉絡み)
【卵・肉系の串】うずらの玉子、プチトマトベーコン巻き

【野菜の串】ししとう

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【炭水化物系】焼鳥飯

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なお、「鳥一」のサラダにはクルトン的な役割として「うまい棒」を崩してトッピングにするが、青木さんは躊躇することなく「うまい棒」を砕いてサラダにかけた。

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ドレッシングはノンオイルの青じそとゴマがあったが、脂肪分が多いゴマを使う。「えっ? うまい棒もかけるし、ゴマをかけるんですか?」と聞いたら「こっちの方が僕はおいしいと思うんですよ。おいしいものを食べたいです」と答えた。

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「プロテインを摂ってるヤツのことはバカにしています」 青木真也の食事哲学

さて、ここからは、青木さんがこの宴席(とはいっても彼はノンアルコール)で語った内容を紹介しよう。話は「食」に関することから「格闘技全般」「格闘家の人生」「格闘技とプロレス」「格闘家と家族」「格闘技ヤンキー文化論」など多岐にわたった。

 

――青木さんは今回、焼き鳥のお店に来ていただきましたが、焼鳥自体は格闘家の食事としてはアリなのですか?

 

青木:僕はこうした焼鳥店に来た時は、“皮”は選択肢からまずは外し、後は好みです。だから、ねぎ間とか、砂肝とかささみとかを食べているわけです。皮については意識高く「格闘家たるもの、脂を避けたいので皮なんて食いません!」と言いたいところですが、僕は単純に好みの問題です……。

 

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好きな食べ物タイ料理ですね。辛いのが好きなんです。タイ料理は決してヘルシーな料理の代名詞というわけではないけど、あんまり気にしてはいませんね。香辛料とかもタイ料理は好みなんです。プリック、ナンプラー、チリソース、トウガラシの入った酢、など色々ありますが、あまり意識しないで好きなものを食べています。炭水化物だって、摂り過ぎなければいいと思っています。

 

――となると、天丼、カツ丼なんかはいかがですか? タイ料理もご飯の上におかずを乗せるスタイルが定番ですよね。

 

青木:僕は丼は食べないですね。ただ、卵かけご飯は家では食べています。普段は自宅でパソコン見ながらご飯食べているんですよ。ネットを見ながら「なんだよこいつ!」みたいに感情の起伏がありながら食べています。家族で食卓囲む、ということはあまりないですね。子供たちからは「お父さん、後で食べるの?」なんて言われるのですが、後で食べるのが好きです。

 

――だとしたら、時々外食をする時は、どうしていますか? 子供達は回転寿司とか好きですよね。その時は一緒に行くのですか?

 

青木:子供達が回転寿司に行きたいといえば行きますよ。子供に合わせます。自分はその時、食べることができないような状態であれば、食べなきゃいいだけ。ドリンクを頼み、最低限食べても良いものは食べ、家族は自由に食べさせます。

 

――あれ、青木さん、なんか今日、ししとうの串を大量に注文していますよね? これは野菜を食べなくては、ということですか?

 

青木:ししとうはおいしいから食べているんですよ。いや、そこまで普段からストイックということではなく、僕自身70kgで試合をする契約ですが、普段であれば、75kgぐらいまではいきます。

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――だったら、減量はどうやってやっているんですか?

 

青木:お菓子をやめます。チョコレートをやめてプロテインをやめる、とかでやせますね。

 

――炭水化物についてはどうですか? たとえばラーメンとかは。

 

青木:うーん、そもそもラーメンは、普段はそんなに食べないかな。僕はいわゆる“野郎”が好きなメシをあまり食べないのかもしれません。ただ、食べ物にそこまでこだわりはないし、プロテインを摂ってるヤツのことはバカにしています。

 

食べ物って一定レベル以上にするのはきついですよ。いくら値段が高くても自分が納得するかどうかが重要だし、高い値段を盲信するようなことはしたくない。ある程度自分が幸せになれるようにしています。

 

――格闘家だからって「意識高い系」の食事というわけではないんですね!

 

 

殴り合って分かり合えることなんてないんですよ……

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――今日は「格闘家とメシ」について語っていただきましたが、格闘技についても話を聞かせてください。

 

青木:格闘技の世界では一回強さを見せたとしても、それは永続的ではありません。そして強いから人生全般が幸せってのは違うと思います。ホント、厳しいですよ。自分が負けたとしても、“自分は人とは違うんだ”、“自分は人と違うことをやっているんだ”と思えなければやっていけない世界です。

 

あ、ちょっと「食」とも関連してきますが、先ほど、「誘ってくれる人に合わせる」といった発言はしたものの、ただし、まったく節制していない人から「焼肉行くぞ!」とか誘われると困ります。こういった人は、インスタグラムとかツイッターで“焼肉食ってるぞ!”と言いたいだけだったりもします。

 

ちょっと食べれればいいんですよ。プロレスラーでは40代・50代あたりの選手は風俗とかパチンコの情報ばかり見ていて、その延長戦に「肉をとにかく食え」みたいなものがありますが、僕自身は酒、肉、女――をこれ見よがしに見せつけるカルチャーが好きではないのです。

 

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――さすがに科学的なトレーニングや栄養学が身についた今は違うんじゃないですか? あと、昔のプロレスラーって「牛を一頭食った」とか「ビール1ケースをすぐに飲み干した」みたいな妙な伝説があるじゃないですか。新しい世代の選手はプロレスのスタイルにしても、食べる物も違うのでは?

 

青木:そうです。新日本プロレス・棚橋弘至選手以下の世代は違いますね。アメプロの世界であり、「キメのプロレス」ともいえましょうか。本当に緻密に展開を組み立てている。結局、みんな、いい子ですよね。リング上でも控室でもいい子です。さらに、主催者も厳しいです。スポーツライクになっていて、あまりにも破天荒だと怒られちゃう。総合格闘技の菊田早苗選手は、格闘技とプロレスは別れた方がいいと言いました。でも、これって“アスリート憧れ”みたいな話ではないでしょうか。サッカーの長友佑都選手とか本田圭祐選手みたいにカッコよくなりたいってことを言っているわけです。結局、格闘技はそうはなれないって話では……。

 

僕自身は、元々は総合格闘技の選手としてデビューもしたし、長く活動をしたけど途中で切り替えて、「格闘小作農」みたいに、「何でもやります!」みたいに方向に舵を切りました(様々なジャンルの総合格闘技もやるし、プロレスもやるし、ネット記事の取材も受けるし、文章も書く)。それでも良かったのは、火事場泥棒的にポジションを取れたことですね。プライドがあったら、あんなに自由にできなかったと思う。総合格闘技ブームが終わった後の「戦後」にどさくさにまぎれてできたことだと思っています。

 

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――青木さんは『空気を読んではいけない』という著書があったり、取材を受けるととかく「型破り」などと言われますが、いわゆるステレオタイプ的格闘家としての姿を求められることに違和感を持つということでしょうか。

 

青木:選手の中には「熱い絆」とか「みんなでいこうぜ!」とか言う人もいますが、凄く曖昧でずるいなと思います。僕はこれをポエム的だと思いました。格闘家はポエムを読みます。試合後のマイクパフォーマンスの多くはポエムっぽくてむかつきますよ。「来てくれたお客さんありがとう!」「練習してくれた仲間ありがとう!」「子供にありがとう!」――そんなお礼は後でメールでやればいいし、控室でやればいい。自分が演者だと過度に意識しているのではないでしょうか。そういえば、不良って卒業式で泣いてましたよね。まぁ、そんなもんですよ。

 

格闘技は不良カルチャーです。戦った後に「お前よくやったな!」となる。河原でケンカした後、「お前もよくやったじゃないか」みたいな感覚です。でも、こういった不良カルチャー的なことは僕はやりません。試合前から仲悪かったヤツとは試合後も仲悪いです。試合前から仲良かったヤツとはその後も変わらず仲がいいです。殴り合って分かり合えることなんてないんですよ。もっというと、殴り合ったからといって好きになるわけがない。

 

その一方、家庭は、いつ離婚されるかは分からないわけです。妻がいて、子供は3人います。そんな状況にあるだけに、僕は責任は果たそうと思う。ただし、結婚という形は、変わっていくものです。社会情勢などによって変わっていく。結婚したからといって、ずっと安泰なわけもないです。ただし、僕自身、仕事と家は別だと捉えていますよ。とにかく家族のためには稼がなくてはならない。

 

小さな仕事をコツコツやるしかない。文章を書くこともそうだけど、コツコツやるしかない。本当は大きな仕事をやりたいけど、そういうことだけをしているわけにはいかないんです。本当は、大きい仕事だけしかしたくないけど、小さい仕事もしなくてはいけない。良い時代も悪い時代も僕は知っているので、こう考えるようになりました。

 

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――さて、青木さん、「食」の話をしつつも、「格闘技の今」「2017年の格闘家の人生」「格闘家と家族・社会」といった話にも踏み込んでくれました。基本的に青木さんは「自分がやりたいようにやれ」ということを常に述べています。というわけなので、身もふたもない結論になりますが、「食べたいものを好きなだけ食べ、ただし、よろしくないと思ったら節制しろ」というのが青木選手からのメッセージだと捉えました!

 

紹介したお店 

r.gnavi.co.jp

 

 

著者プロフィール

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中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)

ライター、編集者、PRプランナー

1973年生まれ。東京都立川市出身。
一橋大学商学部卒業後、博報堂CC局で企業のPR業務を担当。2001年に退社し、しばらく無職となったあとフリーライターになり、その後『テレビブロス』のフリー編集者に。企業のPR活動、ライター、雑誌編集などを経て『NEWSポストセブン』など様々な、ネットニュースサイトの編集者となる。主な著書に、『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『ネットのバカ』(新潮新書)、『夢、死ね!』(星海社新書)、『縁の切り方』(小学館新書)など。割と頻繁に物議を醸す、無遠慮で本質を突いた物言いに定評がある。ビール党で、水以上の頻度でサッポロ黒ラベルを飲む。

 

前回までの「今も飲んでいます」はこちら 

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海外の危険地帯では何を食べているのか?人気ジャーナリストに訊く「危険地帯メシ」【中川淳一郎の「今も飲んでいます」第11回】

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我々は普段、平和な中、「うひゃっ、ウメー!」「口の中が牛とタレの騎馬戦や!」「これは海の宝石箱や!」などと実に呑気にメシを食う。しかしながら、平和にメシを食えるかどうかは分からず、しかも普段から慣れ親しんだもの以外を食べざるを得ない場所がある。それが世界の危険地帯である。

 

そこで、海外の危険地帯を取材することで知られ、『クレイジージャーニー』(TBS系)などでも人気のジャーナリスト・丸山ゴンザレスさんにズバリ「危険地帯のメシ」について話を聞いてきた。訪れたのは東京・東中野のアフガニスタン料理の名店「キャラヴァンサライ包」である。参加したのは、丸山さんに加え、丸山さんの友人でカメラマンの岸田浩和さん、そして前日私が福岡で会ったライターの若者・K君である。

 

「遅れてごめんなさい! どうもぉ、はじめまして~!」と13分遅刻した私が頭を下げると、巨漢の丸山さんに「なんじゃ、ワレ! ワシは危険地帯で死ぬか生きるかの世界で勝負しとったんじゃ! 貴様、1分1秒の差でタマ取られるかもしれんのじゃ! 気がたるんどる! 串焼きの刑にしてやる!」と怒られるかと思った。だが、「はじめましてぇ~。いやぁ、大丈夫ですよぉ~。ビール飲んでますんで、ガハハハ!」とにこやかに言われたので、あぁ、この人はこの笑顔で危険地帯を乗り切ってきたのだなぁ、とタフな男であるが故の優しさを感じたのでした。

 

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▲丸山ゴンザレスさん

 

というわけで、さっそく乾杯をしたのですが、なんだかこのまん丸のお顔があまりにもかわいくて「あのぉ、キスをしてもよろしいでしょうか?」と聞いたら「どうぞどうぞ!」とまさかの快諾。というわけで、ウヒヒ、初ツーショットはキス写真だぜ。もしもこれが「杉浦太陽が辻希美の濃厚キス」なんてニュースだったらガッポガッポアクセス稼ぐだろうが、ワシらは杉浦太陽でも辻希美でもない。

 

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▲乾杯!

 

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▲ファーストキッス!

 

というわけで、串焼き、サラダ、チーズ、ナンなどをパパパッと頼み、お話へ。このお店はアフガニスタンの民家のようなつくりになっていて、絨毯の上に座って食べるのです。我々は小上がりを案内してもらい、あぁ、気分はカブールの夜……。実は私も2002年初頭に戦後間もないアフガニスタンに行っているのでテキトーなことを言ってるわけじゃないからな。後で当地の食事の写真も紹介します。

 

 

危険地帯では何を食べているのか? 

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中川:危険地帯って何を食べるもんなのでしょうか? まさかコンビニおにぎり買えたりするわけないですよね?

 

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丸山:羊を食べるべきですよ。世界各国で、羊は禁忌の肉ではありません。だからこそ、羊を食べれば、相手の懐に入っていけます。羊って香辛料をまぶすことで地域独特の料理になるので、その場所に行ってその場所独自のものを食べた気持ちになれるのですね。フード理論とも言うのですが、口を開けて食べている方が、相手の信頼を勝ち得やすいんですよ。食事しながら話すのはいい。なるべくなら、食事しながら現地の人と話すことを僕は心掛けています。

 

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中川:これまでに印象に残っている地域ってどこですか?

 

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丸山:タイ北部のイサーン地方ですね。あそこは生肉料理文化ができています。他にもケニアで牛の脚とか頭とか尻尾も食いましたね。まともな部分は金持ちが食べるので、膝から下の部分を薪みたいのにくべたりして焼くんです。表面の皮膚も毛も飛ぶ。皮膚って、焼くとはがしやすくなるのですね。そして、鍋に骨ごと、頭も突っ込んで煮るのですよ。そのスープにはハエがいっぱい入ってくる。塩味がないので、ただの油のスープを飲むのですが、この時点で肉が元々腐っていたな…ってのが分かるのです。

 

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▲キベラスラム(ケニア)の牛の脚スープ

 

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 中川:熟成肉どころじゃねぇよ!

 

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丸山:ここで食べないという選択肢はないですね。ケニアのキベラスラムってところの売店で食べたものが悶絶のものだった! その日の夜、すごい量の汗をかきながら、嘔吐と下痢で目が覚めた。その場で確信したけど、スラムってどこの国でもそうでしょうが、ヘルシーフードはありえないんです。ハイカロリーのものが多い。フィリピンのスラムの食堂の食事は、スラムを動かしているお父さんや労働者のカロリーに合わせていることに気付きまし。ハイカロリー以外のものも作れるとはいえ、労働者のための食事なんです。味よりもカロリー重視で油ものがすごく多い。これは実際行って感じたことで、魚とかでも揚げ物が多かったし、インドとかも肉団子が多い。油もの、塩分、ハイカロリーがセットになっていました。残飯屋でも肉類が多い。

 

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▲フィリピンのスラム飯のイメージ(ハイカロリー)

 

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中川:あっ、残飯といえば、辺見庸『もの食う人びと』でバングラデシュ・ダッカの回がそれでしたね!

 

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丸山:そうそう、あれです。働いている人はそれを食べるのですね。食堂の裏の方に行くと、密造酒を作る人がいました。ここはフィリピンのトンドスラムっていうのですが、どぶろくみたいなもんを出してくれる。それを飲むのは勇気がいりました。

 

あと、20年前のインドは冷蔵庫が普及していなかったんですよ。コーラを注文したら、30分してやっとコーラが来ました。お代わりをしたら、店員がガキを呼びつける。するとガキは階段を下りて走っていくのが見えました。オヤジに聞いたら、冷蔵庫がないので、市場まで走って買いに行くので時間がかかるのだとか。あぁ、これだったらまとめて頼めばよかったと思いましたね。これはデカン高原のふもとの村の話でしたが、冷蔵庫がこの10年、20年で世界中に普及したとは感じています。

 

――と、ここで頼んだものが続々と登場!

 

『孤独のグルメ』にも登場した「キャラヴァンサライ包」のアフガニスタン料理の数々

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▲サッポロラガー(赤星)

 

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▲サラダ

 

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▲シークケバブ3種×2本

 

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▲チーズ盛り合わせ

 

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▲青菜炒め

 

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▲ラム刺し

 

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▲串を持って勇ましいフリをする

 

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▲また、串を持って勇ましいフリをする

 

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▲ナン

 

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▲羊の煮込み

 

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▲ナンで煮込みやケバブを巻いて食べる

 

「危険地帯のジャーナリスト」と「戦場ジャーナリスト」の違いとは

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中川:丸山さんは「危険地帯」のジャーナリストであり「戦場ジャーナリスト」ではない理由って何なのですか? その違いって何ですか?

 

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丸山:基本的にはパスポートで行けるところに僕は行くんですよ。戦場ジャーナリストを仕事にした場合、自分の自腹で行っておきながら記事が掲載されるか分からないんですよ。元が取れるか分からない。あと、戦地に行くのは、腹のくくりかたが尋常ではないんです。自分の人生を全部捨てなくてはいけませんし、一回の取材に全てをかけなくてはいけない。掲載する媒体すらも分からない。海外の仕事をしていて、「僕はもっとこういうことを続けたいな」と思ったのですね。だから、「行って帰ってこられるところ」ということを考えた結果「パスポートが通用するところ」にし、戦場は避けることにした。それに、紛争地域でコーディネーターとかガイドとかを頼めるわけがないですし。

 

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中川:どんなきっかけで今の仕事を始めたんですか?

 

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丸山:実は、フリーライターになる前は、考古学を専攻していて、学者になることを疑っていなかったんです。でも、結果的にそういう道には進めなくなり、無職になり、どうにもならなくなった時に、恩師から「フラフラしているんだったら働け、オレの同級生の会社に入れ」と言われ、測量とかを請け負う会社に入りました。でもその会社、1年ぐらいで潰れちゃったんですよね。そして、その会社の斜め前ぐらいに、同級生が勤めている出版社がありました。作ってる本はコンビニ本が多かったのですが、僕はそこのヤツらと仲良くなり、大塚駅の北口の居酒屋で編集長とか交えながら飲むこともありました。酒の席では旅の話をよくしていましたね。編集長が「その体験面白いね」と軽い気持ちで言ったのですがそれを僕が信じたというか、他に書くこともないので結果的に書いたのが『アジア「罰当たり」旅行』という本です。

 

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話は測量の会社がつぶれた後の話に戻りますが、フリーライター、旅行作家としてやろうと思ったものの、当時は書くよりも書かせる方がラクだと思った。そこで、出版社を受けることにしたのですが、ビジネス書をメインにした出版社に受かって5年ぐらい編集者をやりました。その5年は海外からも離れ、東京を中心とした日本の裏社会の取材をするようになっていきました。歌舞伎町、新宿2丁目とかの取材です。その頃はミクシィ全盛期で人々が繋がっていて、裏社会飲み会やるって時に何十人も人が集まる。人体改造マニアとかヤクザとか、そういう人と話す中、裏社会がらみの仕事が多くなっていったのです。海外の取材をするにしても、旅というよりは、裏社会がらみの海外取材が増えていった。裏社会の取材をしている時に、チンピラの紹介で暴力団の事務所に行くと悪い扱いをされます。でも、幹部からの紹介だと良い扱いを受けます。危険地帯へ行く時も、現地のトップと繋がらない時は行かないようにしています。下の方のヤツから「ユーを幹部に紹介するね」というのはダメ。

 

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中川:アウトローの論理は世界共通ってことなのかもしれませんね。

 

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丸山:誰でもいいからツテを頼っていくのはダメですね。結局トップダウンでなくてはうまくいかないんです。裏社会のルールはシンプルなので、世界中共通。色々な国のマフィアやギャングと会って、彼らの考えていることは同じだと感じました。トップがいて、そいつに従うか、そいつに反目するか。そして、行動原理は、儲かるかどうかのみ。どこの国の裏社会も同じ。さっき戦場に行かないと言ったのは、僕は裏社会的なものの方が好きってのもあるかもしれません。軍隊が嫌いとかそういうことよりは、政治的に成熟しているところの方が好きなのです。裏社会のランクでいえば、韓国の裏社会ってのは日本と比べたら弟分みたいな感じ。軍が強い国ってのは、裏社会的な成熟度はちょっと低いのですね。パスポートが使える国は裏社会的なものが発展しているから面白い。

 

摂取したものが、体内で全部循環した時に「この国にいたな」と思える

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中川:さっき、辺見庸の『もの食う人びと』について少し話が出ました。ダッカといえば、今年の7月にイスラム過激派によるテロが発生し、日本人7人を含む28人が亡くなられた場所です。辺見氏は、世界中の人の「食う」ことに大きな関心を抱きあの本を書いた。丸山さんも似たような関心はありますか?

 

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丸山:僕も『もの食う人びと』を読んで、ダッカの残飯をあさるシーンが鮮明に残っています。そんな影響もあり、大学2年で初めて海外に旅立ちました。海外に行くと、食と旅は切り離せないとも同時に感じられます。だからこそ、海外に行ったら現地のものを食べることをルールにしています。その国に行ったと言えるのは、体内の摂取しているものが、全部循環した時に「この国にいたな」と思える時です。

 

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中川:つまり、現地で食べたものがウンコになった時に「あぁ、オレはインドにいるんだなぁ……」といった感慨に浸るってことですね。

 

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丸山:そうです。体内で一旦排泄物まで循環しないと、その国に行った気持ちにならないです。その国になじむとは言うものの、水と油がなじむまでは時間がかかるものです。ジャカルタでは大体食あたりします。料理に使っているのがパーム油なので、なじむまで3~4日かかる。そうなってやっと取材が始まるわけですね。だから、3日で帰って来いと言われたような場合は、これはちょっとヤバいかな……という食材は食べないようにします。

 

――なお、丸山さんは2014年の香港の民主化デモにも参加。この場を一緒に訪れたカメラマンの岸田さん(当コラムの撮影も担当)は「丸山さんは学生側の最前列にいました。警察が催涙ガスみたいなのを用意したんですよね。丸山さんはデカいから、そのターゲットになってしまった」とのエピソードを明かした。

 

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丸山:僕の前は警官しかいないんですよ……。哀しいかな、暴力に走っていくが、現場でどうなるか分からない。催涙ガス発射のカウントダウンまであと何分かという状況で、警察と向かい合うドキドキ。完全武装の機動隊みたいなのが集まってオレと向かい合う。楽しかったですね。

 

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中川:楽しかったのかよ!

 

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丸山:そういえば、岸田さんとはミャンマー取材も一緒にしましたね。その時は日本人がモバイル関連をゲットすることはNG。闇SIMを500ドルで借りるのです。要するに、もうネットは使えないようなもの。2013年、僕の方がタイからの国境を超えて首都・ヤンゴンに行き、岸田さんはヤンゴンに飛行機で来た。ヤンゴンのドーナツ屋で待ち合わせをしたのですが、そこの店が潰れていた。場所はここで合ってるけど、明らかに店はなくなってる。まぁ、昭和的待ち合わせというか、ワンブロックを歩いたりしながら岸田さんを探し続けました。あと一周歩いても岸田さんがいなかったら帰ろうかな、みたいな感じで、そこでやっと会えた!

 

岸田:インターネット使えないってこういうことだろうな、みたいな感じですよね。

 

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中川:危険地帯とか、携帯の電波が繋がらない場所へ行く時の準備ってどうしてるんですか?

 

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丸山:そういうところに行くのは準備はどうしようもない。ネットが繋がらない、という前提も必要。ネット環境がないというのが、今の人はあまり感じられないかもしれないでしょうが、ネット環境がないとどうなるか、を意識しなくてはいけないんです。PCが巨大充電器になることもある。パソコン、スマホ、その他ガジェットなど、飛行機に乗るときはこのバックパックに入れます。キャリーケースとかを引くのはいやだし、手がふさがるのは嫌なんです。不測事態に対処できないですから。たとえば、極端な話ですが、トルコ・イスタンブールの空港でテロがありましたね。

 

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▲丸山さんのバックパック

 

僕も一回テロ未遂があった時、イスタンブール発成田行きに乗ろうとしていたのですね。トイレに爆弾を仕掛けたというのがありました。いたずらにしては手が込んでいると思ったのですが、飛行機は欠航に。そうすると、出張に慣れている商社マンとかはすぐにどこの窓口に行って話をすれば、代替機のチケットをもらえるかを把握し、猛烈な勢いで走っていく。最初の3人だけ走って、チケットもらったわけですよ。こういう時、身軽に走れないとダメですね。ビジネスマンはスーツだけで荷物が意外に少ない。最初の3人が終わってももうあとはもらえず。その時、冷静に振る舞っていた各国ビジネスマンが大騒ぎ。本来は月曜日の朝、成田に到着するはずだったわけですよ。午前中、丸の内でエリートビジネスマンが会議をしたりするわけですね。飛行機のチケットを取れなかった人々は世界中の言葉で罵倒を開始します。ファックどころではない言葉が飛び交っており、こりゃ修羅場だな、と思いました。

 

危険地域でおいしかった食べ物って?

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中川:これまで、危険地域でおいしかった食べ物はなんですか?

 

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▲ミギンコ島

 

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丸山:ヴィクトリア湖とか、世界一人口密度の高いミギンゴ島あたりで食べたフィッシュアンドチップスはウマかったですね。巨大白身魚から切り出したものです。『ダーウィンの悪夢』という映画でもその巨大魚は出てくるのですが、その白身は意外とおいしかった。その湖にはいわくがあり、毎年5,000人が死んでいるのですね。富士山の上ぐらいの高さにある湖で、気候変動が激しい。僕も帰りの船で、船のエンジンが壊れて漂流しました。数百キロ先まで見渡せるので、嵐が近づいてるのも見える。あの嵐が先か、オレ達が陸地に漂着するのが先かという勝負。嵐が先だったら、湖に落とされるのは間違いなかったですね。まぁ、魚は素揚げにしたり、干物にしたり、カレーにしておいしかったです。淡泊な味なので、何にでも合う。今日はアフガニスタン料理屋に来てますが、中川さんがアフガニスタンに行った時は何を食べたんですか?

 

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▲ミギンゴ島のナイルパーチ(干物) 

 

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中川:恐ろしいことに、毎回料理が一緒なんですよ。朝も夜も。基本はビリヤニ(ピラフ)、野菜、羊のケバブ、羊の煮込み料理、ナン、で以上です。それが延々続く! しかも、断食明けの「イード」と呼ばれる特別な日のあたりに行ったので、オレの目の前でいきなり羊の頸動脈を切って殺したりする。羊は暴れるものだから、大人の男性が首を切る中、子供が2人がかりで脚をおさえつけていたりするんです。

 

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▲ビリヤニ

 

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▲羊のケバブ

 

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▲羊の煮込み料理

 

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▲羊を押さえる様子 

 

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丸山:ガハハハハ! そりゃあ、いい体験しましたね。

 

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中川:アフガニスタンでも白身魚を揚げたやつを市場の屋台とかで売ってるのですが、揚げ油が真っ黒になっていて、しかも何十匹も魚を積み上げていて下の方はお前、身がつぶれてるだろ! みたいな状態です。まぁ、アフガニスタン料理は味自体は良かったし、野菜も豊富に摂れるのが良かったですね。当時オレはフリーライターなりたてで猛烈に忙しく、カップラーメンとハンバーガーと牛丼しか食べていなかったので栄養不良で全身にぶつぶつができていたんですよ。でも、アフガニスタンで野菜をたくさん食べていたら帰国時にはぶつぶつがすべて消えていた! 丸山さん、他にはどこが印象に残っていますか?

 

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丸山:フィリピンで拳銃の密造村に行きました。その時は、ジャーナリストと名乗ったら警戒されて辿り着けなかったんですよ。そこで、極度の銃マニアの学生と名乗ったら、お金を払うことで会ってもらえました。取材の最中、いたずら心を出して「もし、俺がジャーナリストでドキュメンタリーの取材に来てたら、どうする?」と言った。すると、それまで自然体で受け入れてくれたチンピラがしばらく黙る。すると、「銃密造工房の奴らがアンタを殺すよ」と言ったのですが、その時の静寂は今でも覚えています。俗世間からは隔離された山の中に工房があるのです。僕は「あっ、そうだね」と言いながら、「冗談冗談!」と言ってなんとかその場を取り繕った。取材が終わって、バスを待つ間バス停近くのレストランに行きました。フィリピンの代表的ビール・サンミゲルはありますが、レッドホースというアルコール度数高いビールをこの時は飲みました。食べたのはひき肉のサラダ。その時の味は「生きて帰って良かった」というもの。レッドホースは決しておいしいビールではないし、冷たくもない。氷を入れて飲んだのですが、「あぁ、このビールは何回味わってもいいものだ。オレは生きている……」としみじみと感じ入りました。いやぁ~怖かった!

 

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▲ルーマニアの食事風景

 

あと、かつて僕はレモネードを飲んだことはなかったのですが、今は大好きです。一つのきっかけは、ルーマニアのマンホール地下住居に住んでいる人々を訪れた時のことです。リーダーが飯を食えと言ったのですよ。でも、出されたメシよりも、皿の上とかを猫や犬が歩くのが気になって仕方がなかったです。コンビーフとレバーパテをパンと一緒に食えと言われたのですね。そこで、マンホール住居のリーダーが、レモネードをボトルに入れてくれたわけです。冬のルーマニアの真冬のマンホール、50度を超えるお湯が地下通路を流れているので、温かい。となれば、喉が渇くわけですが、ここで飲むレモネードがすごくうまいんです。まさに「この世の嘘」みたいなレベルのレモネードでした。しかし、この地下住居は、僕が取材した半年後につぶされてしまいました。

 

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中川:最後に印象に残ってる食べ物は?

 

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丸山:ニューヨークのドラッグディーラーに話を聞きに行ったんですよ。そういう人たちって怖い人たちって怖いと思うかもしれませんが、意外といい気さくな人。売人が勧めるおつまみってなんだろう? と思ったら、出てきたのはナッツの盛り合わせ。ビール飲んでナッツ食べて気持ちよくなったところでドラッグが出てくる。「オレ、取材で来ているんで……」を繰り返すしかないですよ……。ニューヨークのチャイナタウンの汚いところで出てくるつまみがナッツだったので、僕にとってナッツってもんは売人向けのつまみという印象になってしまいました、ガハハハハ!

 

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中川:いやぁ、面白い話、ありがとうございました!

 

文:中川淳一郎

撮影:岸田浩和

写真提供:丸山ゴンザレス

 

紹介したお店

キャラヴァンサライ包(PAO Caravan Sarai)

住所:東京都中野区東中野2-25-6 1F 

TEL:03-3371-3750

r.gnavi.co.jp

 

 

著者プロフィール

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中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)

ライター、編集者、PRプランナー

1973年生まれ。東京都立川市出身。
一橋大学商学部卒業後、博報堂CC局で企業のPR業務を担当。2001年に退社し、しばらく無職となったあとフリーライターになり、その後『テレビブロス』のフリー編集者に。企業のPR活動、ライター、雑誌編集などを経て『NEWSポストセブン』など様々な、ネットニュースサイトの編集者となる。主な著書に、『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『ネットのバカ』(新潮新書)、『夢、死ね!』(星海社新書)、『縁の切り方』(小学館新書)など。割と頻繁に物議を醸す、無遠慮で本質を突いた物言いに定評がある。ビール党で、水以上の頻度でサッポロ黒ラベルを飲む。

 

前回までの「今も飲んでいます」はこちら 

r.gnavi.co.jp

博報堂ケトル共同CEO嶋浩一郎が教える「おいしい店の選び方」幹事道【第十二回】

博報堂ケトル共同CEO嶋浩一郎が教える「おいしい店の選び方」幹事道【第十二回】

いい店というのは、結局自分の信頼できる人が教えてくれる店だとこの20年以上、散々飲み続けた結果理解した。

実家から近い東京国立では「一松」(焼き鳥)、「物好奇」(洋食)、会社に入ってから先輩によく連れて行ってもらった麻布十番では「こま」(和食)、「たぬ吉」(居酒屋)、「はじめ」(居酒屋)、「あべちゃん」(焼きトン)がいい。
恵比寿では「こづち」(定食)、「香り家」「松玄」(日本蕎麦)などか。

長きに渡って通っている下北沢では「さかえ」(焼きトン)、新雪園(中国料理)が実に良い雰囲気である。
「眠亭」のカニチャーハンも大好きだ。「人生はあと何回メシを食えるか分からないからいいところへ行け」が信条の先輩から連れて行ってもらったのは「魚力」(鮮魚店・渋谷)、「ゆうじ」(ホルモン渋谷)、四川一貫(中国料理・神保町)など。

あとはここ6年間ほど通っている小学館の人と行く店としては、神保町になるが、「六法」(寿司)、「八羽」(居酒屋)、「源来酒家」(中国料理)、「おかん」(居酒屋)、「ボンディ」(欧風カレー)といったところになる。

そして、15年ほど前、突然入ったものの、おいしかったのが銀座のおでん・熊本料理・餃子の店「おちょぼ銀座」で、ここは移転したが最近でも行っている。

嶋浩一郎氏に聞く「おいしい店の選び方」

こうした色々な店にこれまで行ってきたが、人生でもっとも多くのビールを一緒に飲んだ先輩は博報堂ケトル共同CEOの嶋浩一郎さんだろう。
この日は嶋さんに「おいしい店の選び方」とこれまでに行った店の思い出を話してもらった。

「嶋さんがよく行く店で取材をさせてください!」と言ったところで指定されたのが西麻布の「スナックだるま」である。
西麻布交差点の小泉純一郎&ジョージ・ブッシュ飲み会が開催された「権八」から六本木通りを六本木駅方面に坂を上っていくとある。

で、そこには嶋さんがいた。
ブックコーディネーターの内沼晋太郎さん他もいて、さっそく話を聞いた。

代々木上原の「ジャンプ」

中川:
こんばんは! 
今日はなんで「スナックだるま」なんですか? 
いやぁ、落ち着く店ですねぇ。カウンターもあり、椅子席もあり、こりゃ、貸切にしたくなる店ですなぁ、ガハハ。

嶋:
いいでしょ、この店。「だるま」という名前からもわかるように、サントリーオールドが飲める店なんだけど。すごいんだよ、この店。だってカラオケはあるけど、マイクがないわけ。わかる?
水割りをちびちびやりながらカラオケの画面をみてると、突然いい歌詞が流れてくるんだよね。松本隆さんとか阿久悠さんとかの歌詞を愛でることができるわけ。

中川:
なぜここを選んだのですか?

嶋:
中川、「スターバックスのコンセプトはサードプレイスだ」ってよくいわれるじゃないか。「サードプレイス」とは、職場でも家でもない、もう一つの場所という意味。よく考えたらスナックっていうのは日本のサードプレイスだったんだな。
だからこの店もついつい来たくなっちゃうわけ。で、この店は若い人も入りやすくて、意外に料理も上手いわけ。セロリ餃子と付けカレーパンがおすすめ。 「扉を開けたらそこは別の世界」。そういうものなんだよ、サードプレイスは。

中川:
な、なんですかすか、そのサードプレイスの定義は?
相当酔っ払ってますね。

嶋:
ガハハ、バレたか。それはさておき、中川とよく行ってる代々木上原「ジャンプ」(居酒屋)は素晴らしいね。

中川:
いやぁ、あそこはいいですよ!

嶋:
まず、素晴らしいのが、入口にドーンと貼られた「どっちの大瓶を選ぶ?」というポスター。この店ではビールの大瓶が2種類用意されているんだけど、「どっちの種類でもいいから基本ビールは大瓶で飲むべし!」ってスタンスが気持ちいいよね。 あれ見た瞬間「ここの店主はビールを愛してる」って分かったね。ここの店主はビールが大好きなんだってイメージが伝わってくるよね。

中川:
そうっすよね! 
しかも、ジャンプは、生ビールの注ぎ方がむちゃくちゃウマい。サイズも大中小と揃っていて、大が驚きの500円! 
で、中が450円でそりゃ大飲むだろう、という感じ。「もう少し飲みたいけどさすがに大は……」って時のために小があって、これがなんと驚きの200円!

嶋:
いやぁ、ビール飲みの気持ちに寄り添ってくれる店だよね。
つまみも200円のがズラリと並んでいていいね。俺は200円のハムカツとポテトサラダが好きだね。

あとはなぜか馬刺しもあったりしていいよね。代々木上原は家族的な寿司屋とか色々あっていい街だね。
あとは中川と一緒に銭湯の「大黒湯」に行って、「アイデア出すまで上がってはいけないぞ!」「は、はい! 熱いですっ!」とかやっていたのも懐かしいなぁ~(遠い目をする)。

中川:
ちょっとちょっと、嶋さん! まだしみじみするような年齢じゃないでしょ! そうですよ、どんな店が嶋さんにとってはいい店なんですか?

嶋氏にとってはいい店

嶋:
とにかくね、オレは本が読めるカウンターが好きなの。家に帰る前にどんなに遅くなっても、カウンターで一杯飲んで本をちょこっと読んでかえるわけ。徹夜明けでも、帰りに一杯飲みたくなるよね。

中川:
そういえば2001年、渋谷のスナックの「D」に朝7時に酔っ払って行って、ドンドンとドアを叩きまくったらママが出てきて「アンタ達何やってるのよ! アタシ寝てたのよ!」なんて言いながらも中にいれてくれ、結局10時ぐらいまで飲んで、そこからオレ達、店の中で13時ぐらいまで寝たなんてことありましたね!

嶋:
あぁ、あれは俺が34歳で中川が28歳の時だね。人の歴史に酒場あり、だね。

中川:
他に良い店の基準ってのはありますか?

嶋:
放っておいてほしいときの放っておいてもらえて、喋りたいときは喋れる店がいいね。

中川:
嶋さんって店選びの基準が通というか、面倒くさそうなイメージがあるかもしれないけど、案外チェーン店も躊躇なく入りますよね。

嶋:
え、そんなこだわりの人に見えるの? 
でもね、チェーン店だって個性があるよ。築地市場にいったら吉野家一号店はかならずいくべきでしょ。日本橋から魚市場が関東大震災後移転した時に一緒に移転したわけだから。

それはもう築地市場の歴史でしょう。そうだ11月2日の自分の誕生日の日が築地市場の最終営業日らしいから、それまで行かないと。
あとは、店主のこだわりの貼紙とかにも注目しちゃうよね。大阪梅田に「河童」というすてきな焼肉屋さんがあるんだけど、営業時間は平日は16時〜23時、日曜は16時~21時って書いた貼紙がはってあるわけ。

つまり、土曜日は平日なんだよ。
すごくハードワーカーに優しい店だろ。こういう店主直筆の貼紙のウォチャーでもあるね、自分は。まあ、そういうところに個人経営の店のキャラがでるよね。
メニューの名前とか。

嶋氏お気に入りの店

中川:
嶋さんお気に入りの店をいくつか教えてもらえますか。

嶋:
銀座の「エドパーラー」。
ここはね、銀座のコリドー街にあるんだけど。地下一階にあるスゴく狭い店。そうだな、5、6人はいったらもう一杯。で、カリフォルニアワインしかおいてないの。「エド」って「江戸」の意味かなと思ってしまうじゃない。
でも、「エドワード・ホッパー」の「エド」なんだって。だから店内には彼の絵があちこち飾ってある。

でね、料理人がすごく狭いカウンターの中で調理をしてくれるんだけど、この人、昔ステーキ専門店で働いてたので肉焼かせたらすごいんだよ。あと、毎週週末金曜だけはカレーをつくるから覚えておいてね。ここはね、広告業界の大先輩が教えてくれた隠れ家的な店なんだよ。多分、検索とかでは見つけづらいね。

中川:
他には?

嶋:
荒木町の会員制スナックだね。
そこって近所の人が毎日来てお気に入りの曲だけ歌って帰るから、カラオケランキングがスゴく特殊。俺たちが生きている世界とまったく違う世界が存在しているのがわかる。それこそ、酒場の醍醐味だろ。

そうだな。あと新宿5丁目の「猫目」。ちょっと繁華街から離れた通りの地下一階にある。ここは伝説のパイセン的なレジェンダリーな人が普通に飲んでいたりする。
それにしても、中川とはビールをたくさん飲んだなあ・・・・。25メートルプール何杯分くらいのんだかね?

中川:
村上春樹の『風の歌を聴け』ですか! いやぁ、いっぱい飲みましたね。

(2013年11月下北沢・某バーにて)

良い店の見分け方

嶋:
ビールは偉大だよな。
あと、結構自分はいろんな店をホッピングしつつも、気に入った店には長く通うかな。常連になるってのはいいことだな。渋谷のある店は最近テレビをカラーに変えたんだよ。
それまで、白黒のテレビが21世紀の飲食店にあったわけ。
しかも、もう画面がサンドストーム状態で、サッカー中継しているのは分かるんだけど、選手らしき影が数十人もみえるんだよ。だけどさ、常連になってくると、そのテレビが見えるようになるんだよね。常連がそのテレビになれちゃって、だからずっととりかえなかったんじゃないのかなか?

中川:
他に良い店の見分け方ってありますか?

嶋:
まあ、店の好みは人それぞれだし。訓練ですよ。新宿ゴールデン街とかで扉を開けて店のなかの雰囲気をのぞいてみる。もちろん、当たり外れもあるだろうけど、そうやって自分の精度を高めていくのがいい。

中川:
それはそうと、「中野会」ですよ! 

嶋:
おっ、「中野会」ね。
あれは2001年だったね。精神科医の斎藤環さんを中川と一緒に取材に行って、その後、池袋から出ているバスに適当に乗ったら中野についたんだよな。確か、バスの中で中川もってた朝日新聞とオレが持ってた毎日新聞を交換して読んだ記憶が。
で、中野についたら、なすがままにすすめられる店に入ったら楽しかったな。で、それ以来、朝日新聞の「セブン」編集部で苦楽をともにしたライター陣も呼んで中野で年一回は飲むようになった。

中川:
今は閉店しちゃいましたけど、「味吉」っていう名店に毎年行ってましたね。
気のいいおやじさんがいて、全国の日本酒が揃う店。謎の「牛たたき」が100円でこれがウマい! 
以前「これまでにデートしたことのある女の子の出身地の酒を飲もう」ってな話になって、オレなんて神奈川県と東京しかないけど、嶋さんは多過ぎて「石川」「愛知」「広島」……なんて延々飲み続けてぐでんぐでんになってしまうということもありましたね。

嶋:
こら! そこは言わない話だろ! バカヤロー!

中川:
あとは京都合宿で行った「三吉」というホルモン焼き屋もウマかったですね。

嶋:
小上がりがあって、とにかく厨房の換気扇のあたりのススがすごい。長年のホルモン焼いた煙があれを作ったんだなぁと感動したよね。ムキムキのとぼけた牛の看板が出ていて「いらっしゃい!」なんて言ってる。

中川:
あとは新宿駅構内の「BERG」ですね。

嶋:
あぁ、そうだね。あの店は名店だね。ちょっと山手線に乗る前とかにサッと入ってビールを飲む。普通のビールと黒ビール、ハーフ&ハーフまでできて素晴らしいよね。ホットドッグもパンがとにかくウマい。レバーペーストとバゲットの組み合わせもビールによく合うね。中川はいつもゆで卵1つだけ買ってビール5杯ぐらい飲むよね。

中川:
そうなんですよ。塩たくさんかけて、ちびちびとかじりながビールをガンガン飲む。オレはあそこのホットドッグが好きすぎて、パンソーセージを別々に買って家でBERGのホットドッグを作りましたよ。

嶋:
まぁ、こうやって色々話したけど、とにかくビールは偉大だな。
こんなものを作ってくれた昔の人に感謝だし、おいしいビールを今作ってくれるメーカーの皆様方、そして提供してくれるお店の人には感謝しかないよ。こうして飲み屋でビール飲みながらアイデアを出しては、それで仕事をしていってるんだからね。

中川:
そうですな。結論としては「ビールが世界で一番エラい」ということでいいですか?

嶋:
いや、酒全部がエラい、ガハハハハ!

おいしい店の選び方幹事道

その壱:
店主がビールを愛してる店

その弐:
本が読めるカウンターがある店

その参:
喋りたいときは喋れる店

その四:
店主のこだわりの貼紙がある店

その伍:
扉を開けて店のなかの雰囲気をのぞいてみる

 

※掲載された情報は、取材時点のものであり、変更されている可能性があります。

 

著者・SPECIAL THANKS

中川淳一郎(なかがわ じゅんいちろう)

ライター、編集者、PRプランナー 1973年生まれ。東京立川市出身。 一橋大学商学部卒業後、博報堂CC局で企業のPR業務を担当。2001年に退社し、しばらく無職となったあとフリーライターになり、その後『テレビブロス』のフリー編集者に。企業のPR活動、ライター、雑誌編集などを経て『NEWSポストセブン』など様々な、ネットニュースサイトの編集者となる。主な著書に、『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『ネットのバカ』(新潮新書)、『夢、死ね!』(星海社新書)、『縁の切り方』(小学館新書)など。割と頻繁に物議を醸す、無遠慮で本質を突いた物言いに定評がある。ビール党で、水以上の頻度でサッポロ黒ラベルを飲む。

家焼肉が劇的にレベルアップ!肉の専門家が教える3つのポイントとは【中川淳一郎の「今も飲んでいます」第十回】

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焼肉とは不思議な食べ物で、一度最上の店を経験してしまうと、それ以下の店にあまり行く気がなくなってしまうものである。

 

しかし定期的に食べたくなる食べ物でもある。自分にとって最上の店に行くにも超人気店になってしまっており、予約がなかなかとりづらかったりし、結局足が遠のいていく。それでも別の焼肉店で妥協すると「う~ん、アノ店とは違う……」となる。それでいて、ビールを飲み、数枚頼むと簡単に5,000円ぐらいに到達してしまう高級品でもある。

 

家でやろうと思っても、小学生の頃、ホットプレートでやったあの焼肉を思い出し、「正直そこまでウマくはないよな……」とまた思ってしまう。焼肉食べたいけどあんまりお金払いたくない。

 

でも、ウチでやろうにも、ホットプレート焼肉はおいしくない。だったらビーフカレーでも食べておいた方がよくなってしまう。

 

そこでひらめいた! 

ベストセラー『大人の肉ドリル:家で「肉食」を極める!肉バカ秘蔵レシピ』。

 

著者の松浦達也さんに、家でおいしく焼肉を食べる方法を教えてもらおう!

松浦さんは、宮崎牛を一頭買ってきては皆でバーベキューをしたり、様々なメディアで「おいしく肉を焼く方法」とかを教えてくれている先生でもあるのだ。

 

と同時に、2001年、オレがライターになったばかりの頃、一緒に何度も編集部で徹夜をしたライターとしての「先生」でもある。

 

 

家で焼肉を作る3つのポイント 

中川:松浦さん! おいしい家焼肉の作り方を教えてください!

 

松浦:おっ! いいよ! なになに? 中川は家で食べる焼肉をおいしいと思ったことがないの?

 

中川:はい、そうなんですよ。でも、最近突然「タン塩食いてぇ~」とか思うことが増えているんですが、大抵美味しい店は「満席です」なんて言われてしまう。だったらめんどくせぇ、家でおいしく作る方法ないかな、なんて思いましてね。

 

松浦:よし、家で焼肉を作るのであれば、ポイントは3つ

一つ目は【専用機はやっぱり偉大】ということ。

焼肉食うなら、やっぱり専用機が圧倒的においしい。全面鉄板のホットプレートだとおいしく焼けません。というわけで、カセットコンロ専用機が使えると最高だね。7,000円くらいの出費で一生モノになるよ!

 

二つ目は【肉を買う店を選ぼう】。

とりわけホルモンが充実してる精肉店がいい。そういう店は、タンやハラミといった市場で内臓扱いされる人気の部位も扱ってるし、芝浦の食肉市場などでいい肉を仕入れている。たとえば上野あたりだと「上野肉店」(和牛ホルモン専門卸)とその2軒隣にも「梁川食肉販売」という生ホルモンを扱う店がある。ほかにも武蔵小山の「みやこ屋」戸越銀座の「アサノミート」聖蹟桜ヶ丘の「平澤商店」とか、神奈川ならアトレ川崎に入ってるニュー・クイックのホルモン売場もいいよね。探せば生ホルモンを扱っている店って結構ある。まずは家の近場の良い肉屋を開拓しておくといいと思う!

 

三つ目は【タレは肉屋で買おう】or【タレは作ろう】だね。

ホットプレート向けの市販のタレは店焼肉と家焼肉を決定的に違うものにしてしまう一因。どんな肉でもそこそこ食べられるよう、味を強くしすぎてる。さっき挙げたような精肉店で、自家製ダレなどを売っていればそちらがおすすめ。焼肉店だって、タレは自分のお店で作っているよね。

 

家焼肉がいいのは、自由なところ。超うまい肉を出す店では、焼く順番とか、焼き方に店からの"指導"が入ったりするよね。もちろんそれは「おいしく食べてね」という気持ちのあらわれだからいいんだけど、「自由に焼かせてくれよ」という気分になることもある。家焼肉なら誰に気兼ねすることもなく焼ける。いい肉屋とちょっとの機材で、家の焼肉は格段にレベルアップします!

 

 

松浦先生流のおいしい作り方

オレは、松浦先生がオススメしてくれたカセットコンロ専用機を4,027円払って購入した。なお、当記事の最後には、現在の日本の「家焼肉」が抱える問題点を松浦先生に熱弁をふるってもらった。そちらも是非ともご覧ください。

 

まずはおいしい作り方からだね!

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松浦さん指定の東上野へ。焼肉店やキムチ店、精肉店が並ぶ

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松浦さんがすでに精肉店に予約をしてくれているので、オレは一足早く近くの居酒屋(カウンターは外!)でビールと大根の煮たのを食べながら待つ。

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これが今日肉を買う「上野肉店」!

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こんな感じで売ってます。この後すぐ近くの「梁川食肉販売」で豚のホルモンを買いました。

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近くのキムチ店でもキムチ購入!

 

この時の使ったお金を見て見ましょう。6人分です。一人平均300g以上の肉を食べる予定です。

◆上野肉店 

 ハラミ:739円(100g280円×264g)

特上ミノ:1,332円(490円×272g)

特上タン:911円(490円×186g)

にこみ大腸:572円(210円×266g)

牛小腸:675円(200円×286g)

上カルビ:675円(200円×286g)

焼肉タレ:300円

 

◆梁川食肉販売 

牛ハツ:159円(108円×148g)

センマイ:279円(150円×186g)

豚コブクロ:157円(108円×146g)

 

 

◆まるきん

すりごま:220円

サンチュパック:220円

 

 

◆キムチ店

白菜キムチ(大量に買い過ぎた!)&キュウリの水キムチ:2,000円

 

【合計】肉(5,799円)+キムチ(2,000円)+その他もろもろ(440円)=8,239円

 

家焼肉開始!

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 塩ダレ作りです。長ネギをみじん切りにします。

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 買ってきた肉をズラリと並べてみた

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小袋の処理を開始した

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師匠である松浦さんが「よしよし、お前もここまでよく頑張った」とねぎらいのことばをかけてくれた。

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さぁ、塩ダレが完成!

中身はネギ、ゴマ油、岩塩擦ったやつ、炒りゴマ、胡椒、アルコール分を飛ばしたミリン(本当は日本酒とのブレンドがいいらしい)、酢ほんの少し

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小袋は切り、ここまで小さくしました。

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小腸

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大腸

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小腸を切りました

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小袋にゴマ油をかけ、風味をつけます

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はい! 塩味で食べる肉類をお皿に並べました!

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こちらはタレで食べる方です!

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ジャジャーン! 専用グリル登場!

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白菜キムチです。

松浦さんに元々「野菜はいらないんですか?」と聞いたら、「かぼちゃとかピーマンを焼くのは、スペースを取るし上手に焼くのは難しい。野菜が欲しいなら、キムチやサンチュがいいよ、とのことで、大量にキムチ購入です!

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編集者・ライターの漆原直行さんは白米大好き。パックご飯を両手に歓喜です!

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フリー素材モデルとして大活躍の大川竜弥さん、さすがの表情です

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集合写真! 肉も大量です

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タン塩等の塩味のものには、やはり柑橘系の汁が必要でしょう。たまたまスダチをたくさんいただいていたので、今宵はこれを使うとします

 

どんな順番で焼きはじめればいいのか?

ここで、松浦さんに「ど、どんな順番で焼きはじめればいいのでしょうかぁ……」と聞いたところ「家でさぁ、そんなかたっくるしいこと言わなくていいじゃん。好きなものからやればいいよ」と言われました。とはいっても「お任せします」。

そこで松浦さんが最初に言ったのは「新品のロースターだから、脂をなじませるところから始めたいよね、だったら小腸かタンあたりの脂が多い部位から焼くのが安全かな…」とのこと。

この順番で行きます! あとはテキトーに。

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 まずは、ミノに塩ダレをまぶし、塩ダレの脂分を網の表面になすりつけていきます

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ミノが並びました!

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ご飯と漆原さん。塩ダレだけでご飯をワシワシと食べ進めます。f:id:g-gourmedia:20151104135824j:plain

ミノが焼けてきました! いい感じの焦げ目ですね

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うぎゃっ、このロースター、脂に炎がつく! 本格的風だぞ!

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来ました、高級タン! 塩ダレが絶対に合うぞ、これは!

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いやぁ、ウマい! 店と比べてもまったく遜色ない!

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大川さんもタンに感激

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 続いてはハツ! これもウマい。タレでもおいしいだろうなぁ…

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はい、ようやく小袋が並びました

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 いよいよ焼けてきました!

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 ビールが進む、進む!

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 そろそろタレへ。まずはカルビ!

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 あまりのおいしさにポポポポーン!

 

「家焼肉」が抱える問題点を松浦先生に熱弁をふるってもらった

「家焼肉」に関し、これまで考えてきたことを漆原さん・中川二人で聞いてきました。

 

中川:今日はありがとうございました。本当においしかったです!

 

松浦:みんなよく食べたよね(笑)。

でもそもそも論なんだけど、世の中の人は家でおいしいお肉を本当に食べたいと思ってるのかな…。

実は、今回「家でおいしい焼肉を食べたい」という話を貰って改めて考えたんだけど、家焼肉と外焼肉はあまりに違う。ごちそうとしての"おいしい焼肉"は「外で食べるもの」という認識を持っている人が多いのかと思ってたけど、家でもちゃんと食べたいというニーズがあることにビックリして…。だって「ごちそう」というには、家庭の"焼肉"は雑過ぎる。むしろあれはラクをしたいがための手抜き料理とすら言えそうだもの…。

 

漆原:すべてのおうちごはんに共通しますよね。簡単に済まそうとおもえば簡単に済ませられる。冷凍食品、コンビニもそれなりにおいしい。しかし、思うに、肉ってホットプレート出すとか道具使ったりするよね。ニオい出るよね、ということが敬遠されているのでは。

 

松浦:日本で、焼肉が家庭料理として定着したのは高度成長期以降のこと。まだ歴史が浅いんです。エバラの「焼肉のたれ」の発売は1968年だし、モランボンの「ジャン」なんて1979年の発売。家庭料理としての焼肉って、ヘンな形で外食から家庭に持ち込まれてしまった残念な料理なんですよ。おまけに、そこいらのスーパーだと肉の質はどうしたって焼肉店には及ばない。いい肉は誰が焼いても、そこそこおいしいけど、安い肉だとそうはいかないから、ますます肉の格差は広がっちゃう。

 

中川:ホットプレートでやるんだったら、正直、フライパンでサッと炒めて大皿に盛って各自焼肉のタレをかけてもいいような気がするんですよね。

 

松浦:そう! 実は焼肉ってある種の「火加減のムラ」が大切で、表面に焼き目をつけながら内部にやさしく火を入れたい。だからスリットの入った焼肉プレートがいいんだよね。ホットプレートってお好み焼きのように「一定の火加減」で「全面を均一」に「じっくり焼く」ものにはいいけど、焼肉には不向き。火力も足りないし、脂がプレート上に溜まって、「油煮」みたいになっちゃう。

 

中川:たとえば、トンカツとかも、家でやるよりも外の方がおいしいのが食べられるかもしれない。でも、家だったらロースとヒレを両方食べられるとか、野菜のてんぷらを一緒に作ってしまうとか、のメリットはあるわけですよ。そんな中、「家焼肉」にメリットはあるのだろうか――。

 

漆原:自分たちのペースで、好きに選んだ肉を、好きな順番で、好きなように焼いて食べられる、とか。コスト的なものも含めてメリットがあるのでは?

 

松浦:完全にコストの問題ですよね。トンカツと焼肉って、家庭用のレシピが更新されていない肉料理の両巨頭。ごちそう感に目がくらんで、おいしく作るということに意識が向けられてこなかった。

 

漆原:焼肉自体、祭事なんだと思うんですよ。家で肉を食べるというのはイベントごとであり、節目であり、今月も頑張るぞという景気づけであり……みたいなことで、同じ「肉」でも生姜焼きとは違って別の意味づけがあるってことですね。

 

松浦:そうなんですよ。祭事だから、ふだん料理もしない上司や父親が鉄板にぶちまけていいという、悪しき風習が広まってしまった。日本の縦社会や家長制度の悪いところが鉄板の上に持ち込まれてしまっているんです。焼肉という食べ物・食べ方が成熟しているのであれば、外で食べたおいしい焼肉を家で再現しようという気運がもっと高まってもおかしくないのにそうはならない。家庭料理として成熟した料理って「山田のお母さんのカレーうまいよね」、「佐藤ん家のからあげ最高!」というふうに、家々の味がある。でも焼肉はヘンな形で家の中に入り込んで、そのまま居座っている。

 

中川:ここ何十年もCMでホットプレートで焼く焼肉の姿が流され続けてきたことも影響しているのではないでしょうか。

 

松浦:あるかも。もともと日本には肉料理の文化がないことに加えて、流されやすい国民性だから、CMのように世間の大勢に見えるものに引きずられたという解釈はできるよね。正解もわからないから、肉を家で焼いたら「焼肉」ってことになって、焼き方にまで深化しないうちに声のデカイ人――上司や父親の言うことやCM映像が正しいことかのように伝播していってしまった。

 

焼肉の不幸なところは、網や鉄板の上に調理能力とは何ら関係ない、日常の力関係が持ち込まれてしまったこと。関西のほうのすき焼きでは、肉は家長が焼いて家族は正座して待つというような風習がある地域もあるけど、あれは連綿と受け継がれてきた「うまい焼き方」も伴っているから家長が焼く意味がある。

 

ところが焼肉は、正解がないところにイメージだけが刷り込まれて、ホットプレートに既成品のタレという組み合わせがいつの間に家庭の定番になってしまった。米は炊くし、味噌汁のだしもひく。でも焼肉のタレは既成品。すき焼き鍋はある、関西の家ならたこ焼き器もある、でも焼肉はホットプレート。そんなつもりもないのに、不幸な思考停止に陥ってしまっている。

 

家の財布のサイズとか色々な事情があるのは当たり前だけど、焼肉が"ハレのごちそう"だとするなら、家焼肉でも改善できる部分はいくらでもある。

「金はない。でももっとうまい肉を食うぞ」という気概があれば、家の焼肉はもっとうまくなる。今日の肉代なんて、一人1,000円切ってるでしょ? 買い物から調理までの基本的なメソッドがないまま、肉焼きの技術の底上げがなされず、工夫の仕方もわからないから家焼肉が残念なもののままで据え置かれていたんだと思う。

 

家庭での「ホットプレート焼肉」を別の名前にすればよかったのかもしれないよね。焼き野菜なんか象徴的で、あれは「手抜きはしたいけど、野菜は摂らなくちゃ」といういろんな思惑が入り混じった最悪の例。そもそも野菜によって火の通り方はまちまちだし、肉と同時に野菜をプレートに乗せたら、忘れ去られて焦がされちゃうのがオチ。火を通すのが難しいものが一定面積を占有する、というのは理にかなっていない。栄養のことを考えても、プレート上で焼いた野菜で量なんか摂れないよ。「ココに乗せられなければ君たちはもっと幸せな人生だったのに……」としみじみ思う。野菜は別の食べ方をすべきだよ。今日はキムチとサンチュを買ったけど、サラダとかおひたしくらいは作ってもいいと思う。

 

日本人の焼肉リテラシーは、上がっていないよね。焼肉って国民的な人気メニューになってからまだ50年も経っていない、新しい料理だからもっとバリエーションができていいはずなんだけど、「焼く」という言葉に押し込められて料理の幅が広がっていない。外食にしても、70年代創業の老舗店が、40年間ずっとごちそう焼肉のベンチマークでい続けている。これほど長くポジションの変わらない巨大外食チェーンって他のジャンルではなかなか見ないよね。

 

漆原:ファミレスだったらデニーズあたりは、そのベンチマークとして残っているかもしれないけどね。でも、ロイヤルホストが高級志向に進んだり、日本のファミレスの先駆けだったすかいらーくが店舗としては消滅して、ガストやジョナサンに替わったり。総じて、飲食業は移り変わりが激しいですから。

 

松浦:食べ物のあり様はこの20年くらいで劇的に変わったよね。ハンバーガーにしても。

 

中川:外焼肉と家焼肉ってインスタントラーメンとラーメンの違いみたいな違いがありましたよね。ただ、今日の焼肉は圧倒的にウマかった!

 

松浦:料理って突き詰めると、愛情や理屈を含めた「知識」と経験や道具も踏まえた「技術」に行き着くけど、ホットプレート焼肉には何も込められていない。あるのは「焼肉」という響きにともなうスペシャル感だけ。中川は今日美味しかったといったけど、変えたのは肉とタレを専門店で買って、イワタニのロースターを導入しただけだよね。たったそれだけで家焼肉はこんなに変わる。仕上がりの違いを知らないとなかなか踏み切れないかもしれないけど、あとはどれだけ本気で「ウマい焼肉を家族にふるまうぞ!」と考えるか、その気概次第だと思います。

 

中川: いやぁ、先生、どうもありがとうございました! 今度は換気扇の下にロースターを置いて、ササッとタン塩とか作ってしまおうかと思います。

 

松浦:そ、その「先生」プレイ、そろそろやめようよ…。ともあれこれからも素敵な家焼肉ライフを! 

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この日はセンマイも買っていたのですが、さすがに多いかな、と後日食べることにしたのですが、「白センマイ」を作ろうと、タワシで表面をこすり、白くしていきます。これを30分ほど茹でました。

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センマイと、松浦さん直伝のネギ塩ダレです!

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この2つをまぶした。ウマい!

 

著者:中川淳一郎(なかがわ じゅんいちろう)

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ライター、編集者、PRプランナー

1973年生まれ。東京都立川市出身。
一橋大学商学部卒業後、博報堂CC局で企業のPR業務を担当。2001年に退社し、しばらく無職となったあとフリーライターになり、その後『テレビブロス』のフリー編集者に。企業のPR活動、ライター、雑誌編集などを経て『NEWSポストセブン』など様々な、ネットニュースサイトの編集者となる。主な著書に、『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『ネットのバカ』(新潮新書)、『夢、死ね!』(星海社新書)、『縁の切り方』(小学館新書)など。割と頻繁に物議を醸す、無遠慮で本質を突いた物言いに定評がある。ビール党で、水以上の頻度でサッポロ黒ラベルを飲む。

 

前回までの「今も飲んでいます」はこちら。 

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軽い気持ちで移住の下見をした兵庫県豊岡が居心地よかったので、本気になりそう【中川淳一郎の「今も飲んでいます」第九回】

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諸先輩方からは「甘~い!」(某お笑いタレントのキメゼリフとは別の意味だぞ)と怒られてしまいそうだが、そろそろオレは人生に疲れてしまった。

 

一体何に疲れたかというと、ウェブサイトの運営に携わっていると競争が激し過ぎ、日々の数字に追われるのが苦しくなってしまったのである。この記事によって誰かを傷つけるかもしれない……、訴えられちゃうかもしれない……、と思い、さらには問い合わせフォームには「このクソ偏向報道極左メディア、さっさと死ね、ボケ!」みたいな罵倒が連日のように寄せられる。

 

文章を書いても「こんなヘタクソな文章でカネもらいやがってww」と言われ、「あぁ、神様、もっと文章を上手にしてください!」と星に祈るも生粋の文章下手なオレの文章が上手になるわけもなく、このままライター・編集者としての人生が閉ざされた、と絶望しているのである。さらに、Wikipediaには「TBS泥酔追放騒動」を書かれて、一生アル中としてのそしりを避けられない。

 

となれば、最近話題の「移住でロハスな生活」でもすっか!という話になるのだが、その準備の機会が訪れた! 

 

ある日、東京・代々木八幡の飲み屋でくだを巻いていたところ、声をかけてきた男性二人組がいた。一人はどこかで会った人だ……。どこだろう……。

「中川君、元気だった?」と彼は言った。あっ! そうだ、15年前に下北沢の飲み屋で会った田口幹也さんだ! 

「オレらも一緒になっていい?」と言われ、星海社の今井雄紀編集者とオレの飲み会の席に田口さんともう一人のいかつい男性が入ってきた。

 

「も、もちろんです」

 

と人見知りのオレは言うのだが、「ブログ読んでるよ」や「ツイッターで暴れてるな」といった話になり、田口さんがオレのことを覚えていてくれたことに感激したのであった。そんな中、田口さんが現在は下北沢のバー経営を辞め、故郷である兵庫県豊岡市にUターンし、現在は「城崎国際アートセンター」の館長を務めていることを伝えられた。もう一人の男性は豊岡市役所大交流課の谷口雄彦さんだったのだ。この流れ、わざとらしく聞こえるかもしれないが、実際の流れだからな。

 

田口:「そう、人生に疲れたの? だったらYou、豊岡に移住しちゃいなYO! 城崎温泉も近いし、いい場所だよ。夏はとんでもなく暑い日はあるし、冬は雪がちょっと多いけどね」

 

中川:「おぉ! 城崎温泉といえば、『号泣議員』『ののちゃん』こと野々村竜太郎・元兵庫県議が年間196回も出張していたという場所じゃないですか! すばらしいですね! あんな逸材も通うほど魅力的な場所なんですね! ンァッ! ハッハッハッハー! この日本ンフン……(略)!」

 

田口:「バカ野郎! そんなことより、志賀直哉の『城の崎にて』を思い出すのが先だろ!」

 

中川:「失礼しました!」

 

谷口:「なんとなく中川さんが疲れているのは分かったのですが、移住って本気で考えているんですか?」

 

中川:「そうですよ。あと5年ぐらいは東京で必死に仕事しようとは思うのですが、その後は別の場所に行きたいですね」

 

今井:「僕と会ってもいつもその話になるんですよ。僕は(今井の故郷)滋賀県をオススメしてるんですけどね。琵琶湖の水、飲み放題ですし、琵琶湖のマリーナって僕が悩んでいた時期、毎日湖畔を眺めていた青春の場所なんです」

 

谷口:「いい話ですね。滋賀県は確かに魅力的ではありますね。ところで中川さん、移住するなら、どんな条件ですか?」

 

中川:「畑があって、海の魚も山の魚も釣ることができて、クワガタが獲れる場所ですね。仕事についてはあまり考えていません」

 

田口:「だったら一回豊岡、来てみる? 案内するよ」

 

谷口:「そうですね。一度来て頂いて、移住するかどうかを判断するのもいいのでは。ご案内しますよ。今井さんもどうですか?」

 

今井:「えっ! 僕もいいんですか!」

 

谷口:「ぜひ、お越しください」

 

というわけで、今井編集者とともに、「コウノトリの里」として知られる兵庫県豊岡市への「視察旅行」が決定! 行く日程は6月13日~14日となった。この原稿を書いているのは10月6日、なんとオレは4ヶ月も原稿を放置してしまったのだ、ガハハハハ! ごめんなさい!

 

その後、以下の案内を田口さんからメールでいただいた。

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豊岡への飛行機は朝と夕方の2便しかありません。ご都合が合えば、13日 7:30羽田発 伊丹で但馬便に乗り換えでいらしていただくと10時には豊岡市にはいれます。

で、14日の18時の便で豊岡を出ると、ほぼまる二日滞在が可能です。(東京羽田には20時40分頃着)

 

上記飛行機で来豊の場合は但馬空港着後、永楽館という近畿最古の芝居小屋のある出石に移動永楽館や街並み(重要伝統的建造物群保存地区)等を散策出石名物の皿そばとかを食べようかと。

その後、玄武洞やコウノトリ等を見ながら城崎に移動。アートセンター等を見た後、城崎で外湯巡り。夕食は城崎で。

で、城崎泊。翌日は豊岡旧市街をカバン産業を中心にみていただきます。

********************

 

 

豊岡市の産業としては「カバン」があり、ハンガー工場も有名なのだという。コウノトリも時々見ることができるらしく、海の幸だけでなく黒毛和牛の最高峰「但馬牛」などもありメシもウマい上に、風光明媚な場所らしい。よーし、我が人生後半を過ごす場所、見学に行ってきまーす! 

そして、おいしいものもいっぱい紹介しますよ!

 

今井編集者と羽田空港で待ち合わせ、早速ビールを飲み、飛行機へ。大阪・伊丹空港で小さな飛行機に乗り換えるのですが、その間の待ち時間にもキリンの神戸工場限定醸造ビールなんてものがありましたので、ピリ辛のさつま揚げと一緒に食べたのでした。

そして、伊丹から小さな飛行機に乗り換え、コウノトリ但馬空港に到着したのでした。

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待っていてくれたのは、豊岡市のマスコットキャラ、玄武岩をイメージした「玄さん」。

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空港に田口さん、谷口さん、そして大交流課の和田まゆみさんも迎えに来てくれ、車に乗せてもらいました。まずはお菓子を祀っていることで知られる「中嶋神社」で平和な「視察旅行」を祈願するとともに、おいしいものが食べられるようお祈りするのでした。 

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続いては、明治34年に開館した芝居小屋「永楽館」へ。ここは片岡愛之助さんが毎年公演をすることで知られています。

愛之助さんが『半沢直樹』(TBS系)でさらなる大ブレイクを果たし、さらには藤原紀香さんと結婚したことにより、永楽館の注目度も昨今上がっており、今では愛之助さんの公演ではチケットを取るのもタイヘンになったようです。「昔は取りやすかったけどね。今はすごいことになってるよ!」(谷口さん)とのこと。

 

オレ達が訪問していた当日は「歴史遺産の復活と活用に懸けるまちづくり」というシンポジウムを永楽館でやっていました。「こんな立派な文化的価値があるものを、イベントに使っちゃうんですねぇ~」と感心していたら、館長の赤浦毅さんは「文化財は使ってナンボや。使わなアカン! ここは2008年に改修してんねんけど、80%はオリジナルやで」と語りました。

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舞台の下へ。これを人力で回すことにより、舞台上でも回転をさせるのです。 

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名物「出石皿そば」

腹も減ったので、豊岡の文化財が多数残る観光スポット・出石(但馬の小京都、とも呼ばれる)名物の「出石皿そば」を食べに行きます! 

やたらと多くの「出石皿そば」の看板やのぼりが街中に多数あるのですが、行ったお店はココ。

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「たくみや」です!

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田口さん(左)と谷口さん(右)。昼間からビール! でも本来は休日の土曜日なのでOK。「こっちは休日返上で案内してるんだ、ビールぐらい飲ませてよ!」(田口さん)

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出石そばは1人前が5皿で850円。で、これをいきなり食べるのかな……と思ったら、出てきたのは…… 

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サヨリの干物! 「そばの前はコレに決まってるでしょ!」(谷口さん)とのこと。 

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これがビールに合う合う! これを2匹でオレはビール4杯飲んでしまいました。

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見よ! この天使の輪が描かれる見事なビールの注ぎっぷりを! 

ここのビール注ぎ店員の実力はたいしたものだ! オレが6口でビールを飲み干したのが一目瞭然であるっ! 

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これが薬味セット。手前右から生卵、大根おろし、九条ネギ、麺つゆ入れ(この段階では空っぽ)、トロロ。 

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麺つゆ入れに生卵を入れ、そこにお好みの量だけ麺つゆを入れるのです。

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5人分を一気に頼み、配置した様子。鮫皮のおろし器で生山葵をすりおろします。

 

田口さんによると「『わんこそばに似ていますね』とよく言われますが、全然違います。あちらは、他人任せですよね。出石皿そばは自主性に任せています!大人のそばなのです!」とのことで、密かなプライドを見せつけるのでした。

追加注文もガンガンしたので、それでは、食べた皿の枚数を見てみよう。

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谷口さんは11皿。 

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田口さんは10皿。 

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和田さんは5皿。 

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今井編集者は21皿。シャツのしましまと皿がシンクロしてるぞ!

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そして、オレは痛恨の2皿。なんというか、サヨリが美味し過ぎ、これでビールを飲み過ぎ、さらには山葵とトロロと生卵大根おろし入りそばつゆがビールに合い過ぎ、ソバを食べる余裕がなくなってしまったのでした。 

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食後はかの有名な沢庵和尚の墓へ。漬け物の「タクワン」の考案者でもあります。 

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沢庵和尚が出家した宗鏡寺は苔むしたお庭が見事なほか、鐘もつかせてもらいました。

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続いては世界中からバカ売れ! 

中田工芸社が作る「中田ハンガー」本社へ。とにかく有名百貨店がこぞって採用し、世界でもそのデザインと実用性が評価されています。社長がこれまたゴーカイな人で、ロビン・ウィリアムズ似のステキなおじ様でした。 

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中田社長のご自宅へ。元バーテンダーの田口さんがボンベイ・サファイアのソーダ割りを作ってくれました。 

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中田社長とパチリ

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さぁ、夕方のハイライト、天然記念物・「玄武洞」へGOです! 

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カニを捕獲 

城崎温泉

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いざ城崎温泉へ。

おっ! コウノトリ発見! しかし、毎度コウノトリを見られるわけでもなく、「あれは鷺です」(田口さん)ということもよくあり、お約束のごとく「サギじゃないですか!」(今井編集者) 

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城崎温泉到着。となれば、このポーズしかないじゃないですか! 耳に手をあてるも耳が隠れてしまうという「ノノちゃんポーズ」ですね。 

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ンァッ! ハッハッハッハー! この日本ンフンフンッハアアアアアアアアアアァン! アゥッアゥオゥウアアアアアアアアアアアアアアーゥアン! コノヒホンァゥァゥ……アー! 世の中を……ウッ……ガエダイ! 

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駅近くの足湯 

志賀直哉も定宿にしていた「三木屋」

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今宵の宿、志賀直哉も定宿にしていた「三木屋」へ。そういえば田口さんの下の名前も「幹也」でしたな、ガハハハハ。 

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社長の片岡大介さん 

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これが今宵のお部屋です 

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風呂に一旦入ったら外に出て、バーでまずはサッポロ黒ラベルの生を! 

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つまみはエスカルゴブルゴーニュ風。 

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河岸を替え、酒屋へ。店の中でも飲むことができます。

 

そして、夜の飲み会は「美食遊楽とみや」へ。豊富な地酒、魚、あとは珍しい珍味、寿司に但馬牛などなど、とにかく食べ物がウマい! と評判だそうです。

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谷口さんと田口さんがおいしいものを色々頼んでくれた。 

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お通し。フグだったかな…?

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色々珍しいものがあるのでつい覗き込んでしまう

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出た! カメノテ!f:id:g-gourmedia:20151013133800j:plain

厳密には亀の手ではなく、甲殻類です。東南アジアのフルーツ「ランブータン」みたいな白い身がチュルリと出てくるのでこれをしゃぶり取る。いや、こりゃ、貝っぽいぞ! いや、エビみたいな味だな。 

f:id:g-gourmedia:20151013133823j:plain刺身盛り合わせ

f:id:g-gourmedia:20151013133838j:plain刺身で使ったアジの骨と頭の唐揚

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後ろの席にいた地元客のおばちゃんが「アンタたち、メンチカツ食べなさい! 但馬牛が入ってておいしいよ! 絶対食べなさい!」としきりに勧められたので食べたメンチカツ。

うぎゃっ、ウマい! 結局3枚食べてしまいました。1つ400円也。

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コレコレ! 但馬牛の串焼き! 

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豚のアバラ肉焼き、骨付き! 

というわけで、この日はお開きとなったのですが、温泉街をブラブラと歩き、スマートボールやら射的の店にも行き、そのままグースカ寝てしまったのでした。

名作「城の崎にて」を執筆した部屋 

で、翌朝は早速酒を飲み始めるのですが、その後に実に貴重な体験をするのでした。

 私達が宿泊した「三木屋」は、志賀直哉の常宿として知られていますが、同氏が名作「城の崎にて」を執筆したという部屋を片岡社長に見せてもらえることになったのです。

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志賀直哉が座った椅子と外の風景 

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志賀直哉から旅館に届いた直筆のハガキ 

チェックアウト後は田口さんが館長を務める城崎国際アートセンターへ。

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城崎国際アートセンターは、舞台芸術を中心としたアーティスト・イン・レジデンスの拠点。2014年春のオープンで、様々な作品の展示のほか、シンポジウム等の実施、アーティストの宿泊なども行っています。

kiac.jp 

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館内の様子

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世界中のアーティストが壁に書いたサイン

ランチはお寿司!

r.gnavi.co.jp 

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生ビールとお通し。 

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寿司! キンメダイか? 

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カラスミ! 

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食後は、当初田口さんと谷口さんに話していた「海と川に行きたい」を叶えてもらうべく、海へ。「キレイだぞ~」(田口さん)という言葉に「でも、日本海でしょ(苦笑)」みたいに思っていたのですが、いやはや、竹野浜海水浴場、これはかなりの透明度ではありませんか。 

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 これは「キューピー半島」こと、猫崎半島 

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 干物の直売場

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イカが干されている

 

さぁ、旅も終盤へ! 豊岡市役所大交流課の「魅力伝達幹事道」、続けますよ! 

映画館・豊岡劇場へ。中ではバースペースでビールやお茶を飲むことができます。かつてはポルノ映画を上映していたみたいですが、劇場がセレクトした映画鑑賞のほか、イベントもよくやっています。「ウクレレを楽しむ会」や、豊岡出身の俳優・今井雅之さんの追悼イベントなど、地域の人々の交流の場にもなっています。 

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ポルノ映画館の休憩所で寝させてもらったゾ!

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鞄通(カバンストリート)には、豊岡ブランドの鞄が多数販売されていました。

 

旅の最後は豊岡市立コウノトリ文化館へ。コウノトリをいかに同市が繁殖してきたかを学べるほか、実際にコウノトリが飛来する様子を見られます。

kounotori.org 

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空港にて。この日は友人の結婚式に参加していた和田さんも見送りに来てくれたよ!

で、移住ってどうよ?

こうして濃厚な2日間を送ったのですが、いやはや、移住したい気持ちって湧くものですね。私の場合は「釣り」「農業」「クワガタ」という3つが達成できつつ、時々文章を書くような生活をしたいと考えているわけであります。

 

豊岡市及び城崎温泉の場合は、いずれも達成できそうな場所であり、食べ物もおいしいし、それなりのリベラルさもあるように感じられます。なんといいますか、ずっと都会で過ごした者としては、「村八分」とかを極度に恐れているわけでした、そういったものがない「ほどほどの距離感と地元感」みたいなものが感じられるのでした。住んでみなくては分からないものの、居心地の良さを感じるとともに、若い人が鞄作りに勤しむ姿や城崎アートセンター及び豊岡劇場の行う新規性の高い取り組みには「センスいいじゃん」と思ったものです。

 

もう一つ私に豊岡・城崎温泉はいいな、と思わせたのが、田口さんの奥さん・Aさんの存在であります。Aさんは、創作系の仕事をしている方なのですが、東京から広告代理店の人が来ては打ち合わせをするなど、クリエイティブ系の仕事の総本山・東京から離れていても仕事が成立していると語っていました。むしろ、仕事なんてものは一人でやるものが多いわけですし、こうした生き方も羨ましいなぁ……。でも、オレはAさんのレベルにはまるで至ってないしなぁ……なんて逡巡しつつも、齢42、若干東京に疲れた身には第二の人生を豊岡のような場所で送るのもいいかな、と密かに思い、コウノトリ但馬空港を後にしたのでした。

 

田口さんは「ここはアクセスが悪いけど、むしろそのくらいの方がいいんじゃないの? 大阪とか名古屋だとホイホイと東京に戻りたくなったりするけど、『東京に行きづらい』ということで、却って覚悟ができ、第二の人生を送れるんじゃないかな。まっ、キミ次第だけどね、ガハハハハ」と助言をくれました。

 

というわけで、あんなに丁寧に案内をしていただいたというのに、原稿を書くのがここまで遅くなってしまい、大変恐縮の極みではありますが、皆様におかれましてもこれからの豊岡・城崎温泉をどうかお訪ねくださいませ。季節外れの恰好をしている点や、旬の魚が異なることなど、たいへん申し訳ありません。

 

 

■撮影:今井雄紀

著者:中川淳一郎(なかがわ じゅんいちろう)

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ライター、編集者、PRプランナー

1973年生まれ。東京都立川市出身。
一橋大学商学部卒業後、博報堂CC局で企業のPR業務を担当。2001年に退社し、しばらく無職となったあとフリーライターになり、その後『テレビブロス』のフリー編集者に。企業のPR活動、ライター、雑誌編集などを経て『NEWSポストセブン』など様々な、ネットニュースサイトの編集者となる。主な著書に、『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『ネットのバカ』(新潮新書)、『夢、死ね!』(星海社新書)、『縁の切り方』(小学館新書)など。割と頻繁に物議を醸す、無遠慮で本質を突いた物言いに定評がある。ビール党で、水以上の頻度でサッポロ黒ラベルを飲む。

 

前回までの「今も飲んでいます」はこちら。 

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「幹事の味方」でも中川淳一郎さん、連載中です。

r.gnavi.co.jp

中川淳一郎氏が「渋谷=若者の街」に異論を唱える幹事道【第十一回】

中川淳一郎氏が「渋谷=若者の街」に異論を唱える幹事道【第十一回】

渋谷って場所が「若者の街」と言われて早や30年。
世の中のオッサンからすると「違う、違うんだよ!」と言いたくなることしきりであります。そんな風潮に待ったをかけるべく(!)渋谷で飲んだくれるバカをご紹介。巷に蔓延する「渋谷=若者の街」論を吹き飛ばし、オッサンの希望、憧れを募らせる若者が一人でも増えることを祈願!

今回は、無職に毛が生えた程度のライターで身長168cm、体重53キロのブサイクなオッサンと、酔っぱらってばかりの女ライターという、中川淳一郎とシマヅが登場。
そんなお二人の普段の生活と二人の渋谷・飲み屋事情、そして酒で散々痛い目に遭った二人による「適切な酒の飲み方」をご紹介。

舞台は井の頭線すぐの「山家」

――おふたりの出会いを教えてください。

中川:
出会いもなにも、単に渋谷でバカ飲みする女募集!
ってツイッターでやったんだよ。渋谷って若者の街ってイメージがあるじゃない?

でも、そんなわけねぇってことでさ、別の側面を見せるには、やっぱりオレみたいなオッサンだけが飲んでいる姿を見せるのでなく、きちんと女性もいるシーンってのを撮影しておきたかったんだよね。

背が低くまるでネズミ男のような中川さん。趣味はゲーム。どこまでも絵にならない

シマヅ:
そこに私が応募したんですよ。でもさ、中川さん、ツイッターのメンションとかで仕事の連絡もらうのは嫌いだ、バカ野郎! って昔ツイートしていたので「あっ、Facebookでメッセージ送ればいいんだ!」って思ってFacebookでメッセージ送ったんです。

中川:
ツイッターがダメだったらFacebookってどういうことだよ!
オレはSNS経由で仕事を受けるのがイヤなんだよ。いや、今回はシマヅさんは応募してくれたワケだから、それはオレが頼んだこと応えてくれたということで、ツイッターのメンションでも良かったんだけど。でも、オレ、Facebookのメッセージなんて見ていなかったんですよ。

シマヅ:
どうやら全然関係ない「中川淳一郎」という人に「バカ渋谷飲み会に応募します!」なんて送ってしまい、恥ずかしいですよ。マジで。どうしてくれるのさ。くそ。それで、まったく連絡がないものだから、中川さんのことを過去に取材した知り合いに聞いてみたらその人から中川さんに連絡が行き、メールアドレスをゲットしたということです。

中川:
まぁ、こうしてさ、企画の募集にもわざわざ応えてくれるってのは本当にありがたいよ、ってことは感謝しています。オッサンの街としての魅力を今日は二人でお伝えしたいな、と思います。あとは、これから話すような楽しい雑談もオッサン同士以外もできるんだぜ!
ということをお伝えしたい!

ステキ過ぎるおふたり、最新のITツールを使いこなし、連絡を取り合ったそうです。

――おふたりの第一印象は?

中川:
こんな企画に立候補する素っ頓狂なバカって本当にいるんだな、と思いました。他に誰も立候補してくれなかっただけに、心から感謝はしていますが。

シマヅ:
ツイッターのアイコン見て「腹出てるな!」と思いつつも、記事に顔写真出しているのを見ると痩せているってどういうこと?
と思いました。実際にこの件の打ち合わせでお会いしてみたら、ジャケット着ていたりして少しオシャレしていてかっこいいな、と思いました。

いつものボロボロヨレヨレTシャツのイメージと違いましたね。

この時、なんかの取材の場に合流したのですが、英語の雑誌たくさん持っててインテリじゃねぇかよ、と思いつつも、「なんで1988年の雑誌持ってるんですか?」と言ったら「シマヅさんが生まれた年ですね」なんて言われ、「そんなこと言わないでいいよ、キモッ!」と思いました。

酒飲み特有の酔っ払うと突然饒舌になるシマヅさん。これでネットサーフィン能力も堪能!天は二物を与える好例ここにあり

やはりSNSのアイコンは大事だってことですね!印象に残るアイコンを使うことがステキな出会いには必須ということです。

―― 一回の打ち合わせでこうして渋谷のオッサン飲み屋の魅力を語れるようになるなんて、本当に渋谷が若者の街だと思われているのがイヤなんですね。今日の日程はどうやって決まったんですか?

中川:
いや、オレさぁ、1日15回ぐらい吐く日が続いていたんですよね。
それで8日間禁酒をして人間ドックに入ることにしたんだけど今日人間ドック行ってきたので、今日にしたんです。

シマヅ:
私も今日が暇だったので丁度よかったです。酒の失敗については私もけっこうやらかしているので、読者の皆様には役に立つことを言えるかもしれません。
後で「適切な酒の飲み方」についてお話しましょう。

マヨネーズが嫌いだというシマヅさん、冷やしトマトのマヨネーズに恐怖しています。嫌いなものを強要され、可哀想過ぎ!

――トントン拍子のおふたりですが、企画がすぐに決まった理由を教えてください。

中川:
そりゃ、ネタ作ったら誰か相手してくれる人いなくちゃ困るからですよ。オレだって原稿書く時いつも焦りますよ。

シマヅ:
そりゃ、声をあげたら企画なんてすぐ決まるでしょ。あんたバカ?

――そんなステキな中川さんとシマヅさん、どのような食生活を送っているのでしょうか。

中川:
大体朝は家で豚肉の生姜焼きとかタンメンとかがっつり食べ、14時ぐらいになるとビール飲み始めて、つまみを少し食う。19時から飲みに行き、23時半ぐらいに家に帰り、そのままグースカ寝る。

シマヅ:
コンビニのメシが多いですよ。料理もたまにします。

やっぱりこうして健康的に、楽しくお酒を飲むためには朝ご飯は大事なようですね!
それにしても一日30種類のものを食えとかいう説があるけどあれってどーでもいいガセ情報らしいぜ。

ケッ。それにしても、酔っ払った時にノリでスマホで撮ってしまった安っぽい飲み屋動画のワンシーンのよう。
何とも絵にならないおふたり!

山家は生ビールが300円になる時間がある!

――お二人の定番のお店を教えてください。

中川:
そりゃ、渋谷のオッサン街だわさ。
今いるここ「山家」なんかもそうだな。この店は、井の頭線の改札を出てすぐのところにあり、24時間営業しているんだよ。いやさ、渋谷のこのあたりってサイコーよ。安いし、客層も真の呑兵衛だらけだし、バカな一気飲みをしてる学生とかもいないし、オシャレアベックとかもいない。
ここ、山家なんて時間によっては生ビールが300円だったりするんだぜ。

朝っぱらから「この人はどんな仕事をしているのだろうか……」みたいな人が飲んでいる。
一人でスポーツ新聞を読みながらのんびりしたり、先輩営業マン風の男が後輩を指導している様子もあったりして実にオッサンにとっては優しい店である。ここでウマいのは、このフライドポテトとチーズ揚げだな。昼間に来ると「モツ煮込み定食」とか「サバ塩焼き定食」とか豊富な定食メニューもあるぞ。

シマヅ:
私もこの流れだったら渋谷のこのあたりって言わなくちゃいけないじゃないですか!
もちろん渋谷のこのエリアも使っていますが、私がよく行くのは一人で行ける店ですね。吉野家は重宝します。別に牛丼を食べるわけではないのですが、最近「吉呑み」というのがあるんですよ。吉野家を居酒屋のように使えるってことですね。
ビールが300円で、焼酎が300円、枝豆150円、冷奴150円、子持ちシシャモ350円などに加え、牛皿330円とか、牛煮込み350円、締め用の小盛り牛丼300円とかもあります。

中川:
よし、ここからはオレがこのエリアの名店を一つ一つ紹介しよう。

中川さんがオススメする渋谷の名店

まずは鳥竹。
モクモクと店先で焼き鳥を焼いている様子を見たことがある人もいるだろう。
ここではなんといっても串がデカくて良い。ピーマンの肉詰め(つみれ)がオススメだ。1本あたりの値段は300円程度のものが多いため高いと感じるかもしれないが、大きいのでまぁ、そんなもんじゃないかな。あとは、ランチタイムであれば「やきとり丼」がオススメだぞ。
鰻のレパートリーも豊富だ。


続いては「多古菊」だ。
当然このエリアには「森本」や「魚がし 福ちゃん 2号店」「鳥升」とかもあるけど、いかんせん混んでいる。その点、「多古菊」であれば巨大な店なだけに大抵は入ることができる。アサヒビールの生がウマいぞ。しかも、大ジョッキが590円なので、オレはいつもこれを頼む。もぅ、全身ビール! って時はここでゴクゴクゴクゴク、プハーッとやるのが愉悦である。あと、おつまみに関してオレはアジフライとかちくわの磯辺揚げとかの揚げ物が好きだな。
もちろんポテトフライもウマいぞ。ここの特徴はとにかく安いところだ。300円台からつまみがあり、しかも量が多い。

次は「うな鉄」だ。
最近高騰している鰻の串を安く食べさせてくれるが、頭とかヒレとか肝、レバーなど一通りのセットを食べると良いだろう。ただし、鰻ってもんは最近希少なだけに、色々食べたいんだったら早い時間に行った方がいい。「レバーは終わってしまいました……」とか言われることも多いぞ。


そして最後は当然「山形」だ。
ここぞ渋谷オッサン飲み屋界隈における至宝である。近所には同系列のカラオケパブや別居酒屋もあり、一大コンツェルンを形成している。大瓶のビールが500円だったり、山形名物の「芋煮」や「玉こんにゃく」もある。大食いの人だったら「マグロのカマ焼き」がいいだろう。600円で巨大なカマが食べられるんだぞ。
あと、山手線のガード下の「学生コンパ山形」では、ランチ営業もしていて定食を食えるぞ。

仲良く居続ける秘訣とは?

カメラマン(35歳男)から急遽撮影用にシマヅさんが借りた安物の指輪

――仲よさそうなおふたりですが、喧嘩することはあるのですか?

中川:
するもなにも、まだ会って2回目だよ。バカな質問してるんじゃねぇ。

シマヅ:
男との正しい喧嘩のやり方を教えてあげましょう。
最後は仲良くなれる喧嘩の仕方です。まずは相手のウィークポイントを突くんです。たとえば、相手がハゲだったら「このクソハゲが!」とか言うと、一回目は怒る。

でも、連呼すると「ネタなんだな」と許してくれる。
あとは、「言い換え」も重要です。たとえば、アソコが立派にメタモルフォーゼしないことを気にしている男性がいたのだとすれば、「こころざし半ばで終わる下半身をお持ちだからこそ、おエラそうに振る舞われるその人格がステキでございます」とか言えばいいんです。

なるほど~それが仲良く居続ける秘訣なのですね!なんとも絵になるセリフです!

――そんなお二人のお気に入りの場所はどこですか?

中川:
そりゃ、渋谷のこのオッサンエリアだわ。

シマヅ:
PCの前です。ツイッターもありますし、xvideosとかもあり、いろいろな世界を見ることができます。わざわざ外に出て紫外線を浴びるヤツはバカです。

なるほど、インドア派なんですね!ところでxvideosって何なのでしょうか。

お互い見つめ合う中川さんとシマヅさん。さっさと撮影終わってくれ、という雰囲気が伝わってきます

――お二人の記念日レストランを教えてください。

中川:
ここだよ。同じような質問するな、バカ。

シマヅ:
安いところです。ここですね。ここはナンパされそうな場所ですね。私、どこへ行ってもナンパされます。外国人からしか声かけられないのです。

なので、渋谷でよく一人で行く店でも「ヘーイ」って言われます。ちょっとチラッと見ると、相手は「ワーオ、スーパービューティフォー!」みたいな明るい目で私を見てくるんです。
その時は「うわっ、嬉しい」と思う。でも、結局アレが目的なんですよね。そのあとにヤるかヤらないかは適当に決めます。

結婚を持続させるために心がけること

――最後に、結婚を持続させるために心がけることがあれば教えてください。

中川:
男が折れることだな。女の方が大体正しいんだよ。女に従っておけば大体はうまくいく。男が我を張るとロクな結果にならない。

シマヅ:
ガラスのコップを投げないこと。あとは料理を作ったり、仕事から彼が帰ってきたら仕事の話はしないで、ご飯を作って「お帰りなさい」とだけ言う。
凹んで帰ってきたら「どうしたの?」と聞く。こっちが帰りが遅くてイライラしても抑えておく。こっちが気持ちを押さえている場合であっても、もしかしたらあちらも抑えているかもしれません。
玄関でいきなり「ブッ殺すぞ」なんてやったら間違いなく「テメェ!」なんて言われて大ゲンカになるので、相手の気持ちを探り探り、というのが一番です。

この日、最高気温は27度で実に過ごしやすい東京の夜でしたが、身も蓋もない話の連発で記者もさっさと帰りたくなりました。
涼しい中、ありがとうございました。

これだけのバカ二人だと、お互いに今後の人生どうなるのか心配なところですが、まぁ、なんとか生きているし、酒飲むと楽しそうなのでなんとかなっているのでしょう。

それでは最後、お二人に適切なお酒の飲み方を聞いてみましょうか。

適切なお酒の飲み方

シマヅ:
酒を飲み過ぎると「吐く」「動けない」はセットになります。気持ちが悪くて寝ころびます。
吐きたいんだけど、トイレに行くのもツラいんですよ。たった4メートルぐらいの距離なんですが、動けない。もう吐かないと死ぬ、という気分になるので気持ちを奮い立たせて水を飲み、中指を喉の奥に入れます。
胃の中に固形物が入っていないと、黄色いものが出てきます。

中川:
あ、それは胆汁と胃液ですね。

シマヅ:
この状態から改善するには、無理矢理寝るしかありません。起きると具合が良くなっています。

中川:
それはまだ20代だからじゃないの?
オレみたいな40代はもうダメだ。禁酒するしかない。

シマヅ:
でも、気分が良くなっているのでその直後に発泡酒とかビールを飲むとまた気持ちが悪くなります。あと、普段なんで飲むかと言えば、他人がいるからなんですよ。
私の場合緊張しているので、人と話すために酒を飲みます。話している時に、触れて欲しくないことを言われたりするので、人は怖いです。
何を言ってくるか分からない。

中川:
酒をやめる気はないのですか?

シマヅ:
それができてたら苦労しねぇーよ!
本当に怖い。

中川:
まぁ、酒については他人に強要しない、自分が気持ちよく酔っ払える許容量を知る、気持ち悪い時は飲まない、ということを心がけたいですね。私はこれからは「週2回飲酒」を心がけようかと思います。

それはさておき、渋谷はオッサンにとってのパラダイスですので、新橋ともどもご愛顧いただければ、と思います。
ただし、間違ってもセンター街とか、文化村通りには行かないでください。マークシティの南側エリア・井の頭線の改札あたりです。
ランドマークは「鳥竹」と「山家」です。

適切なお酒の飲み方幹事道

その壱:
酒を飲み過ぎたら気持ちを奮い立たせて水を飲む

その弐:
酒を飲み過ぎたら20代は無理矢理寝る

その参:
酒を飲み過ぎたら40代は禁酒する

その四:
他人にお酒を強要しない

その伍:
自分が気持ちよく酔っ払える許容量を知る

その六:
気持ち悪い時は飲まない

その七:
渋谷のランドマークは「鳥竹」と「山家」

 

著者・SPECIAL THANKS

中川淳一郎(なかがわ じゅんいちろう)

中川淳一郎(なかがわ じゅんいちろう)

ライター、編集者、PRプランナー 1973年生まれ。東京立川市出身。 一橋大学商学部卒業後、博報堂CC局で企業のPR業務を担当。2001年に退社し、しばらく無職となったあとフリーライターになり、その後『テレビブロス』のフリー編集者に。企業のPR活動、ライター、雑誌編集などを経て『NEWSポストセブン』など様々な、ネットニュースサイトの編集者となる。主な著書に、『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『ネットのバカ』(新潮新書)、『夢、死ね!』(星海社新書)、『縁の切り方』(小学館新書)など。割と頻繁に物議を醸す、無遠慮で本質を突いた物言いに定評がある。ビール党で、水以上の頻度でサッポロ黒ラベルを飲む。

BRUTUS西田善太編集長が教える「会食」幹事道【第十回】

BRUTUS西田善太編集長が教える「会食」幹事道【第十回】

ついに42歳になってしまったフリーライターの私ではあるが、いつまで経っても自分がガキに思えて仕方がない。
これまで散々飲んできたものの、結局は社員の皆様に幹事等を任せ、自分は「飲みまーす!」みたいな「バカ要員」でいただけだからだ。

果たして正しいマナーは身についているのだろうか、人様をおもてなしする際の礼節は尽くせているのだろうか……。

そういったことをオッサン歴10年を越えた今考えるにつけ、一旦恥をしのび、この道の有段者にキチンと「宴会作法」「もてなし作法」を教えてもらうことが必要だと猛省。
師匠に時間を作ってもらうことを決意した。
だとすれば、相手はこの人しかいない。

マガジンハウス・BRUTUS編集長、西田善太さんだ!
「お取り寄せ特集」で、各界の「違いが分かる人々」から多数の逸品紹介をしてもらったり、「巨人軍特集」では、読売系ではないにもかかわらず読売巨人軍に全面協力してもらい、さらには「三谷幸喜特集」では、あの三谷氏がノリノリで登場し、様々な企画に協力してくれた。

「井上雄彦特集」は総計40万部の大ヒット!
特集「松本隆」で40代以上のポップファンを鷲掴みにしたと思ったら、ビザールプランツの特集「珍奇植物」で男女世代問わない攻め方をする。そこに至るには当然破天荒な企画力は求められるものの、「配慮」「正しいマナー」「説得力」「熱意」といった常識人としての振る舞いも求められるのは間違いない。

そんな西田さんに、「マナーを教えてください」と大変恐縮ながら指導をお願いすることにした。その会開催にあたっては、私と同様に「果たして私にマナーはあるのでしょうか……」と悩む2人の若者も参加することにし、お誘いの仕方から含め、学習することを決意。西田さんにお越しいただくからには、楽しい会にしなくてはならない、お前らちゃんとやろうぜ! とばかりに我々下っ端3人は裏で「頑張るぞ、おー!」と準備を開始したのである。

悩む若者2人とは、ライターのイケダオソト(28)とPR会社勤務の山内遥(29)である。
山内を調整役とし、西田さんとの事前のやり取りをメールでやることにした。

まずは山内から西田さんに宛てたメールである。

メールの「件名」は中身の予想がつくものに

*********************************
【件名】(会社名 ※注)の山内と申します。
※注:ここには山内の実際の勤務先名が書いてあった

株式会社 マガジンハウス
BRUTUS編集長 西田善太 様

直接のご挨拶もないまま、突然のご連絡大変失礼いたします。
私、PR業を行っております、(会社名)の山内と申します。

いつも貴誌を楽しく拝読させていただいております。
先日のホテル特集でも、1つ1つのお宿が美しく、ワクワクしながらページをめくりました。

本日ご連絡させていただいたのは、ご存じかとは思いますが、
中川淳一郎さんが連載されている「ぐるなび」の「幹事の味方」にてまだ仮の状態ではございますが、 「日本一作法に厳しい編集長BRUTUS西田善太氏と若手ライターや若手PRマンが会食したらどうなるか」をテーマに、 PRを初めてまだ日が浅い私とライターの方2名とお食事をご一緒させていただければと思っております。会食の場での作法や粋なはからいについてビシバシご教示いただければと思っております。

日程でございますが、恐れ入ります、来週9月1日(火)以降でご都合の良い日程を教えていただければと思います。2、3候補日を頂けますと幸いです。 このメールに返信くださいますよう、お願いいたします。

お忙しいところ恐縮ですが、何卒よろしくお願いいたします。
しばらくグズグズとしたお天気が続くようです、お身体ご自愛ください。
**************************************

西田さんからはこう返事が来た。

**************************************
山内さん、こんばんわ。

メール拝受。話は聞いております。
BRUTUS”ご愛読”ありがとうございます。

タイトルでどっかのPRメールだと思って、捨てちゃいそうになったよ!
まず、この飲み会のネーミングを決めてください。
仮に「バカと暇人会食」としたら、その後、タイトルに【バカ暇】とか書いてやりとりしましょう。
そしたら捨てないから。
僕は決して作法に厳しくないので、そこの誤解は解いておいてくださいね(笑)。

都合のよい日
9月2日(水)
9月7日(月)
9月16日(水)

そんな感じです。
この飲み会には中川くんは来ないの?
**************************************

ここで大事なのは「件名」である。
通常、雑誌の編集長に対してはPR会社(企業の商品やサービスをメディアに載せるべく活動する会社)からのメールが殺到するものである。多い時には1日20通を超える。

よって、「(会社名)の山内と申します。」という件名であれば、「会ったことない人からだ。またPR会社からの売り込みかぁ…」となって読まれずに埋没されてしまうということだ。西田さんには私から事前に「ぐるなびで中川と若者2人がマナーを教えてもらう企画をお願いしたい」旨は伝えていたため、そのことが想起できるようにしなくてはいけなかったのである。

そして、身内ながら山内をホメておきたいのはキチンとその時のBRUTUS最新号「ホテル特集」について言及していることである。これから会う人について好奇心を持っていること、仕事への理解をしようとしていることを伝えているのは重要だ。

以後、メールのやり取りの件名は
“【バカ暇】ぐるなび 会食についてのご連絡でございます。”
となったのであった。

さて、会食の実施は9月16日(水)となった。
山内が全員に会食の場所を伝えたのは9月15日(火)。
場所は東京新橋の羊肉店である。

山内からのメールは以下の通り。

**************************************
西田様

お世話になっております。
(会社名)の山内です。

遅くなってしまい大変申し訳ございません。
明日のお店の件でご連絡いたしました。

喧噪な市街ですが、少し変わった新橋の以下のお店にいたしました。
BAO エスニックチャイニーズ 羊肉 (03-xxxx-xxxx)
19時半より“山内”にて予約しております。

当日、何かございましたら以下よりご連絡いただけますと幸いです。
山内携帯:xxx-xxxx-xxxx

明日、楽しみにしております。
何卒、よろしくお願いいたします。
**************************************

さぁ、場所は決まった。私は19:20に店の前に登場。すると山内嬢が雨の中、店の前に立っており、駅の方からオソトが歩いてくる。

中川:
なんで立っているの?

山内:
お店の場所が分かりづらいので、西田さんが迷うかなぁ、と思って。

オソト:
中川さん!こんばんは!

中川:
つーか、なんでオソトも外にいるんだよ?

オソト:
いや、店の前で山内さんが立っていて、僕が駅の方にいれば西田さんも迷わないと思いまして……。

中川:
いや、いくらマナーを教えてもらう、西田さんを歓待するといっても、それはやり過ぎだよ。しかも雨が降ってるし、仕事が立て込んで遅れるかもしれないから西田さんを恐縮させてしまう。取り敢えず中に入って待っておこうよ。

というわけで、個室に到着!
山内によるとBAO(この店のことね)は、元々行きつけの中国料理店があり、そこのシェフが新たに開業した店なのだという。今やなかなか予約が取れない人気店になっており、個室を数日前に取ろうとしたもののムリだったが、後日改めて電話したところキャンセルが出たとのことだ。

というわけで我々は19:22には全員着席。19:30の西田さん到着を待つことにした。
しかし、19:35、西田さんは到着しない。
編集長なだけに色々忙しいし、こちらからお願いしている立場だ。

ここで一つの悩みが登場した。

主賓が来るまではドリンク類は頼まない方がスマート

――主賓が来ない間、酒は先に飲んでおいて良いのだろうか?

恐縮しながら西田さんを待つ山内

事前にマガジンハウスから発刊された「クロワッサン別冊 今さら人に聞けないおとなのマナー」で勉強してきたオソト

中川:
おい、オソト、もうビール頼んじゃおうぜ。5分待ったからさ。

ビールを早く飲みたくて「EMERGENCY BEER」Tシャツを見せる中川

オソト:
いやぁ、中川さん、そりゃマズいでしょうよ! せめて10分は待ちましょうよ!

中川:
まぁ、そうだな。そのくらいは待たなくちゃ大人じゃねぇよな。

この待ち姿勢はゴーマン過ぎ

この待ち姿勢は恐縮し過ぎ、やり過ぎ

西田善太編集長が到着

すると19:37、西田さんから山内の携帯に「今から東銀座の会社を出てタクシーに乗るので45分頃着く」という電話が来た。
そこで我々は襟を正し、ビール注文は我慢をしてじっくりと待つことにしたのである。そして「遅れてごめんね」の声とともに西田さんが登場。

主賓より前に飲まなかったことについては「それでいいと思うよ」とのことだ。気心の知れた主賓ならばさておき、初対面の者が2人いる状況では、主賓の到着を待ってから注文する方がスマートとのこと。

とりあえずはカンパーイ!

乾杯終了後、すぐに西田さんから山内のメールについてダメ出しが出た。

西田:
今日はダメ出しをするように頼まれてるからうるさくいうよ(笑)。
メールのやり取り、途中までは良かったんだけど、お店がどこになるのかの連絡が前日になったのはダメだね。だってさ、相手が約束の前にどこで仕事してるかって分からないものでしょ?
今回は編集部のある東銀座から近い新橋にしてくれたから、こうして遅れたとはいえ、すぐに来られたけど、もしかしたら取材が新宿であったりしたら遠くなるじゃない。
日程は2週間以上前に決まっていたんだから、会の当日の予定を柔軟にし、定刻に着けるようにするためにも、1週間前ぐらいには教えてもらいたいな。
山内さん、これについては4億ポイントマイナスです。ホント、合コンじゃないんだよ。罰として、琵琶湖の水飲み放題です。

山内:
はい、一生かけて全部飲みます……。

中川:
コラ! 近畿地方の人が困るから全部飲んじゃダメだ!

オソト:
僕の故郷・金沢の水もおいしいですよ!

中川:
うっせー! オレの実家がある東京・立川なんて井戸水だぞ!
ただし、あくまでもオレの住んでいるエリアだけなのだ、ガハハハ! 井戸水なので夏は冷たくてウマいんだぞ!

西田:
まぁまぁ、水の話はさておき、もう一つ重要なのがメールの回数は少ない方がいいってことだね。あれ、ちょっとちょっと中川君、まずはさ、キミからこのお二人がどんな人か教えてよ。それが先でしょ?

中川:
失礼しました!
メールでCCに入れていたのでついつい紹介を怠ってしまいました。

――ここで名刺交換タイムへ。向かい合う席からオソトと山内がグルリと回って西田さんの側へ来ようとしたところ「いいからいいから」と制止され、座ったまま対面で名刺交換をする。「無駄な儀礼はいらないよ。名刺交換だってこうやった方がラクでしょ」(西田さん)とのことだ。

西田:
で、中川君、今日の趣旨説明をもう一回してもらえないかな。

中川:
はい。今日はですねぇ、我々3人のあまりマナーに詳しくない者が、宴会の作法を西田さんから学ぶ会です。

西田:
ちょっと待った、待った。

中川:
はい。どうしましたか?

西田:
「宴会」という言い方はどうかと思うんだ。「会食」と呼べ!
たとえばね、職場とかで打ち合わせの日程を決めるとするよね。その時に「その日は宴会があるのでダメです」と言うと、上司だったら「宴会だと? 何言ってるんだ、タコ、ナニコラ、タココラ!」なんて長州力みたいに言いたくなるんじゃないかな。部下にしても「オレら忙しいのに西田さんは遊んでいるのか……」と思ってしまう。だから、こういう時は「その日は会食があるのでダメです」と言おう。
これだと実は遊びでも仕事っぽく聞こえ、何やら重要な仕事に繋がる案件のようだと解釈してもらえるんだよ。
常日頃から「宴会」ではなく、「会食」という言葉を使いましょう。
それは、二人きりで飲んでも、「今日は会食だから」と言うってことだよ。とまぁ、いきなり中川君にダメ出しをしたけど、この人のいいところもあるんだよ。

オソト:
えっ! それってなんですか! 中川さんにいいところなんてあったんですか! 僕、知りませんでした!

西田:
通常さ、飲み会の約束っていい加減なものが多いじゃない。「いやぁ、今度飲みましょうよ!」「いいですね、今度楽しみですね!」なんて言いつつその「今度」は来ることがない。でも、中川君はこういった話をしたらすぐに空いている日を伝えるメールが届くんだよね。
「西田さん、私は12日~16日、19日、21日、24日があいています!」とね。
こうやって単なる口約束にしない姿勢だと信用されるよ。

ドヤ顔を決める中川

西田:
オレもさ、多少心がけていることってのがあってね「口約束リスト」ってのを作っているんだよ。「今度飲みましょう」「10月あたりになったら飲みましょう」みたいなことを言った人をリストにしておくんだよね。でもね、こういったあやふやな約束をしておくと、お互い連絡しないまま一生会わなくもなるんですよ。それを防ぐためにも書いているんだ。仕事をしていると苦労をかけたり、借りを作ったりするものだよね。そういった時に「メシおごってくださいよ!」みたいに言われ「今度ぜひ一緒に」と口約束で答えるじゃない。
でも、本当に相手を慰労しなくてはいけないこともある。某クライアントが異動したり転職したりする時に、その人の人となりを知らなかったりしたら、やっぱり辞める前のタイミングでこそ一緒に食事しなくちゃというマナーもあるんですよ。
その人はもう自分達にとってはクライアントではなくなるかもしれないし、もうお金をくれなくなるかもしれないけど、そういう方こそ慰労しなくては、というのが先輩から教えられてきた僕らのマナーとして存在するんですよね。

メニュー紹介

――ここからマナーについてはますます盛り上がりを見せるのだが、その前に、BAOの食事をご紹介しよう! どれも絶品だぞ!

羊の塩ゆで骨付き

辛いサラダ(羊の塩ゆでと一緒に食べるとグー!)

羊の包子

羊のモツ煮込み

羊のクミン炒め

会食のマナー

中川:
西田さん、さっき「メールの回数は少ない方がいい」とおっしゃいましたが、その意図は何ですか?

西田:
今回の山内さん的なやり取りだったら1回で全部決まった方がいいよね。電話をすれば、予定って1回で決まるんですよ。「いつ空いてますか?」「2、7、16が大丈夫です。その中でも16が一番早く行けます」「当方も全部空いていますので、是非ともお時間長くいただきたいので16にしてください」――電話だったらこれ一発でしょ?
日程の約束をメールにすることによって面倒くさくなったんだよね。
メールだと複数の日付をかいておかなくてはいけないのよ。スケジュールを全部見て、かなり先まで空いている日を見つけ、それを書いていく。とある特定の日をズバリと言い、「16日はいかがですか?」と言うやりかたが通用しなくなったんだ。

あとは、こちらで「2日、7日、16日はいかがですか?」とメールで言った以上、返事が来るまではその日程を空けておかなくてはいけなくなるんです。ましてや、複数でCCつけてやり取りしていて、一人でも返事の遅い人がいたら、この「空けておかなくてはいけない期間」がますます伸びてしまう。これからの宴会、いや、会食は日付を決めるまでを短くしましょう、ということを僕は言いたいですね。

山内:
たいへん失礼しました。

西田:
いやいや、あくまでも原則論だし、今はメールってのが当たり前の流れになっていますので、面倒だなと思いつつもしょうがないところはあるでしょう。

中川:
他の会食のマナーってありますか?

西田:
クライアントとの会食とかも含めて、アレルギーを聞くのはマナーだよね。おいしいソバ屋にお連れしたのですが、軽いソバアレルギーの人がいて、翌日「寝てる間に死にそうになった」とメールが来て「だったら言って下さいよ!」と思いつつも、「その場の雰囲気に押されて…」と返されて大反省。絶対に聞くのがマナーなんですよ。
あと、店を選ぶ時にいちばん大事なのはエリアだね。お客さんが帰りやすいエリアってのがいいんじゃないかな。
だから「お住まいはどちらですか?」とオレは聞くようにしているよ。その人の会社の近くがいいという考え方もあるけど、会社の近くだと気が晴れないかもしれないし、その店は過去に行ったことあるかもしれない。相手が行ったことがない店を選ぶことも重要だよね。
キーワードは「せっかくだから」です。せっかくだから良い店、面白い店を選んだ方がいいでしょう。

中川:
今日のBAOは羊肉もウマいし、個室も落ち着くしオレ、けっこう気に入りましたよ。

山内:
アーッ!(箸を落とす)

オソト:
アッー!

西田:
(すかさず)すいませーん、お箸を一善くださーい!(と店員に言う)。
さて、店を決めるにしても、自分のテリトリーで対応できる場合もあるし、面白い店を教えてくれる友達を持っておき、その人に聞くこともアリでしょう。手駒はたくさん持っておいた方がいい。そして、誘う時はジャンルで聞いたり、「何系がお好きですか?」といった感じで聞くのが良いでしょう。
あとはお酒が飲めるか飲めないかも事前に把握しておいた方がいいね。ただし、重要なのはとにかくエリア。相手が行きやすい場所で、帰りやすい場所だね。いまどき、タクシーで帰れるわけじゃないでしょ? 電車で帰るわけだから、エリアってのは極めて重要だよ。たとえば北千住とかに住んでいる人がいたとして、その日はタクシーで帰っても良い状況だったとしても、さすがに三宿で飲むのは辛いですよ。帰るのに1時間以上かかるから。
だったらどうするか。一つの解決策としては「必ず中間点を選ぶ」ということですね。実際そういう人がいるのですが、その人が会食を開く時は必ず相手と自分の家の中間点を、お互い平等になるように選ぶんですよ。そうすると皆が楽になるよ。

オソト:
勉強になります!

山内:
あー、会社の近くにしとけばいいとだけ思ってました。

中川:
西田さんはねぇ、こうやって常識人ではあるけどさ、案外下ネタもいけるんですよね?

西田:
いや、キミほどじゃないよ。

中川:
おい、若者! オソトと山内さん! キミ達は「もっこり」の語源を知ってるかね?

オソト:
何を唐突に言ってるのですか! そりゃ漫画『CITY HUNTER』でしょ?

山内:
常識ですよ!

中川:
ちがーう! 『シェイプアップ乱』こそ「もっこり」という言葉を作り出した漫画なんだよ。

オソト&山内:
うっそー!

西田:
いや、それは本当だよ。確かに『シェイプアップ乱』だったよね。あれ、でも中川君も『シェイプアップ乱』なんて読んでいたの? 確か、あれはオレが大学生になるぐらいの時の漫画だったよね。

中川:
1984年ぐらい、オレが11歳とかの時に読んでいましたよ! いやぁ、よく覚えているのが「岡本ダロー」という天才インチキ芸術家がいて、そいつが「黙考」というテーマで作品を作ったのですが、なぜかアソコが屹立している像を作り、意図を聞かれて「もっこうり」とか言い、美術界を追放された、という話があります。

西田:
あったあった(笑)。

中川:
どや! 西田さんは「もっこうり」も理解しているんだぞ!

山内:
キャー素敵!

西田:
あのさ、中川君、そういう方向に持って行かないでくれる?
まぁ、面白いんだけどさ。で、オレはネットのスケジュール調整サイトみたいなのを使うのは反対だね。日程を決めるのであれば、ズバリこの日!
と言った方がいい。みんなの都合を聞いていたら、本当に決まりづらい。5人いて、4人が「○」をつけたとしても、5人目が「☓」をつけたりしたら「じゃあ候補日増やしますか…」となり、また決まりにくくなる。だとしたらその場の最重要人物に合わせてもらうとか、あとは最後の方は電話でやれよ、と思うね。
そういった意味で、山内さんは事前にオレに一回電話すべきだった。声を聞いて、会話すべきだと思う。オレ達は今日が初対面なわけで、メールをし合うのもいいけど、電話ってすごい情報なんだよ。
どんな声の人かが分かるだけで、人となりなど、色々なことがわかる。もちろん、記録に残らないというデメリットはあるけど、電話の方がやっぱり色々なことはサッサと決まる。僕が担当している建築家の安藤忠雄さんは何かあると必ず電話をしてくれるんだよね。或いは手紙のやり取りしかしない。
それは実は合理的、感情が伝わるんだよ。本当にもてなしたい人であれば、会いにいくという手もあるよね。手土産持って、一度だけご挨拶に行く、とか。たとえば「来週の火曜日15時」とか決めると、相手もその時間動けなくなるけど、直前に電話をして、「今日ご挨拶に行っちゃダメですか?」とやる。
「会議が15時からあるからその10分前とかどう?」みたいになればしめたもの。そこに手土産を持って挨拶をする。そうしておくと、会食までがお互い楽しみになるだろうし、当日も最初の緊張感とかが薄れていくんだよね。

オソト:
なるほどですね! 僕も電話します! お土産持って行きます! 金沢名物のゴーゴーカレーのレトルトとか持って行きます!

西田:
今日だって山内さんと初めて喋ったのは「遅れます」という電話をオレがした、まさに会食の直前じゃん。今日は淳ちゃん(中川)がいるから、メールだけでこれまでのやり取りは良かったけど、中川がいない会ではメールだけ、というのはないな。

山内:
ついつい便利なのでメールを使ってしまうのと、あと相手にとってもメールの方がラクなのかな、と思ってしまうんですよね。

オソト:
余計な躊躇をせず、さっさと決め事は決めてしまえ、ということですね?

西田:
そうそう。それでいいんだよ。じゃあ、無事会食の日付が決まりました。
となれば、次はすべては店の選び方が重要になってきます。相手はタバコを吸うのか嫌いなのかを把握したり、とにかく相手がくつろげるように、皆が楽しめるようにしたいものです。
どんなに親しい仲であっても、「特別な会だな。楽しかったな」と思ってもらえるよう、お店の選び方には留意したいね。
もしも行ったことない店を選ぶのであれば、事前に一度行っておいて店と懇意になっておくのもいい。そうすると、ちょっとした融通がきくんだよね。それこそ人数が突然増えても対応してもらえたり、特別な料理を出してもらえるとかそういったことをしてもらえるかもしれない。 あとはお店の雰囲気と、店員の態度がどうかってのは気を遣わないといけないよね。以前、初めて行ったとあるお店で、客が料理の写真を撮っていたんだ。そうしたら、女将が「申し訳ありませんが、ウチは写真をお断りしています」と言ったんだ。そこまでは店のポリシーだから、まぁ、良しとしよう。
本当は事前に言っておいたり、注意書きをどこかに入れておくべきだけどね。
客は「あぁ、そうですか、失礼しました」とやったのに、なぜかそこに男の板前がやってきて「どういうことだよ! 写真撮りやがって、撮っていいか尋ねるのが常識だろ!」なんて言い出した。こりゃないよね。雰囲気悪過ぎ。だからこそ、本当は自分が行っている慣れ親しんだ店を選んだ方がいいんだよ。

中川:
店選びの基準は分かったのですが、それをいかに伝えるか?
って点についてはどうですか?

西田:
グルメサイトのURLだけで連絡するのは絶対にダメ。というのも、スクロールしないと住所がなかなか出てこないんだよね。必ず店の名前、住所、電話番号をメール本文に入れておいてほしい。さらに詳しい情報はグルメサイトでどうぞ、って感じでリンクを入れて欲しい。オレはグーグルマップを使っているんだけど、やっぱり住所がメール本文にあればすぐコピペして、グーグルマップに入れられる。そういったことも考えた方がいいよね。わざわざリンクへ飛び、宣伝を見て、ようやく地図に辿りつけるってのは急ぐ時とかは煩わしいものだよ。

あとさ、最近嶋(浩一郎氏=博報堂ケトルCEO)が言っていたのが、「『この店は口コミサイトで3.8なんです!』とかドヤ顔で言う若者が増えている」ということなんだよね。彼は「口コミサイトでは2.5だけど、オレにとっては5点です! 10点です! という店を案内してほしい」と言っていたけど、その通りだよね。

中川:
口コミサイトに10点はありません!

西田:
そりゃそうだね、ガハハハハ。でもね、こうした口コミサイトの点数ってのは、あくまでも「みんなが気にしていること」なんだよ。みんなが言ってることは案外正しいけど、オレは「お前」の評価を知りたいんだよね。

会食中、携帯電話・スマホは極力見ないように

――ここで、何かの調べものをすることになり、オソトがスマホを取りに個室の壁際にあるハンガーの方へ歩いて行く。

西田:
オソト! お前はエラい!

オソト:
エッ? 何がですか?

西田:
会食で携帯を遠くに置くのは良ポイントだよ! プラス4000万ポイントだ! 5000万ポイントで小皿と交換してあげる。人が大勢いるのに、チラチラチラチラ携帯ばかり見ている人ってのが必ずいるんだよね。携帯いじってても声は聞こえてるから、当人は参加してるつもりなんだけど、周りから見るとそんなにつまらないのか? って思わせる。その点キミはこの場に集中しようとしている。エライ! だってね、初対面で会ったばかりで携帯ばかり見てるとゲンナリしない? あとはトイレから戻ってきた時に携帯を見てるのもちょっと残念。だからオソト、キミが携帯をこの席で排除しようとしたのは良ポイントだよ!

オソト:
あざーっす!

西田:
あざーっす! ってなんだよ。さっきの話に戻るけど、みんなが決めたものってのは面白くないんだよ。若者は相対的に生きているし、インフラがそうなっちゃったら仕方ない面もあるけどね。ところで『ブレイキング・バッド』っていうドラマ観た?

3人:
(一斉に首を横に振る)

西田:
全米で21世紀で最も視聴率を稼いだドラマなんだ。
それこそ視聴率は三十何パーセント。まさにキラーコンテンツ。それをオレが会食の席で心を込めて説明するわけですよ。オレは説明は案外うまいし、作品の魅力はちゃんと伝えているんだけど100人に説明しても5人しか観ないものです。
みんな時間がない。時間がないからそんなドラマなんて関係ない、と決めているんだよね。一本の素晴らしい映画を見つけるために100本観てもいいのに、口コミと★の数だけを気にしている人は「みんなが観てるから観る」という判断をしてしまう。
西武百貨店の「会う、贅沢。」とかのコピーを書いた岩崎俊一さんの傑作コピーに「贈るものには汗をかけ」というのがあります。プレゼントするってのは、「お金を払ってあなたにあげるからいいでしょ」じゃないんだよね。
あなたが喜ぶものをどれだけ汗をかくかが重要だ、ってことを岩崎さんは言っていたんだ。だからこそ、会食の場所や会の設定についても見えないところで汗をかく。「あの人はここまで考えてくれたのか…」と思えるのがおもてなしですよね。「贈るものには汗をかけ」という見えない努力はやがて相手に響くものだよ。

オソト:
山内さんは店選びにあたって、どんな「汗」をかいたのですか?

山内:
西田さんに関連したSNSをくまなくチェックしたりして、「幅広く色々召し上がられてたな」とか思い、色々悩んでいました。

中川:
途中オレの方から西田さんの好みとかを伝えたのですが、これってどうなんですか?

西田:
いや、それが正しいんだよ。SNSを見るぐらいだったら、中川に聞け、と思うよ。だって、SNSに書くことって楽しそうに見えることしか書いていないワケでしょ? 本当のことはよく分からないわけなのよ。SNSに頼るんじゃなくて、「詳しそうなヤツに聞く」というのも一つの手だね。

酒は無理して飲むな

――ここでオソトが追加のハイボールを頼み、飲もうとする。

西田:
キミはそんなに酒は強くないんだろ?

オソト:
はい。

西田:
だったらそんなに飲まないでいいよ。

オソト:
でも、西田さんと中川さんがガンガン飲んでいらっしゃるのでそれに追いつかなくては、と思いまして。

西田:
そんなことはしないでいい。お酒は自分に合った形で頼めばいい。ソフトドリンクが飲みたかったらそれでいいんだよ。無理して飲んじゃダメだよ。

オソトのハイボールに蓋をする西田さん

会食でもてなすポイント

中川:
会食でもてなすポイントってどこにありますか?

西田:
多くの人が間違いがちなのが「オレって面白い」「私って面白い」ことを伝えたがるってことだね。あとは「笑わせたな」「面白がらせたな」「言いたいこと話せたな」ということを重視する。
でもね、そうじゃないんだよ。むしろ「私がどれだけあなたに興味あるか」を伝えるべきで、自分の面白さを伝えるのではなく、相手の面白さを伝えるもの。自分の自己主張をする場ではないんだ。
あくまでも「あなたに興味あります」ということが大事。大袈裟に言うと「あなたの伝記を出版します」という前のめりなインタビューのつもりで話しをしましょう、ってこと。相手に対して興味を示しています、というのを示さなくてはいけないのです。
自分の話だけされて会食が終わったらがっかりですよね。ものすごいキラーコンテンツを持っていればさておき、そんなことは滅多にない。下調べはそこまでいらないけど、「なんでこの仕事をしたのですか?」とかを相手にしゃべらせる。そうすると、相手は自分を好きになってくれます。
編集者はそれをいつもやってるんだよね。編集者は下調べはすごくしているけど、知らないふりをしている。 要するに、会食がなんとなくシラーっとしないためには質問攻めしかないんだよ。畳みかけるように「これってどういうことですか!」と就職のOB訪問で相手に質問攻めにしている感覚でやるべきだね。相手の話を聞き出し、相手を理解するというミッションを達成しなさい。そのための会なんだ。相手が年上であろうが年下であれ、どれだけ才能があろうが、「あなたを根掘り葉掘り知りたい」とやれば、気が付くとその人はあなたの胸の上で小鳥のように寝ているのです…これ、倉本聰の脚本にあった一節です、どうでもいいけど…。

とにかく相手に興味がある、というのを過度に見せるのが重要です。質問攻めにしたしたうえで初めてあなた自身の自己紹介になるんじゃないの?
あなたのことを知りたいから、あなたのことが好きだから会っている、ということを知ってもらう。 自分が好きなもの、関心あるものを話すだけで受け入れられると思ってはダメ。たとえば、オレはBRUTUSという雑誌をやっている、と言うわけですよ。すると「今月号は面白かった」と言われても、傷つくんですよね。

オソト:
なんでですか?

西田:
BRUTUSって隔週誌だからだよ。「今月号ってなんだよ」ってなる…すごく小さいけど(笑)。自分語りになると、こういった話になってしまい傷ついたりもするので、「だったら相手に興味を持て」「相手にいかにすきになるかを重視しろ」ということをオレは心がけている。おもてなし、会食というのはそういうものだよ。結局、相手に吐露させるというのが一番の勝利だね。

――ここから、オソト・山内が西田さんの「尊敬する人」「夢」など約1時間にわたって質問攻めに。それはここでは一旦置いておきます。それでは締めへ行きましょう!

会計がなかったかのように終わる

西田:
まぁ、色々オレも今日は会食について語ってきたけど、とにかく店を前日に決めるのはダメ。店選びで迷うことはあるとは思うけど、オレだってどこにいるかは分からないじゃない。今回は中川仕切りだからOKだけど、普通はそんな「前日」なんてありえないからね。

中川:
会食の後のアフターケアってのはどうすべきですか?

西田:
オレも中川と同じで博報堂出身なんだけど、先輩におごってもらったら、朝イチでどう伝言を残すかってのに勝負賭けていたところあるよね。僕は新入社員研修で、「博報堂は良くも悪くも優等生」というのを教わって、びっくりした…自分で言うか…と。電通みたいに、エグいこともやりながら、仕事を取るというタフさはないけど、優等生としての振る舞いは教えてくれる。たとえば、「おごってもらったら翌日9時半の定時に『ごちそうさま』と言え」とかね。
今はメールもあるし、簡単に言えるじゃない?
でも、今は連絡がないことが多い。何日もメールが来ないとだめだよね。オレは24時間以内に、ちゃんとブルータス西田、と書いてメールをするよ。

中川:
会計ってどうするのですか?

西田:
わからないのがいいよね。すごいのは、たとえば、こっちはおごろうとしてるわけですよ。会食の時、「そろそろ次に行きますか」となる時に会計をしようとするとたとえば電通の若いヤツは「あ、もう終わってます」というのがすごい。本当に気がつかないうちにやっている。今回の会計も目の前で「ぐるなび」で領収書をもらったら興ざめ(注)。なんとなく終わって会計がなかったかのように非現実的に終わるのがいい。
(注)実際はぐるなびで領収書は切ってません。全部中川が原稿料から出しています(笑)
そしてさ、こうして会計が終わった時に「これどうぞ」なんて言われて銀座「若松」のあんみつを渡されたりするの。会食というのは、お互いがうっとりというのがいいよね。

――こうして山内は後日、マガジンハウスに手土産を持って西田さんに挨拶に行ったのであった。

 

BRUTUS西田善太編集長が教える「会食」幹事道

その壱:
メールの「件名」は中身の予想がつくものに

その弐:
「宴会」という言葉はお遊びっぽく聞こえるのでNG。「会食」と言おう

その参:
面識がない場合、誘った側から一度ぐらいは電話をしよう

その四:
店に関する情報はURLだけではダメ。住所や電話番号も貼り付けておこう

その伍:
主賓が来るまではドリンク類は頼まない方がスマート

その六:
会食中、携帯電話・スマホは極力見ないようにする

その七:
店を選ぶのであればキーワードは「せっかくだから」

その八:
店選びでもっとも大切なのは「場所」。これが一番

その九:
とにかく主賓を質問攻めにする

その十:
少なくとも1週間前までには店を確定させること

その十一:
酒は無理して飲むな

 

著者・SPECIAL THANKS

中川淳一郎(なかがわ じゅんいちろう)

中川淳一郎(なかがわ じゅんいちろう

ライター、編集者、PRプランナー 1973年生まれ。東京立川市出身。 一橋大学商学部卒業後、博報堂CC局で企業のPR業務を担当。2001年に退社し、しばらく無職となったあとフリーライターになり、その後『テレビブロス』のフリー編集者に。企業のPR活動、ライター、雑誌編集などを経て『NEWSポストセブン』など様々な、ネットニュースサイトの編集者となる。主な著書に、『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『ネットのバカ』(新潮新書)、『夢、死ね!』(星海社新書)、『縁の切り方』(小学館新書)など。割と頻繁に物議を醸す、無遠慮で本質を突いた物言いに定評がある。ビール党で、水以上の頻度でサッポロ黒ラベルを飲む。

意識の高い常見陽平氏の貸切パーティ幹事道【第九回】

意識の高い常見陽平氏の貸切パーティ幹事道【第九回】

ガジェット通信により、「ネット流行語大賞2015上半期」の候補作が発表されたが、その中に「意識高い系」という言葉が入っていた。「意識高い系」研究といえば、以前の「意識の高い飲み会の幹事道」

で教えを請いた「若き老害」こと常見陽平氏 http://www.yo-hey.com/ が第一人者である。同氏は千葉商科大学国際教養学部専任講師、コラムニストでもあり、『「意識高い系」という病 ~ソーシャル時代にはびこるバカヤロー』(ベスト新書)がある。

常見氏の教えのお陰で、私も最近は意識の高い飲み会を日々実践するようになったのだが、ある日、常見氏から「キミはまだ甘い」と叱られてしまった。

中川:
常見さん、常見さん、どうしてですか?
なんで私は甘いのでしょうか?
私も常見さんの教えにより、「意識の高い幹事道3段」ぐらいは習得したと思っていたのですが、まだ有段者になっていなかったのでしょうか?

あのねェ、チミィ!
段がもらえるようになるための最終試験のようなものがあるんだよ。その試験をパスし、そこからさらに研鑽を重ねることによってようやく「初段」がもらえるんだよ。いきなり「3段」とはキミも「意識高い系」をナメ過ぎていないか?
おっ、丁度、その最終試験的なパーティを私が仕切るのだが、チミも来ないかい?

中川:
えっ!いいんですか!

あぁ、構わないよ。他ならぬキミからのお願いだ。私も会場に一席増やすように伝えておくよ。もう25人の予約が入り、現在は断るのがタイヘンな状態になっているらしいゾ!
私も問い合わせに対しては、泣く泣く断っているんだ。

中川:
あ、ありがとうございます!
と、ところで常見さんは何を開催するのでしょうか?
ドキドキしてきました。

ズバリ、「意識の高い貸切パーティ」だよ!

しかも私が「一日料理長」を務めることになったので、意識の高さはさらに高まった。これぞ有段者のなせる業だ。8月8日、「フジテレビの日」に「大人cafe&Bar usa usa」でやるから、いらっしゃいよ。18時半開場、19時開始なので、18時15分くらいの仕込み段階から私の幹事道をお話しよう。

中川:
えーっ!それは楽しみです!
つ、常見さんは何を作る予定なのですか?

フフフフ、それはまだ言えないな。当日のお楽しみとしておいてくれたまえ。

というわけで、8月8日、千歳船橋の「大人cafe&Bar usa usa」へ。

大人cafe&Bar usa usa

看板も出ています

中川:
つ、常見さんは、普段から料理はしているのですか?

私は家にいるときは全部、食事を作っているのだよ。夕飯については、私が外食をする時であっても、妻の分は作っておくのだ。妻の元気は私の元気だからな。加熱すれば食べられる状態にしておくのだ。こうすれば愛する妻の手間をかけずに済むからね。

今日のメニュー

中川:
今日のメニューはなんでしょうか!

結論から言おう!
ちゃんこ鍋、ばくだん納豆、カニクリームパスタ、シーザーサラダだ!

中川:
おぉぉ、意識高い!
しかし、常見さん、どうして常見さんは料理をしながらショルダーバッグをかけているのですか?
意識が高い料理人は料理中もショルダーバッグが必要なのでしょうか?

いいところに気付いたねぇ、キミ!
貴重品が入ってるんだよ。コレ。

ちゃんこ鍋作り

中川:
今、常見さんはちゃんこ鍋の仕込みをしていますが、この料理のポイントを教えていただけませんでしょうか。

これはねプロのちゃんこ料理屋から学んだ作り方を踏襲しているんだ。「ソップ炊き」というやつだ。ソ●プランドとは関係ないから妙な想像をしてはダメだよ。水泳のイアン・ソープともね。ソップとは「スープ」の略なんだよね。

中川:
むしろ言いづらくなっているような気も……。

ガハハハハ、気付いたか。でもね、もう一つ意味があってさ、相撲では「ソップ体型」と「あんこ体型」ってのがあるんだ。「あんこ体型」は昔の北の湖みたいな感じかな。今でいえば遠藤みたいな感じのどっしりとした体形ね。
「ソップ体型」は、新弟子に多いんだけど、ガリガリの力士のことね。この力士を大きくするために、「ソップ炊き」を相撲部屋では出すんだってさ。

私は今、鶏ガラを3羽分この鍋に入れているけど、これがちゃんこ鍋のベースとなるスープだよ。
他には北海道・日高産の昆布、ニンニク、ネギの青い部分、セロリを入れている。これはラーメンのスープにもなるほどのものなんだよ。セロリを入れると鶏のアクを取ることができるそうだね。
1~2時間ほど煮こんだら、醤油、酒、ミリン、砂糖でスープを完成させるッ!

中川:
うわっ、意識高いですねぇ!
具材はどうするのですか?

可能な限りの野菜を入れるね。ちゃんこ鍋の定番野菜だけでなく、「そんな野菜も入れるのかッ!」というものも入れるよ。
案外ウマいのが、ナス、ピーマン、タマネギ、キャベツだね。食感に変化をつけるために糸コンニャクも入れるよ。あとはスープを吸ってくれる油揚げ、ゴボウのささがきとかもね。
おっ、鶏が柔らかくなってポロポロほぐれるようになったか。ここでガラは取り出してしまおう。

意識の高い国産豆腐と「桜井俊雄氏」生産の舞茸

中川:
このスープだけで食べるってことですね。うわぁ、ヘ●スですね。

お前、オレが大学生の時言ってたレベルの低いオヤジギャグ使うんじゃねぇよ。そこは「ヘルシーですね」だろ、ナニコラ、タココラ!
もちろん個々人の好みに合わせてポン酢を入れても醤油を追加してもいいよ。締めにはうどんだね。あとは餅もいいね。雑炊だとペロリといけるよ。

ちゃんこ鍋完成!

ばくだん納豆作り

中川:
さて、続いてはばくだん納豆ですが、最近常見さん、これにハマっていると聞きましたが、それは事実なのでしょうか!

ウニを配置する常見氏

あぁ事実だよ(と声を潜める)。
基本的には「多種多様な具材と納豆を混ぜて、海苔を巻いて食べたり、手巻き寿司風にする」料理ってことだね。これらを皿に乗っけて、スプーンでごちゃまぜにする。好みで醤油をかけるんだ。あっ、みじん切りのネギは忘れないでね。

中川:
あれ、常見さん、玉子は黄身だけ使うと言いましたが、白身はどうするのですか?

今回は5皿分つくったけど、白身はこうして飲んでしまう!
私は肉体派論客を目指しているので、玉子の白身を積極的に摂取したいのである。

ばくだん納豆完成!

ばくだん豆腐をかき混ぜた様子

手巻き風で食べる人も

ご飯にかける人もいた。

カニクリームパスタ作り

中川:
はい。続いてはカニクリームパスタですが、これはどうやって作るのでしょうか。

缶詰を使うのもいいけど、ここはやはり意識高く、生のトマトを使いたいね。
しかも、かじるだけで甘いやつ。今回は北海道のトマトを使ったぞ。 そして、高級ズワイガニタラバガニだ!

今の時期は旬ではないので買うのがけっこう大変だった。ばくだん納豆のウニもそうだけど、北千住の丸井のデパ地下で買った。そういえばさ、大学で東京に来た時さ、周囲の地方出身者は自分がいかに東京に詳しいかマウンティングするじゃん。

中川:
確かにありますね。

その中にさ、某地方都市出身のヤツがさ、「国分寺のオイオイ前に18時集合だゾ」なんて言ってるわけよ。みんなポカーンとしてるんだけど、東京のヤツが「おい、お前、それって『マルイ』じゃねぇのか?」って突っ込んでさ。

中川:
あぁ、「OIOI」を「オイオイ」って読んでしまったんですね。

おいおい、って感じだったよ。ガハハハハハ!
ちなみに私は北海道出身だ。

中川:
ガハハハハハ!
あっ、パスタの作り方教えてください!

おいおい、いい指摘だね。フライパンオリーブオイルとみじん切りにしたニンニクを入れる。
その後、トマトをつぶす。そして、生クリーム、ほぐしたカニの身を入れて最後に塩胡椒で味を調える。ポイントは生パスタを使うところだね。
スーパーでも売ってるよ。私は「リングイネ」というやや幅の広いパスタを使うね。主張の強い幅の広さが主張の強いカニとクリームとトマトにピッタリだね。

生のリングイネ

カニをほじる常見氏

中川:
そうそう、乾麺と生パスタの違いってなんなのですか?

生パスタはまずはアッー!という間に茹でられるので、今日みたいに大人数の人がいる時にはオススメだ。あとは、独特のモチモチ感がたまらないね。

カニクリームパスタ、完成!

シーザーサラダ作り

中川:
最後のシーザーサラダですが、これのポイントは?

シーザーサラダはここにいる私の美人妻が作るんだけど、私から説明しよう。ポイントはだね、自家製のクルトンを使うことだ。

中川:
えっ?
クルトンなんて自分で作れるんですか!

簡単だよ。フランスパンをちぎり、レンジでチンすればいいんだ。ほら、見せてあげよう。

(と思ったら見つからない。血相を変えて探しまくる常見氏。駐車場に止めた車まで戻っても見つからなかった。そして、戻ってきた後……)

見つからなかったよ。残念だ

(あとで、お店のソファの横にあるのを発見)

まぁ、一応念のために市販のクルトンも買っていたので、これを今日は使うことにしよう。使う野菜はだね、サニーレタス、水菜、トマト、最後にクルトンと薄くおろしたペコリーノ・ロマーノをかける。そしてだね、市販のシーザードレッシングもいいけど、ここは是非とも自分でシーザードレッシングを作ってみたい。作り方は生クリーム、アンチョビ、ニンニクすりおろし、オリーブオイル、ワインビネガー、レモン汁、胡椒を混ぜると良いよ。アンチョビの味が出るので、塩はいらないね。

差し入れのお酒

あとは、僕の差し入れのお酒がポイントだ。
新潟でゲットしたレアな日本酒沖縄の人からもらった古酒、奄美大島で買ってきた黒糖焼酎とかね。こういうお酒があると、みんなが喜んで盛り上がるだけでなく、お酒に詳しい人が知識を披露するキッカケにもなるのだ。

総勢25名のお客さん

こうして常見氏のレシピはすべて決まったのだが、続々とお客さんがやってくる。総勢25名は来ただろうか……。男女入り乱れて、次々と振る舞われる料理に舌鼓を打つ。
40代前半にしか見えない59歳女性や、明治大学の飯田泰之先生にフリーライターの赤木智弘氏、革命的非モテ同盟のマーク・ウォーター同士や鮭缶氏などが酒を飲み、カラオケをし、大盛り上がりとなったのであった。

盛り上がる様子

ばくだん納豆については、ご飯にかける人も出るなど、各人が各人の楽しみをしていた。
「海苔」についてだが、「この海苔はウマい!」と各所で絶賛されており、食べた人からは「10枚2000円ぐらいするんじゃないですか?」と聞かれ、常見氏の美人妻は「いや、『まるはなのり』と言いまして、通販で400円です……」と少しはにかみながら答えたが「本当においしいんです!」とご本人も絶賛。

常見氏のちゃんこ鍋の特徴

常見氏のちゃんこ鍋の特徴は、材料とスープを次々と足していくことである。
第一陣を大皿で出した後は、スープを追加し、そこに鮭の切り身をドバドバと加えた。その後、豚肉を加えたり、エビを大量投入するなど、後半は様々な食材がまざった玄妙なる味わいとなったようである。

継ぎ足し用のスープは別の鍋に

カニ投入

エビ投入

25人ですべてを完食し、終了後は常見氏が来場者とともにカラオケに興じ、こうして意識の高い貸切パーティはお開きを迎えたのだった。

食材については「ウニとカニとイクラが高かった!」とのことだが、「でも、貸切パーティなので、少しはおトク感があった方がいいじゃないですか。このくらいの食材は入れておくべきでしょう」(常見氏)とのことだ。
ばくだん納豆の評判がすこぶる良かったが、なんと、最後に常見氏の美人妻がコッソリと私に耳打ちしてくれた。

こういった料理を振る舞う場所で大事なのは、『うわーっ』ってなる色合いとか食材を入れることです。ばくだん納豆、皆さん『すごい!』とか言って下さいましたが、簡単にできるのですよ(笑)
こういった一品も混ぜておいた方が作る側はラクかもしれませんね」

常見氏は妻のそんな気遣いを知ることなく、近藤真彦を歌い続けるのであった。

常見陽平が教える意識の高い貸切パーティの幹事道

その壱:
日々、プロの料理人を参考に、貸切パーティで使える料理のバリエーションを増やしておこう

その弐:
食材は「北海道産のトマト」「北海道産の米、ゆめぴりか」みたいなブランドモノを用意しておくと非日常感を味わえる

その参:
一気に出せるような鍋料理などは、大人数に料理を出すにあたってはオススメ

その四:
「ばくだん納豆」のように、最後は参加者が自分で仕上げる料理があると、会話や交流のきっかけになる

その伍:
みんなが会話の輪に入れているかどうかを確認

その六:
こだわりの酒などは、参加者がうんちくを語りたくなるので、やはり会話のキッカケになる

その七:
「うわーっ」ってなるような見た目が派手で豪華食材の料理を用意しよう

著者・SPECIAL THANKS

中川淳一郎(なかがわ じゅんいちろう)

中川淳一郎(なかがわ じゅんいちろう

ライター、編集者、PRプランナー 1973年生まれ。東京立川市出身。 一橋大学商学部卒業後、博報堂CC局で企業のPR業務を担当。2001年に退社し、しばらく無職となったあとフリーライターになり、その後『テレビブロス』のフリー編集者に。企業のPR活動、ライター、雑誌編集などを経て『NEWSポストセブン』など様々な、ネットニュースサイトの編集者となる。主な著書に、『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『ネットのバカ』(新潮新書)、『夢、死ね!』(星海社新書)、『縁の切り方』(小学館新書)など。割と頻繁に物議を醸す、無遠慮で本質を突いた物言いに定評がある。ビール党で、水以上の頻度でサッポロ黒ラベルを飲む。

ハプニングは明るく対応せよ!メガネ女子に学ぶモテる幹事道【第八回】

ハプニングは明るく対応せよ!メガネ女子に学ぶモテる幹事道【第八回】

1970~80年代にかけ、「メガネ女子」は漫画の中ではブサイクの象徴だった。
それが証拠に、「メガネを取ったら突然モテる」といった演出が多々見られたのである。『ハイスクール!奇面組』(新沢基栄)に登場する「意地川塁(いじがわ・るい)」などはその典型だ。

しかし今や昔、メガネ女子は美人だらけである。私の独自調査によると「メガネ女子の方がむしろ好き」という男は62.5%にも達する。そんなモテモテの彼女達はきっと男から多数のアプローチを受け、様々な宴会を経験していることだろう。

しかも、かつての勝手な偏見による「ブサイクイメージ」を過去の先人達とともに払拭し、今の栄華を誇っているのである。ようやく勝ち得た現在の立場から、我々モテない男どもにモテる方法を教えてくれるはずである。

本日は「メガネ女子に学ぶモテる幹事道」をお届けする。
この日、私は旧知の友人・北田氏とともに、我々の職場近くの居酒屋・「極楽酒場げんてん」で二人してくだをまいていた。

中川:
なんかよぉ、世の中には男と女が同じ数だけいるのに、どうしてオレらはこんなにモテないで、いつも男同士二人で飲んでるんっスかね?

北田:
そうッすよ!
世の中は理不尽っスよ!
それなのに、周囲にはカップルだらけで、しかも、合コンやってるヤツだってそこらじゅうにいるじゃないっスか!

中川:
オレなんて最後に合コンをやったのはもう17年前だぜ!
チクショー!
他人の幸せ、許せねぇよな。

北田:
そうっスよ!
オッ!
中川さん!あそこに女子3人組がいますよ!
合流しましょうよ!しかも、オレらが大好きなメガネ女子ですよ!

中川:
うぉぉぉぉ!! メガネ女子! 小生大興奮!! 北田さん、頼んできてくれよ。

北田:
中川さんの方が年上なんだからやってくださいよ。僕、恥ずかしがり屋なんっス!

中川:
しょうがねぇなぁ、じゃあ、オレ、恥を忍んで行ってきますよ。ったく、一生でこんな経験初めてですよ……。

3人:
かんぱーい!(※今回は誰が誰なのかは特定しません)

中川:
あのぉ、す、すいません。

加奈子:
はい?

佳子:
えっ?

みのり:
……。

中川:
オッ、オレ達、モ、モテないでいつも二人でくだまいてるんですが、き、今日はオレ達も皆さんの宴会に混ぜていただけませんでしょうか。

3人:
(顔を見合わせ)
まぁ……、しょうがないわね。かわいそうだから、こちらへいらっしゃいよ。


中川:
おぉぉ! 北田さん、こっち来ていいってさ!

北田:
うぉーーーーっ! や、やりました! よろしくお願いします!

中川:
き、今日は、オレ達に「どうすれば女性からモテる宴会ができるか」を教えていただけませんでしょうか。

加奈子:
いいわよ。

中川:
ところで皆さん、なんでメガネなんですか?

みのり:
視力悪いから。それ以外何も理由ないけど。後で3人女の子来るけど、その3人も全員メガネだから。

北田:
マジっすか! 僕、メガネ女子好きなんです! うわー! メガネ女子が6人も!

(乾杯の儀式、注文が色々終了。ここで一旦頼んだものを紹介しよう。彼女達はこの店は初めてのため、まだ何も頼んでいなかった。よって中川がすべて「嫌いなものは何かありますか?」と聞いた上で一気に頼んだ)

(お通しのサラダ。上に乗っかているのは春巻の皮を揚げたもの)

(刺身盛り)

(モツ煮込みガーリックトースト付き)

(坦々モヤシ)

(カニ味噌甲羅焼き)

(アジフライ)

中川:
ところで、初対面でいきなり「次、二人で飲みに行きませんか?」って誘われたら行くものですか?

佳子:
私は日経エンタ!の編集委員の品田英雄さんみたいなステキな細見でメガネでヒゲであまり男くさくない人だったら行く。つまり、好みのタイプだったら行くわ。危険そうじゃないけど、「チョイワル」な感じがいいです。

加奈子:
私は2人はちょっとね……。4人くらいだったら、おいしいお店だったらいいですよ。おいしくて、あとはお酒の種類が多い方がいいです。あれ、これって女子的には違うのかな?

みのり:
ちょっと料理がこっているとか、お洒落なお店ってこと?

加奈子:
おしゃれじゃなくていいです。私もそれなりの年齢なんで、この年になったら、ジャンクなものよりも、もう少し美味しいものが食べたいです。グルメじゃないけど、気を遣ったような。旬のものがあると嬉しい。

佳子:
私も似ていますね。ジャンクはダメで、気を遣ったものというか、お肉よりも野菜とかにいっちゃう。もちろん肉とか魚とかあってもいいけど、野菜がなくちゃ落ち着かないんです。バーニャカウダとか、「畑育ち」のものがあった方がいいです。

みのり:
私は話題の店がいいですね。dancyuで見たとかテレビで見たとかそういったものがいい。あとは、『孤独のグルメ』(テレビ東京)に出たお店とかね。

加奈子:
わかる~。

佳子:
『孤独のグルメ』のお店にはくいついちゃうよね。

中川:
『食の軍師』(TOKYO MX)はどうですか?

3人:
見てな~い!

中川:
じゃあ、こうして5人で食べたとしましょうか。私はこの店は何度も来ているのですが、何を頼むのが正しいのでしょうか? 或いは、幹事はどのようにして最初の注文をすべきなのでしょうか?

みのり:
メニューを見ていて、私達が言ったものを忘れないでほしい。皆が色々頼みたいものを一斉に言うじゃないですか。すると、最初の方に言ったものを忘れてしまう幹事って多いんですよ。そうなると「言ったのに!」みたいになります。そりゃ、覚えるのは大変だけど、「私のお願いしたアレは?」と言うと「いっぱい頼んじゃったからもういいじゃん」的なことを言われるのはイヤです。

加奈子:
さっき、中川さんがやったみたいにサクサク注文してほしいです。ステキ! 「なんでもいいよ」と言われると困ります。だって、初めてのお店って何がおいしいんだかわからないので、分かっている人に適当にやってもらった方がいいです。嫌いなものは? とだけ聞いてくるあの振る舞いはステキだと思いました。最初の何品か頼んだ後、宴会が少し進んだら、「好きに頼めば」と言ってほしいです。

北田:
ちょっとちょっと! 中川さん、ホメられてるじゃないですか!


中川:
ガハハハハ! ドヤ! ワシの長年の宴会道を見たか! あと、他に「この人ステキ!」ってタイプはいますか?

佳子:
店員さんを呼ぶのがうまい人。声が通る人がいいなぁ。あとはタイミングですよね。「すいませーんすいませーん」と絶叫するのではなく、ふとした瞬間に目が合ってスマートに上手に呼んでくれる人。わたしは声が通らないので、呼べなくて「アワワワ」みたいになっている時に気付いて呼んでくれる人はステキ。

北田:
(突然低い声になり)スイマセン、お願いします。(と店員を呼ぶ。店員、すぐに気付きニッコリとこちらにやってくる)

佳子:
そうそう、代わりに言ってくれるとステキ。「あらいいわね」となります。

中川:
じゃあ、男はどんな酒を飲むと良いか、とかってありますか?

みのり:
飲むお酒はなんでもいいですよ。ただ、かわいいカクテルはダメ!ブルーハワイとかカシスオレンジとかね。隣の席で女の子とデートしてる男がカシスオレンジを一杯目から頼んで「えっ?」ってなっちゃった。

加奈子:
カシスオレンジはないね。

佳子:
えぇ~? 私は1杯目がそれでもいいけどなぁ……。

みのり:
一杯目だよ!

佳子:
もしかしたらその人、甘党かもしれないじゃない。或いはお酒が飲めなくて、頑張って一杯だけは飲もうとしてカシスオレンジを頼んでるのかもしれないよ。

みのり:
無理。

加奈子:
限界がカシスオレンジなのかもしれないけど、この前みのり、けっこうそのカップルのこと観察していたんだよ。

みのり:
「あいつ、一杯目からカシスオレンジだよ」、とか言って私が「やめなよ」みたいになりました。

北田:
でも、女性でカシスオレンジしか飲めない人がいるとは思いますが。

加奈子:
それはかわいいじゃないですか。

中川:
まぁ、それは他人ごととして、自分の恋人だったらどうですか?

みのり:
私がお酒好きなので、付き合うんだったら、飲める人がいいな。

佳子:
そうだよね。私は飲むから、飲めない人からは冷めた目で見られた経験があります。でも、正直烏龍茶とか飲んでるとつまらないです。彼からは「まだお前、酒飲み続けるのかよ、チッ」とか言われたりして……。

加奈子:
同じぐらいの酒好きがいいよね。

中川:
あと、宴会でスプーンとフォークを片手で使って盛り分ける男って時々いるじゃないですか。あれはカッコいいんですか? オレはできないんですけど。

佳子:
かっこつけてるけど寒いな、痛いな、というしぐさです。

みのり:
片手でやってうまければいいですけど。「こうやればいいじゃん」とか進めてくるのはダメですね。正直片手は難しいですよね。私も練習しましたが、まだできません。

加奈子:
器用な男の人はやればいいと思います。

ここでメガネ美人3人追加

直子:
直子でーす!

萌:
萌でーす!

亜美:
亜美でーす!

(一応趣旨説明。女子6人は「きゃー、久しぶり!」とか色々やっていたので私と北田氏はしばらく蚊帳の外)

直子:
さっき話していた続きするわよ。私がイヤなのは、口をペチャペチャ鳴らして食べる人。クチャラーっていうの? 食べるのが汚い人はだめよ。食事のマナーがだめよ。この前、本当に躾のできてない熊みたいな人と食べた。もう汚いよぉ~、と思いました。正直、同行者と思われたくない、という感じでした。

萌:
はちみつ取る感じ?

直子:
カレーなんだけど、周りがぐちゃぐちゃなの……。

亜美:
オッサン?

直子:
私よりは少し下だったかな。ちょっと裸の大将みたいな人だったよ。

萌:
さっき皆さん注文の話をしたみたいですけど、私がイヤな注文は、いきなり、おにぎりとかお茶漬けとか焼うどんとか、締めっぽいものを頼むのは、「エッ?」と思います。なんか、自信満々でそれを頼んだんですけど、皆が「エッ?」って感じになっていた。誰も止められませんでした。

亜美:
あとは、女性に取り分けを強要する人がいるのはイヤ!

中川:
そんな時代錯誤的なヤツっているの?

亜美:
オッサンにはいますよ。会社の会とかだと、取り分けられるのをじっと待っている人とかいるでしょ?

加奈子:
でも、取り分けしてくれる男の人は大好き!

みのり:
いいよね。

直子:
普段は私も会社とかの飲み会ではやってますけど、プライベートの時、男性がやってくれると嬉しいですよ。

萌:
自然にね。

佳子:
取り分けしていると、仕事ができそうな人に見えるよね。会社でもちゃんと上の人にやってるんじゃないの? と思うものです。

北田:
こんな配慮をしてほしいな、ってのはありますか?

亜美:
ちゃんと、みんなに話題をふってほしいです。飲み会とはいえ、人間だから、とある一人を気に入るとその人にばかりに話が行くんです。幹事には、みんなに平等に話を振ってほしい。それができているといい人だな、と思います。

みのり:
目配りですね。自然にできるのがいい。

ハプニング発生!

中川:
(北田氏の肩を叩こうとしたところ、間にいるメガネ女子の胸に中川の腕が触れてしまった…)
うぎゃっ! ごめんなさい、あなたの胸に腕が当たってしまいました!

6人:
ギャハハハハハハ!

(胸を触られた当人):
中川さん、これはしょうがないよ。今、みんなも笑っていたけど、こういうハプニングは時にはあるからさ。そういう笑いもありつつ、中川さんみたいに「ごめんなさい」って明るく言え、しかも少し反省しているぐらいの感じに振る舞えると許せるし、それは不可抗力だと思いますよ。

加奈子:
そうそう、逆にむっつりされると気持ち悪いですよ。

亜美:
明るい方がいい。普通に「ゴメン!」みたいにね。

佳子:
逆にボソッと「胸に触れた。失礼しました」とか言われたら怖い。

加奈子:
「ごめん、へへっ、てへぺろ」ぐらいの方がいいです。

亜美:
さっきの中川さんの対応はパーフェクトです!

中川:
いやはや、意外な展開になりましたが、スイマセンでした……。ところで、食後の締めはどんなのがいいですか?

みのり:
店のかって知ってる人に任せたいですね。

萌:
でも、二人だけの時だったら希望は言いたいですね。

直子:
私は炭水化物を占めに食べる習慣はないなぁ~。赤だしのお味噌汁とか出たらいいなぁ。

亜美:
鶏のスープとか?

佳子:
あるある!

加奈子:
全部チャラにしてくれそうな健康な何かを頼みたいよね。

北田:
じゃあ、デザートは何か頼みたくなりませんか?

萌:
デザートって、もう少し長引かせたいな、みたいな時に頼むものじゃないの? つまり、デザートを頼んだ場合は「楽しかったですよ」のサインなんです。

みのり:
でも、「二次会に行くのはイヤだけど、ちょっと帰るのは早過ぎるので少し場をつなぐため」って理由もあるよ。

中川:
じゃあ、デザートを頼んだら帰りたいのかも、って考えてもいいのでしょうか?

直子:
そういう面もあると思います。

中川:
あと、お会計ですが、たとえば男が2人、女が3人で2万円だったらどのくらいの会計比率にすればいいですか?

亜美:
女にはちょっとおまけしてほしいなぁ。たとえば、男の人で半分で、私達3人で半分。だから、トータル2万円だったら男の人が5000円で、女が3300円くらいって感じ?

佳子:
そして、じゃんけんで一人は3400円払うの。

亜美:
あくまでも「きもち」大目に払って欲しいな。

中川:
別れ際ってどうすればいいんですか?

萌:
駅まで一緒に行く人もいますよね。だから、電車で乗る方向を確認して、気があるんだったら行けるとこまで行きますよ。たとえば、今日みたいに渋谷で飲んでいて、その人の家が池袋で、私が中野だった場合は、新宿までは一緒に山手線で行く、とかね。

みのり:
えっ? 怖い。

加奈子:
私も怖い。

萌:
いや、ウチまで送ってくれなくていいんですよ。「新宿なので中央線に乗り換えますね♪」ってやるだけで、「じゃあ、またね」とやるだけです。もし、気があるんだったら、新宿で一旦降りて飲み直すかもしれません。そもそも多少は気がなかったら一緒に電車乗りませんよ。連絡先交換したり、別のところで飲んだり

北田:
たとえば、LINEとかで連絡先を交換した場合、お礼のメールとかってどのタイミングで送ればいいんですか?

加奈子:
すぐだとちょっと面倒くさいから、家に着いたくらいをみはからって「ちゃんとついた?」と聞くぐらいがいいタイミングなんじゃない?

直子:
私はすぐでもOKよ!

みのり:
「じゃあね」と別れて、電車乗ったくらいのタイミングで「今日は楽しかったね」とか、「また飲もうね」とか軽いメッセージが来るといいですね。

中川:
いやぁ、どうもありがとうございました! これでワシらもモテモテです!

メガネ女子に学ぶモテる幹事道

その壱:
オーダーを忘れない。サクサク注文する

その弐:
店員を呼ぶタイミングを掴む

その参:
いきなり締めっぽいメニューは頼まない

その四:
取り分けを強要しない

その伍:
みんなに話題をふる

その六:
ハプニングは明るく対応する

その七:
お会計は「きもち」大目に払う

その八:
お礼のメールは忘れずに

著者・SPECIAL THANKS

中川淳一郎(なかがわ じゅんいちろう)

中川淳一郎(なかがわ じゅんいちろう)

ライター、編集者、PRプランナー 1973年生まれ。東京立川市出身。 一橋大学商学部卒業後、博報堂CC局で企業のPR業務を担当。2001年に退社し、しばらく無職となったあとフリーライターになり、その後『テレビブロス』のフリー編集者に。企業のPR活動、ライター、雑誌編集などを経て『NEWSポストセブン』など様々な、ネットニュースサイトの編集者となる。主な著書に、『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『ネットのバカ』(新潮新書)、『夢、死ね!』(星海社新書)、『縁の切り方』(小学館新書)など。割と頻繁に物議を醸す、無遠慮で本質を突いた物言いに定評がある。ビール党で、水以上の頻度でサッポロ黒ラベルを飲む。

絶対に喜ばれる!一流出版社の編集者が実践する差し入れ術と接待の鉄板店【中川淳一郎の「今も飲んでいます」第八回】

編集者という職業はクリエイティビティが重要とされるものの、それ以上に重要なのが「心遣い」というヤツです。

 

いかにして、取材相手に嫌われないか、大先生のヘソを曲げないようにするか、無理難題を押し付けるデザイナーやライターに気持ちよく仕事をしてもらうか――こういった配慮を延々し続ける仕事なのです。

 

私は2001年にライターになったのですが、当時から同世代の編集者が妙に配慮上手で、こなれている姿を多数見てきました。そして、年齢が上がるにつれ、その配慮っぷりが上がっていくのですね。

 

別の業界の人と会食でもしようものなら、「ここ、口コミサイトで『日比谷×個室×和食』で上位なんっスよ。予約するの大変なんっスよ」なんて平気で言われる昨今でありますが、「これまでの経験と先人の知恵を元にワシは店を選ぶ!」と息巻くのが編集者です。

 

そこで今回は、一流編集者が選ぶ「スイーツのお土産」と、これまでに私ごときではあるものの、出版社の方々に接待をしていただいたお店を紹介しましょう。多分、歴代の編集者で受け継がれた「鉄板」的なお店だと思いますので、皆様もお楽しみいただければ、と思います。

 

 

富ヶ谷のエッグタルト

まずは、小学館の国際情報誌・SAPIOの弥久保薫編集長です。

 

ある日、隣で仕事をしていたのですが、その時に編集者のS君に「お土産といえば、富ヶ谷のエッグタルトだろう」と弥久保さんは言っているのですね。どうやら、校了間近に、デザイン事務所に色々苦労をかけているため、デザイナー女性数名にスイーツを差し入れしよう、ということになりS君に託すことになったようです。

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それを聞いた別の女性スタッフも「あぁ、富ヶ谷のエッグタルトは美味しいですよね」と言うではありませんか。

 

すると、S君は「富ヶ谷ってそんな遠いところ行けませんよ!」と言います。ちなみに富ヶ谷という場所は、渋谷から徒歩20分ほどで、最寄駅は小田急線代々木八幡駅、千代田線代々木公園駅で、それほど小学館のある神保町からは遠くはありません。

 

S君が行くのを嫌がっていたので、たまたま富ヶ谷に行く用事があった私が代わりに買いに行き、エッグタルト6個入りを購入することにしました。

 

「富ヶ谷 エッグタルト」で検索したところ、すぐに「ナタ・デ・クリスチアノ」という名前が出てきます。画像検索をしても相当多数出てきます。ポルトガルの植民地だったマカオの名物がエッグタルトですが、この店もポルトガル系のスイーツ店ですね。代々木公園の駅近くには、同名のポルトガル料理店があり、こちらも評判であることは元々知っていました。

 

行列店であるとの情報があったので、極力早めの時間に行こうと水曜日・開店時刻の10時に行ってみました。

 

するとまだ誰もいない!すぐに注文ができ、エッグタルト6個を購入しました。小学館へ行き、S君に託したところ、すぐにお礼の電話が来て、こう言われました。

 

「いやぁ!いつもムチャを聞いてくれるデザイナーさんが、『あぁぁ!これ、ナタ・デ・クリスチアノのエッグタルト!食べたかったの!』と言い、取り合うように食べていました。本当にありがとうございました!喜んでくれました!」

 

これに気を良くした私は、以後エッグタルトを様々な場所へ持って行くようになるのですが(4ヶ所だけど)、いずれも高評価であります。

 

「パリパリしていて、皮がすごく塩っ気があって、酒飲みの人、甘いものが好きではない人でも食べられます。エッグの部分は、甘くてプリンみたいで、とにかくおいしい!」(30代・ライター)

 

「いやぁ、中川さんからもらった後、飲み会の後に6個ペロリと食べてしまったほどおいしかったですよ! 本当は妻と娘にもあげたかったのですが、ついつい家に帰ってから一人で全部食べてしまいました……」(30代・編集者)

 

「うわ、これ、マジウマい!」(IT企業役員男性・3つ一気に食べた)

 

「何コレ、おいしい! どこの店? タタタタターン(検索の様子。キーボードを打ち、最後に勢いよくEnterボタンを押す)。あぁ、富ヶ谷のエッグタルトね!」(広告制作会社・30代女性)

 

というわけで、「富ヶ谷のエッグタルト」オススメです。あとはまた、この店のチキンパイもビールのつまみに良いですよ

 

 

スイーツに超詳しい某一流出版社の編集者・A氏登場

さて、私個人は大酒飲みのため、まったくもってしてスイーツ類が分からないのですよ。これ以上、自分の体験から語ることはできません。

 

そこで、スイーツに超詳しい某一流出版社の編集者・A氏に聞いてみました。以下、A氏による紹介です。

 

マカロン 

やっぱり、忙しく働いてくださる方へのお土産に持って行くのはマカロンですね。

 

表参道ラ・メゾン・デュ・ショコラや、ピエール・エルメ・パリみたいに、ちょっと名の知れた店のマカロンを持っていきますよ。大体、デザイン事務所に行く時とかは切羽詰まっている時で、編集者が遅れさせていて、デザイナーを待たせているからこちらも申し訳なく思っているわけですよ。

 

 

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 (ラ・メゾン・デュ・ショコラ)

 

だからこそお土産を持って行き、その場でラフ(雑誌等の企画の設計図的なもの)を書いて『私も今仕事していますよ!』、という感じにする。女性が多いところではマカロンが効く。でも、編集者の言い訳に慣れているような事務所であれば、「チッ、女が多いからマカロン持って来ればいいと思ってるんでしょ。まったく」という感じになります。

 

〇〇ロール

そういう時は、地元のどうでもいい和菓子屋の和菓子を持っていく。あとはよくある地元の「○○ロール」みたいなやつです。バニラが強いカスタードが特徴の○○ロールってのがあるのですが、マカロンに飽きた人に対しては、地元のケーキやのどうでもいい商品を持っていくと喜ばれるものです。

 

マフィン

あとは、マフィンも喜ばれますね。ディーン・アンド・デルーカのオレオが乗っかっているマフィンを出しましょう。

「アッー! オレオだ!」というリアクションをもらえれば、デザイナーのやる気を半日引っ張れます。

 

 

クッキー

代々木上原のクルミのクッキーの店。なんだったかな。あぁ、そうだ「西光亭」ですね。あそこのスイーツも女子には喜ばれます。箱もリスの絵が描いてあってかわいいし、メッセージも入れられるんですよね。ここのものを持って行くと「慌てて用意したんじゃないな」ということになり、手間をかけたことを理解していただけます。

 

チョコレートケーキ

あとは、ツッカベッカライカヤヌマのザッハトルテは効きますよ!

 

普通にケーキとか持ってこられても、言い訳やお詫びの品みたいな感じになりますが、ここのは違う。キチンと「あなたに食べていただきたいのです」という気持ちが伝わりますね。シュークリームの某店とか、チェーンのケーキ屋とかはありがち過ぎるのです。ちゃんと一点モノのお店で、その店の看板ケーキを選んで買った感じを出しましょう。

 

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 (ツッカベッカライカヤヌマ)

 

焼き菓子

あとはオーボンヴュータン(等々力)みたいに、欧州の伝統的な焼き菓子が得意なところは重厚な感じがしていいですね。飯田橋のパティスリー カー・ヴァンソンのチョコレートケーキもオススメです。

 

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(オーボンヴュータン)

 

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(パティスリー カー・ヴァンソン)

 

週に2~3日しか空いていないのです。私は「彼氏に刺さるバレンタインチョコ」とかを聞かれた時に紹介しますね。あとは、村上開新堂。紹介がないと買えないお店です。ゼリーとかクッキー、焼き菓子など色々あります。味はさておき、「紹介がないと……」というのが実に重要です。

 

 

甘いものはガリガリ君ぐらいしか食べない私にとってはチンプンカンプンの話ではありますが、ここからは、一流編集者に連れて行ってもらった店を紹介します。これらの店は、「秘密の話ができる」ということも重視されているとお考えください。

 

 

オススメのお店

【麻布六角(麻布十番・和食)】(小学館)

麻布十番のマンションの一室にあるような店。魚だけでなく、ステーキやハンバーグ等肉メニューも充実。特にクリームコロッケと雲丹ごはんが美味。

 

【池上線ガード下物語(大崎・ホルモン焼き)】(マガジンハウス)

あまり形式ばったところには行きたくないですぅ、と伝えたところ、指定されたのがココ。私の大好きな「ドーナツ」(喉の軟骨)があり、これだけでも充分満足!もちろん普通の赤身肉も豊富です。キムチやナムルが特にウマい店でした。

 

【ピークラウンジ(新宿・バー)】(講談社)

新宿のパークハイアット41階にあるラウンジです。基本的にはビールを飲むのですが、じっくり打ち合わせができます。また、パークハイアットに出入りする客を見ることができるため、いわゆる芸能スクープの張り込み場所としても業界では重宝されているそうです。

 

【イーグル(新宿・バー)】(文藝春秋)

バーの名店めぐりをしている時に「ここが一番ホッとする」と連れて行かれたのがココ。古めかしい店で、らせん階段を下っていくとドーンと開けた昭和風な空間。ビーフストロガノフが名物なのですが、タコスやらピザなどもあります。しかし、なんといっても特徴的なのは、サントリーの関係会社が経営しているだけに、ウイスキーが激安。なんと1杯(35ml)250円なのです。

 

【石ばし(江戸川橋・鰻)】(新潮社)

某評論家と対談した後に、予約をしてくれていたお店。鰻のコースですが、なぜか豆腐から開始するのです。個室で出版界の男女のアレやコレやで大いに盛り上がりました。「野田岩」「尾花」と並び称されるウナギの名店の一つとされているだけに、鰻重もフックラおいしくいただきました。

 

【酒呑(乃木坂・和食)】(アシェット婦人画報社)

大食いのお姉さまから連れていかれまして、ウニとイクラがたっぷり乗った細巻きはその見た目のハデさだけで満足してしまうレベルであります。肝をたっぷりまぶして食べるカワハギもこれまた冬の楽しみでありますな、ガハハ。ビールがハートランドの瓶というのも高ポイントです。

 

【トラットリア シチリアーナ・ドンチッチョ(表参道・イタリア料理)】(光文社)

とにかくウマいパスタを食わせてやる! と連れて行かれたお店です。珍しく鹿などのジビエも食べられるほか、当然の如く魚のグリルもウマいのですが、「絶対に頼め」と言われたのがラグーをかけたショートパスタ。いやぁ、茹で方が抜群ですわ、こりゃ。

 

【味彩せいじ(広尾・和食)】(小学館)

あまりアクセスが良くない場所にあるだけに、落ち着いた雰囲気で密談をするにはもってこいです。刺身は新鮮で、私が案外好きだったのが玉子焼きであります。これがビールに滅法合うのですね。

 

【一流出版社社員が教える差し入れ術と会食に最適なお店】

  • その1:「前から用意していた感」を見せよう
  • その2:「あっ、これ食べたかったの!」と言われるほど話題の店を選ぼう
  • その3:間に合わない時は、地元民以外は誰も知らない和菓子屋や洋菓子で購入し、あたかも地元で大人気かのように見せよう
  • その4:何か名物料理が必ずある店を選ぼう
  • その5:値段は高くとも、秘密の話が漏れないような店を選ぼう
  • その6:口コミサイトの情報以外から見つけました! といった雰囲気を醸し出そう 

 

著者:中川淳一郎(なかがわ じゅんいちろう)

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ライター、編集者、PRプランナー

1973年生まれ。東京都立川市出身。
一橋大学商学部卒業後、博報堂CC局で企業のPR業務を担当。2001年に退社し、しばらく無職となったあとフリーライターになり、その後『テレビブロス』のフリー編集者に。企業のPR活動、ライター、雑誌編集などを経て『NEWSポストセブン』など様々な、ネットニュースサイトの編集者となる。主な著書に、『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『ネットのバカ』(新潮新書)、『夢、死ね!』(星海社新書)、『縁の切り方』(小学館新書)など。割と頻繁に物議を醸す、無遠慮で本質を突いた物言いに定評がある。ビール党で、水以上の頻度でサッポロ黒ラベルを飲む。

 

前回までの「今も飲んでいます」はこちら。 

 

「幹事の味方」でも中川淳一郎さん、連載中です。

中川淳一郎さんは「幹事の味方」でも連載中です。こちらと合わせてぜひご覧ください。

ビール党・中川淳一郎が激推し!生ビールが美味しい東京三大ビアホール幹事道【第七回】

ビール党・中川淳一郎が激推し!生ビールが美味しい東京三大ビアホール幹事道【第七回】

三大〇〇

東京三大煮込み」という言葉がありますよね。
北千住「大はし」、森下「山利喜」、月島「岸田屋」がソレです。これは居酒屋の専門家・太田和彦さんが提唱した概念ですが、この「三大」という概念は案外あやふやなものであり、案外個人的嗜好が影響していたり、根拠不明とも考えられます。

「世界三大料理」は「トルコ」「フランス」「中国」で、「世界三大珍味」といえば、「フォアグラ」「キャビア」「トリュフ」で、中国三大珍味が「フカヒレ」「アワビ」「ツバメの巣」です。
日本三大珍味は「ウニ」「カラスミ」「コノワタ」。

世界三大料理になんでイタリア、日本、タイが入ってねぇんだ、オラ、と思うほか、「世界三大珍味」って言ってもフランスだらけじゃねぇか、この野郎、「日本三大珍味」って酒のつまみだらけじゃねぇかよ、と反論したくなるわけです。

故に、ここでの結論としては「三大○○」というものは自由に言っても構わない、ということにしましょう。
恐らく選考委員(存在するのであれば)が「ワシが好きだった」みたいな観点から選んでいるだけだと思うのであります。よって、私も「東京三大ビアホール」を勝手に認定してしまいます。

その時の基準は「ビール注ぎの名人がいる」「ビールに合うつまみが豊富」「酒好きが集う」こととしましょう。
これまで何千回とビールを外で飲んでいますが、オレが「三大ビアホール」と考えるのは下記三軒。
【1】ビヤホール ライオン 銀座七丁目店(銀座
【2】ランチョン(神保町
【3】ビアライゼ'98(新橋

三大ビアホールの魅力

ビアライゼ'98(新橋

改めてこれらのお店の魅力を語っていきましょう。
まずは【3】のビアライゼ’98から。ここは、松尾光平氏という名人がスーパードライの前身ともいえる「アサヒ樽生」を丁寧に入れてくれるのですが、元々サッパリとした「アサヒ樽生」なものですから、いくらでもゴクゴクと飲めてしまう。

私自身、あんまり店の開始時間の直後に生ビールは飲みたくないと考えています。というのも、ダメな店は、前日の残りのビールが出てくるほか、サーバーの洗浄を怠っているのか妙に酸っぱいビールと感じてしまうのです。
以前、某所の「こだわりの食材」みたいな店の生ビールには痛い目に遭いました。食材は大事にしているのかもしれませんが、ビールへの愛情が一切感じられず・・・酸っぱいだけでなく、ジョッキの底には澱が溜まっていくのでした。こうしたハズレを引かないためにも私は現在は飲食店で「瓶ビール」を頼むようになったのです。

一口飲んだ瞬間のあの酸っぱさと、同行の方がそれに気付かず「プハーッ!やっぱ一杯目のビールはウマいね!」と喜んでいる時の複雑な気持ちったらないですよ。
明らかに2つ目以降の樽になった場合はそれほどマズくはないと思うので生ビールを頼むこともあるのですが、泡のキメ細やかさが一切なく、バカでかいツブツブだらけの隣の席のビールを見たら絶対に頼みません。古いビール+洗浄不足+ヘタクソな注ぎ手が揃ったら、もはやその生ビールに価値はない。サッサと瓶ビールに変えるべきです。
いや、店を出ても良い。

今回ご紹介する3店は、こんなことは絶対にないと断言できるお店で、とにかくビールはウマい。
ビアライゼ’98については、メンチカツが名物でして、度々グルメ雑誌等でも紹介されるほどです。巨大なメンチカツは4人で分けても充分なほどで、満足度は高いことでしょう。

なお、私が一番好きなのは「トロトロ豚肉軟骨の沖縄ソーキ」です。
普通の居酒屋ではモツ煮込みやら牛筋煮込みがありますが、それの代わりとしてもオススメですね。

で、画像がまったく出てこなくてすいません。これについては私が記憶で書いているんですよ。改めて取材に平日昼間に行ってみたのですが、生ビールを飲んでいる人がいない。イヤな予感がしつつも席に着いて「生ビールとソーキとメンチカツ」と言おうとしたら、店員のお姉さんが申し訳なさそうな顔をして「昼はこれしかないんです」と言って厚いラミネート加工された1枚のメニュー表をくれました。

メンチカツ¥930
コロッケ¥680
とり唐揚¥780

などと書いてあり、要するに昼は瓶ビールのみ提供する「定食屋」なのですね。
メインのおかずを頼んだら、店の中央あたりのテーブルからサブおかずや味噌汁を取るシステムだったのでした。松尾氏がいないのでそれも致し方ないわけでして、勉強不足を痛感したのでした。料理はビアライゼ’98のものなので、味は間違いなくおいしいのでしょうが、あくまでもビールを飲みに来たのでこの日は退散。
今度はちゃんと夜に伺おうと思います。

ランチョン(神保町

というわけで、そのまま都営三田線に乗り、神保町の「ランチョン」へ。ここは漫画家の東海林さだおさんも絶賛のお店でして、昼間からエビフライでビールを飲む男性のことが羨ましくなった、的なことを以前書いておりました。

私は現在神保町で週に2回仕事をしている関係で、打ち合わせ等でこの店に来ることもあります。昼間から落ち着いてビールを飲める店というのもそれほどないですからね。
それで、この店もアサヒのビールを使っています。頼むのは当然、アサヒの生。他には黒生ビール、レーベンブロイ生ビール、琥珀の時間生ビールがあります。

一緒に頼むのは個人的に最もビールに合うと思う「ベークドポテト」です。「豆チリソース煮込み」と「エスカルゴ」も捨てがたいのですが、今回はこちらで。
後は、東海林さんオススメのエビフライです。こちらは2200円のデラックス価格ながらその巨大さは一度味わってみたいと考え、満を持して初めて頼んでみました。

ランチョンのビールの特徴は、ガシッと蓋をしているかのような泡です。これを作っているのが四代目マスターの鈴木寛さん。いかにして泡を作っているのかを聞いてみました。

――どうやってこの泡は作っているのですか?
鈴木:一度に注ぐのではなく、数回に分けて、時間をかけて注ぐのがポイントです。最初は勢いよく注ぎ、ビールと泡を5:5にします。そこから30秒置きます。それで泡が固くなりまして、2回目ないしは3回目の注ぎで終わることとなります。固い泡はビールの蓋になるんですよ。

――これは、ランチョンで扱っているビールでなくてはできないのですか?
鈴木:いや、そんなことはありません。ご家庭でもできますよ。コツは勢いよく注いだら30秒ほど置き、その後、2回、3回と分けて注げば大丈夫です。

というわけで、この「固い」泡は自宅でも作ることは可能なようです。となれば一杯飲むか。

ゴクゴクゴクゴク、プハーッ、うめぇ!


最初にふんわりとした泡が口に入り、冷たい液体がドバドバと入ってくるこのバランス!
となれば、つまみが欲しくなるじゃないですか。というわけで、今度はつまみに対する考え方を鈴木さんに聞いた。

――ランチョンのつまみは、ビールに合いますよね。どんな考えでつまみは開発したのですか?
鈴木:味は濃くしていますよね。場所が下町ってのもありますが、ビールに合うおつまみにするため、味を濃くしています。より、ビールが進む味です。

――メニューにわざわざ「コーヒーはありません」とありますが、これはなぜですか?
鈴木:コーヒーの香りで生ビールの風味を邪魔されるので、コーヒーは置いていません。

――おぉ! では、さっそくつまみもいただきまーす!

まずやってきたのは「ベイクドポテト」。茹でて薄切りにしたジャガイモに塩味をつけたもを軽く揚げ、細切りのベーコン、タマネギ炒めに加え、フライドガーリックも加わり、ビールが進みまくる一品です。私はここにさらに黒胡椒をかけます。

続いては、エビフライ。20cm超のホワイト海老です。これが二匹、生野菜とポテトサラダ、レモンとタルタルソースがついています。

もちろん尻尾も食べられますし、頭の中のミソ、あとは脚もパリパリと食べられ良いビールのつまみになります。

一緒に行ったライター氏家裕子さんと一緒にパチリ。

生野菜にはランチョンのオリジナルドレッシングをかけます。

ランチョンは午後の3時ぐらいに行くと味わい深いですよ。本を探しに神保町にやってきた人が一人本を読みながらビールを飲んでいたり、どことなく文化の薫りがするのでした。夜は21時ラストオーダーなので早めの来店がオススメです。

ビヤホール ライオン 銀座七丁目店(銀座

最後はビヤホール ライオン 銀座七丁目店。
日曜日の夕方、銀座の歩行者天国を新橋方面に向かっていくと出てきました。ライオンのビルが!

ここは以前取材したことがあるのですが、地下に生ビールの巨大タンクが設置されており、チューブで上の階のサーバーまで繋ぐのです。1934年創業、そして、注ぎ手は名人で、カウンター総責任者の井上克己氏。さらには、「生ビールの達人」として知られる海老原清氏も月・金の19:15からビールを注ぎます。
2005年に「本当にいいもの特集」をやった時に海老原氏には取材させてもらい、2014年に東洋経済オンラインの「行きたいところに行ってみる」的な企画では井上氏の取材をさせてもらいました。

とにかくここのビールはウマい!


ということは分かっていたのですが、甘かった……。夏の日曜日の夕方に入ろうと思うのが無謀でした。満席なのですよ。しかしながら、ここには2階に「BEER&WINE GRILL銀座ライオン銀座七丁目店」もある!

井上氏の注ぐビールではなくなるものの、気を取り直してこちらに変更。何しろ、全身生ビール男になってしまっているので、ここで諦めるわけにはいかないのだ。1階と似たようなメニューを楽しむことができます。そして、な、なんと個室を案内してもらえました! 

8月31日まで「大ジョッキフェア」をやっているので、当然選ぶのはサッポロ黒ラベルの大ジョッキ。大ジョッキを頼めば1杯につき1回三角くじを引けます。なんと、いきなり1等(サッポロ-0℃ ※缶チューハイ)と3等(次回使えるドリンク一杯券)をGET!
2等はGREEN SHOWERというペットボトル飲料です。黒ラベルは800ml入って1000円。他にもエビス生、エビスプレミアムブラック、エーデルピルス、白穂乃香などが用意されています。

この店も混んではいるものの、従業員が多いせいかサクサクと注文にやってきてくれ、すぐに飲み物・食べ物を出してくれます。お通しはサラミとホタテ。けっこう塩辛くてすでにビールに合いそうですね。

ビール登場!プハーッ!


このために水分断ちをしていただけに一気に上から三分の一ほど飲んでしまいました。250mlぐらいは一気にいっちゃいました。

チキンバスケット登場!
竜田揚げ風の下味がついていて、かなり味が濃く、これまたビールが進む進む!
1ピースを食べる間に大ジョッキが空になるほど優秀な酒のツマミであります。

こちらは焼き立てベーコンのシーザーサラダ。カレーのルーの容器みたいなものに、シーザードレッシングと温泉卵が入っており、これをサラダにかけてかき混ぜるのです。特筆すべきは分厚いながらもカリカリに焼けたベーコン。塩味の効いたベーコンをかじってはビールを飲むも良し、野菜で味を中和するもよし、の絶品つまみでございました。

さすがに3杯も大ジョッキを飲むともうこれ以上は飲めなくなり(だって量が多いんだもん…)、有楽町で映画でも観るかということに。『ターミネーター 新起動/ジェニシス』が東宝シネマズで19:15~ということで、ちらほら帰ることに。映画は長丁場になりそうなので、最後にシメのステーキガーリックピラフを頼みました。
ピラフの上に、切ったステーキを乗せ、さらにその上にガーリックチップスを乗せるというボリューム満点のもの。

しかしね、困ったことに、ステーキとガーリックチップスだけでビールが飲みたくなるワケなんですよ。慌てて小グラスを頼み、ステーキを満喫したのでした。ビールが終わってからピラフに移り、大満足でございます。

ビアホールの優れた幹事道

夏になるとビアガーデンもいいですが、ビール大好き人間としては、ビアホールに軍配を上げたいもの。その理由は以下の通り。

その壱:
エアコンがついているため、ビールがぬるくなりにくい

その弐:
ビアガーデンは基本的には季節モノのため、スタッフも慣れていない人が多く、ビールの注ぎ方、頼んだものが届くまでの時間についてはビアホールに負ける

その参:
ビアガーデンの食事は作り置きのエダマメやらソーセージであることが多く、選択肢が少ない

その四:
ビアガーデンではバーベキューやジンギスカンのコースもあるものの、焼くのに集中し、ビールが主役にならない

その伍:
夏の風物詩であるために、ビアガーデンはなかなか予約が取りづらい。(某ビアガーデンを8月29日(土)に予約したら7月26日段階ですでに満席だった!)

ビアガーデン、夏しかいけない貴重な場所ですが、ビアホールも負けてはいませんヨ!

著者・SPECIAL THANKS

中川淳一郎(なかがわ じゅんいちろう)

中川淳一郎(なかがわ じゅんいちろう)

ライター、編集者、PRプランナー 1973年生まれ。東京立川市出身。 一橋大学商学部卒業後、博報堂CC局で企業のPR業務を担当。2001年に退社し、しばらく無職となったあとフリーライターになり、その後『テレビブロス』のフリー編集者に。企業のPR活動、ライター、雑誌編集などを経て『NEWSポストセブン』など様々な、ネットニュースサイトの編集者となる。主な著書に、『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『ネットのバカ』(新潮新書)、『夢、死ね!』(星海社新書)、『縁の切り方』(小学館新書)など。割と頻繁に物議を醸す、無遠慮で本質を突いた物言いに定評がある。ビール党で、水以上の頻度でサッポロ黒ラベルを飲む。

神宮球場が巨大ビアガーデンに変身!?るーびー半額ナイター幹事道【第六回】

神宮球場が巨大ビアガーデンに変身!?るーびー半額ナイター幹事道【第六回】

私は阪神タイガースが大好きであるっ!

関西とは縁もゆかりもないのだが、たまたま4歳の時、福岡県で祖母から買い与えられた野球帽が「阪神しか残っていなかった」との理由で阪神ファンになった。

そして、私はビールが大好きであるっ!

21歳の時、標高3180メートルの槍ヶ岳に登り、山頂近くの「槍ヶ岳山荘」にてスーパードライの缶ビールを飲み、「こんなウマい飲み物があったのか!」と感動し、以後ビール好きになってしまったのである。

そんな私は年間3試合ほど野球観戦に行くが、正直試合にはあまり関心がなく、だだっ広い中、カクテルライトに照らされた美しき芝生と躍動する選手、妙に幸せそうな周囲の人々の雰囲気が好きなため「巨大ビアホール」として野球場を使うのである。

となれば、屋内の東京ドームではなく、神宮球場へ行くこととなる。

そしてヤクルトスワローズの本拠地・神宮球場にはなんと「生ビール半額ナイター」があるのだ。

今年は7月2日の阪神戦、7月30日の広島戦、8月25日の巨人戦の3回。

というわけで、7月2日の阪神戦を観戦したので、その様子をレポートする。
普段750円の生ビールが350円という超絶激安価格であるっ!

是非とも以下を踏まえ、大切なお客様とともに青空の下での宴会幹事を仕切っていただきたいっ!

ビールサーバーにも「半額ナイター」の告知が。通路を歩く人も皆生ビールを手に歩いている。ここまで酒飲みだらけの日は年に3回しかない!としか思えぬほどビールだらけの1日であるっ!

お財布が喜ぶ100円引き

神宮球場名物・ウインナー盛合わせは「メガ盛合せ」が通常800円が700円に、「ウインナー盛合せ」は通常600円が500円となる!

大量のウインナーだ!

しかし、ウインナーにはけっこうな行列ができている。
で、ウインナーもいいが、私はあんまりウインナーって好きじゃないんですよね……。なんか1本か2本あればいいというか、大量に食うものでもないと思っていて。
しかもこの日はこんな感じでウインナーには行列ができる。

そこでビール大好き人間にとってオススメなのが……。

並ばずに購入できるお店を掌握しておく

あまり並ばずに購入でき、とにかくビールに合うKFCの「オリジナルチキン!」であるっ!同行者の美人ギャルとともに、2人で1つずつを食べ、ビールを大量に飲んでしまおう、というのが今日の計画である。

注文しやすい通路側

一杯目のビールだ。
まだ、試合開始直後で席はかなりすいている。すぐにアサヒスーパードライの売り子からビールを購入。この日は他には「エビス」「一番搾り」の生ビールが売られていたようである。

通常は小瓶を売る売り子もいたと記憶しているが、この日に限っては徹頭徹尾生ビールだらけである。そしてこの日は外野席Bブロックの前から13段目、13列に座ったのだが、ここはビール注文にあたってはベストポジションである。

というのも通路に位置しているため、ビールの注文がしやすいのである。座席指定ができる場合は、端っこを選ぶと良いだろう(これがいかに重要か後で思い知ることとなる)。

ビールの売り子に「売り子って歩合制だって聞いたけど、今日はその金額も半分になるのですか? 単に数が売れるだけで実は儲からない日だったりするのですか?」ときいたところ「いえ、歩合の料金は同じなので、お客さんにとっても私達にとってもWin-Winの関係ですよ」と何やらマーケティングの教科書のようなことを言うではないか。

以前「意識の高い飲み会幹事道」を教えてくれた常見陽平氏作「若き老害Tシャツ」を着用し、たたずむ私。この日は気温25度ほどで実に快適に過ごせた。時々涼しい風が吹き、絶好のビール日和である。暑いとビールがすぐにぬるくなってしまうからね。

それではチキンの「リブ」の部分をいただきまーす!

ヤクルト先制!オレの周囲の人はあんまり傘を持って「東京音頭」を歌う人はいない。徹底的に飲むことばかり考えている人々だらけなのだろう。

続いては一番搾り!これも350円!

もう、周辺はビールを持っている人だらけである!この日は500円のチューハイを売る売り子もいたが、まるで売れない!実にかわいそうである! 

チアガールも登場し、巨大ビアホールはますますの盛り上がりを見せる。

高級品とされているエビスビールもこの日はちゃんと350円だ! 

もう、ビールの売り子がわんさかやってくるも、それ以上に注文者が多い。さすがは350円だ。

なぜかアリがオレの腕を這い始めた。ビールのにおいにつられてきたか?

やっぱり通路側がおすすめ

とにかくこの日はビールの注文が激しい。そこら中で「こっちにくれ!」と手を挙げる人だらけである。こういう時に通路側の席は強い。目立つのである。

売り子も普段とは値段が違うため、このように腕に注文された数に応じた金額をメモるのであった。「普段と値段が違うんでこうやらなくちゃ私混乱しちゃうんで~す」とのこと。

売店は意外と穴場

しかしながら、あまりにもビールの注文が多過ぎ、もはや売り子の皆さんのタンクが空っぽになる事態続出。
試合開始から1時間15分後の19時15分、もはや飲みたい欲求がピークに達したのか、注文がガシガシと入り、「少々お待ちください」か「空になってしまいました…」だらけでもう頼めない!

となれば通路方面の売店へ行き、そこで頼むのが吉だろう。「生ビール達人の店」があったので、おばさんに注いでもらう。
そこでの会話を再現しよう。

私:
「今日は売れてますか?」
おばさん:
「全然よ!みんな、球場の中で若い売り子さんから買いたいんじゃないの?」
私:
「でも、お姉さんは生ビールの達人なんでしょ?オレはその方がいいし、並ばないでいいのはありがたいよ」
おばさん:
「アンタ、いいこと言うわね、ガハハハ」

普段から省エネつまみ摂取を心がける私だが、ビール4杯目でまだチキンは半分残っている。KFCのオリジナルチキン、なんてビールのツマミに最適なのだ!
KFCではあまり部位を指定してもらいたくない、というスタンスを取っているが、オレはこの「リブ」という部分が一番好きである。細かい骨の周囲の肉がウマい。あとは内臓も含有されている、「サイ」という部分も様々な味を楽しめ、好きである。
いやぁ、この日はラッキーだった。

通常より支払額が高くてもOK

結局7杯のビールを飲んだ。ということは、本来5250円かかるところを、2450円で済んだのである。KFCのチキンは2つで550円だった。通常は490円だが、このくらいは「球場価格」ということでOKである。

うぎゃっ! ビールを飲み過ぎる人続出で、便所にとんでもない長蛇の列! まぁ、仕方ないですよね(笑)。

場の空気を読んで退散

我が阪神の負けは決まったようなものなので、7回で球場を退散することに。しかし、ヤクルト側の席にいたため、喜んでいるフリをする。

最後に売り子の一人のコメントを紹介しよう。

「売れ過ぎて今日だけはアイドルになった気分です!」

というわけで、次回のビール半額ナイター8月25日(巨人戦)は神宮球場へGOだ!

【生ビール半額ナイター試合結果】
阪神タイガース     1
東京ヤクルトスワローズ 10

勝利投手:
[ヤクルト] 山中(2勝0敗0S)
敗戦投手:
[阪神] 能見(5勝8敗0S)

本塁打:
[ヤクルト] デニング 3号(2回裏ソロ) 、山田 16号(5回裏ソロ) 、田中浩 1号(8回裏2ラン) 、山田 17号(8回裏ソロ)

青空の下での宴会幹事道

その壱:
並ばずに購入できるお店を掌握しておく

その弐:
注文しやすい通路側

その参:
売店は意外と穴場

その四:
通常より支払額が高くてもOK

その伍:
場の空気を読んで退散

著者・SPECIAL THANKS

中川淳一郎(なかがわ じゅんいちろう)

中川淳一郎(なかがわ じゅんいちろう)

ライター、編集者、PRプランナー 1973年生まれ。東京立川市出身。 一橋大学商学部卒業後、博報堂CC局で企業のPR業務を担当。2001年に退社し、しばらく無職となったあとフリーライターになり、その後『テレビブロス』のフリー編集者に。企業のPR活動、ライター、雑誌編集などを経て『NEWSポストセブン』など様々な、ネットニュースサイトの編集者となる。主な著書に、『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『ネットのバカ』(新潮新書)、『夢、死ね!』(星海社新書)、『縁の切り方』(小学館新書)など。割と頻繁に物議を醸す、無遠慮で本質を突いた物言いに定評がある。ビール党で、水以上の頻度でサッポロ黒ラベルを飲む。

ラーメンズ片桐仁流の日高屋宴会幹事道【第五回】

ラーメンズ片桐仁流の日高屋宴会幹事道【第五回】

最近「日高屋呑み」が流行っているという。そんな記事も散見されるようになった。
日高屋といえば、ラーメンをはじめとした麺類やレバニラ炒め等中華系の定食で有名だが、つまみ類の豊富さとアルコールの安さ、さらに言うと「締め」まで揃っているということから最近飲み会の場として人気だというのだ。

しかしっ!
私は言いたい。このことを10年以上前から知り、実践していた男がいることを!

コントコンビ・ラーメンズの片桐仁さんであるっ!

片桐さんといえば、ラーメンズとしての活動のほか、エレキコミックとのユニット「エレ片」でライブをしたりラジオに出演している。

そして、粘土作品を作る人物でもある!

私は2001年から2005年まで雑誌「テレビブロス」の編集をしていたが、2003年5月から片桐さんが様々な現場を訪問する連載「おしえてなぜなら知りたがりだから」(通称「おしり」)の担当をし、毎月1回一緒に日本全国の様々な場所へ行き、挙句の果てには中国に行くという経験をしていたのである。

そんな「おしり」の取材の後、我々2人は毎度飲んでいたのだが、2004年のとある日、目的地である居酒屋に向かう途中、日高屋の前を通り過ぎようとしたところで片桐さんはこう言った。

「オレ、エレキコミックの今立(進)や若手とかと飲みに行く時、日高屋が多いんっすよ。とにかく酒が安いし、つまみも豊富だしね……」

これを11年前にすでに言っていた片桐さんこそ、今回の「幹事道」の師匠として相応しい人物だろう。というわけで、早速日高屋に6人で行き、片桐さん流の日高屋宴会を堪能しようではないか。

訪れたのは都内某所の日高屋

参加者は手前左の手が今回撮影をしてくれたブロガーのむねさだ氏(後でお顔は登場する)。

以下時計回りで
タレントの鈴木理梨さん
片桐さん、
様々な人生の事情に詳しいイライザ様、
中川淳一郎、
店の前で腹を減らしていた貧乏そうな若者の西村君の6人である。

(撮影:むねさだ)

(鈴木さん、片桐さん、イライザ様)

日高屋宴会スタート

中川:
さぁ、片桐さん、日高屋ではどうやって飲むものなのでしょうか、センパイ!教えてください!

片桐:
ちょっとちょっと!それよりも大事なことがあるのをキミ達は知らないのか?


むねさだ:
僕、今日行ってきましたよ!

片桐:
(にんまりと笑う)そうそう!
むねさだ君が行ってきた場所ってのはだねぇ、幕張のイオンモール幕張新都心グランドモール3Fイオンホールで片桐仁 不条理アート粘土作品展 『ギリ展』のことだ!
オレの過去16年の粘土制作の連載の集大成として7月26日までやっているから、この記事を読んでるみんなは行くように。
一般500円・学生400円・小学生以下は無料ですよ。
※作品展は7月26日で終了しています。

むねさだ:
いやぁ~、僕、感動しましたよ!でね、片桐さんのガチャポンも買いましたよ!

片桐:
キミはエラい!
このガチャポンはだねぇ、本来300円で出したかったんだけど、あまりにも精巧過ぎるため、400円にせざるを得なかったものなんだよ。
それの原型を幕張に行けばじっくり見られるんだよ!こりゃお得だぞ! それにしてもガチャポンのオレに対して入る印税が少なくてさ、原価がかかり過ぎてさぁ……


中川:
(こりゃ延々話し続けるなと判断)
片桐さん、片桐さん!粘土については後でまた聞きますので、とにかく頼んじゃいましょうよ!
飲み物は各人が頼むってことですが、何かオススメの食べ物ってありますか?

貧乏西村:
うわー!瓶ビールが430円で、生ビールが310円!ハイボールとかサワー類は270円で日本酒300円で、ソフトドリンクが100円!安い!

片桐:
つーか、お前、なんだよその「BEIJING CHINA」っていうダサいTシャツはよ! しかもパンダかよ!

貧乏西村:
いや、久々に外出したので、少しはおしゃれにしようかと思いまして……。

片桐:
それがパンダかよ!まぁ、いいわ。よし、つまみはこのつまみのページにあるもの全部食べちゃおうよ。「これ全部」って言ったらカッコイイじゃん。

中川:
片桐さん、片桐さん!さすがにそれはやめましょうよ!冷めちゃいますよ!

片桐:
分かったよ。みんな、何食べたい?(と女性2人を交互に見る。目の前の3人の男は無視)。ねっ、食べたいもの食べましょうよ。みんなで食べられるものがいいね。あとは、小皿貰ってラーメンだってみんなで分けることできるんですよ、日高屋では。

鈴木:
片桐さんが芸人さん達と日高屋に来る時はどんなものを頼むのですか?

片桐:
(メニューの左の「お得なセットメニュー」を指さしながら)あのね、若い男ってのは腕白だから、「中華そば+半チャーハンセット」(630円)とかを食べるのよ。せっかく酒飲みに来てるのに、いきなり重いものを食べるんだよね。それでさ、当時日高屋に行っていた頃ってさ、大体アンケートのおばちゃんに捕まるの。

イライザ:
街頭でいきなり「アンケートお願いできますか~」って言ってくる人のことね。

片桐:
そう。それに答えるとさ、500円とか1000円をもらえるんだけど、これを軍資金にして、日高屋に行くのよ。つーか、「このページ全部」って言います?

イライザ:
おやめなさい!

片桐:
は、はい……。じゃあ、イワシフライ(230円)だけ5皿とかどう?

貧乏西村:
いいっスね!脂、大好き!

中川:
あのぉ、一応様々な料理を紹介したいので、それはナシにしていただけませんでしょうか……。

片桐:
分かったよ。(店員に)じゃあね、三品盛合せ(300円)、唐揚(520円)、野菜炒め(410円)。あれ、「おつまみ唐揚げ」(290円)ってありますけど、これは「唐揚げ」とどう違うのですか?

店員:
「おつまみ」は4個入りで、「唐揚げ」は7個入りです。

片桐:
分かりました。そうしたら「唐揚げ」の方で、あと餃子6個(210円)、あとはバクダン炒め(510円)、やきとり(170円)、そら豆(170円)、枝豆(170円)まっ、こんな感じですかね。それにしても(と美女2人を眺めて)二人とも飲みそうだねぇ。むちゃくちゃ強そうじゃん!

鈴木:
はい、お酒好きです!

イライザ:
私も強いよ。

鈴木:
最近も、朝の8時まで飲んで寝ずにそのまま遊びに行ったりもしています。

片桐:
いやぁ、たのもしいねぇ。 (ここで飲み物登場)

全員:かんぱーい!(右端がむねさだ氏

(つまみも登場)

片桐:
うまい!

イライザ:
それにしても、片桐さん、案外男気あるじゃない。こうやってさ、ビシッと頼むものを決めてくれてさ。

鈴木:
そうそう、ステキ!

貧乏西村:
片桐さん、やさしい!

片桐:
(照れながら)なんだよぉ~、超恥ずかしいじゃんかよぉ~。

むねさだ:
芸能人の方って意外と紳士な方が多いですよね。

片桐:
オレは普通でしょ?
というか、芸能人はまともでなくてはやってられませんよ。芸人は特にそうです。大体さぁ、オレが連載してるブロスの担当編集なんて、歴代3人いるけど揃って全員頭がおかしくて、今の小倉君はそこそこまともだけど、初代の中川さんと木下ってのが本当にバカで、なんでオレがいつも2人のフォローをしなくてはいけないのさ、という感じなんですよ。
中川さんなんて、中国にまで行って中国人と大酒飲み対決した挙句、タクシーの中で吐いてさ、窓の外に吐けばいいのに、敢えて運転手の背中に吐いて運転手が「アイヤー!」って言ってさ。そういうのをいちいちオレがフォローするわけですよ。


中川:
まぁまぁ、それはさておき、お味はいかがですか?

片桐:
この店は炒めるのがうまいね!

中川:
でも、なんで片桐さんは日高屋で飲んでいたんですか?

片桐:
昼間から飲める場所って案外少ないんですよ。
渋谷とかでもね。たとえば、24時間営業居酒屋の「山家」とかあるけど、あれはなんとなく「駅に戻っている感」ってのがあったんですよ。でも、渋谷の日高屋は東急ハンズの向かいにあったので、なんか「遊びに来た感」が出るんです。しかも、値段も圧倒的に安い! 昼の2時とかに、なんかメシを食おうって話になり、そこから飲み会にできるのが日高屋のいいところです。


貧乏西村:
オ、オレ、モ、モテないし、カネないのですが、デ、デートで日高屋に行くのはアリですか?(と美女2人に聞く)

片桐:
まず、お金を持っていないと思われますよ。

イライザ:
安く仕上げようとしてるな、とは思いますね。だから1回目はダメだな、と思います。

鈴木:
初めての合コンというよりは、会社とか大学の合コンの1軒目だったらいいのではないでしょうか。そして、その後はカラオケに行く、とかね。高めのカラオケに行く前に、って感じの使い方だったらいいですね。

片桐:
そうそう、大食いのヤツと飲み屋に行く前に吉野家へ行くみたいな感覚ですね。

イライザ:
あと、初めて会う人と来るにしては店内が明るいですよね。でも、意外と明るいから、「早く酔っちゃおう!」「ガンガン飲んじゃおう」ってことになるかもしれませんね。それはそれで楽しそう。

鈴木:
楽しいですよ、日高屋。私、飲むの好き。よくサイゼとか行く!

片桐:
え?「サイゼ」って何?あ、サイゼリアのこと…。そんな略し方するの、今の若い人は?はぁ~、勉強になった。まぁ、サイゼもビールが安いですよね。

鈴木:
あそこはむしろワインが安いです。

片桐:
確かに女の子にとってはサイゼの方がいいかもね。日高屋は回転率あげる構造(カウンターが多い)だから。ちょっとゆっくりしたい時はサイゼに行くかもしれないね。

鈴木:
サイゼはボックスっぽくなっているところが落ち着きます。

片桐:
日高屋のサイゼ版みたいなのができればいいねぇ。

鈴木:
みんなでわいわい飲むのは楽しいですよ!

片桐:
餃子の王将と一緒だよね。

イライザ:
なんか健全な感じがするお店ですよね。


貧乏西村:
でも、王将はガッツり食わなくてはいけない雰囲気がありますが、日高屋はメニュー構成も含めて、「ここは飲んでもいい場所だ」って感じがしますね。

片桐:
そうなったんだよ。時代が変わったんだよ。そういう需要ができたんだよ。まさに日高屋のみが生んだマーケティング戦略ってやつだね。

中川:
って、片桐さんから「マーケティング戦略」なんて言葉を聞くとは思わなかった。ここで、追加の料理もやってきたぞ!

片桐:
(粘土作品を女性に見せる)

鈴木:
すごーい!

イライザ:
うわ、お上手……。ひとしきり3人だけで何かに盛り上がる

中川&貧乏西村:
(片桐さんの人気に嫉妬し、ふてくされる)

片桐:
ところでむねさだ君、今日のオレの個展の様子はどうでしたか? ちゃんとお客さん入っていましたか?

むねさだ:
高校生カップルとかけっこういましたよ!2時半から4時までいたのですが、女性が多かった印象があります。いやぁ、楽しかった。今回の個展って片桐さんにとってどんな位置づけなんですか?

片桐:
今までは、「お笑い芸人の片桐仁」が粘土を作る、という体を取っていたんですよ。
だけど、16年間もこの仕事は続いていて、16年間で150作品があるんですよ。それってもはや「芸人」というカテゴリーでやる類のものじゃないな、と思うようになったんですよね。
一つ一つの作品に思い出があります。デキが悪くて出したくないものもありました。でも、並べてみると、自己肯定じゃないですが「こういう人」というのが分かってもらえると思う。


承認欲求というか、認めてもらいたい気持ちも過去にはありました。
だから、当時の作品を見ると自分をモチーフとしたものばかり作っていたんです。その時はアーティストとして認められたいと考えていました。
今でもその気持ちは多少あり、それは独りよがりではありますが、自分の中で肯定しながら楽しんでやっていますよ、ということです。まぁ、気取ろうと思っても気取れない自分がいるんですよ。皆さんも粘土の個展、楽しめると思います。以前、インディー・ジョーンズ的に個展をやり、砂漠っぽい演出を施したりしたのですが、今回はあくまでも「作品」を見てもらうための個展です。


3年前に個展をやった時に、お金をいただくのがその時はおこがましいと思い、自分の中でどこかブレーキを作っていたんですよね。でも、オレが思うほど、お客さんはそう思っていないんですよ。お金を払う価値があると思っていただいている。そして、今回は作品点数がここまであるのだから面白いんじゃないかな。もう粘土はオレのライフワークですよね。

むねさだ:
片桐さんに会うから個展に今日行ったのですが、作品を見て繊細さと根気強さと忍耐が好きなんだな、が伝わってきましたよ。

中川:
そろそろ、締めの炭水化物、何か行きましょうよ。片桐さん、頼んでください。

片桐:
そうだねぇ~、よし、みんなで分けられる「黒酢しょうゆ冷やし麺」(510円)と、「和風つけ麺」(510円)に味付玉子トッピング(100円)でいこう。

中川:
あっ、ラーメンズがラーメン食べてる!

(麺終了)

鈴木:
じゃあ、麺も食べ終わったし、デザートはコンビニのアイスで。

片桐:
意外とコーヒーは欲しくなるよね。

鈴木:
そうですよね。最後にコーヒー飲みたいですよね。

貧乏西村:
最後に中卯はコーヒーあるんですよね。

会終了直前

片桐:
みんな、日高屋はどうだったかい?

鈴木:
飲むのが好きだから、日高屋でいいです! ワイワイするのが好き。気軽でいいですよね!

片桐:
日高屋って緊張感がないよね。合コンって緊張感すごいじゃないですか。薄氷踏む感じありますよね。

鈴木:
早い時間に行っちゃうのはいいですね。ずっと結局飲むことになっても、まぁ、いいか!

片桐:
その後なんかあって女の子の家に行くのはどう?

イライザ:
日高屋→家だったら、健全な感じがしていいよね。なんかさ、日高屋にみんなで来られるような関係の仲間はいい関係なんじゃないかなって思います。

貧乏西村:
オ、オレもそれを言おうと思うと思っていました。片桐さんがさっき会話の中でおっしゃてた「気取ろうと思っても気取れない」ってのに通じるところがあるのですが、日高屋の悪い面で言えば、合コンとかで気取りたいんだったらここではさすがに気取れない雰囲気があります。

片桐:
その気取れない感じが意外に良いのかもしれませんね。

鈴木:
ざっくばらんに話せる感じがあります。

片桐:
あ、BGMがない!これも話しやすい理由かもね。

貧乏西村:
取引先とかと来るのも打ち解けられていいかもしれませんね!

片桐:
つーか、お前仕事してたのかよ!

6人で散々飲み食いして10290円!

しかも、一人に1枚、麺・ライスの大盛分が無料or100円の味付玉子が50円になるクーポンがつく!

片桐仁が教える「日高屋の幹事道」

その壱:
若者と一緒に行ったらいきなりセットメニューを頼みたがるので、もう少しゆっくり飲み会をしたいのであれば制止を

その弐:
普通の居酒屋よりも圧倒的に安いことをに気付こう

その参:
「ここにあるもの全部!」みたいな頼み方や「イワシフライ5皿」といった「キャー面白い、この方!」と思われる頼み方もGOOD!

その四:
健全なる飲み会・親睦を図りたい場合は日高屋の利用はアリ

その伍:
昼間から空いている貴重な飲み屋であることを認識せよ!

 

著者・SPECIAL THANKS

中川淳一郎(なかがわ じゅんいちろう)

中川淳一郎(なかがわ じゅんいちろう)

ライター、編集者、PRプランナー 1973年生まれ。東京立川市出身。 一橋大学商学部卒業後、博報堂CC局で企業のPR業務を担当。2001年に退社し、しばらく無職となったあとフリーライターになり、その後『テレビブロス』のフリー編集者に。企業のPR活動、ライター、雑誌編集などを経て『NEWSポストセブン』など様々な、ネットニュースサイトの編集者となる。主な著書に、『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『ネットのバカ』(新潮新書)、『夢、死ね!』(星海社新書)、『縁の切り方』(小学館新書)など。割と頻繁に物議を醸す、無遠慮で本質を突いた物言いに定評がある。ビール党で、水以上の頻度でサッポロ黒ラベルを飲む。

お父さんのための「それなりに美味しい」カレーの作り方【中川淳一郎の「今も飲んでいます」第七回】

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「今度中川さん、カレーを作ってもらえない?」というオファー

旧知の仲間と渋谷の居酒屋の名店・Yで飲んでいた時、そこにいた美人ギャル・宮脇ゆうび嬢から突然言われた。

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「私、バーの雇われ店長になったの。色々イベントとかやってるんで、今度中川さん、カレーを作ってもらえない?」

 

私の密かな趣味はカレー作りである。アラフォー男女が集って「ポポポポーン」と手と手を合わせる集い「ポポポポーンの会」(通称「ぽ会」)ではカレーを振る舞うことが多い。ここで食べるカレーを同会メンバーがFacebookで公開することにより、私がカレーを作ることを宮脇嬢は知っていたのである。以下、私がこれまでに作ってきたカレーの写真を紹介しよう。いずれも「ぽ会」メンバーで編集/記者の漆原直行氏による撮影である。

 

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2012年、初めて「ぽ会」で作ったカレー

 

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ワタリガニをダシに使い、カレー粉と唐辛子とともに炒めたトッピングを添えたもの(左端にカニトッピングはあります)

 

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タイカレー! グリーンカレーです。辛すぎて悶絶する人続出で、以後控え目に。

 

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ビーフカレー。ホウレンソウトッピングを覚えました。

 

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ビーフカレー。まぁ、いつも通りです。今回作るカレーもこんな感じでいきますかね。

 

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これもビーフカレー。恐らく大食いの漆原さん、おかわりしたのでしょう。目玉焼きトッピングが乗っていませんね。

 

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「ふるさと納税」でもらった地鶏1羽を使ったチキンカレー。レバーや砂肝なども入ってます。

 

でも、オレに出来るだろうか……

さて、私の作ったカレーを紹介しましたが、話は宮脇嬢の件に戻ります。居酒屋・Yでは酔っ払っていて思考能力もなくなっていたため、「あっ、いいっスよ」と安請け合いしてしまった。一杯650円取ると宮脇嬢は言ったものの、人様からカネをもらえるようなカレーをオレが作れるのだろうか……と正直不安に思うのであった。

 

しかし、すでに告知も開始され「20杯限定」ということで6月20日(土)に宮脇嬢の店「大人cafe&bar usausa」(東京都世田谷区船橋1-1ジョイパーク千歳船橋)カレーを作ることが決定した。

やると決めたからには腹をくくるしかない。「まずいよ!」「なにこのヒドいカレー…」といったdisりが来ることも覚悟しつつ、私は事前にカレーを一旦作り、予行演習を行った結果、「まぁ、ウマいかな」という判断ができた。

 

それなりにウマいカレーは市販の食材で簡単に作れる

それで、結論としては皆さん「ウマい!」とホメてくれたのである。その様子なども後に報告するが、今回は「それなりにウマいカレーを作る方法」をご紹介する。別に、「スパイスを13種ブレンド」もいらないし「タマネギを2時間炒める」もいらない。とにかく材料を揃え、牛肉を柔らかくなるまで煮込んでおけばそれなりにウマいカレーなんてもんは市販の食材で簡単に作れる、ということを御理解いただきたい。

 

それほど広くない店内だとは聞いていたため、ある程度の準備はしておいた方が良いと判断。野菜は切っておき、牛肉はニンニク・塩胡椒・ドイツで買ったガラムマサラとともにすでに炒めてジップロックに入れておいた。そして、それらを紙袋に詰め込み、小田急線に乗っていざ千歳船橋へ!

 

【材料紹介】

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  • 左上:ブロッコリー、ナス、シメジ
  • 真ん中上:炒め済みの牛肉
  • 右上:ニンジン、ブロッコリーの茎、タマネギ(最初から煮るものはここに入れておく)
  • 左下:ニンニク
  • 真ん中下:ワタリガニ
  • 右下:ジャガイモ

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左上から時計回りで

 

  • カイエンペッパー
  • パキスタンで買ったカレー粉
  • S&B「とろけるカレー」
  • 黒胡椒 
  • ※ローリエ(月桂樹も)何枚か入れています。

 

 

凝った食材は一切なし!

別にクミンシードもなければターメリックもなければ、凝った食材は一切ない。さすがは日本メーカーが作るカレールーである。何であろうがおいしく作れる。さぁ、ここからは写真とともにお送りしましょう。

 

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これがバーの入り口です

 

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看板も出してもらいました。

 

カレー20人前作り、スタート 

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ニンニクをみじん切りにし、火の通りづらいニンジン・ブロッコリーの茎・タマネギとともに炒めます。

 

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これが味付けをし、すでに炒めた牛肉です。スネ肉を使っています。

 

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こんな感じで炒め終えたら鍋二つで20人前を作ってしまいます。右側は圧力鍋です。

 

しっかりとアクをとる

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とにかくタマネギ・肉があると大量のアクが出ますので、これらはちゃんと取りましょう。

 

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肉と火の通りにくい野菜からアクを取った状態がコレです。ニンニクが浮かんでますね。

 

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カニをぶち込みました。ダシとして使用します。

 

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いや、ダシだけではありません、ワタリガニの身はキチンと取り出し、後でもう一回鍋に入れ、具材にしてしまいます。

 

肉は何分煮れば柔らかくなるか?

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肉に菜箸を刺し、すんなりと箸が通れば大体OK。続いてジャガイモを投入。3分ほど煮たところで、他の「火の通りやすい野菜」も投入。肉がここまで柔らかくなるには、1時間20分ほど煮ると良いでしょう。それ以上やると、肉がほぐれて原形がとどめられなくなります。圧力鍋は25分ほどで終了に。

 

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カイエンペッパーも少し入れ、辛くします。

 

お玉より菜箸で鍋を混ぜると良い

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煮えやすい野菜も全部投入したうえで、カレールーを溶きます。溶く時はとにかくお玉の上で丁寧にやりましょう。面倒くさいですが、ここでちゃんと溶いておかなくては後でダマができたりしてもっとメンドーなことになります。また、カレールーを入れた後は、時々かき混ぜておかなければ、底が焦げてしまいますので、ここから先は頻繁に混ぜましょう。混ぜる場合は菜箸の方がお玉よりもいいです。お玉でかき混ぜると、ジャガイモを崩してしまったりしますからね。

 

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冷凍のホウレンソウも入れ、ついに完成!

 

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トッピングの目玉焼きを一つ一つ作ります。100円ショップのダイソーで15年前に買ったこのフライパン、今や油のなじみがよく、かなり重宝しています!

 

f:id:g-gourmedia:20150709170742j:plainトッピングはフライドオニオンを準備!

 

完成です!

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はい、完成です! 目玉焼きトッピング&各人フライドオニオン、ラッキョウ、福神漬け、カッパ漬けはご自由にどうぞ、という感じです。

 

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こんな感じで皆さん、食べてくれました。

 

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会場は大盛況でした! 20食(というか、30食ぐらいになったかも)は完売! 650円×30食+トッピングの目玉焼き(50円×20)なので、20,500円の売り上げ達成!(だと思う)もはや酔っ払い過ぎて覚えていない。

 

大感謝であります

しかし、お客さんからは「ウマい!」「また作って!」とお褒めの言葉をいただいたので、一安心。お代わりをしてくれる人もいて、大感謝であります。

 

それでは最後にカレー作りのポイントを紹介しよう。

 

【一見「おいしそう」に感じられるカレーの作り方8か条】

その1 とにかく牛肉は柔らかくなるまで煮る。それだけで「うわー、とろける!」「うわー、肉がスプーンで切れる!」とホメてもらえる。

 

その2 別にスパイスに凝る必要はない。市販のカレールーにKALDIなどで売っているガラムマサラを足すとよい。私の場合はドイツ旅行で買ったガラムマサラととパキスタン駐在者からもらったカレー粉的なものを入れた。

 

その3 普通はカレーに入れないであろう野菜も入れてOK。私が個人的に高く評価しているのはブロッコリーである。茎も含めて入れてしまおう。

 

その4 月桂樹を入れておくと、ニオイ消しにもなるほか、「うわー、本格的(ステキ)」と誤解してもらえる。

 

その5 目玉焼き用の小さなフライパンは是非とも用意したい。マジでダイソーの安いフライパンはオススメです。2年ほど使い続けると、本当にこなれてきて、活躍してくれます。

 

その6 キノコ類(マイタケ・シメジ・エリンギあたり)は、カレーにブチ込んでおくとおいしいです。

 

その7 東京・三宿のカレーの名店「ビストロ喜楽亭」では、ホウレンソウトッピングを頼むと一緒に煮こんでくれます。これがウマい! よって、冷凍のホウレンソウを最後に入れましょう。

 

その8 多くのお客様にカレーを出す場合は、あまり辛くないようにしましょう。ハバネロのパウダーや、カイエンペッパー等は卓上に用意し、辛いカレーが好きな方は自由にふりかけるようにしましょう。

 

 

 

著者:中川淳一郎(なかがわ じゅんいちろう)

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ライター、編集者、PRプランナー

1973年生まれ。東京都立川市出身。
一橋大学商学部卒業後、博報堂CC局で企業のPR業務を担当。2001年に退社し、しばらく無職となったあとフリーライターになり、その後『テレビブロス』のフリー編集者に。企業のPR活動、ライター、雑誌編集などを経て『NEWSポストセブン』など様々な、ネットニュースサイトの編集者となる。主な著書に、『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『ネットのバカ』(新潮新書)、『夢、死ね!』(星海社新書)、『縁の切り方』(小学館新書)など。割と頻繁に物議を醸す、無遠慮で本質を突いた物言いに定評がある。ビール党で、水以上の頻度でサッポロ黒ラベルを飲む。

 

前回までの「今も飲んでいます」はこちら。 

 

「幹事の味方」でも中川淳一郎さん、連載中です。

中川淳一郎さんは「幹事の味方」でも連載中です。こちらと合わせてぜひご覧ください。

これぞ究極のおつまみ!? 崎陽軒のシウマイ弁当を最大限楽しむ方法【中川淳一郎の「今も飲んでいます」第六回】

中川淳一郎、『食の軍師』を見て大いに語る

先日オンエアされた『食の軍師』(TOKYO MX、6/24放送終了)を観たのだが、私としては「分かる! 分かる!」という部分に加え「違うよ!」という部分も多少残る展開となった。同ドラマは同題の漫画(泉昌之)が原作で、主人公・本郷播が一回の食事の組み立て(何から手をつけ、いかにして食べ進めていかにフィニッシュし最大限の満足感を得る)を軍師(諸葛孔明風男)の助言に従うも、毎度パーカー姿の青年・力石馨の見事な食の進めっぷりに撃沈する展開が繰り広げられる。

 

 

 

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ドラマ版「食の軍師 兵法の十一 弁当の軍師」で登場したのは、崎陽軒のシウマイ弁当。まさに東京・横浜発の出張・旅行の定番弁当である。作中では一緒に旅することになった二人が揃ってシウマイ弁当を用意し列車の旅に臨むが、コレを選ぶ段階でお互いに(本郷が勝手にライバル視しているだけで力石は意識していないだろうが……)「デキる」と思うところから始まる。

 

 

『食の軍師』で「崎陽軒のシウマイ弁当」はどう食べられたか

本郷はシウマイ弁当の食べ方こそ「知力、兵力、センスも丸見えになる」と語るが、これは私も同感だ。それでは、私による決定打の「ビールを楽しむための食べ方」を紹介する前に、前座としてドラマ中での二人の進め方を振り返ってみよう。

 

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本郷は2つの「計」を思いつく。一つは「シウマイ追い込みの計」である。これはカマボコ、玉子焼き、唐揚、タケノコ、紅ショウガ、昆布、鮪照り焼き、シウマイ5個の順番で食べていくやり方だ。いわば、ご飯と様々なおかずを交互に食べつつ、主役たるシウマイは一気に最後の締めとして連続で食べる、というものだ。

 

そしてもう一つが「シウマイ連環の計」である。これは、シウマイ弁当の豊富なおかずとシウマイをワンセットとして食べ進めていくやり方だ。ドラマ中では以下の順番となっていた。カマボコ、シウマイ、玉子焼き、シウマイ、紅ショウガ、昆布、シウマイ、鮪、シウマイ、タケノコ、シウマイ、唐揚。

 

そして本郷はシウマイに辛子を一つ一つつけていき、余った辛子をカマボコにつけ、酒の肴にする。実際の食べ方としては後半のコメ不足を心配しつつもシウマイ→ご飯→タケノコ(しょっぱい)→メシ(後半に食うとコメ不足になる)→鮪照り焼きと言った形で米とおかずを交互に食べる手法を取る。そして、こってりとした唐揚には紅ショウガをのせサッパリ食べる。ラストは「とにかく食うべし」と秘技「蒸気機関車食い」をし、「金メダル」である杏の甘煮を食べてシウマイ弁当を終わらせるのだった。

 

ドラマでは力石にまたもや敗北する本郷、という体を取るのだが、そりゃそうだ。力石の方がシウマイ弁当の本質を分かっている。本郷も酒飲みであり力石も酒飲みだが、力石の方が2枚も上手である。

 

 

なかったことにする「茶碗蒸し理論」とは?

力石はビールを飲んでいたのだが、その「前座試合」として「ホテイの焼き鳥缶・たれ」を食べながら来たる本丸・シウマイ弁当に備える。さぁ、ビールと焼き鳥缶を食べ終えたところでついに本戦開始! 力石はシウマイ弁当を広げ、「なかったことにするため」に杏を食べる。これを「茶わん蒸し理論」と言うのだという。旅館の夕食では茶わん蒸しがつくことが多いが、正直いつ口にしていいのかが分からない。だったらサッサと食べてしまい、「なかったことにする」というのが力石にとっての茶わん蒸しの扱いだ。

 

シウマイ弁当における杏の役割も同様だと力石は言い、本郷が最後の最後まで大事に取っていた杏を一気に「片づけてしまう」のである。そして、力石は遮二無二早食いをするのだが、これを本郷は「早い……。早く食うことで味覚を敏感にする食い方」と表現し、唖然とするのであった。

 

しかし、塩味の強いおかずが大量に残っていることに気付く。残っているおかずは唐揚、鮪、シウマイ少し、タケノコだ。これを見て本郷は「コメ不足を起こしている」とほくそ笑むも、なんとここで力石は赤ワインを頼み、これらのおかずをワインのつまみとする有段者の振る舞いをし、本郷を完膚なきまでに打ちのめすのである!

 

しかし、力石に真っ向からケンカを売るのがこの私である。

 

私から言わせれば、酒飲みとして力石のこの食べ方よりも上級者向けの食べ方があることをお伝えしよう。まさにシウマイ弁当をめぐる三国志の開幕である。本郷(蜀=劉禅・諸葛亮)、力石(魏=曹叡・司馬懿)に私・中川淳一郎が「呉=孫権・陸遜」として割って入る。それでは我が呉軍のシウマイ弁当攻略を見よ!

 

我が兵法は基本的にはサッポロ黒ラベルの500ml缶2本と350ml缶1本を、新幹線の車内で仕事しながらゆっくりと食べ、至福の「動くオフィス」体験をすることである。正直に告白するが、私がこれまでに書いたすべての書籍は酔っ払って書いているのである。どうも酔っぱらわないと原稿が書けず、じっくりと時間をかけビールを飲み、つまみを食べながら本を仕上げていく。これぞ人生最高の時間である。

 

 

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ここにPC、サッポロ黒ラベル、シウマイ弁当の三種の神器が揃った! さぁ、弁当の封を開けるか! チッチッ、甘い!

 

シウマイ弁当の前にこれで1本  

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これまた新幹線の定番、味付けゆで卵を一緒に買っておくのである。力石は「ホテイの焼き鳥・たれ」を用意したが、ボリュームたっぷりなシウマイ弁当の前にはボリューミー過ぎる。本丸・シウマイ弁当を攻める前に、ライトなゆで卵で500ml缶を1缶飲んでしまうのが、本格派である。

 

 

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ゆで卵の殻はレジ袋に捨てよう。付属の紙に殻を乗せてしまうと、ひょんなタイミングで新幹線の机(でいいのか?)をドーンと膝で押してしまったり、新幹線が揺れたタイミングで殻が床に飛び散ってしまう。しかも、殻とゆで卵を同じ紙の上に乗せると本体に殻がついてしまったりするので、紙はあくまでも「ゆで卵置き」として使おう。

 

見よ、この黄金の切り口

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それではビールいきまーす! プハーッ!

 

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見よ! この黄金の切り口を!

 

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500ml缶を1本飲み終えたところでまだここまでゆで卵は残っているのであるっ! これぞ省エネ摂取法である。本格的酒飲みはいかに少量のツマミで大量の酒を飲むかが勝負であるっ! この残ったゆで卵はシウマイ弁当に含めてしまうのだ。

 

いよいよシウマイ弁当が登場。ポイントは「箸の長さ」と「醤油の量」

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ジャーン、ついにシウマイ弁当登場! 脇にはゆで卵も。しかも、必殺の2つのアイテムを用意しておくのである。

 

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セブンイレブンでカップラーメン等を買った時にもらえる割り箸である。シウマイ弁当を食べると数日前に決めたのであれば、箸にも万全を期さなくてはならない。シウマイ弁当自体はたいへんウマいのだが、若干の不満はある。それは箸の長さが短いことだ。やはり、固いシウマイを割るには長い箸の方が力が入るし、全体的に食べやすい。崎陽軒の箸はいざという時のために取っておく程度にしておこう。さらに、もう一つ事前に準備しておくべきものがあるのだ。

 

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醤油である! 持ち帰り寿司やスーパーの惣菜コーナー等で1つ多目にもらっておき、シウマイ弁当を食べる時に使うのだ。どうも、シウマイ弁当に入っている醤油は正直量が足りない。シウマイ5個に対して使うにしても塩辛いのが好きな私にとっては若干少ないし、他にも醤油を求めるおかずがあるからである。だから、この醤油の小袋が途端に輝きを放つことがあるのだ。

 

 カマボコと玉子焼きが最高のアテに変身

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おっと、その前、私も力石同様、杏をさっさと「なかったこと」にしてしまおう。力石はその点よく分かっている。

 

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それは、シウマイ弁当の中のおかずとしてはいかにも「小者」然としたカマボコと玉子焼きである。この2つはおかずとしても酒のつまみとしても若干中途半端な味わいであるため、醤油をかけてしまう。すると! なんとも立派な酒のアテとなるのだ! ここは本郷が言う通りカマボコにはカラシを塗ると良いだろう。この2つを交互に食べ、ビールをぐびぐびと進めていくっ! 気分はまさに老舗ソバ屋だ!

 

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ここでスッキリとさせるべく紅ショウガが有効である。この段階ではご飯には一切手をつけていない。あくまでも酒、酒、酒! である。

 

おつまみパートはクライマックス。陰の主役も登場

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ここで怒涛のつまみラッシュへ! ご飯の上に乗っかっているカリカリ梅、鮪の照り焼きを少しずつかじり、またビールへGO!

 

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ここでつまみパートのクライマックス! 鶏の唐揚へGOだ。この唐揚は冷めてもウマい。醤油系の味もしっかりついていて、これ1つで350mlのビールぐらいであれば余裕で1本飲めてしまう。

 

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ジワジワとつまみにはしていた煮たタケノコだが、ここでようやくご飯に乗せて食べるのである。それにしてもシウマイ弁当の陰の主役はタケノコだろう。

 

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こうして中途半端に少しずつ飲みながら食べ、シウマイも1つ食べた様子がコレだ。

 

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大事に大事に取っていた唐揚の残り半分を食べる段階で、ついに最後のビール・350ml缶の登場。ここから一気呵成に攻めていく! シウマイも醤油をダボダボとつけて食べ進めるっ!

 

結果、おかず不足に……。どう乗り切る、軍師!?

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ビールは飲み終えた。でも、ちょっとちょっと……。ご飯が多過ぎないか??? この量でどうやってご飯を食べるんだよ、お前! さぁ、本郷が心配した「コメ不足」ならぬ「おかず不足」の事態到来!

 

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ジャーン! なんと、呉の軍師・陸遜はセブンイレブンの「ふりかけ詰め合わせ」の小袋を軍に2つ用意してくれていたのである。小袋といえば、諸葛亮や曹操が有名だが、陸遜もキチンと用意していたのだっ! 今回は「さけ」と「緑黄野菜」である。

 

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一気に形勢逆転! 少々のタケノコ、昆布、紅ショウガに加え、シウマイ1つ! そこに燦然と輝くさけふりかけのお姿! ビールは終わったが、あとは「締め」のシウマイ弁当じゃ!

 

シウマイ弁当を最大限楽しむ方法、これにて完結。

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というわけで、日本屈指の「新幹線ビールのお供」であるシウマイ弁当を最大限楽しむ方法だ。これにはさすがの力石も尻尾を巻いて逃げるしかあるまい。ガハハハハハハ。我が呉軍の水軍(ビール飲み)は天下無双である! 夷陵の戦いでは劉備を完膚なきまで倒し、赤壁で曹操に決定的ダメージを与えた余こそ、真の中原の覇者であるっ!

 

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※3DS三国志、孫権でプレイし、天下統一間近の様子

 

 

 

著者:中川淳一郎(なかがわ じゅんいちろう)

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ライター、編集者、PRプランナー

1973年生まれ。東京都立川市出身。
一橋大学商学部卒業後、博報堂CC局で企業のPR業務を担当。2001年に退社し、しばらく無職となったあとフリーライターになり、その後『テレビブロス』のフリー編集者に。企業のPR活動、ライター、雑誌編集などを経て『NEWSポストセブン』など様々な、ネットニュースサイトの編集者となる。主な著書に、『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『ネットのバカ』(新潮新書)、『夢、死ね!』(星海社新書)、『縁の切り方』(小学館新書)など。割と頻繁に物議を醸す、無遠慮で本質を突いた物言いに定評がある。ビール党で、水以上の頻度でサッポロ黒ラベルを飲む。

 

前回までの「今も飲んでいます」はこちら。 

                             
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