小田原かまぼこの老舗「籠清」小田原江の浦店アツアツの「フィッシュとポテト」

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揚げ立ての蒲鉾が、こんなに美味しいなんて

むかし「板わさ」というのは、なんとふざけた食べ物であるか、と疑問に感じていた。蒲鉾を切ってわさびを添えるだけで、よくもまあカネがとれるものだ……と悲憤慷慨さえした。世に名店と言われる蕎麦店でも板わさを置くところは少なくなく、始めこそ「こういう店の板わさならば、もしかしたら繊細で精妙な味わいだったりして……」と思って注文し、殊勝な心持ちで箸をつけていた。しかし「やっぱり、ただの蒲鉾じゃないか」とわかって天を仰いだ。そもそも、蒲鉾って、ほんとうに美味しいのだろうか……。

 

気づけば、板わさを置くような店に行かなくなって久しいため、「むかし」の話なのだけれど、その一方で「籠清」を知って、私の中で蒲鉾イメージのコペルニクス的転換が生じていたのである。

 

神奈川県下の短大で働いていた若かりし日、そこの老先生があれこれと目をかけてくれ、何人かの同僚と一緒に箱根に連れて行って貰った。夜を徹して馬鹿騒ぎをした翌日、彼は私たちに小田原名物「籠清」をお土産に持たせた。その蒲鉾の美味しかったこと! 蒲鉾に興味のないまま30歳を過ぎた自分にとって、それは衝撃としか言いようのない出来事だった。そして50歳を目の前にして「籠清」小田原江の浦店と出逢い、十数年前に勝るとも劣らぬ感動を覚えた。

小田原かまぼこの老舗「籠清」小田原江の浦店アツアツの「フィッシュとポテト」

「朝マック」と「籠清」の出逢い。もしくは……

「籠清」江の浦店があるのは、小田原から国道135線を熱海方面へ少し走ったところ。海沿いのドライブイン的な建物で、小綺麗ではあるけれど、ちょっとグルメとかその手の食べ物とは縁遠い見た目である。

 

しかし。店の右手奥は蒲鉾の揚場になっていて、売れる端から揚げ立てのアツアツが次々に補充される。一般に食べ物は作りたてに限るとはいえ、揚げ立ての蒲鉾がこれほど美味しいとは知らなかった。まあ、名店ゆえの素材やノウハウがあればこそだが、「フィッシュとポテト」という蒲鉾らしからぬ一品は、智恵のセンスの光る「逸品」である。

 

要はハッシュドポテトの蒲鉾で、揚げ立ての薫り高いジャガイモの風味と、アツアツの蒲鉾の旨味が妙なるハーモニーを奏でる。「朝マックと籠清の出逢い」とも言えるが、私は英国名物「フィッシュ・アンド・チップス」の味わいを思いだした。

 

白身魚のフライとフレンチフライを盛り合わせた、英国庶民の料理。間違っても高級レストランでは登場せぬ代物だが、魚とジャガイモのフライという取り合わせは、妙に心の琴線に触れる。その人なつこく、小粋な味わいは、スティングがまだ庶民の心性を忘れていなかった、「ポリス」初期の名曲に通じるものがある。

 

「籠清」小田原江の浦店の売場では、運転しながら食べられるよう、木のスティックも用意していて、誠に心憎い。ハンドルを繰りながら「フィッシュ・アンド・チップス」をほお張れば、頭の中で、スティングの少し嗄れた声が蘇ってくる。

小田原かまぼこの老舗「籠清」小田原江の浦店アツアツの「フィッシュとポテト」

※掲載情報は 2015/09/26 時点のものとなります。

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キュレーター情報

横川潤

エッセイスト 文教大学 准教授

横川潤

飲食チェーンを営む家に生まれ(正確には当時、乾物屋でしたが)、業界の表と裏を見て育ちました。バブル期の6年はおもにNYで暮らし、あらためて飲食の面白さに目覚めました。1994年に帰国して以来、いわゆるグルメ評論を続けてきましたが、平知盛(「見るべきほどのものは見つ)にならっていえば、食べるべきほどのものは食べたかなあ…とも思うこの頃です。今は文教大学国際学部国際観光学科で、食と観光、マーケティングを教えています。学生目線で企業とコラボ商品を開発したりして、けっこう面白いです。どうしても「食」は仕事になってしまうので、「趣味」はアナログレコード鑑賞です。いちおう主著は 「レストランで覗いた ニューヨーク万華鏡(柴田書店)」「美味しくって、ブラボーッ!(新潮社)」「アメリカかぶれの日本コンビニグルメ論(講談社)」「東京イタリアン誘惑50店(講談社)」「〈錯覚〉の外食産業(商業社)」「神話と象徴のマーケティングーー顕示的商品としてのレコード(創成社)」あたりです。ぴあの「東京最高のレストラン」という座談会スタイルのガイド本は、創刊から関わって今年で15年目を迎えます。こちらもどうぞよろしく。

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