【クローズアップ】利用者の目線でホテルを見定める日本唯一のホテル評論家 瀧澤信秋

【クローズアップ】利用者の目線でホテルを見定める日本唯一のホテル評論家 瀧澤信秋

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ホテル評論家 旅行作家

瀧澤信秋

 

日本を代表する「ホテル評論家」として知られる瀧澤信秋さんは、自腹の覆面取材で数々のホテルに宿泊し、徹底した利用者目線でホテルを評価するという姿勢を貫いています。2014年には、365日毎日違うホテルにチェックインする「365日365ホテル」というミッションを実践、372のホテルへチェックインしたことで、ホテル業界からも一目置かれる存在に。ホテルの良いところ、悪いところをズバッと言える貴重な存在として、各種メディアも厚い信頼を寄せています。6月某日、1週間の東北ホテル取材から戻ったばかりという瀧澤さんにインタビューを敢行。ホテル評論家というお仕事について、これからのホテル業界について、お話をうかがいました。

辛口な批評でホテルを斬る「ホテル評論家」を名乗るまで

【クローズアップ】利用者の目線でホテルを見定める日本唯一のホテル評論家 瀧澤信秋

Q:瀧澤さんが現在のようにホテル評論家と名乗る前はようになったのはいつ頃ですか?

 

瀧澤さん:2013年10月25日です。それまでは「ホテルライフ評論家」を名乗っていました。話すと長くなりますが、これにはある理由があります。私はもともと金融機関や法律関係、経営コンサルタントといった仕事をしていて、出張でホテルに泊まる機会がたくさんありました。2004年頃の当時は、インターネットの宿泊予約サイトが今のように普及していなかったので、ホテルの予約方法といえば、ホテルに直接電話するか、現地の観光案内所で紹介してもらうことも多かったのです。でも、割引のかかっていない正規料金で泊まることになります。そうすると「この料金でこの部屋?」と、頭にくることもしばしば。そんな経験がきっかけで、ホテルに泊まった感想をブログで紹介し始めたんです。当時はホテルに年間100〜150泊する生活を送っていたのですが、年に2〜3回、ポツリ、ポツリと取材依頼がくるようになりました。

 

そうすると肩書きというものが必要になります。まず浮かんだのが「ホテル評論家」でしたが、ホテル業界の裏側までを知り尽くしていないと、名乗ることはできないんじゃないかなと思いました。でも、メディア露出での肩書きが「評論家」だと説得力が違いますよね。それなら私はホテルの一利用者の立場で、ホテルを利用することだけの評論家になろうと思い「ホテルライフ評論家」と名乗るようになりました。それが2007年から2008年頃のことです。

 

その後、転機となる出来事が2013年10月25日に起こりました。この日の私の宿泊先は、鹿児島の城山観光ホテル。朝食中に突然携帯が鳴りました。産経新聞からの電話で「リッツ・カールトン大阪で食品偽造が発覚しました。これについてどう思われますか?」という取材依頼でした。すぐにコメントに応じ、その15分後に今度はテレビ局からも電話がかかってきました。「これはただ事ではない」と感じた私はすぐに東京へ戻り、取材のため大阪へと向かいました。この日だけで東京のキー局からトータル3〜4本の電話がかかってきたはずです。その後も様々なメディアから連絡があり、1週間で10本くらいのテレビ番組に出演しました。特に反響が大きかったのが、11月1日にスタジオ生出演したテレビ朝日の「モーニングバード」という情報番組です。同じ日の午後には「本を書きませんか」という電話やメールが次から次へと舞い込んできました。

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Q:激動の1日であり、その後の人生を大きく変えた1日でもあったんですね。

 

瀧澤さん:その通りです。こうして2013年10月25日を境に、私の周辺を取り巻く環境はまたたく間に一変しました。テレビ出演の際、あるテレビ局の方に「もうホテル評論家を名乗ってもよいのでは?ホテルライフ評論家ではわかりにくいですよ」と言われました。試しにインターネットで検索してみたところ、意外にも「ホテル評論家」を名乗っている人は1人もいなかったんです。でもひとつ気になることがあり、実際聞いてみました。「どうして僕に取材依頼をするんですか?もっとホテル業界に詳しい人がいらっしゃるでしょう?」と。すると「瀧澤さんの他にいないんですよ」と言われたので「何がですか?」と聞き返すと「ホテルを批判する人があなたの他にいない」と言われ、納得しました。

 

確かに、ホテルジャーナリストの先生方は、私の知る限り日本に5人ほどいらっしゃいます。ホテルの素晴らしさ、ポジティブな面を積極的に発信されています。ところが、私は大学で消費者法、消費者保護について研究していたこともあって、スタンスは常に消費者目線。だから一利用者としてホテルを批評することができる。そしてそれこそが、誰もしていなかった「ホテルを評論すること」なのだと気付いたことで、ホテル評論家を名乗る決心もつきました。その次に私がしたことと言えば、本業の経営コンサルタントをすっぱりやめて、ホテル評論家を生業にするということでした。二足のわらじではホテルに失礼。それが今でも忘れない2013年10月25日だったというわけです。

365日で372のホテルにチェックインし続けた2014年

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Q:「ホテル評論家」が本業になってから、瀧澤さんはとんでもないチャレンジに取り組みましたよね?

 

瀧澤さん:「365日365ホテル」のことですね。2013年10月25日を境に、雑誌の連載などメディアからのお仕事をいただくようになった私は、ふと、1年間毎日違うホテルに泊まり続けたらどうなるだろう?と思いついたんです。さっそく翌年の2014年1月1日からそれを始めようと。でもそのためには、宿泊費が1日5,000円だとして月15万円、年間では180万円かかって、交通費も加えると約300万円が必要だと計算しました。どうしたものかと考えていた時に、生命保険の個人年金のうち1つを解約すると300万円になることがわかりまして。活動資金に充てるため迷わず解約し、無事「365日365ホテル」のミッションをスタートすることができました。よくいろんな方から「この企画は最初から(出版を前提に)タイアップが決まっていたのですか?」と尋ねられますが、そうではないんです。ブログでこのミッションをやりますと宣言し、毎日違うホテルに泊まった様子を日々更新したことで、後から出版の話が決まりました。

 

Q:365日、毎日違うホテルにチェクインするということは、一度も家に帰らなかったということですか?

 

瀧澤さん:いえ、そうではありません。東京近郊のホテルと地方のホテルの割合がだいたい半分ずつでしたが、東京近郊のホテルの場合は、チェックアウトしてからその日泊まるホテルにチェックインするまでの間、家に帰ることができますから。帰ったら郵便物を確認し、洗濯をして、夜また出掛けて行くというサイクルですね。

 

Q:「365日365ホテル」をやり遂げてみて、どのような変化がありましたか?

 

瀧澤さん:まず、ホテル業界の方たちから認めていただけるようになったというのが大きいですね。また、私がこのミッションで泊まったホテルというのは、高級ホテルはもちろんですが、ビジネスホテルやカプセルホテル、レジャーホテル(ラブホテル)のように、ホテルと名のつくところ全部が対象でした。特に東京都内にあるすべてのカプセルホテルをこのミッション内で制覇したので、今の日本では私がカプセルホテルの権威ですね(笑)。それと、このミッションがきっかけで業界誌などからも連載の仕事をいただくようになりました。

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Q:ホテルに宿泊する際、どのような点をチェックして評価していますか?

 

瀧澤さん:独自で用意した180項目のチェックリストに基づいてチェックしています。ただし、180項目をチェックするにはとても時間がかってしまうので、「365日365ホテル」の時は、その中から厳選した60項目のチェックリストを使いました。

 

私の取材方法は大きく2つあって、ひとつは実際に宿泊してチェックを行う覆面取材です。これは正式な取材を申し込む前に必ずしていることです。正式な取材を先にしてしまうと、事前に連絡をしてホテル側に協力をいただくことになるので、公平な評価ができなくなる恐れがあるからです。まずは覆面取材で60項目のチェックを行い、100点満点のうち何点かという点数を出します。でも、宿泊料金が高くて点数が高いのは当たり前の話で、いかに安い料金で高い点数のホテルなのかが重要です。そこで、60項目をチェックした点数と宿泊料金からコストパフォーマンスを算出する計算式を作り、コストパフォーマンスポイントが5点満点中4.0以上のホテルには、正式な取材を申し込みます。これがもうひとつの取材方法である正式取材です。

 

正式取材をするということは、メディアから情報発信することを前提にしています。私が高く評価するホテルとして、将来的にテレビ、ラジオ、新聞、雑誌など、各種メディアで紹介させていただくホテルのひとつとなります。そのようなホテルは20軒に1つあるかないか。評価基準は変わらないので、おすすめできるホテルが一気に増えることはありません。そのため、何十回も紹介させていただいているホテルもありますね。

 

Q:取材のための移動には車を使っていると聞きましたが、その理由は?

 

瀧澤さん:とにかく荷物が多いんですよ。たとえ1泊の予定しかなくても、着替えなど必ず1週間分の荷物を持ち歩きます。いつも思いつきで行動するので(笑)。その日泊まるホテルを30分前に決める、なんてことも珍しくありません。地方だとホテルのそばにコンビニがないこともありますし、プリンターも持って行ったりします。さすがに北海道や九州には飛行機を使いますが、それ以外はほぼ車で行きます。たった1泊なのにあまりにも荷物が多いので、チェックイン時に驚かれますね。

ホテルを取り巻く環境は日々変化している

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Q:最近のホテル事情にはどのような特徴がありますか?

 

瀧澤さん:ホテルにはシティホテル、ビジネスホテルなど、いろいろなカテゴリーがあります。シティホテルといえば、かつては老舗ホテルが最高と言われていましたね。ところが今は、外資系のラグジュアリーホテルが台頭し、日系のホテルは押され気味というのが現状です。昔は高級路線だったシティホテルがビジネスホテル化しているという傾向も見受けられます。一方のビジネスホテルはというと、一歩足を踏み入れた瞬間悲しくなってしまうような、昔ながらのビジネスホテルがある一方で、東横イン、スーパーホテル、APAなどチェーン系のビジネルホテルがどんどんその数を増やしています。全国各地の駅のそばには、だいたい1つはありますよね。そんな中、私が最も注目しているのは「進化系ビジネスホテル」です。チェーン系ホテルが次々にできると、地元にもともとあった独立系のビジネスホテルにとっては驚異なわけです。そこで今、そういったチェーン系ホテルを超えるホテルを作ろうとする動きがあって、それを私は「進化系ビジネスホテル」と呼んでいます。特に西日本でその動きが活発だと感じています。

 

Q:2020年の東京オリンピックに向けて、ホテルのニーズに変化はありますか?

 

瀧澤さん:最近いろんなところで同じ質問を受けていますが、ホテルのニーズは確実に変化しています。近年はインバウンドで特にアジア系の旅行客が大量に押し寄せていることもあり、東京のビジネスホテルは予約が非常に取りづらい状況になっています。ビジネスホテルであっても、日本の場合は質が高く安心して泊まれるので、海外旅行客に大人気なんですね。ツアー客によって何ヶ月も先が予約で埋まるため、1週間前に出張が決まるような国内のビジネスマンが予約を取るのは難しくなっているわけです。ただし、オリンピック時にはかえって東京のホテルは予約が取れるようになると見ています。なぜなら日本人は家でオリンピックを観戦して旅行を控えるから。国内組がホテルを使わない影響は大きいと思いますよ。

ホテル評論家としての喜び、今後の展望について

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Q:今後、日本のホテルだけではなく、海外のホテルは評論しないのですか?

 

瀧澤さん:ホテルを評論するということは、そのホテルを他のホテルと比較してどうかを見極めることでもあります。そのためには、その土地のホテルをどれだけ知っているかということが重要なので、世界のホテルまで手を広げることは考えていません。海外のホテルよりも、国内のまだ行ったことのないホテルに行きたいですね。私が泊まったホテルはまだ1000軒くらい。国内の一般的なホテルは約1万軒なので、死ぬまでにあと2000〜3000軒くらいには足を運びたいです。そうは言っても、現状でメディアの連載を13本抱えているので、連載のために泊まるホテルが制限されたり、泊まったあとのアウトプットが追いつかないのが今の悩みですね。

 

Q:ホテル評論家としての喜びとは?

 

瀧澤さん:私の評論スタンスとして、イメージ先行のメジャーな高級ホテルやチェーン系のホテルとは基本的にお付き合いはしていません。なぜなら、そのようなホテルの情報は既にあふれていて、私が取材する必要はないと思うからです。私はかねてから、全国的にはまだまだ知られていないけれど、地方にこんなにすごいホテルがあるという情報を東京のメディアで発信したいという思いでやってきましたが、先日地方のあるホテルの総支配人からお手紙をいただきました。そこには、東京のメディアでは絶対に取り上げられないようなホテルなのに、私がテレビで紹介したことで100件もの問い合わせがあり、さらにスタッフのモチベーションが上がっているという、嬉しい報告が綴られていました。地方のホテルスタッフの方たちにとっては、働いているホテルが注目されて褒められると、自分たちは間違っていないんだという自信につながりますし、サービスのクオリティも上がるんですね。そういう効用もあるのかと、嬉しく思いました。

 

Qホテルのグルメについてはどのようなスタンスなのですか?

 

瀧澤さん:実は私は、ホテルグルメにはあえて手を広げないようにしています。そこまですると、今度はグルメ評論の領域になりますので。同じ考え方で旅館も評論の対象外にしています。旅館は1泊2食付きが基本ですよね。私はあくまでホテルステイの評論なので、宿泊料金に食事が含まれている旅館は外しています。それでも例外があって、ビジネスホテルの無料朝食にまつわる連載のオファーをいただき、朝食なら泊まると宿泊者全員に無料で付いてくるものなので、評論の対象にできると思い引き受けました。

【クローズアップ】利用者の目線でホテルを見定める日本唯一のホテル評論家 瀧澤信秋

Q:瀧澤さんは「ippin」のキュレーターとして、毎回ホテルメイドのグルメを紹介してくださっていますが、商品選びのポイントは?

 

瀧澤さん:ホテルメイドのグルメは、ホテルの名前を出して販売しているだけに、いずれもクオリティが高いものです。でもホテルメイドの商品についての情報は少ないのが現状です。ホテル側はあくまで宿泊してもらうことが最優先なので、広告宣伝費を使ってまでホテルメイドの商品を宣伝することはありません。そのようなこともあって、日頃なかなか知る機会がないホテルメイドのグルメを、ジャーナリストの仕事として紹介するのが私の役目かなと思っています。ありがたいことに、ippinで紹介させていただいたことがきっかけで、これまでお付き合いのなかった高級系のホテルとの接点が生まれたり、今まで紹介する術がなかったホテル側からも喜んでいただけたりと、私としてもメリットが大きいと感じています。

 

Q最後に、瀧澤さんにとってホテルとは、どのような魅力のあるところですか?

 

瀧澤さん:やはり、自分だけの非日常の空間、そこにある特別感ではないでしょうか。もっともっと魅力的なホテルを私自身が探している状態です。どんなホテルにも良いところと悪いところがあって、たとえ私が酷評したホテルであっても、良いところを引き出すように心がけていますし、良いホテルがあればたくさんの人に伝えたいと思います。私個人としては、ホテルにサウナがあると嬉しいです。実は旅行が好きじゃなくて、各地へ行っても観光スポットには立ち寄らないんです。その代わり、チェックインしたらひとりで飲みに出かけます。立地や外観から、ハズさない店の見極め方が随分と身につきましたね。

【クローズアップ】利用者の目線でホテルを見定める日本唯一のホテル評論家 瀧澤信秋

【プロフィール】

ホテル評論家、旅行作家。All About公式ホテルガイド。ホテル情報専門サイトHotelers編集長。日本旅行作家協会会員。日本を代表するホテル評論家として、利用者目線やコストパフォーマンスを重視する取材を徹底。その忌憚なきホテル評論には定評がある。フィールドは、ホテルステイからホテルグルメ、ホテルにまつわる社会問題までと幅広い。テレビやラジオ、雑誌などへの露出も数えきれず、業界専門誌への連載も手がけるなどメディアからの信頼も厚い。また、旅行作家としても旅のエッセイなど多数発表、ファンも多い。2014年は365日毎日異なるホテルへチェックインし続ける365日365ホテルを実践し、372のホテルへチェックイン。この体験を「365日365ホテル 上」(マガジンハウス)として上半期のホテル旅の記録をホテルガイドも兼ねて上梓した。著書に「ホテルに騙されるな!プロが教える絶対失敗しない選び方」(光文社新書)などがある。

※掲載情報は 2015/06/29 時点のものとなります。

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