得意な辛さと苦手な辛さ、何が違うの?エスビー食品の「中の人」にスパイスの奥深い世界を解説してもらった

辛いものといえば唐辛子、コショウ、わさび、からし、山椒などが挙げられます。同じ「辛(から)い」ですが、それぞれの辛さ・刺激は異なり、「唐辛子は得意だけどわさびは苦手」という人もいるかもしれません。この違いは食材に含まれる辛み成分の違いからきています。唐辛子はカプサイシン、コショウはピペリン、わさびとからしはアリルイソチオシアネート、山椒はサンショオールという成分がそれぞれ辛みを感じさせる成分。この違いによって得意・不得意が分かれているようです。また、辛いスパイスたちは、その地域の食文化に影響を与えますが、辛さ以外にも重要なのが香りの要素。スパイスやハーブで香りづけをすることで、その国らしい料理に仕上がっています。(日本橋のグルメエスニック料理

得意な辛さと苦手な辛さ、何が違うの?エスビー食品の「中の人」にスパイスの奥深い世界を解説してもらった

こんにちは。ライターの周東です。

みなさん「辛い料理」はお好きでしょうか? 

 

私はというと、基本的には好きなのですが、「得意な辛さ」と「苦手な辛さ」があったりします。

たとえば、韓国系の辛さは得意で、いかに“激辛”を謳うものでもだいたい食べられます。一方で、四川風麻婆豆腐とか麻辣湯など、中華系の辛さはやや苦手。

韓国料理と同じく、「唐辛子を使った料理」のはずなのに、なぜか激辛の中華料理は涙が止まらなくなるのです。

 

ほかにも、タイカレーの辛さとか、メキシカンタコスのスパイシーさとか、ひと口に“辛さ”といっても、それぞれ国によって種類は違う気がします。いったいどうして……?

 

そんな疑問を解き明かすべく、「スパイスのエキスパート」のもとを訪ねてみました。

 

辛さの種類はどのくらいあるの? 「スパイス&ハーブマスター」に聞いてみた

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やってきたのはカレー粉や香辛料でおなじみの「エスビー食品」。

社名はSPICEの「S」とHERBの「B」の略でもあり、かつ、同社のウェブサイトにある「スパイス&ハーブ総合研究所」では、さまざまな香辛料について情報発信もしています。ここならきっと「辛さに詳しい人」がいるはず!

 

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▲エントランスには、「一生かかっても使いきれなさそうな胡椒」が鎮座していました。さすがエスビーさん

 

今回お話を伺うのは、広報ユニットの遠藤由美さん。社内で13人しかいない「スパイス&ハーブマスター」の資格を持つエキスパートということで、実に頼もしいです。さっそく、マスターに「辛さ」についてアレコレ聞いてみましょう。

 

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▲スパイス&ハーブマスターこと遠藤さん

 

スパイス&ハーブで「辛み」があるのは、ほんの1割程度

──さっそくですが、スパイスの「辛さの種類」ってどれくらいあるんですか?

f:id:g-gourmedia:20180604155900j:plain「その前に、スパイス=辛いというイメージを持たれている方が多いのですが、世界に何万種類とあるハーブやスパイスのなかで『辛みづけ』ができるものは、実は1割程度に過ぎないんです」

 

──え! たった1割!?

f:id:g-gourmedia:20180604155900j:plain「そうなんです。でも、1980年代にスパイスやハーブをふんだんに使った辛い『無国籍料理』がブームになったこともあって、いつのまにか『スパイス&ハーブ=辛い』というイメージが日本では広く浸透したのだと思います。『スパイシー』という言葉も、日本では『香辛料の香りがする』、『辛い』という両方の意味で使われる方がいらっしゃいます」

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▲スパイス&ハーブの主な役割は料理の「香りづけ」。そのなかの一部に料理に色を付けたり、辛みをつけたりするものがあるといいます

 

──では、「辛み」をつける代表的なスパイスにはどんなものがあるんですか?

f:id:g-gourmedia:20180604155900j:plain「主なものとしては、唐辛子、コショウ、ワサビ、山椒、からし(マスタード)でしょうか。唐辛子には『カプサイシン』、コショウは『ピペリン』、からしとわさびには『アリルイソチオシアネート』、そして山椒には『サンショオール』という辛み成分が含まれています。特徴としては、カプサイシン、ピペリン、サンショオールは熱に強く、後に残る辛さですが、アリルイソチオシアネートは揮発性で熱に弱い。わさびやからしが、他のスパイスと違って後に引かない辛さなのは、この成分の影響によるものです」

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──たしかに、スパイシーな料理に慣れた外国の方でも、ワサビの鼻からツーンと抜ける辛さは苦手、という話を聞いたことがあります。

 

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▲エスビーのご長寿商品の粉わさびとからし。加熱すると辛みは消えてしまうが、風味は残るといいます

 

同じ唐辛子でも育つ環境により味が変わる

 

さて、スパイスの基礎について学んだところで本題です。

同じ「唐辛子を使った辛い料理」でも、食べられるものとそうでないものがあるのはなぜなのでしょうか?

 

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▲すると、「韓国産唐辛子」「ハバネロペッパー」など、いろんな唐辛子を出してきた遠藤さん。「SPICE&HERB」シリーズの唐辛子たちだそうです。こんなに種類があるんだ……

 

──唐辛子ってこんなに種類があったんですね。でも、辛み成分は全て同じ「カプサイシン」ですよね。それぞれ、味に違いは出るものなんでしょうか?

f:id:g-gourmedia:20180604155900j:plain「スパイスとハーブは、育つ土地によって香りや味が変わるんです。唐辛子はもともと南米原産ですが、冒険家のコロンブスなどによって全世界に広まり、各地でうまく根付いた“強い植物”。そのため、辛み成分は同じでも、根付いた土地によって、辛み成分の含有量や香り、風味が違ってくることはあると思います。

たとえば、当社のラインナップでいうと、『韓国産唐辛子』は“韓国で育った、ほぼ辛みがなくて甘い風味がするようなもの”を指します。キムチを想像してもらうと分かりやすいと思うのですが、韓国産唐辛子はびっくりするような辛さではなく、風味を楽しめるタイプです」

 

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▲育ってきた環境で性格が変わる。人間と同じだね

 

──韓国料理は韓国産唐辛子、一方で中国系の料理だと、鷹の爪を多用するイメージです。私が中華系の辛さを苦手としているのは、鷹の爪が原因なんでしょうか? 韓国で育った唐辛子は大丈夫だけど、中国の唐辛子は合わないということですかね?

f:id:g-gourmedia:20180604155900j:plain「かもしれませんね。韓国料理と中国料理では、辛みを引き出す料理法が異なります。周東さんは、韓国料理の料理法がお好きなのかもしれません。

また、『鷹の爪』というと1品種を示す場合もあるんですが、たいていは唐辛子全般を指すことが多いので、辛いものからそうでないものまで多様です。なので、一概に『唐辛子のせい』とは言い切れないと思います。

それよりも、中華料理、とくに四川料理だと、唐辛子と併せて “花椒(ホァジョー、ホアジャオ)”を使うので、唐辛子の辛さというよりは『ピリピリした花椒の辛さ』を強く感じているのではないでしょうか」

 

──なるほど、確かにあのピリピリは嫌かも。私は唐辛子じゃなく、花椒が苦手だったのか……。

f:id:g-gourmedia:20180604155900j:plain「ちなみに、四川料理をはじめとする中華料理は紀元前からの長い歴史があるとされますが、そこに唐辛子が入って来たのはほんの400~500年前。それ以前は、中国原産の花椒はあったと思いますが、現代の私たちが想像するような“真っ赤な四川料理”とはまた違った料理だったのかもしれませんね」

 

地の恵みが食文化を作る。だから「辛い料理」も国によってさまざま

──唐辛子は育つ環境によって香りや風味が変わるということでしたが、その違いがそのまま国ごとの料理の違い、食の嗜好の違いになっているということなんでしょうか?

f:id:g-gourmedia:20180604155900j:plain「その土地で育った食物で料理を作るのが『食文化』。唐辛子も、各地の料理に少なからぬ影響を与えていることは間違いないと思います」

 

──では、「唐辛子が各国、特に“辛い料理”の食文化を作ってきた」といっても過言ではないですね?

f:id:g-gourmedia:20180604155900j:plain「うーん、それはどうでしょうか。食文化というものは唐辛子だけで成立するほど単純なものではなく、地形や気候、唐辛子以外にどんな食材が獲れるのかなど複雑な要素が絡み合っています。

たとえば、伝統的な和食には唐辛子をたっぷり使った料理ってありませんよね。なぜだと思いますか?」

 

──えっと……いい唐辛子が育たなかったから?

 

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▲「うーん……残念! 違います」

 

f:id:g-gourmedia:20180604155900j:plain「日本には山も海もあり、いつでも新鮮なものが食べられますよね。そのため、日本で生まれた和食は食材の良さを楽しむものが多い。ですから、『唐辛子』をメインに使って調理するというよりは、七味唐辛子やモミジおろしといった“薬味”として定着したようです。このように、唐辛子は各国の状況に応じた使われ方をしてきたのではないでしょうか」

 

というわけで、おさらいすると

 

(1)日本ではスパイス=辛いというイメージが定着しているが、数多あるスパイス&ハーブのなかで「辛み」をつけられるのはほんの一部。

(2)同じ唐辛子でも根付いた土地によって、香りや風味、辛みの含有量が違ってくる。

(3)四川料理などは唐辛子より「花椒」の特徴が強く出るため、そちらの辛さが苦手ということも考えられる。

(4)唐辛子は各国の気候や獲れる食材などにより、さまざまな使われ方をしてきた。それが、食文化の形成に少なからぬ影響をもたらしている。

 

といったところでしょうか。

同じ「辛い料理」でも得手・不得手があるのは、唐辛子の産地による味の違いや、「花椒」のような特徴的なスパイスを使っていることが原因の一つと言えそうです。

 

それにしても、スパイスの話はおもしろい。せっかくなので、もう少し聞いてみましょう。

 

唐辛子+その他のスパイスで、辛さのバリエーションはいかようにも

──では、そんな唐辛子を上手に使い分ける方法があれば教えてほしいです。たとえば、どんな料理でも韓国風唐辛子を使うと「韓国風」になったり、中国産を使うと「中国風」になったりするんでしょうか?

f:id:g-gourmedia:20180604155900j:plain「いえ、唐辛子だけでナントカ風にするのはさすがに難しいと思います。確かに品種や産地によって風味が異なりますが、それこそ唐辛子を山盛りに入れるか、丸かじりでもしない限りその差を判別することは難しいのではないでしょうか。唐辛子はあくまで料理を構成する一つの要素です」

 

──つまり、唐辛子だけではなく、唐辛子を含むさまざまなスパイスの組み合わせが重要ということでしょうか?

f:id:g-gourmedia:20180604155900j:plain「はい。ナントカ風に仕上げるためには『香りの要素』が重要になります。唐辛子に加え、たとえばカフェライムリーフ(こぶみかんの葉)を使えば “タイ風”になりますし、コショウやコリアンダー、クミンなどが加わった『ガラムマサラ』を使えば “インド風”、花椒やクローブ、シナモンが合わさった『五香粉(ウーシャンフェン)』を使えば “中国風”になる。ちなみに、メキシコ料理には『チリパウダー』という調味料がよく使われるのですが、これは唐辛子に、オレガノやクミン、ニンニクを混ぜたもの。このように、各国の料理はスパイスとハーブの複雑なブレンドによって生み出されているんです

 

なるほど、「その国の料理らしさ」とは、“辛み”と“香り”が合わさった“ミックススパイス”によって生まれるようです。つまり唐辛子などのベースの辛さに加え、「+α」の部分が重要なんですね。

ということは、その+αの部分を試行錯誤していけば、「辛さのバリエーション」はもっともっと広がっていきそう。

 

おまけ:エスビーで一番辛いスパイスは?

──ちなみに、エスビーさんのラインナップで「一番辛い商品」は何ですか? やっぱり有名な「ハバネロ」とか?

f:id:g-gourmedia:20180604155900j:plain「いえ、さらに上がいます」

 

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▲その名も「燃辛(もえから)唐辛子」。パッケージを眺めているだけで、もう辛い

 

──いかにも凶悪な見た目ですね……。

f:id:g-gourmedia:20180604155900j:plain「インド産の超激辛唐辛子『ブートジョロキア』などを配合したスパイスです。当社の辛いもの好きが開発しました。ちょっと勇気はいりますが、たまに使うと面白いと思いますよ」

 

──いや、“辛いもの好き”の範疇を超えているような……。

f:id:g-gourmedia:20180604155900j:plain「辛いものって慣れれば慣れるほど刺激に慣れていきますから。辛いものって一度好きになると、どんどん辛さに挑戦したくなるもの。料理に辛さを求める辛さ好きのニーズにお応えし、刺激的かつ複雑で奥深い辛さとなっています」

 

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▲なお、同僚はひとなめで撃沈していました

 

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▲でも、普通の唐辛子もたくさんありますのでご安心を

 

取材協力

エスビー食品

http://www.sbfoods.co.jp/

プロフィール

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周東淑子(やじろべえ)

大阪府出身。地方新聞記者、ウェブ編集者を経て、東京の「やじろべえ」という会社でライター、編集者をしています。
ホルモンはテッチャン、お酒は「奥丹波」が好きです。

やじろべえ https://www.yajirobe.me/

                             
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