ライターの榎並紀行です。
とりたてて言うことではないかもしれないが、中華料理店のテーブルは赤い。あの赤いテーブルこそが、中華料理店の雰囲気の8割方を作り出していると思っている(残り2割は油でヌルヌルすべる床)。
あの赤いテーブルで食べるチャーハンや餃子は、やたらうまい。聞けば、赤やオレンジなどの暖色は食欲を刺激するそうだ。加えて、これまでに幾度も赤いテーブルでうまい中華を食べてきたという個人的な成功体験が、「赤い=うまい」を結び付けているのだと思う。
そこで、ふと思った。
もしかしたら僕が作った素人料理でも、この赤いテーブルで食べればうまく感じられるんじゃないか?
料理の味は、その場の雰囲気やシチュエーションによって大きく変わる。赤いテーブルには、中華のおいしさを最大限に引き出すポテンシャルが秘められているのではないかと思うのだ。
試してみよう!
買いました
・・・というわけで、我が家に憧れの赤いテーブルがやってきた。自撮りなので無表情だが、じつはとても興奮している。
ちなみに、赤いテーブルは浅草のかっぱ橋道具街に売っていた。業務用の什器や備品などが何でも揃う商店街である。ここには赤いテーブル以外にも…
「スナックの椅子」なども売られている。いつか「スナックの椅子で飲む水割りはうまい」という企画をやることがあったら買いにこよう。
いざ、中華屋さんごっこ
せっかく赤いテーブルが手に入ったのだから、より中華屋っぽくするべくディティールにもこだわりたい。同じ合羽橋で小道具類も揃えてみた。
割り箸入れ、調味料入れ、中華系の食器類である。テーブルと合わせ、トータル3万円程度の出費だ。ごっこ遊びとしては高くついたが、本気の中華屋を開業しようと思ったら数百万円からのコストがかかる。
これらを赤いテーブルに配置すると、気分がぐっと盛り上がる。
おお、いい! 想像より3倍いい!
いきおい、より中華屋っぽくするべく床をヌルヌルにしてしまおうかとも考えたが、何とか踏みとどまった。敷金と引き換えにリアリティを追求するほど、僕は芸術家肌じゃない。
さて、それではさっそく赤いテーブルの効果を確かめていこう。
まずはチャーハンをこしらえてみた。ハム、たまご、玉ねぎ、ちくわという何の変哲もないチャーハンだが、赤いテーブルに置いてみると「中華鍋を振り続けて30年」みたいな迫力が出た、ような気がする。
また、こちらはいつも食べているインスタントラーメン。わびしい素ラーメンが、「うちのはあえての“具なし”です」みたいな雰囲気になった。赤いテーブル効果によって、がんこな店主のめんどくさいこだわりが醸し出されている。
2つ並べると、さらにフォトジェニックだ。そして…
瓶ビールを置けば完璧である。赤いテーブルには生より瓶が似合う。
もうたまらん。食うぞ!
ラーメンからのチャーハンからのビール…。これを百億万回繰り返す地獄があったら、ぜひとも堕ちたい。 要するに、うまい。
リーダー(ラーメン)が振って寺門(チャーハン)が煽って竜ちゃん(ビール)が落とす。熟練のトリオ芸のような、お約束通りのうまさである。
しかし、これは単にラーメンやチャーハンが普通に料理としてうまいのであって、赤いテーブルとは関係ないのかもしれない。
そこで、他の料理でも試してみたい。
たとえば、寿司はどうか・・・。
うん、しっくりこなさがすごい! とても居心地が悪そうだ。
個人的に寿司は大好物だが、赤いテーブルだからといってテンションは上がらなかった。
それはステーキも同様である。場違い感がすごいし、経営不振を脱すべくメニューを多角化しすぎた迷走感が出てしまう。この店はもうすぐ潰れるだろう。
やはり、赤いテーブルに寿司やステーキといったスターは似合わないようだ。
かといって、質素であれば何でもいいというものでもない。たとえば、コンビニ弁当だと「バイトの食事休憩」感が出てしまう。「まかないくらい出してやれ!」と店主を叱ってやりたくなる。
一方、同じ質素でも「ソーセージ炒め」は赤いテーブルに抜群にマッチするし、すこぶるテンションが上がる。やはり「大衆中華料理店にありそうなメニュー」を食べるためのテーブルなのだな、これは。
というわけで、この日以来、赤いテーブルでやる晩酌がはかどって仕方ない。必然的につまみが中華系の油っこいものばかりになってしまい、身体が心配だ。
ともあれ、久しぶりにいい買い物をした。部屋のインテリアコーディネートは台無しになったが、赤いテーブルはそれを上回る喜びを、僕の日常にもたらしてくれたのである。
【編集部からのお知らせ】
中華料理を食べたくなったらこちらをどうぞ(赤テーブル保証はありませんが……)
⇒中華料理 ガイド【ぐるなび人気レストラン】
赤テーブルを購入したくなった方はこちらをどうぞ
⇒『かっぱ橋道具街』公式ページ
プロフィール
榎並紀行(やじろべえ)
1980年生まれ埼玉育ち。東京の「やじろべえ」という会社で編集者、ライターをしています。ニューヨーク出身という冗談みたいな経歴の持ち主ですが、英語は全く話せません。
> ツイッター: Twitter (@noriyukienami)
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