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炭火と七輪でジビエ!五反田「罠」で絶品の鹿や猪を喰らう【東京エス肉めぐり第9回】

家では自炊ベジタリアン、外食は肉、というスタイルを貫くエスニック料理の研究家であるサラーム海上さんが東京近郊のエスニックな肉料理を食べ歩く連載です。連載第9回目に訪れたのは、五反田にある、焼ジビエのお店「罠」さん。なんと七輪と炭火で焼いたジビエのお肉をいただけてしまうお店です。ジビエ=クセがあるという思い込みが一口で吹き飛んでしまうであろうお店でした。(五反田のグルメランチ

炭火と七輪でジビエ!五反田「罠」で絶品の鹿や猪を喰らう【東京エス肉めぐり第9回】

五反田 ランチ サラーム海上 グルメレポ

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東京周辺のエスニックな肉料理を食い尽くすこの連載「東京エス肉めぐり」第9回は「焼ジビエ 罠五反田店」。名前からして蠱惑的な響きがするこのお店は鹿、猪、熊、猪豚、雉などの国産の野生鳥獣肉、いわゆる「ジビエ」を炭火と七輪を使った焼き肉スタイルで提供してくれるのだ!

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「それってエスニック料理じゃないじゃん?」などと言わないように!
25年以上にわたり、世界30数カ国の料理を食べ歩いてきた僕に言わせるなら、日本食こそ世界中のエスニック料理の極北よぉ~!

 

日本食は世界最強のエスニック料理!?

油をたっぷり使う料理、炒め物や揚げ物が極めて少ないし、魚や野菜などの生食も多い。さらに箸の使用を前提とするため小さなお皿や小鉢に少量ずつ盛り付ける。その上、小食や素食が良しとされる。東南アジアやインド、中東やヨーロッパでは何処に行っても油をたっぷり使うのが基本だし、大量に盛り付けて大量に食べるのが良しとされる。インドのヒンドゥー教徒は油で揚げたものこそ最良とし、基本的に生食はタブーである。イスラーム教徒にとっても、魚の刺身などは「ハラル」の正反対の「ハラム」にあたる。多くの日本食は世界に暮らす約半数の人々のタブーに触れてしまうのだ。しかし、同時に日本食独自の美学は世界遺産に選ばれるほど研ぎ澄まされている。というわけで、日本食は世界最強のエスニック料理であることを、我々日本人はもっと意識したほうが良いだろう。それはさておき、本題の「焼ジビエ罠 五反田店」に戻ろう。

 

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近頃、何かと話題となることが増えた「ジビエ」とはフランス語で「狩猟によって捕獲された野生の鳥獣の肉」を意味する。通常の食肉は養殖畜産によるが、ジビエはハンターが銃や網や罠を使って捕獲した肉である。フランス料理では鳩や青首鴨、野兎や鹿などのジビエ肉が高級食材とされるし、日本でも古くから山岳地や北海道では熊や鹿、雉や兎の肉が愛されてきた。一般的に滋養強壮作用があり、高タンパクで高鉄分、しかも低カロリーとイイ事づくめのジビエだが、クセや臭みがあって食べにくいと言われることも多い。さらに近年では増えすぎた野生獣による農作物被害が深刻化し、長野県などの地方自治体が主体となり、鹿肉を中心にしたジビエの消費拡大運動が行われている。しかし、品質と数量の安定供給が難しいため、一部の食通をのぞいては、あまり広まってはいないのが実情だろう。

 

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「焼ジビエ 罠 五反田店」はJR五反田駅西口の歩道橋を渡ってすぐのところにある。開店は昨年の11月と、まだオープンして一年が経たない新しいお店だ。グレーのタイル張りのビルの前に、白文字で「罠」と大きく書かれた黒い看板が立ち、店内から炭火で焼かれた肉の香りが流れ出している。土地勘のない人でもすぐに見つけられるはず。
奥に細長いお店は一階から三階まであり、一階はオープンキッチンとカウンター席となっている。今回は四人のエス肉兄弟団の新加入団員とともに、合計五人でお店を訪れた。

 

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「いらっしゃいませ!」
「調理が目の前で見られるように一階の席を用意してお待ちしていました」

にこやかに挨拶で迎えてくれたのは五反田店店長の柴田孝太郎さんと新橋店マネージャーの三浦雅久さん。お店の壁やカウンターには、その日に入荷しているジビエ肉の産地や部位、値段がわかりやすい表形式で表示されている。

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と言っても初めての来店なので、蝦夷鹿、天然猪、雉など、どれから頼んだら良いのかよくわからない。三浦さん、お店で一番人気があるのは何でしょうか?

 

三浦「一番出ているのは蝦夷鹿セットと猪セットです。今日の蝦夷鹿セットは芯玉と言われるモモ肉の中心部分を醤油味で、これは繊維が細かくて赤身です。次は外モモ、こちらは塩で召し上がっていただきます。そして、バラ肉の味噌漬け。この三種を塩、醤油、味噌漬けの異なる味で食べていただきます。猪セットはロース、モモ、バラ肉です。こちらも塩、醤油、味噌漬けです」

 

それは美味そう! 両方ともお願いします! 

 

まずは蝦夷鹿から

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すると柴田さんが鹿肉の塊を取りだし、手際よく薄く切り、ステンレスのお皿の上に並べてくれた。おお、透き通るような赤が美しい!

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それをカウンターにセットされた小型の七輪の頃合いを見ながら、自分で並べていく。

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まずはひときわ真っ赤な芯玉から。片面をしっかり焼いて、上面から血がにじみ出してきたら初めて裏返す。中までしっかり火を通してから、熱々の肉を口に入れる。うん、美味い!


鹿肉は牛肉にも似ているが、牛よりも臭みが少ない。しかも醤油の味が脂のほとんどない芯玉によく合う。ジビエ=クセがあるという思い込みはこの一口でどこかに吹き飛んでしまうはずだ。


次は1cmほどの脂の層が付いた外モモ。塩だけのシンプルな味付けが野性味を強調してくれる。そして、三つ目は味噌漬けにしたバラ肉。脂が多い部位だが、それを逆手にとり、脂を炎で炙ってカリカリに焦がしてからいただこう。

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すると味噌の濃い味が焦げた脂と混ざって実に濃厚だ!

 

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醤油、塩、味噌がそれぞれに異なる肉の部位に対して、異なった役割を果たしているのもすばらしい。

続いては大分の猪セット

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こちらは豚肉を二回り赤くしたような色合い。鹿と同様に一枚ずつ七輪でしっかり焼いていただくと、豚肉よりもはるかに弾力があって、それでいてあっさりとしている。

 

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すりおろしたホースラディッシュを薬味にするとさらに味が際立つ。う~ん、鹿も猪もこんなに美味しいとは!


肉を愛するわが団員たちも大興奮だ。

「柴田さん、三浦さん、今日はお二人に全てお任せしますので、美味しいものを全部出して下さい!」

前から言ってみたかったんだ!こんな豪快な台詞を!

 

ジビエの面白さとは

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三浦「ジビエの面白さは野生のものであることにつきます。一頭ごと、個体ごとに大きさも肉質も違う。環境によっても肉質が異なる。例えばどんぐりばかり食べて育った猪は肉にナッツの香りがします。日本のイベリコ豚と言いましょうか。草ばかり食べた鹿と木の皮ばかり食べた鹿でも香りが違います。


季節によって味も変わってくるんです。鹿と猪のバラ肉は夏場はどうしても脂が足りません。秋から冬にかけて、これからの季節が一番使いやすいんです。逆に北海道白糠町のハンターは夏の蝦夷鹿が一番美味いと言います。冬になると肉の中にあった脂が体表まで浮いてきてしまうんです。そうそう、鹿のタンは衝撃的な美味さです。すごく小さいんですが、スライスして焼くと、弾力が半端ない。当たりハズレではないけれど、こうした個体差がありますね。お店を始めた頃は肉から鉛の銃弾が出てきたこともあります。さすがに一度だけですが(笑)」

 

話を聞いているだけでよだれが垂れてくるぞ~! つまり季節が変わるごとに味が変わるということか。なんと罪作りな店なんだ!?

 

続いてはヒグマを

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万能葱と香菜、三つ葉という香りの強い香草ばかりの「罠サラダ」を箸休めにしていると、次に出てきたのはヒグマ。

 

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熊肉は食感が牛のハラミに似ているが、もっと官能的というか、動物的というか(動物を食べているんだから動物的に決まってるんですけどね……)、どこか危険な味。秤売りの山梨の赤ワイン「いわでブラック」とともに胃に流し込むと、オレの中の狩人の血が目を覚ます~! 

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路上に出て「ウォ~!」と一吠えしたくなったが、五反田西口ならあまり通報されることはなさそうだ(笑)。

 

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20代の頃、南フランスに留学していた僕はワインと言えばフランスびいきで、日本の赤ワインは渋かったり、酸っぱかったりの印象で、味に深みがないと勝手に思い込んでいた。しかし、日本のジビエにはさっぱりとした日本のワインが本当に良く合うんだ! 思い込みは良くないですね。大変失礼しました! しかし、ジビエ肉を通して日本のワインの美味さまで知ることになるとは……どうやら僕もお店の仕掛けた「罠」に完全にハマってしまったらしい。

 

三浦「お店の名前ですか? ウチはジビエだけのお店なので狩猟をイメージする言葉で『罠』と名付けたんです。たとえば蝦夷鹿は北海道の道東、厚岸の近くにある白糠から、箱罠でしとめた個体を一頭買いしているんです。200m離れた距離からこめかみだけを狙って仕留める腕利きのハンターと契約しています。こめかみを撃つのは、お腹を撃つと内臓が破れてしまうし、急所を外すと血が回ってしまうからです。通常はロース、もも、バラ肉、いわゆる焼き肉に使うところだけ買うんですが、ウチは一頭買いすることで、ハンターさんが余った肉を貯蔵する必要がなくなり、ロスが減るんです」

 

何? ハンターから直接一頭買いとはカッコ良すぎる! そもそもジビエ専門店、しかも炭火焼きという酔狂な形態のお店を始めたのはなぜだろう?

 

三浦「最初は炭火でジビエ肉をやったら面白いんじゃないか?という軽いアイディアから始まったんです。いわゆる七輪のスタイルで国産の野生の肉を食べられるように。肉の仕入れも最初はインターネット通販を使いました。それが好評で四年前に八丁堀に「焼ジビエ罠」を開いたんです。次に神田店を開きました。するとハンターや食肉業者から想定外の反応があり、注目されるようになったんです。


日本全国で獣害の被害は推定1000億円とされます。届け出があったものだけで、二年前に230億円。趣味で農業をされている方や届け出をしない方まで含めると推定1000億円と言われています。ジビエを消費することでそうした被害を減らす。そして、地域の雇用を増やすことにも少しだけでも貢献できる。でも、始めた頃は今のようなジビエ・ブームになるとはまったく思わなかったですね」

 

その後も特製料理のオンパレード!

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熟成鹿肉。写真は焼く前のもの。

 

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猪肉100%の焼売(猪肉の味が濃くて、肉汁が美味い!たっぷり練り唐辛子を付けても負けないほど)。

 

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続いて、雉のハツ、レバー、砂肝、ささみを串刺しにした雉の串焼きだ。

 

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そして、シメには雉のたたきをのせたお茶漬け。これも雉から出た出汁がご飯にしみて、名状しがたき美味さだ!

 

ジビエの面白さと難しさ、そして現状について

三浦「雉は脂が甘いのと、味の濃さが売りです。筋肉質で肉が堅いので、たたきを作る際も柔らかい火でじっくり火を通します。そもそも生はダメですよ。野生の動物はどんな細菌を持っていないとは限らないですからね」

 

なるほど。野生の生き物を安全に提供するには、細心の注意を払う必要があるのだ。ジビエは畜産肉とは異なる面白さがあるが、それは裏返せば難しさとも言える。

 

三浦「今日は色々と食べていただきましたが、他にもノルウェー産の鯨肉、愛知豊橋のうずら、ドライエージングビーフ、秋田の養殖兎、宮崎の駝鳥、淡路島の猪豚なども扱っています。クセがある、でも、それが個性であって美味いと、皆さんが気づき始めました。しかし、ジビエの最大の問題は野生鳥獣だけに安定供給が難しいことです。それに自治体によってもルールがバラバラなんです。今、国としてルールを定めようと動き始めたところなんです」

 

柴田八丁堀で日本初のジビエ専門店を開いてから四年。今ではジビエを出す店が少しずつ増えてきていますよ」

 

新団員とともにしたたかに飲み食いしながら、知られざるジビエ肉の美味さに驚き、日本におけるジビエの現状など、ためになるお話を伺って過ごした3時間、楽しすぎて飲み過ぎて、帰り道の記憶が完全になくなりました(笑)。

 

日本食でありながら、ここまで野性的。「焼ジビエ罠」はエス肉ファンだけでなく、海外から来る友人たちを真っ先に連れて来たくなった。

 

 

 

紹介したお店

焼ジビエ 罠 五反田

住所:東京都品川区東五反田1-14-15

TEL:050-5786-1874

 

 

プロフィール

サラーム海上 Salam Unagami
音楽評論家/DJ/中東料理研究家。肉食。中東やインドを定期的に旅し、現地の音楽と料理シーンをフィールドワークし続けている。活動は原稿執筆のほか、ラジオやクラブのDJ、オープンカレッジや大学での講義、中東料理ワークショップ等、多岐にわたる。著書に『おいしい中東 オリエントグルメ旅』(双葉文庫)、『21世紀中東音楽ジャーナル』(アルテスパブリッシング)ほか。朝日カルチャーセンター新宿にて「ワールド音楽入門」講座講師、NHK-FM『音楽遊覧飛行エキゾチッククルーズ』のDJを担当。中東や東欧の最新音楽をノンストップDJ MixしたCD「Cafe Bohemia~Shisha Mix」(LD&K)も発売中。www.chez-salam.com

 

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