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仕事場から自宅の途中で珍しく晩酌【久住昌之の「途中めし」第2回 三鷹・あじがさわ】

「孤独のグルメ」「花のズボラ飯」の原作や泉昌之名義での「食の軍師」などの著書で有名な久住昌之さんが「みんなのごはん」に登場!ご自身が愛される「途中メシ」についての連載です。第2回目の舞台は三鷹の居酒屋「あじがさわ」。仕事が終わったらすぐにお酒を飲みたい久住さんにとって、通勤途中にあるこのお店は大好きなんですがなかなか入れないようで…駅からは遠いのでお客さんは近所の人ばかりですが、ご夫婦でやっていてメニューも豊富。そしてお酒も肴もどれも美味しい!吉祥寺から三鷹まで散歩したら寄ってみるのはいかがでしょうか?(三鷹のグルメ居酒屋)

仕事場から自宅の途中で珍しく晩酌【久住昌之の「途中めし」第2回 三鷹・あじがさわ】

三鷹 グルメレポ 久住昌之 おすすめ

今回の途中めしは、吉祥寺の仕事場から、三鷹の自宅に帰る途中めしだ。

ボクは仕事場で原稿を書いている時は、たいてい深夜の1時ごろ仕事をやめる。

そしたら、たいていは吉祥寺仕事場の近くの居酒屋に行き、一人でお疲れさまのビールを飲む。神経がたかぶっていて、喉も渇いているから、最初の一杯は本当においしい。飲みながら、手帳を開いて、これからの仕事のスケジュールを立て直す。いくつもの仕事を同時進行しているので、これは重要な作業だ。

それから焼酎に変えて、2、3杯飲んで、深夜バスやタクシーで帰る。歩いて帰ることもたまにある。前はいつも自転車だったが、朝仕事場まで歩くので、自転車はやめた。

 

散歩の最後のご褒美に井の頭公園を楽しんだり……

仕事場と自宅は歩いて30分。ちょうどいい運動になる。

午前中、仕事場へ歩いて向かうのは気持ちいい。

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最初はずっと住宅街の中を歩く。何があるわけじゃないけど、人の家の前に植わっている季節の花が咲いているのには、心なごまされる。

昔からあるうちが壊されるのを、残念に思ったり、こんなでっかい家に住んでいる人は、どんな仕事をしているんだろうと想像するのは楽しい。カラフルな洗濯物に、楽しい日常生活を感じたり、何年も人が住んでいる気配のない家の不気味さを「夜はきっと幽霊が出るな」と想像して楽しんだり。

なんでもない風景も、目的地に向かって急いでなければ、なんでも楽しめる。

猫や犬や鳥も多い。生まれた時から三鷹に住んでいるのに、まだ見たことない小鳥を見る。それは僕が今まで鈍感に見逃していたのか、それとも近年三鷹に来るようになったのか。どっちにしても新しい発見にはときめく。

そうやって20分ほど歩くと、井の頭公園に着く。

この中を歩くのは、散歩の最後のご褒美のようだ。井の頭公園西園には、最近野球グランドができた。その周りの土手に上がって歩くのも楽しい。ジブリ美術館の横から西園のグランドを突っ切って行くのも空が広く開けて気持ちいい。いろんなコースをその日の気まぐれで歩く。森の中を歩くのは、本当に気持ちがいい。

そして坂を下って井の頭池の淵を歩く。ここもいろんな道が選べる。池の真ん中の七井橋を渡ったり、渡らなかったり。

水がある公園はいい。池に映る緑が、新緑、深緑、紅葉、落葉と、日に日に色を変えていくのが目に心地いい。季節はどんどん過ぎる。悲しくても、嬉しくても、そんなことに関係なく、地球は自転しながら公転している。

そうやって、吉祥寺の街の一角にある仕事場に到着する。夏は汗をかくけど、その他の季節は、ちょっと汗ばむ程度で、ちょうどいい運動量だ。

 

 

このように、朝は実に気持ちがいいのだが、夜は公園の中も暗いからつまらない。

歩いても、なんだかやっぱり急ぎ足になり、なぜかうつむきがちになってしまう。

俺は何のために毎日あくせくと生きているんだろう。

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こうやって毎日毎晩生きていることに意味があるのだろうか。

 

なんて、考えないけど。

でも、仕事帰りの深夜道は、面白いもんではない。

やっぱり、本来仕事は朝早く起きて始め、夕方になったらやめるべきだ。夕暮れの道を帰るのが健康的な生活というものだ。

エノケンの歌う「私の青空」だ。My Blue Heavenが、人間の本来の生活というものだ。

わかってる。だけど、仕事は深夜に深夜に押して、それができない。真夜中に駅前で飲んで、深夜バスやタクシーに乗って、すぐ帰るのが帰路だ。

家ではほとんど飲まない。パジャマに着替えて歯を磨いて、すぐ寝る。すぐ寝るけど、すでに時間が遅いから、早起きできない、悪循環から抜け出せない。

毎晩のように酒は飲むけど、そんなのが普通だ。

 

 

仕事が終わるとすぐに飲みたい…だから、ここ…「あじがさわ」

だけど、仕事場から歩いて30分ちょっとの帰宅路に、すばらしい途中居酒屋が一軒あるのだ。

すごくいいんだけど、そういうわけで、その店に向かって深夜に歩いて行くのが、物凄くめんどくさい。なかなか行けない。

素面でそこまで車でピュッと行っちゃって、ゆっくり飲んでサッと帰ればいいじゃないか、と言われそうだけど、これがなかなかできない。仕事が終わると、できるだけすぐ飲みたいのだ。

 

そんな通勤途中店が、「和風居酒屋 あじがさわ」だ。

 

先日取材で弘前に行った時、道路標識に、あと何Kmで鯵ヶ沢、という文字を見つけた時、すぐこの店を思いだした。

店には「鯵ヶ沢より直送」と書いたメニューがいくつかある。その中でも時にボクが大好きなのは「十三湖産のしじみの酒蒸し」。酒蒸しといえばあさりだが、しじみも旨い。

いやボクは、しじみの方が好きだ。 

 

店は駅から遠いから、来るのは近所の人ばかりだ。結構いつも空いている。

カウンターに4席と、4人掛けテーブルがふたつ。二階に座敷もあって、時々小規模な宴会をやっている。

ご夫婦でやっていて、女将さんは感じいいし、ご主人は黙々と仕事している姿に、年季と誠実が滲み出ていて、ちょっと猫背っぽい姿勢までが、かっこよく見える。

この店ですごいのは、まず品数が多いことだ。

刺身、天ぷら、煮物、焼き物、揚げ物、漬物、鍋となんでもある。

しかもご飯のもの、お茶漬けおにぎり稲庭うどん。もちろんご飯と味噌汁もある。

そこで、今回、ここで晩酌夕飯を食べる、という途中めしを思いついた。

これは、しようと思わないとできない。

ボクは、夕飯の後も仕事するので、晩酌というのはまずしない。酒は仕事や用事が全部終わってから飲みたいのだ。

そこをあえて、と考えたら途端に楽しくなった。

夜7時半。仕事場からバスで最寄の停留所まで行き、そこから徒歩6~7分。

入ると、客はカウンターの端に、年配の男が一人飲んでいるだけ。

「ひとりだけど、テーブルいいですか」

というと女将さんは「どうぞどうぞ」と言ってくれた。


 

アテの組み立ては慎重に、丁寧に。そして「やった勝った!」と

さて、今夜の晩酌の組み立てだ。

まず、瓶ビールを一本頼む。中瓶。ちょうどいい。大瓶はひとりだと、ちょっと手にあまる。

何をアテるか。食堂では食べられないものを頼もう。

久しぶりだから、やっぱり「しじみの酒蒸し(十三湖産)」はもらおう。

そこに「牛肉とこんにゃく炒め」はどうだ。

さらに、まず普段食べない「じゅんさい」を添えてみた。

しじみの酒蒸しは、ぷっくりしたしじみの身も旨いが、汁が美味しいことは、味噌汁でも証明済みだ。熱いのが胃の腑に沁みる。酒を飲む前に、ちょいと肝臓に良さそう、という気休めにもいい。

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十三湖産のしじみの酒蒸し。これだけでお銚子1、2本いけちゃうよ

 

そして、牛肉とこんにゃく炒め。これがちょいピリ辛でウマイ!肉もウマイんだが、かまぼこ状に薄く切られた、味の移ったこんにゃくが、オイシイ。肉よりそっちの方がメインと言ってもいい。ビールに合う。そして、熱いうちもウマイが、冷めてもオイシイから、最後のご飯のおかずにも利用できるというものだ。

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▲牛肉とこんにゃく炒め。冷めてもオイシイから、最後のご飯のおかずにもいいよ

 

じゅんさい。これも不思議な食べ物だ。ゲル状透明の中に入った丸まった葉っぱの、ぬるぬるシャキシャキの、食感。食感しかないような食べ物なんだけど、あたらめて味わうと、確かに植物のおいしさが口の中にほのかに立ちのぼる。なんかこうして一人で食べると、しみじみ、特別なことしている感が出ていい。

そうして、ビールを飲み終え、ここは日本酒を一合もらいたい。燗酒で。

ここは、冷たいお酒は、青森の地酒「水軍」を各種取り揃えている。前に3人で来て、いろいろ飲み比べた上、地酒も飲んだら、後半記憶が飛んだ。燗酒は「神鷹」のようだ。この普通っぽい味が、実にいい。

この日は、夕方からしとしと雨が降り出した。冬で空気が乾燥していたから、寒いけどいいお湿りだ。それより何より、こうして早い時間から一人晩酌をしようてぇ時に、しとしと雨は、悪くねぇ。燗酒をおいしくしてくれる演出のようだ。

酒に変えたら、刺身が欲しい。鯵ヶ沢直送の「ほうぼう」の刺身をもらう。初めて食べる。

これが薄造りで、フグのように菊に並べられ出てきた。ポン酢で食べたが淡白で、ちょっとだけ噛み応えがあって、最高!これを頼んだ自分を褒める。

さらに、旬の「新竹の子木の芽焼き」をもらう。これがまずいわけがない。案の定、焼き加減、味付け、切り方、文句無し。いかにも新鮮という歯ごたえに引き続いて、口の中から鼻に抜ける香り、最高。あー、もう、シアワセ!

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▲新竹の子木の芽焼き。焼き加減、味付け、切り方、文句無し。あー、もう、シアワセ!

 

この辺で、ちびちびと燗酒を飲る(「飲る」と書いて「やる」)楽しさったらない。

最後どう締めるか。いろいろ考えたが、少し残してある、牛肉とこんにゃく炒めに、刺身、追加で何か小さいもの一品。これにご飯味噌汁で、いいんじゃないか、と思った。

 

勝った。と思った。

だがもう少しだけ、酒が残っていた。考えながら、ちびちびやっているので、案外持っている。そこで、鯵ヶ沢から直送という「ほやの塩辛」を追加。

こっれっが、もう絶品!ほや酢とか、生ほやより、断然オイシイ。しかも細かく切ってあるので、ちびっと食べられる。ちびっと食べると、その味が、酒を呼ぶ。

ぬる燗になった酒を、ちびっと飲る。口に残ったほやの味が、酒と混じって、流される。

そうすると、またほやがちびっと食べたくなる。

ほやが酒を呼び、酒がほやを呼ぶ。双方が呼び合って、キリがない。

もう一本、つけてもらうしかないだろう。

熱い酒があらためてウマイ。ほやの塩辛もあらためてウマイ。

冷えたこんにゃくもある。刺身もある。竹の子もある。俺は無敵だ。

 

もういいか。ここまでで、十分原稿は書ける。ここから飲みに入ろうか。

いや、だめだ。今日は晩酌なんじゃないか。特別なんじゃないか。

心を鬼にして、ご飯少なめと味噌汁を頼む。

酒はお銚子に半分、飲まずに残した。本当です。

味噌汁があさりだったのが嬉しい。しじみに始まり、あさりに終わる。

残り物の肴が全ておかずとして、ご飯に向かいあってきた。どれもこれも、おかずとして美味しい。あさりの味噌汁は、ご飯にも、酒にもよい。ああ、楽しき今宵の途中めし!ダメ押しに、いくらおろしを頼む。いくらが薄く切ってあり、食べやすい。おろしものが最後に口中をサッパリさせる。

ああ、食った。結構いい気持ちにもなっている。

お茶をもらった。

熱い日本茶がうまい事。ああ、日本人なり。

今宵の途中めし、大成功。

家はもうすぐそこだ。今夜は物凄く久しぶりに、早く寝られそうだ。

 

 

紹介したお店

あじがさわ

住所:東京都三鷹市下連雀7-9-3
TEL:0422-46-0639
営業時間:夕方5時~深夜3時
定休日:日・月

r.gnavi.co.jp

 

 

著者プロフィール

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文・写真・イラスト:久住昌之

漫画家・音楽家。
1958年東京都三鷹市出身。'81年、泉晴紀とのコンビ「泉昌之」として漫画誌『ガロ』デビュー。以後、旺盛な漫画執筆・原作、デザイナー、ミュージシャンとしての活動を続ける。主な作品に「かっこいいスキヤキ」(泉昌之名義)、「タキモトの世界」、「孤独のグルメ」(原作/画・谷口ジロー)「花のズボラ飯」他。著書多数。

 

前回の途中めしはこちら

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