芋掘りというものがある。今回の芋はサツマイモを指す。焼き芋になり、芋焼酎になり、大学芋になるサツマイモを掘るのが「芋掘り」。幼稚園などでは芋掘り体験みたいなものが催されることも少なくない。
多くの場合、サツマイモはスーパーや八百屋で買うけれど、それではもったいないと思うのだ。その理由は芋掘りがこの世界で一番楽しいレジャーだからだ。めちゃくちゃ楽しいのだ。そして、美味しい。
芋掘りというレジャー
レジャーと言われた時に、人は何を思い浮かべるだろうか。レジャーの多様化などと言われ、確かにこの世界には様々なレジャーが存在する。人それぞれ趣味趣向もあるから、どれが一番かは決めがたい、と思うかもしれない。でも、決めたいと思う。
季節が限定的ではあるが、私は一つの真実に行き着いた。それはこの世の一番楽しいレジャーとは「芋掘りである」というもの。芋(サツマイモ)掘りってめちゃくちゃ楽しいのだ。芋掘りで人はトレジャーハンターになれるのだ。
間違えてはならないのは、ジャガイモ掘りではないこと。楽しいのはサツマイモの方の芋掘りだ。ジャガイモ堀りは私も何度かやったことがあるけれど地獄。そもそもジャガイモは収穫時期が地域にもよるけれど、7月くらい。暑いのだ。
さらにジャガイモは大きさが大体同じくらいでトレジャーハンター感がないのだ。サツマイモは大きさがまばらで大きなサツマイモを掘り出せることがある。これがトレジャーハンターの理由。これこそが芋堀りの魅力なのだ。
サツマイモの魅力!
芋掘りの前にサツマイモの素晴らしさを伝えたいと思う。私はサツマイモが好きだ。焼き芋にすると美味しいし、九州育ちなので焼酎と言えば芋。そして、我が国「日本」はサツマイモの研究ではトップクラスにいる。サツマイモ大国なのだ。
私はサツマイモが好きだけれど、たとえば、私の祖母はサツマイモが嫌いだ。戦争を体験した方はサツマイモを嫌いという人が割と多い印象だ。その理由としては戦時中にサツマイモばかりを食べたから。私の祖母がサツマイモを嫌いな理由もそれだ。
この戦時中のサツマイモの品種は「沖縄100号」というもの。1934年に沖縄で生まれた品種で、味ではなく収量に重きが置かれた芋だ。サイズも大きく、水ぶくれしていて、甘みも少ない。よく言えばねっとり系の芋だ。
サツマイモを食べた時の美味しさの表現として「ホクホク」が使われる。沖縄100号がねっとり系でまずかった反動なのか、次に流行る品種、農林2号などはホクホク系の芋だった。今の品種で言えば「ベニアズマ」などがホクホク系となる。
そして、最近では再びねっとり系が流行っている。ホクホクで美味しい、という表現が古いものになりつつあるのだ。品種で言えば「ベニハルカ」。驚くほど甘い品種だ。ねっとりで美味しいという表現がいいのかもしれない。ねっとりで甘いのはβアミラーゼの働きによる。
サツマイモは準完全栄養食と言える。野菜でありながら穀物としての力も持っている。ビタミンやミネラルがあり、さらにカロリー源でもあるのだ。しかも、育てるのが楽。肥料もそんなには必要とせず、苗を植えてしばらくは草抜きをするそうだけれど、その後は放置で収穫を迎えることになる(鳥獣害対策は地域によっては必要だと思うけど)。
ジャガイモと比べてもサツマイモは肥料を与えなくていい。肥料を与えすぎると「ツルボケ」が起きてしまう。見えている葉っぱの部分だけが元気よく育って、肝心な芋の部分が育たないのだ。それがツルボケ。
また連作できるという強みもある。多くの作物は、今年植えた場所で同じように来年も植えたりすると地力が落ちて作物の実りが悪くなる。サツマイモにはそれがないのだ。しかも、収量も多い作物なので、食糧危機が起きた時にもサツマイモは頼れる存在となる。
ちなみにジャガイモとサツマイモの大きな違いは、ジャガイモは茎の部分が膨れるわけだけれど、サツマイモは根っこが膨れること。サツマイモは根の部分以外に、茎の部分も食べることからわかるように、ジャガイモより空芯菜の方が近いと言える。
もちろんサツマイモがいいことばかりかと言えば、そうではない。ヨーロッパの芋文化を見るとジャガイモがメインだ。気候が関わってくるのだ。日本では、今では全国で育てられているが、やはり有名な産地としては鹿児島。暑くて水はけのよい土地が必要とされるのだ。
またジャガイモは種芋を植えるのだけれど、サツマイモは苗を植える。機械化が進んでいなくて手作業で植える必要がある。種芋からサツマイモを育てる研究も行われているが、収量は苗を植えた方が多いのが現状だ。
サツマイモは中南米が原産地。1万年ほど前から食べられていたと思われるが、日本では400年ほどの歴史しかない。沖縄から鹿児島に伝わり、江戸へと広がる。江戸時代に書かれた浮世絵にもサツマイモが焼き芋として登場している。当時は甘みが貴重だったから、サツマイモの甘みは今以上にありがたいものだった。
さぁ、掘ろうぜ!
今回は「一般社団法人畑会」が運営する「ユギムラ体験農園」で芋掘りを行う。体験農園とは年間で決まった大きさの区画を借り、農業体験ができたりする場所だ。管理してくれる方がいるので初心者も安心して、農業をすることができる。
芋掘りはまず鎌で茂っている葉っぱや茎を刈るところから始まる。これは私の場合は特に楽しい作業ではない。普通の農作業という感じ。キレがいい鎌でやると怖いくらい刈れるので、それはそれで楽しいのだけれど。
少しだけ土の上に茎が見える感じで刈るのがポイント。根こそぎ刈るとどこに芋があるのかわからなくなるから。そして、ここからがトレジャーハンターなのだ。土を優しくのけてあげる。すると現れるのだ。
土をのけると見えてくる芋。そして、掘り進めると見えてくる巨大な塊。これが楽しいの。めちゃくちゃ楽しいの。どんな大きなサツマイモが現れるのか、どこまで彼は埋まっているのか。土をのけていく作業が楽しく仕方がない。宝探しなのだ。
この楽しさを私はどう伝えればいいのだろうか。トレジャーハンターというのが一番わかりやすいとは思うのだけれど、それを越えると思う。徳川の埋蔵金より、芋掘りなのだ。ちょっと土をのけただけなのに、大きな塊がいくつも現れる。最高のトレジャーであり、至高のレジャーなのだ。
終わったかな、と思っても終わらない。音楽が鳴り止まないように、芋は掘り終わらないのだ。終わったかなと思っても終わらない。もう2回くらい深く掘れば、さらに芋が出てくることがある。それを掘り当てた時の喜びは伝説の大陸「アトランティス」を見つけたような感じだ。
今回芋掘りをさせてもらっている農園を運営する畑会のフナキさんにお話を聞くと、幼稚園児は芋掘りが大好きだと言っていた。その通り、私も幼稚園の頃に芋掘りをして、それ以来好きなのだ。幼稚園の頃から芋掘りを越えるレジャーは現れていない。
農家さんはキュウリとかナスとかが楽でいいと聞く。泥を洗う手間もなく、袋に詰めればそのまま売れるから。それはその通りで私も農家になれば芋掘りなんて、と思うかもしれない。ただレジャーとしては芋掘りが最高なのだ。
フナキさんは過去に1日300キロのサツマイモを2ヶ月掘り続けたことがあり、サツマイモを育てるのはもう嫌だと思ったそうだけれど、なんだかんだ毎年植えちゃうらしい。そういうことなのだ、我々のDNAには芋掘りが刷り込まれているのだ。だって、楽しいんだもん!
サツマイモは植えてから収穫までに半年ほどかかる。収量だけを増やそうと思うと、長く植えておけばいいけれど、それをやるとさすがに地力が落ちる。たぶん味も落ちる。適度な時期が一番美味しい。
またサツマイモは収穫してから2週間程度は貯蔵することで熟成して美味しくなる。と言っても、すぐ食べても美味しんだけどね。普通に美味しいものがさらに美味しくなるという考え方だ、私は。
サツマイモは生でも食べることができる。収穫して泥を落としたら、生でも食べられちゃうのだ。ジャガイモは芽や皮の部分に毒素があるので、生で食べると食中毒を起こすことがあるけれど、サツマイモは生でも行けちゃう。もっとも火を通した方が美味しいけれど。
サツマイモを食べる
芋掘りの楽しさは伝わっただろうか。最高のレジャーなのだ。そして、食べても美味しいというのが芋掘りの醍醐味。生で食べると普通だけど、ふかしたり、焼いたり、揚げたりすると最高に美味しくなる。
食べ比べてみると、写真ではベニアズマの方がねっとり系に見えるけれど、あきらかにベニハルカがねっとり系で、ベニアズマがホクホク系。甘みもあきらかにベニハルカ。驚くほどに甘いのだ。
上記の3つは全て芋焼酎で、茜霧島以外は「コガネセンガン」が使われている。コガネセンガンはホクホク系のサツマイモだ。茜霧島は玉茜というサツマイモを使っているが、コガネセンガンのDNAを受け継ぐ芋らしいのでホクホク系なのではないかと思う。
茜霧島は「芋の花酵母」が使われている。「花らんまん」という観賞用のサツマイモの花から採取されているのだ。芋に芋なのだ。芋の花酵母に限らず、花酵母を使ったお酒はフルーティーになる。ちなみに普通のサツマイモは花をほぼ咲かさないので、サツマイモの花は貴重。「花らんまん」は観賞用だから咲くけれど。
こちらはコガネセンガンを使い、麹にも芋が使われている。一般的には芋焼酎も米麹が使われるのだけれど、こちらは芋麹。芋に芋なのだ。飲んでみると芋の甘みが感じられた。すごく芋なのだ、芋に芋だからね。黒霧島はコガネセンガンに米麹を使った王道の芋焼酎となっている。
焼酎は個人では当然作れないので、掘ってきたサツマイモでオススメの料理を作ろうと思う。途中まではふかし芋と同じ。大きい場合は適度なサイズに切って、電子レンジでふかし、一口サイズに切る。
電子レンジでふかした時点でサツマイモには火が通った状態なので、オリーブオイルでは、表面がカラッとすれば大丈夫。最初から油で揚げるより、お手軽にフライドスイートポテトを作ることができる。これが美味しいのだ。
甘みが増してとても美味しい。止まらない美味しさ。砂糖とか塩とかふりかけてもいいのだけれど、そのままで十分美味しい。止まらなくなるほど美味しい。芋掘りで世界最大のレジャーを楽しみ、その後に世界最大の美味しさのフライドスイートポテトを食べる。幸せだ。
芋掘って食べようぜ!
サツマイモが実に優れた食べ物であり、サツマイモ掘りが実に楽しいレジャーであり、サツマイモを揚げたものが実に美味しい料理なのか、わかったと思う。一年の中で楽しみにしていることの一つが芋掘り。血が騒ぎ、芋掘りの前日は眠れなくなるから。育てるのは簡単なので、庭がある人は育てた方がいいと思う。私の家は庭がないけど……。
取材協力
著者プロフィール
著者 地主恵亮
1985年福岡生まれ。基本的には運だけで生きているが取材日はだいたい雨になる。2014年より東京農業大学非常勤講師。著書に「妄想彼女」(鉄人社)、「インスタントリア充」(扶桑社)がある。
Twitter:@hitorimono