斬新カレーに謎のモノレール……立川という街の不思議な風景に垣間見る激動の昭和史

西東京の雄ともいえる立川には不思議な風景が広がっています。実は2社存在する熊野神社や極地研究所、多摩都市モノレールのフォトジェニックなレールなど、興味深いスポットが満載。戦前には基地や飛行場として使われ、戦後には米軍基地となっていたのが背景になっていると思われます。立川の名所といえば昭和記念公園が浮かびますが、それだけではないのです。街歩きといっしょに味わってほしいのが「セイロン風カリー シギリヤ」(東京都立川市高松町2-25-1 ニューパリア立川マンション 1F)の斬新なカレーです。イカの塩辛、ザーサイ、紅生姜などカレーの薬味としては珍しいおかずをカレーに組み合わせていただけます。なんとも不思議なペアリングですが、実際に食べてみるとこれが美味しいのです。

斬新カレーに謎のモノレール……立川という街の不思議な風景に垣間見る激動の昭和史

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ライターのココロ社です。

立川といえば、西東京の雄として、百貨店や家電量販店や映画館がひしめく商業地域というイメージが強いけれど、ぶらりと散歩するのも楽しい場所でもある。
ここで、立川に行ったことのある人なら、「ははーん、昭和記念公園の話ですね」と思うかもしれないけれど、あえて今回は、昭和記念公園以外の散歩ルートを開拓していきたい

最初に、この記事で紹介する立川の名所をざっと地図で紹介しておく。実際に一度歩いてみると、その不思議さに魅了されてしまうだろう。ぜひ足を運んでみていただきたい。

(1:斬新なカレー店「シギリヤ/ココラージャカリー」 2:熊野神社 3:旧熊野神社跡 4:西に折れる謎のモノレール 5:高松駅 6:多摩都市モノレール運営基地 7:国立極地研究所 南極・北極科学館 8:昭和記念公園の撮影スポット) 

 

「セイロンカレー✕塩辛」「セイロンカレー✕ザーサイ」「セイロンカレー✕紅生姜」の衝撃

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その店、「セイロン風カリー シギリヤ」は、駅から北東に15分ほど歩いたところにある。

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店内にはカウンターがあり、一人でも入りやすい。

 

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店内には映画のポスターが貼ってあり、映画シティ立川らしい。

 

この店の特にユニークなところは、7種類の、一見するとバラバラな薬味。

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イカの塩辛、福神漬け、らっきょ、シソの実、ザーサイ、紅生姜、アチャール……。
セイロン風カレーだから、南アジアのピクルスにあたるアチャールがあるのはわかるのだが、ほかは、日本の食卓にあるおかずである。
単に、変わった味がするだけではないか……という疑念が頭をもたげる。
かといって、こういう味わい方を「邪道だ」と切り捨ててしまうような、偏狭な人間にもなりたくない。カレーと7種類の仲間たちと、先入観を捨てて向きあいたいと思う。

あえてその薬味たちとのマッチング度合いをたしかめるため、もっとも日本のカレーから遠いカレー、ラムカリー(1,180円)を選んでみた。

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カレーにプラス100円払えば、ここから薬味を取ることができる。
いちばん気になったいかの塩辛から。

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たとえるなら、魚介のダシが効いたシーフードカレー。これを食べてから普通のシーフードカレーを食べると物足りなくなりそうな、豊かな味。普通のシーフードカレーで、魚介の味がルーに及ぶことはほとんどないけれど、この食べ方だと、スパイスの味と塩辛の味の両方が活きてくる。

ほかのおかずも試してみたが、どれも、意外なほどのおいしさ。全国のカレーの店に常備しておいてほしいとさえ思う。

日本的なカレーには福神漬やらっきょが添えられることはご存知のとおりだけれど、スリランカの、スパイス中心のカレーに日本的なおかずが合うとは驚きである。

しかし、シーフードカレーやベジタブルカレーを深化させたものだと思えば納得がいく。

 

そして、店内に、「火曜はココラージャカリー」という謎の注意書きがあるのをわたしは見逃さなかった。気になって、日を改めて行ってみたら、また違ったおいしさで驚いた。

 

火曜の夜は店主が変わり、インドネシア風のカレーの店になる。これは「パクチラージャカリー」(880円)。

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もっとパクチーが山盛りであってほしいと思ったのだが、食べて納得した。他の味とのバランスが考え抜かれている。

そして、ごはんに「こぶだま」(100円)をつける。くんせいの卵に塩昆布がのせてある。昼の塩辛ばりに謎の組み合わせであるが、おいしさで震える。いままでカレーで使ったことがない味覚を使われる快感……。次行ったときはこぶだま✕3などにして、ごはんに敷き詰めてもらいたい。

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そして、極めつけは、燻製のナンプラー。

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これをちびちびかけて食べると、全然違った角度からのおいしさのビッグウェーブ……。どうにかなってしまいそうである。

 

「カレー=スパイスがすべて」という固定観念が打ち破られ、店を出るときに新しい自分になった気がした。

 

紹介したお店

シギリヤ/ココラージャカリー
住所:東京立川市高松町2-25-1 ニューパリア立川マンション 1F
TEL:042-507-2418
URL:https://r.gnavi.co.jp/5jp18j1u0000/

 

 

このあとは、寺社が少ない立川の中で、比較的規模の大きい熊野神社へ向かおう。立川の歴史の証人ともいえる神社である。

 

ふたつある熊野神社に激動の昭和史を垣間見た

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この熊野神社、見たところ、江戸後期あたりに現在の社殿が造られている……という風情である。

 

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彫刻も丁寧に作られていて格調高い。

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境内には川が流れている。熊野神社だから熊野大社のそばを流れる新宮川を模しているのかもしれない。

 

なお、シギリアにディナーで訪れた人のために夜の様子の写真ものせておくけれども、これまたムーディーでオススメなのである。

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そんなすてきな神社だが、解説を読むと、もとからここにあったのではなかった。しかも、その理由が、米軍による接収のためとのこと。境内をひと歩きして出てから、遷宮前の様子を探ってみよう。

 

境内を出て、北西に300メートルほど歩く。その間、いくつか楽しい風景があるが、それらについては後述する。何もない駐車場のようなところに、ぽつんと、しかし、力強い石造りの社殿を見つけた。

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最近建てられたようだ。まったく無駄のない参道である。鳥居には「熊野神社」とある。ここだ。

 

かつてはここに熊野神社があった。享保時代(1716年~1736年。徳川吉宗将軍の時代)に創建され、立川飛行場の建設で、飛行場の敷地内の神社となったが、昭和20(1945)年に空襲で全焼した。
終戦後、神社のあった土地もろとも、立川飛行場は米軍に接収された。いまの立川熊野神社(先ほど紹介した木造のほう)は、昭和31年に創建され、そのときに改めて和歌山県の熊野本宮大社から勧請(※)を受けているので、生まれ変わったと表現する方が近いのかもしれない。
※勧請:神仏の分身・分霊を他の土地に移して祭ること。

 

宅地計画などで、やむなく遷宮となる神社はよくあるけれど、一度遷宮したあと、元の場所にいた神を改めて祀りなおすというのは珍しい。

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シンプルな祠だが、地元で大切にされてきた証でもある。

 

多摩モノレールのフォトジェニックな姿態と、謎のレール

熊野神社から熊野神社跡に向かう中で、多摩モノレールが見えたはずだけれど、神社を見終わってスッキリしたあとは、立川市を縦断するモノレールを観察しよう。

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ちょうど高松駅の手前で曲がるようになっていて、撮影スポットとしてオススメである。
また、駅からは、不思議な塔が見える。

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円錐がてっぺんから切れたようになっているが、これは戦前から残る給水塔。いまは給水の役目は果たしていないが、かつてこの地域は軍用機の工場だった。

 

この地域のあちこちで見かける「立飛」の文字は、「立川飛行機」に由来するのであった。立川駅から北の広大な地域が戦前は軍用機の飛行場と工場だった。敗戦時にまとめて米軍の管轄になり、1970年代になって返還され、地域により、それぞれの道を歩みはじめる。西側は昭和記念公園と自衛隊立川基地。東は立飛企業(現在の立飛ホールディングス)に返還され、主に工場や倉庫になっている。
給水塔のある場所から昭和記念公園まではずいぶん距離があるけれど、かつての飛行場と飛行機工場がどれだけ広大だったかを体で感じることができる。

話をモノレールに戻そう。

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立川北駅からは、ほぼ北方向にレールが延びているはずなのだが、西方向にも謎のレールが敷いてある。しばらく眺めていても、西方向に折れる車両はない。謎の曲線である。

ここからは、実際に行くと疲れるので、この記事を読むにとどめた方がよいと思うけれど、このレールを追いかけた先に何があるのか確かめに行った。

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しばらく歩くと、レールが北に向かうのだが、遠近法というには遠くのレールが曲がりすぎているように思える。

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レールに近づいてよく見てみると、地上へカーブしている。つまりこの先にあるのは、モノレールの基地なのである。

そして、中はイベント時を除いては立ち入り禁止。近くの公園越しに中を観察してみると、ドクターイエローを発見した。

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また、運がよければ、停車中で地上に降りたモノレールを外から見ることができる。多摩都市モノレールを使う人にとっては、芸能人がスーパーで買物をしているシーンを見たときのような驚きがあるはずだ。

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ひとしきりモノレールを観察したところで、最後の目的地である国立極地研究所の南極・北極科学館に向かう。この研究所もまた、旧飛行場のあった場所で、2009年にここに引っ越してきた。

 

圧縮陳列に情熱を感じる、南極・北極科学館

南極・北極科学館 は、いくつか入り口があるが、極地研究所の正面入口から入るのをオススメする。

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ただの散歩人がなんとなく科学者気分になれるからである。案内に従って、この大きな建物を迂回し、裏にある南極・北極科学館に入る。

 

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広いとはいえない博物館だが、中は所狭しと展示物がひしめいていて、無料なのに大変申し訳ないボリュームである。南極観測基地が「昭和基地」と名づけられたころは、あたりまえだが昭和だったので、そのときの「現代的な基地」というニュアンスが含まれていたはずだが、いまは平成もかなり経って、「昭和」と言われると、懐かしさが感じられてしまう。しかし、昭和基地では今日も観測・研究が日々進められ、成果をあげている。

館の中央には、いまの基地のライブ中継と、ジオラマがある。

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インターネットで遠くの人の暮らしがリアルタイムに把握できる時代になったけれども、南極のライブ中継はありがたみが違う。基地には、10人くらいが小さなところに密集しているようなイメージを持っていたが、何棟もある。小さな村くらいの規模である。

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そして中の様子がわかる展示もある。

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個室があるというのは意外な気がした。広くはないが、部屋の外にちょっと白くて寒いけれど広い敷地があるから、窮屈な感じはしないのかもしれない。

 

雪上車の実物も展示。

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中を覗き見ることもできる。

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運転席と助手席が離れすぎているのが謎。世間話をしたいときは大声を出す必要があっただろう。

 

黒い車体もかっこいいけれど、ロゴもいかす。

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昭和基地では、おもに気象観測、大気の状態や、オゾンホールの状況を観測し、研究を重ねているし、それらの成果は、わたしたちも天気予報などの形で恩恵を受けているのである。

 

観測に使用した機器も所狭しと展示してある。そのまま特撮映画に出てきそうなデザインである。

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南極は意外なことに隕石の宝庫でもある。

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南極がとくべつ宇宙に近いわけではないが、隕石の宝庫となるのは、ほかの場所なら土に埋もれるはずの隕石が埋もれずに発見されやすい状態になるからである。

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顕微鏡で隕石を見ることができるけれど、まるで万華鏡のように輝いていて、宝石より隕石の方がいいかもと思ってしまう。

 

なお、南極の氷が触り放題である。

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ほとんどは南極・昭和基地まわりの展示が占めているのだが、少しだけ北極コーナーも用意されている。

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最高にかわいいホッキョクキツネの剥製に胸がキュンとなる。

ニャーンと鳴きそうに見えるけれど、実際は「オッオッオッ……」と可愛さ控えめな鳴き方である。

 

南極(&少しだけ北極)のことを理解して満足したあと館を出ると、何やら見覚えのある犬たちの姿。

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これは、東京タワー前にあって、撤去されてしまった、タロとジロを含む樺太犬たちの像!もう会えないと思っていたので感動した。第3次越冬隊がタロとジロを発見したときの喜びはこの感動の1万倍くらいあっただろう。

 

そして、ここは人が少なめなので犬たちものんびりできているに違いない。

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このポーズ……犬が大好きな人が作ったのだなと思う。

ここからは、昭和記念公園を経由して帰ることにする。 

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歩き疲れたので、一番見晴らしのよいところだけ眺めていこう。

 

先ほど述べたように自衛隊の基地近くなので、装甲車が普通に車道を走っているのも見かけることが多い。

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立川を歩いた人は、駅から北の敷地の使い方がどれも贅沢だと思うのかもしれないけれど、戦前は基地や飛行場として使われ、戦後は米軍基地になっていた……という事情を考えれば、その贅沢さには背景があったことがわかるだろう。ぜひ実際に足を運んでみて、その不思議さを体験してみてほしい。

 

【立川 斬新なカレーと昭和遺跡と極地体験】 

(1:シギリヤ 2:熊野神社 3:旧熊野神社跡 4:西に折れる謎のモノレール 5:高松駅 6:多摩都市モノレール運営基地 7:国立極地研究所 南極・北極科学館 8:昭和記念公園の撮影スポット)

 

 

 

著者プロフィール

ココロ社

ライター。主著は『マイナス思考法講座』『忍耐力養成ドリル』『モテる小説』。ブログ「ココロ社」も運営中。
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