日本における、粉食文化発祥の地といわれる福岡。博多駅近くの承天寺に「饂飩蕎麦発祥之地碑」があるように、鎌倉時代の名僧・聖一国師が中国の宋より持ち帰った製粉技術から麺が生まれ、うどんやそば、ラーメンと枝分かれしていったといわれています。
今日では、麺それぞれが専門店として成立する時代。そんななかでも、うどん、そば、ラーメン、ちゃんぽんといった多種多彩な麺を作り、自身の食堂でもてなしている店が福岡にあることを知り、早速行ってみました。
地元民と市場関係者の胃袋を満たす食事処
やってきたのは、福岡の繁華街・天神から南へ徒歩15分ほどの場所にある、柳橋連合市場です。
昭和初期ごろ、那珂川にかかる柳橋のたもとで鮮魚商が大八車に積んだ魚を売り出したことがルーツとされる、全国的に有名な商店街。
料理のプロが買い付けに訪れるほど質の高い生鮮食品がそろうことから“博多の台所”と呼ばれ、それらを買い求めようと福岡県内外から人が集まります。
その商店街を少し奥へと歩いた細路地に、「めん処 三喜(みき)」がありました。朝8:00ごろから開いていることもあり、この界わいでは数少ない「朝食から利用できる食堂」として、市場関係者を中心に地元民から重宝されています。
店内には、厨房を中心にL字型のカウンターテーブルが配置されていました。席はたったの12席。私が訪れた日は閉店間際の時間だったこともあって落ち着いていましたが、平日のランチタイムはほぼ連日、周辺で働く常連客を中心に満席になるといいます。
表の看板からわかるとおり、もともとここは「三木製麺所」として営業していました。
今日では「博多区千代」と呼ばれている地域の一角に戦前あったという、食堂「三福」が前身。現在この店を切り盛りする3代目・三木さん夫婦の奥様方の祖父が、屋台から立ち上げられたそうです。
第二次世界大戦の影響で店をいったん閉め、戦後、この春吉の地で営業を再開したのが1950(昭和25)年。それからは、柳橋連合市場とともに歴史を重ねてきました。
こちらは、食堂の隣にある製麺所です。「ふだんは見せないけれど、今回だけ特別だよ」とご主人に許可をもらい、見せていただきました。
「早朝の3:00か4:00ぐらいには起きて、ここで1人、作業をしている」と語るご主人。隣の食堂の3つ分ぐらいあるスペースには、年季の入った多種多様な麺作りの機械や道具が置かれており、それらから製麺所としての歴史と風格のようなものを垣間見ることができました。
「一時期は、地元の有名うどん店をはじめ、福岡県下のさまざまな店に麺を卸していたんですよ」と、昔のことを思い出しながら語る奥様。
機械の発達とともに自身で製麺を行う店が増えていき、製麺所の受注が減少。「このままでは立ち行かなくなる」という危機感と、「いつかは千代にあったような食堂を再開したい」という奥様のお母様の思いが一致し、1982(昭和57)年、製麺所の駐車場だった隣に、この「めん処 三喜」が誕生しました。
メニューには、そうめん、鍋やきうどん、和風ちゃんぽん、和風らぁめん、肉うどん・そばといった、製麺所併設店らしい多彩な麺料理がラインナップ(この写真の左側にもうどんやそばの種類が豊富にあります)。値段はかけうどん・そば1杯330円~とリーズナブルで、この手ごろさも長く愛される理由だと思いました。
ランチのピーク時は、これら5つの調理コンロをフル稼働をさせて、タイプの異なる麺料理を同時に作ることもあるそう。中華料理店や食堂でもあまり聞いたことがない離れ業を毎日されている三木夫妻の様子を想像すると、そのスゴさにただただ脱帽です。
丼ものやセットメニューも豊富です。10:30までやっているという朝食メニューには、日本の朝食の定番おかずがズラリ。その日の気分や懐具合にあわせ、自由に組み合わせができるところもうれしいですね。
和風ちゃんぽんや和風らーめん、カウンターに並んでいるいなりも気になりましたが、「まずはスタンダードなものを食べてみよう」と今回は、かけうどんと玉子丼セット(600円)に、丸天(110円)をうどんのトッピングに加えて注文しました。
丸天うどんと玉子丼のセットで老舗の味を堪能!
大きな丸天がのったうどんと、絶妙なかたさの玉子丼がテーブルにそろいました。まずは、うどんのスープからいただきましょう。
うっすらと黄金色に輝く、博多うどんらしい半透明のスープ。イリコ、サバ節、昆布などの乾物で作られたダシが上品に香り、胃にスーッと染み渡ります。
ダシは、和風らぁめんや和風ちゃんぽんにも使われているそうで、「これなら朝でもイケる!」と感じました。
続いて、こだわりの麺です。こちらも「博多うどん」らしい、ふんわり食感。ご主人いわく、「煮込みうどんにも使えるよう、煮くずれしないように作られている」ところもポイントです。喉越しがよく、スルスルといけました。
「これだけでも十分、おなかいっぱいになる」と思えるほど、大きな丸天。こちらは、福岡市南区塩原にある老舗「木村蒲鉾店」から仕入れています。
かつて、柳橋連合市場内に「木村蒲鉾店」があったころから丸天を使っていたよしみで、現在も特別に作ってもらっているそう。魚のすり身の味がしっかりしていて弾力があり、食べ応え十分でした。
セットの玉子丼。単品で注文した際は、これより一回り大きい器で登場するそうです。
スープと同じダシに花ガツオを加え、甘く仕上げたタレが味の決め手で、プルンプルンとした玉子やアツアツごはんにもよく絡み、美味。うどんのお供にもピッタリでした。
卓上には、一味と七味の唐辛子、丼にたっぷり入れられた天かすが用意されています。自分好みの味にしたい時や変化を楽しみたい時にどうぞ。
ちょうど、この店を訪れたのは5月の初めごろ。「あと1~2週間待てば、冷麺や冷やし麦が登場するよ」というご主人の言葉に誘われたこともあり、また食べに来たいという気持ちになりました。
居心地のよいアットホームな雰囲気と、季節によってラインナップが変わる麺料理。店の看板にある「一日に一食は粉食を…」と思った時はぜひここで、好みの麺料理を味わいながら、ほっと一息ついてくださいね。
紹介したお店
営業時間:8:00~17:00(LO)
定休日:日曜・祝日
書いた人
ニシダタケシ
福岡・九州の編集プロダクション・シーアールに所属。生まれも育ちも福岡という生粋の九州男児。
流行りもの&甘いもの好きで、嫌いな食べ物はほとんどなし。「毎日完食!」をモットーに、小さなカラダで福岡のおいしいものを食べ歩きます。
憧れの人は出身校の大先輩・タモリさん。グルメレポではたま~にデカ盛りにも挑戦しますよ!