▲老舗洋食店「松榮亭」
秋葉原駅から歩いて8分ほどの神田淡路町エリア。1880年創業の「神田やぶそば」、みんなのごはんでも紹介したカキバター焼きでおなじみ「万平」などなど老舗の美味しい飲食店が密集している。
そんなグルメエリアにある「松榮亭」は、前々から気になる存在であった。
1907年創業の松榮亭。看板メニューは洋風かきあげ。「洋風で、しかも、かきあげ?」と興味がそそられるわけだが、そのルーツがまた面白い。
松榮亭の初代店主は、東京大学の教授フォン・ケーベル氏の専属料理人だった。彼の家をおとずれた、教え子の夏目漱石が「なにか変わったものが食べたい」とリクエスト。冷蔵庫に残っていた食材をつかって、即席で作ったのが洋風かきあげだった。漱石はそのオリジナル料理がたいそう気にいって、以来、松栄亭の看板メニューだそうだ。
洋風かきあげはランチメニューに加わってはいないが、お昼でも注文可能だ。
老舗洋食店という響きからそれなりのお値段を覚悟していたが、ランチセットなら1,000円からとリーズナブル。
▲まずはスープが運ばれてきた
お昼のピークをすこし過ぎたあたり、13時半ころ来店したのだが、厨房前のカウンターに2人、テーブル席も5つほどすべて埋まっている。さすがは人気店。レジ前でしばし待つ。
客席を見回すと、30代半ばの私がどうやら最年少のようだ。ある程度の役職にありそうなサラリーマンコンビや、紳士淑女といった佇まいのご夫婦など、上品な空気がただよっていた。
席に通され、洋風かきあげとライスセットを注文。すぐに運ばれてきたスープを飲みながら、料理の完成を待つ。優しいあじわいのコンソメスープだ。
▲洋風かきあげ(950円)+ライスセット(400円)
念願の洋風かきあげがやってきた。こんがり揚がったきつね色で、そのフォルムはふっくらと厚みがある。いままで食べたことのあるどの料理ともかぶらない見た目であるし、味もまるっきり想像できない。これはたしかに、変わった食べものだ。
▲皿にカラシを添え、ウスターソースをかけた
どうやって食べればいいんだろうと一瞬とまどっていると、すかさず店員さんがアドバイスしてくれる。「お好みにあわせてウスターソースとカラシをつけてお召し上がりください」とのこと。なるほど、一応、揚げものだからソースとカラシでいくわけか。
ナイフで2つに割ってみると、その断面がまた意外。鮮やかな黄色い姿をあらわしたのだ。
なんでも洋風かきあげの材料は、豚肉、玉ねぎ、たまご、小麦粉のみ。自家製ラードでじっくり揚げて、当時の味をそのまま再現しているそうだ。
「この甘くてシンプルな味わい、どこかで食べたことがあるなあ」と、口を動かしながら記憶をたぐっていったら、いきついたのは、子供の頃に母親が作ってくれたオムレツだ。
見た目はこう奇抜なものではなかったが、味だけで言うなら、当時母親が作っていたオムレツによく似ていて、豚肉、玉ねぎ、たまごという具の選択もそのままだ。ザクザクとした玉ねぎの食感が気持ちいい。
老舗洋食店「松榮亭」の洋風かきあげは、なにか特別な料理というよりもむしろ「懐かしい味」と表現するのがぴったりくる料理であった。
取材したお店
※掲載された情報は、取材時点のものであり、変更されている可能性があります。
秋葉原で松榮亭のほかに宴会で使えそうなお店はこちらで更新されています
作者:松澤茂信(まつざわしげのぶ)
東京別視点ガイド編集長。
るるぶとか東京ウォーカーが積極的に載せないようなとこばっかし巡ってます。
そういう人生です。けっこー楽しいです。
(編集:編集プロダクション studio woofoo by GMO)
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