こんにちは。マジメ系ライターの谷口マサトです。
様々な人をもてなすこの連載、今回は非常に緊張しています。
このようにこわばった表情で、カラダは小刻みにプルプルと震えています。
それもそのはず、真ん中のハッちゃんこと伊藤初美さんは、ランチを含め1年に300店以上で食事をしてレビューする、超弩級の大和級グルメブロガー。
彼女が大和だとしたら、新人グルメライターの私は漁船のような存在だ。
余談だけど、私はIT業界に長年いるが「魚屋さんですか?」と初対面の人に聞かれる事が多い。ある時「違います」と言うと「それでは、お父さんが魚屋さんですか?」と食い下がってきた時には驚いた。
さて今回、そのハッちゃんに「良い店とは何か?」という、新人にしか許されないような漠然としたインタビューをさせてもらった。
実は彼女とは元同僚で、何年も一緒に働いていたのだけど、グルメについては大先輩。今回は恐縮しながら一方的に話を聞いた。なので今回はお笑いなしの非常にマジメな記事だ。
そして店もハッちゃんに指名してもらった。
彼女が選んだのは、西麻布の交差点の近くにある「焼肉ステーキあつし」。
なぜこの店を選んだのか? その理由は後ほど知る事になる。
ムーディなアプローチを通って店内に入る。
「こんなところに焼肉があるんだ?」と静かに驚かされる隠れ家的な店だ。
店に入ると大きな鉄板のカウンターが見える。
このように目の前でも焼いてもらえる。
ただ今回はハッちゃんの友人と3人で行ったのでテーブル席に。
さて、この店は80年以上の歴史を持つ精肉の老舗「加藤牛肉店」が運営。
全国から究極の肉を探し続けた結果、行き着いたのが「山形の処女牛」だったという。ここではその肉を焼肉でもステーキでも楽しめる店だ。
さらに、生産農家を指定して牛半頭を買い付けているため、普通の店では食べられないような珍しい部位もふんだんにあるのが嬉しい。
まず出て来たのは「あつしサラダ」。
サラダの上に大きなボンレスハムが1枚乗っている。ここまでの大きさのハムを手巻きで作れるのは加藤牛肉店のオーナーを含め日本で数人だけだという。
そして「特選牛タン」の薄切りと厚切り。
この店では、様々な部位の薄切りと厚切りを両方楽しめる。
そして焼肉の王道の旨みを味わったあとは変化球。特製コンビーフのバゲット乗せを楽しむ。この店のメニューで豊富なのは肉の部位だけでなく、肉のアラカルトのバラエティもまた多いのだ。
そしてハンバーグまである!トロけるような柔らかさで驚く。もともと柔らかい山形の処女牛を、脂身やスジを全て取り除き、溶けるような柔らかさを作り出した。
ここで「ハンバーグが美味しい焼肉屋って面白い!」と言うハッちゃん。
私が「面白いかどうか、って店選びするときにポイント大きいの?」と聞くと
「美味しい店は沢山あるけど、『楽しい』店は珍しい。だから美味しいかどうかは基本として、楽しいかどうかは一番大事」と言う。
この話はとても腹に落ちた。広告の仕事柄、沢山の美大生とも接するが、そこで感じたのは、誰もが「上手い絵」なのに、見ている人が反応する「面白い絵」は一部だという事。どんな世界でも、自分の技術を磨く事と、人からウケる事には別の努力が必要なようだ。
ちなみにこちらの女性はハッちゃんの友人のチカさんだ。
彼女は特に中目黒のグルメに詳しい。
さて、お次は焼肉の4種、上ミスジ、ザブトン、ミスジ、肩サンカクを堪能したあと、遂にサーロインステーキの登場。
牛肉で最高だという山形の処女牛の、牛肉の中でも最高級の肉質のサーロイン。
つまりキングオブキング、ということだ。写真は最も小さな100グラムだが、もっと大きいものも選べる。こちらは丁寧に店長に焼いてもらった。
カットもしてくれてサーロインステーキの出来上がり。
濃厚な旨味がパッと広がり、かつ後味はさらりとしている。
かつてなく旨い……。
この旨味はどこから来るのか?と調べると、牛は近年、「大きく速く作った牛のほうが生産者の利益が多く出る」という理由から、どんどん巨大化、飼育期間が短縮化しているのだという。
しかしそうすると味が水っぽく、薄くなってしまう。一方、山形の処女牛はゆっくりと育てた昔ながらのサイズのため肉のキメが細かく旨味も濃厚になる。
そして後味がさらりとしているのは、処女牛の体温が他の牛より高く、そうすると口溶けが早い脂になるそうで、そのために後味がさっぱりするのだという。
とこのように、味にストーリーがあるのが面白い。
そしてトロふりかけ丼。これまでにコンビーフ、ハンバーグ、焼肉、ステーキと味わってきてドンブリもある。味はもちろん、様々な食べ方が楽しめる、まさにハッちゃんがいう「面白い」店だ。
そしてこの店が面白いのは料理だけではない。
個室はこのように、予約時に暗証番号を伝えると、別の入り口からそのまま入れる。
他の客にも見られたくないという、プライバシーを大切にする人には良いだろう。
やりすぎではと思う方もいるかもしれないが、ときには生体認証まである西麻布の街ではシンプルな方だ。
そしてデザートまでこの濃厚さ。
肉質の良さだけでなく、全体的にオシャレでバラエティに富んでいる。二人に感想を聞くと、大切な人をもてなすには申し分ないが、デートに関して言えば、知り合ったばかりで1回目に行くには良すぎる店なので、もっとライトな店に行ってから、2〜3回目のデートにいいかも、という事だった。
そこで「どういう店が一軒目に良いか?」と聞いたところ、例えばグルメの王道の「恵比寿」で、駅から遠すぎず、かつ近すぎず散歩ができる距離の開放的な店、例えば「恵比寿アポンテ」が良いという。
ちなみにハッちゃんは、ぐるなびの「メシコレ」という厳選グルメサイトでも連載しており、アポンテを始め、おしゃれカウンターの店を紹介している。
■メシコレ
そして2〜3軒目に恵比寿のディープな店や、六本木、西麻布に行くのが良いのでは、ということで例として次の店を教えてもらった。
・はし本
※特に掘りごたつのカウンターがオススメだそうだ。
上記のリンクからハッちゃんのレビューが見られるが、さすがにわかりやすく、そして今回聞いた「楽しいかどうか」という視点を大切にしている事が分かる。
今回、勉強モードだったので非常にマジメな記事になった。日ごろ「何かバカなものお願いします」と言われて記事を書いているので、マジメな記事を書くのが夢だったのだ。次回の記事からは元の路線に戻ります。
今回ご紹介した店
焼肉ステーキあつし
住所:東京都港区西麻布1-10-7 NishiazabuFT2ビル1F
TEL:03-6804-3829
色々な人を“もてなす”店を紹介するこの連載。
面白いレストランがあれば教えてください。
全国に取材に伺います。
バックナンバー
【第四話】“クリエイティブ系女子”をもてなす、自分だけのオリジナルパスタを作れるイタリアン
【第三話】“サードウェーブ女子”を三軒茶屋でもてなす、産地にこだわりすぎる激旨ビストロ
【第二話】“ヒツジ系肉食女子”をもてなす、極上のラムチョップを“焼き鳥感覚”で食べられる店
【第一話】“北陸女子”を上質にもてなす、日本産ワインの図書館レストラン
著者:谷口マサト
Webライター&プロデューサー
LINE@|Mail:chakuwiki@gmail.com