「網走監獄和牛」を知っていますか
皆さんは「網走監獄和牛」という言葉、どこかで耳にしたことはありますか?
“監獄”という言葉が強烈に感じられますが、A5黒毛和牛、つまり最高級の評価を得ている黒毛和牛をはじめとして、高水準な肉牛を年間20頭~30頭のみ出荷するという、プレミアム感満載のお肉です。
この牛たちが育てられているのが、北海道にある「網走刑務所」の「二見ヶ岡農場」。東京ドーム76個分の広さを持つ農場で、7人の受刑者の方たちが技官の指導の下、120頭の「いのち」を育てています。
今年の2月末から網走刑務所内の売店で購入可能になり、また、現在では網走市内の焼肉店1軒に卸しているのだとか。地元密着、まさに地産地消の典型ですが、このたび「第57回全国矯正展 全国刑務所作業製品展示即売会」にて「網走監獄和牛弁当」が購入できると聞きつけ、伺ってきました。
全国矯正展とは
千代田区の北の丸公園内にある「科学技術館」が会場です。6月5日(金)6日(土)の2日間にわたり開催されました。
この「全国矯正展」の意図は、全国の刑事施設(刑務所等)において受刑者が社会復帰を目指して刑務作業に取り組む姿や作業内容についての広報と、実際に受刑者が制作した刑務所作業製品の展示・即売です。
5日のイベント開始時には、1960年から刑務所への慰問を続け、法務省の「特別矯正監」を務めている俳優の杉良太郎さんと、受刑者らの立ち直りをサポートする「矯正支援官」を委嘱された歌手のEXILE ATSUSHIさんと夏川りみさんがテープカットしたそうです。残念ながらみんなのごはん編集部は、整理券に間に合わず、オープニングセレモニーは見逃しました。
10時の開場と同時に、会場は超満員。訪れる皆さんもこの矯正展を楽しみにしているのが伝わってきます。
他の出展を見た後、目的の網走監獄和牛弁当のブースに進みますが
入館と同時に90分待ちが決定!
せっかくですので、「網走監獄和牛」およびに本日の「網走監獄和牛弁当」の販売を担当していらっしゃる、エームサービス株式会社の我妻聡さんにお話をうかがいました。
今までは「北海道産の黒毛和牛」だった
私どもは網走刑務所を含め、法務省管轄下の全国の売店の運営をしている給食の会社で、全国70ヶ所の刑務所で売店をしています。
実はこの「網走黒毛和牛」は7~8年前から普通に屠畜され、ホクレン(ホクレン農業協同組合連合会)に出荷して、「北海道産の黒毛和牛」ということで関西のスーパーに卸されていたんです。
この矯正展の趣旨もそうですが、「刑務所で受刑者が作った」ということを広く皆さんに知ってもらう、というようなところから、私どもに「網走刑務所の和牛の販売に関して一緒にできることはないだろうか?」というようなご相談を国からいただきまして、それでは、ひとつ「網走監獄和牛」という名前で販売をしてみますか、となったわけです。
命名ですか?会社全体でアイデアを出しました。当初は「網走和牛」を予定していたのですが、既にJAさんが商標をとってらっしゃいまして、苦し紛れ……ではないんですが、この名前にしたところ、大きなインパクトがあったようで、多くのメディアに取り上げていただきました。
網走で生まれて、網走で育って、網走で食べられる
網走の管内には、網走刑務所だけではなくて、 子牛を買っている酪農家の方が多いんですが、その多くは松阪に買われていって、松阪牛へとなっていきます。松阪牛は品種としての呼称ではないので、全国各地から集まった黒毛和種の子牛が成長して松阪牛になるんですね。
例えばこの個体識別番号から、この網走監獄牛の出生を調べてみましょうか……。
https://www.id.nlbc.go.jp/top.html
(編集部注※ちなみに、この記事に出てくる生肉は全て同じ個体識別番号、つまり1頭の牛からのお肉です)
網走で生まれて育って、網走で屠蓄されて、網走で販売されて食べられるのが、分かっていただけると思います。牛にとってはストレスがなく成長できるのです。例えば松阪牛だと、もっと転々としているので、行数が増えてしまうんです。
売り先としましては、網走刑務所の私どもがやっている売店で、網走市民の方に販売しております。地域に還元するということを国の方でも考えていらっしゃったんで、我々もなるべく原価に経費をのせないように、ぎりぎりの価格で提供し、まずは刑務作業製品であるということを知ってもらうのと、味で網走市民の方に喜んでいただく、という方針です。
全国展開ですか?まだ出荷頭数が少ないんですよ。約120頭を育てて、年間20~30頭くらいの出荷です。増やしたいのはやまやまですが、なかなか難しいので、当面は網走刑務所の売店とこういった刑務作業品を販売するイベントでの出店となります。今のところは2月に始めたばかりで、一頭仕入れて、どのへんの部位が売れて、値段設定はどんな風にして、とか手探り状態です。現在、網走市内の焼肉店「まるいし」さん1軒だけに卸しています。
よく「懐かしい味」って言われる方が多いですね。赤身の味がちゃんとするというのが特徴なのと、サシが入ってもさっぱりしているところでしょうか。通常は、牛は生後24ヶ月から出荷できるのですが、網走監獄牛は30ヶ月飼育して出荷しています。寒い地方なので、特別なことをしなくても自然と脂肪が蓄えられて、6ヶ月多い分赤身に程よくサシが入るんです。
お弁当が届いたようです。召し上がってみてください。
我妻さん、ありがとうございました!
網走監獄和牛弁当、そのお味は
「特上ステーキ重」(1,800円)と「ステーキすき焼き相盛り重」(1,400円)。矯正展のため特別メニューです。11時30分の販売開始時には、こちらも長蛇の列ができていました。
ステーキ肉はご覧の通りの赤身肉でした。冷めてもやわらかい絶妙の火加減で焼かれた黒毛和牛。口に入れるなり甘旨のたまねぎステーキソースと相まって、冷めているのに溶けるかのような感覚。「懐かしい」という感想を持たれる方が多いのも分かる気がします。
相盛り重はすき焼きとステーキ。こちらも文句なしの美味しさ。おそらく肩ロースの薄切りかと思いますが、肉肉しさは十分に感じさせてくれました。
受刑者の方たちが丹精こめて育てた網走監獄和牛、完食いたしました。ありがとうございました。
網走監獄和牛を食べるには、
しか、現在のところは方法はありません。本文で我妻さんが話されているように、規模の拡大も現実的ではないかもしれませんし、筆者も、これからの人生でもう二度と網走監獄和牛を食べることはないかもしれません。
しかしながら、「矯正展」と「網走監獄和牛」に触れて、更生の大切さやいのちの大切さを身近に感じる貴重な経験が出来たことは間違いありません。
受刑者の方が出所されて、畜産業を営むようになり、網走監獄和牛のDNAを伝えるようになる……そんな日々を想像して、筆を置きたいと思います。