まるで牛フィレ!?大久保のチュニジア料理店でいただく絶品ダチョウ肉【東京“エス肉”めぐり 第五回】

家では自炊ベジタリアン、外食は肉、というスタイルを貫くエスニック料理の研究家であるサラーム海上さんが東京近郊のエスニックな肉料理を食べ歩く連載です。連載第五回目に訪れたのは、大久保・新大久保エリアにあるチュニジア料理レストラン「ハンニバル」。北アフリカと言えば何と言ってもクスクスですが、当連載は肉専門!ということで、ダチョウ、ホロホロ鳥、そして羊をいただきました。(大久保のグルメアジア・エスニック料理

まるで牛フィレ!?大久保のチュニジア料理店でいただく絶品ダチョウ肉【東京“エス肉”めぐり 第五回】

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東京周辺のエスニックな肉料理を食い尽くすこの連載「東京エス肉めぐり」第5回は大久保にあるチュニジア料理の老舗「ハンニバル」でダチョウ肉、ホロホロ鳥肉、羊肉のオンパレードと行こう!

 

 

北アフリカと言えばクスクス!だけど……

チュニジア料理って代表的なのはクスクス? そのとおり! 世界最古のパスタと呼ばれるクスクスはチュニジアだけでなく、アルジェリア、モロッコ、リビアを含む北アフリカのマグレブ地域、さらにチュニジアの北で地中海に浮かぶシシリア島などで古くから食べられている。

 

チュニジアは北アフリカの中央に位置し、日本の4割ほどの面積の国土を持つ。東と北を地中海に面し、西と南がサハラ砂漠に接している。先史時代からベルベル人が暮らしていたが、紀元前9世紀にはフェニキア人がカルタゴを建国し、地中海交易によって栄えた。その後、古代ローマ帝国やアラブ・イスラーム朝に支配され、近世のフランスの保護領を経て、1956年に独立している。お店の名前になっているハンニバルとは、第二次ポエニ戦争(BC219~BC201)で古代ローマを滅亡寸前にまで追いやったカルタゴの伝説的な将軍の名前である。断じてハンニバル・レクターではないのでご安心を!

 

チュジニアの料理には先住民ベルベル人の主食でもあるクスクスのほか、地中海の豊富な魚を使った海の幸料理や、土鍋で作るスパニッシュオムレツに似たタジン(モロッコの煮込みタジンとはまったく違う!)、「アフリカ餃子」または「チュニジア餃子」とも呼ばれる大型の揚げ餃子ブリックなどがあげられる。またレバノン料理やトルコ料理とも共通する、野菜とオリーブオイルを使った前菜類も忘れてはならない。

 

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ハンニバルは1998年5月にオープンし、この5月に18周年を迎えた都内屈指のチュニジア料理レストラン。新大久保、原宿を経て、現在の大久保駅徒歩1分の場所に移転したのは2012年。オーナーシェフのジェリビ・モンデールさんのイケメンながらも関西人的なオープンなキャラと、彼の作る日本人好みの繊細なチュニジア料理で、今ではお客さんの8割がリピーターとのこと。かく言う僕もモンデールさんとは20年来の知り合いだ。僕がある大型レコード店で働いていた頃に、日本に住み始めたばかりの彼がアラブ音楽のCDを探して、お店に来てくれたのが知りあったきっかけだ。

 

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「Oh! モナミ、コマン・サヴァ?(フランス語で「友達、ご機嫌いかが?」の意味)おかげさまで18周年です。それだけ続けていると、ワタシもお客さんも歳をとりましたヨ~。開店当初若かった人も中年になるし、お歳を召されていた方はさらにお年寄りになる。25歳だった人が43歳になり、60歳の方は78歳になっちゃったんですヨ~! だからリピーターのお歳を召された方でも食べられるようなシンプルな料理、誰でも食べられる料理を心がけています。いくら美味しくとも脂身が多かったり、味が濃かったりすると、一度食べて、もう来なくていいや、と思ってしまうでしょう。最近は野菜がメインのヘルシーな料理が多く出るようになりました。日本人はそんなに肉を食べないし。ワタシもたまに肉をガッツリ食べると、アラブ人のように血がグラグラと沸騰してクルヨ~!」


つーかアンタ元々アラブ人だろう(笑)!

 

今日はそんなモンデールさんに、現代の日本人の健康志向にも目を向けた最新のチュニジア料理、それでいて肉料理をたっぷり作ってもらおう!

 

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初めてハンニバルを訪れるなら期間限定の特別コースがお得。5月は「ひつじづくしコース」と題して

 

  1. ラム肉のカルパッチョ サラダ仕立て
  2. ひつじのレバーのグリル レーズンとドライアプリコットのマリネ
  3. フェタチーズの冷製ポタージュ
  4. ラムミートボールのクスクス
  5. ラムのティーボーンステーキ あみ焼きスタイル
  6. デザート
  7. ミントティーまたはコーヒー

 

この7品のコースが4,500円。4月にはダチョウ料理ばかりの「ダチョウクラブ」やラクダ料理ばかりの「シャモー(ラクダ)食べよーー!コース」なんてのもやっていた。羊肉好きのエス肉兄弟団としては「ひつじづくしコース」も捨てがたい。しかし、今日のメニューはモンデールさんに全てお任せの肉づくしと行こう!

 

 

肉じゃないけど焼き野菜のマリネ「サラダ・メシュイー」と大型揚げ餃子「ブリック」がまず美味い

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食前酒のざくろのリキュールをチビチビやりながら、イタリアのフォカッチャに似た自家製のパンに、これまた自家製の唐辛子ペースト、ハリッサを塗って頬張っていると、最初に出てきたのは冷たい前菜「サラダ・メシュイー」。

 

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メシュイーとはアラビア語で「焼いたもの」を意味する。ピーマンやパプリカ、玉ねぎ、にんにくなどにオリーブオイルをふり、柔らかくなるまでオーブンで焼いてから、細かく刻み、更にオリーブオイルでマリネし、冷たくしていただく。モロッコやレバノンにもほぼ同じものがあるが、チュニジアのメシュイーはシンプルなオリーブオイル味で、トロトロになった野菜の甘みが際立っている。

 

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続いては暖かい前菜。チュニジア独自の大型揚げ餃子ブリックだ。春巻きほどの小麦粉の皮にツナやマッシュポテト、パセリなどの具を詰め、真ん中に卵を落として三角形に包み、少量の油で、卵が半熟になるまで揚げたもの。僕はフランスに留学していた際に、アラブ人がやっている町角のキオスクでしょっちゅう買い食いしていた、思い出深いスナックだ。

 

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「ウチのブリックは美味いよ。具はツナにじゃがいも、パセリにパルメジャーノ、そして卵。パルメジャーノを入れると味がやさしくなるんだよネ~。レモンをギュっとしぼってから、ペーパータオルでくるんで、手で持って食べて下さい。中の卵の黄身をこぼさないようにしっかり持ってくれヨ~」

 

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揚げたてで熱々なのブリックを左手で持って一気にパクっといただく。真ん中の卵の黄身はもちろん半熟。黄身が他の具と混ざり合うと、一段とまろやかな味になるのだ。

 

チュニジアのワインはロゼ、じゃなくて「灰色」? 

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チュニジアは国土の半分が地中海性気候で葡萄の栽培に適している。そのためお酒と言えばワイン。白、赤、ロゼでもなく、フランス語で「灰色」を意味する「グリ」が一般的。グリはロゼよりも薄いピンク色が特徴で、チュジニアだけでなく、アルジェリアやモロッコ、フランスの一部地方でも人気が高い。味はロゼよりも白に近く、すっきりしているが、それでいて赤ワインのような皮の苦みもある。白やロゼのように冷たく冷やせば、一人で一本軽く飲んでしまえる。

 

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「チュニジアでは、わざわざ白や赤と指定しないかぎり、グリやロゼが出されます。グリが一番沢山作られていて、一番安いからです。地中海の味がするでしょう?」

 

 

さて、この辺りで本日のメイン、一品目の肉料理の登場だ。まずはダチョウのフィレ肉。ダチョウ肉は欧米では狂牛病が問題になった時代に牛肉の代替肉として広まり始めた。しかも牛肉より、高タンパク質で低脂肪の肉としても知られている。

 

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僕はダチョウ肉は初めてだったので、焼く前に肉を見せてもらうことにした。するとお皿の上には牛のもも肉のような脂肪の少ない真っ赤な塊肉がドーンと250gほど! しかも表面が半透明に透けて、つやつやに輝いている。見るからに美味そう。刺身にして食べたいくらいだ!

 

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「ダチョウは鳥だから白身の肉かと思うでしょう? 違うんです。赤身の肉。しかも脂が全然ないんですヨ~」

 

話はイイから大至急食わせてくれよ! モンデールさんをけしかけて、ササっと作ってもらったのがダチョウのフィレ肉の網焼き。エリンギと一緒にバルサミコ酢とジンジャーパウダーのソースをからめてある。

 

血の滴るダチョウ肉!まるで牛のフィレ

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では早速いただきま~す! 見た目と食感はまるで牛のフィレ肉だ。焼き加減はミディアムレアで丁度良い塩梅に血がしたたってくる。肉自体は牛よりも固いが、牛よりも臭みがなく薄口だ。そこに濃厚なバルサミコ酢の甘酸っぱさが被さる。さらにエリンギと一緒だと食感の違いも楽しめる。

 

 

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「ボナペティー・ムッシュー! 一時期チュニジアではダチョウが大ブームになったことがあります。鶏は小麦を食べますが、ダチョウは葉っぱを食べる。なので育てるコストが鶏よりも安い。しかも全身を食べられます。ダチョウの首を出汁に使ったスープはとても美味しいですヨ~。当店でも限定メニューで出したりします。ただし、ダチョウの肉は焼きすぎてはダメ。固くなっちゃう。冷める前に食べて下さい」

 

 

鶏よりもはるかに濃厚!ホロホロ鳥のソテー

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二つ目の肉料理はホロホロ鳥のソテー。フランス料理では高級食材とされているホロホロ鳥だが、実は北アフリカや西アフリカが原産。やはり、高タンパク質、低脂肪、高鉄分と三拍子揃った食材である。

 

 

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「ホロホロ鳥、フランス語ではパンダートと呼びます。日本ではタッカイんだヨ~! でも折角だからサービスしちゃうヨ~」

 

ホロホロ鳥の半身をぶつ切りにして、たっぷりのオリーブオイルと輪切りにした鷹の爪、にんにく、ローズマリーの生葉によるペペロンチーノ風のソースで、茹でたジャガイモと一緒にソテーしている。ホロホロ鳥は白身肉のため、見た目は大きな鶏のようだが、味は鶏よりも一回りも二回りも濃厚で、キジや鴨に近い。ジビエの一種とされるが、野生の臭みが少ないのも特徴だ。肉とハーブとにんにく、オリーブオイルだけというシンプルな味付け。塩はかなり控えているが、鷹の爪が使われているので、味はしっかりと感じる。

 

 

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「チュニジアやヨーロッパでは糖尿病が大問題になっているネ~。そのためには塩と砂糖を減らさないとダメね。日本でもしょう油の塩分は時代とともに変わってきているんだよ。ウチはリピーターのお客さんが多いから、お客さんの身体の事を考えないとダメね。例えば、ウチではクスクスにほうれん草を入れている。甘みが出るし、トマトとよく合う。それに出汁が出るから、そのぶん塩を減らせる。チュニジアではクスクスにほうれん草はあまり入れません。でも、季節の野菜を沢山入れるのがクスクスなんだから、ほうれん草を入れたってイイじゃないか。それこそチュニジアと日本の出会いだよ、アミーゴ!」

 

最後に定番のクスクスをいただこうと思っていたが、モンデールさんのお勧めは別のものだった。

 

 

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「肉料理がテーマなんでしょ。だったらクスクスではなく、今日は羊肉を食べてってよ。ジャレ・ダニョー、仔羊のスネ肉、もう最高ヨ~!」

 

骨までしゃぶり尽くしたい! 仔羊のスネ肉の煮込み

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というわけで三つ目の肉料理は仔羊のスネ肉の煮込み。骨付きのスネ肉一本をシナモンを中心としたスパイスや玉ねぎ、人参、オリーブ、ひよこ豆などともに長い時間かけてトロトロになるまで煮こんだもの。羊肉を素焼きの壷に入れてオーブンで蒸し煮にしたモロッコ料理「タンジーヤ」とよく似ているが、タンジーヤが脂ギトギトの肉料理なのに対して、チュニジアの煮込みは野菜もたっぷりでバランスも良い。甘いシナモンの香りが既に腹7分目になっているエス肉兄弟団に、更なる食欲をもたらしてくれる。

 

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「仔羊のスネ肉にはシナモンを使う。すると羊肉が苦手な人でも食べられるようになる。でも、たっぷり使うとクドくなる。そこでほんの少しだけ使って香りだけを付けるんダヨ~。
チュニジア料理の特徴はハーブとスパイスを活かしながらも、その香りだけを用いること。クミン、コリアンダー、キャラウェイ、サフランなど、使うスパイスはインド料理ともスペイン料理とも重なるネ~。でも、ほんの少しずついろんなものを使う。チュニジア料理ではスパイスやハーブをバサっと振りかけたりはしない。味の邪魔にならないように、ほんのちょっと指先一つまみだけ。グラムではなく、ミリグラム単位で使うのネ~」

 

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なるほど。僕はこれまでに十数回モロッコを訪れ、様々な場所でクスクスやタジンを食べてきたが、お店を相当吟味しないと、胸焼けするほど大量のスパイスや砂糖、油の入った料理に当たってしまうことが多かった。一般家庭に行くと薄味の家庭料理に出会えるが、家庭料理がやさしい味なのは世界中どこの国に行っても同じこと。モンデールさんの作る料理はスパイス加減、塩加減、火の通し方加減がとても洗練されたレストランの料理になっているが、同時に家庭料理のようにやさしい味である。それがすなわちチュニジア料理の特徴でもあったのか!

 

それにしても、ダチョウ、ホロホロ鶏、仔羊という肉の三連攻撃で、今夜もさすがにお腹一杯になってしまった。実は彼が作る魚まるごとオーブン焼き(キャベツとアンチョビ、ドライトマト、ケッパーを使ったソースが絶品!)や野菜たっぷりのクスクスも絶品なのだが、それはまた次回以降に譲るしかないなぁ。モンデールさん、近いうちまた寄ります!

 

団員随時募集中 

そうそう。団員随時募集中の秘密結社「東京エス肉兄弟団」に二名様から申込みがありました。一人は英文の職務経歴書、一人はトルコ語の職務経歴書を送っていただきました(笑)。当方で精査を重ねた上、二名とも晴れて入団となりました。次回以降、新人とともに新たなエス肉レストランを開拓する予定です。入団希望者は引き続き英文の職務経歴書を僕にメール(salamuna@chez-salam.com)下さいませ。

 

今回取材したお店

Hannibal(ハンニバル)
住所:東京都 新宿区百人町1-19-2 大久保ユニオンビル1F
最寄り駅:大久保駅1分、新大久保駅4分
電話番号:03-6304-0930
営業時間:17:00 ~ 00:00
ラストオーダー:23:00
定休日:なし

http://hannibal.jp/

プロフィール

サラーム海上 Salam Unagami
音楽評論家/DJ/中東料理研究家。肉食。中東やインドを定期的に旅し、現地の音楽と料理シーンをフィールドワークし続けている。活動は原稿執筆のほか、ラジオやクラブのDJ、オープンカレッジや大学での講義、中東料理ワークショップ等、多岐にわたる。著書に『おいしい中東 オリエントグルメ旅』(双葉文庫)、『21世紀中東音楽ジャーナル』(アルテスパブリッシング)ほか。朝日カルチャーセンター新宿にて「ワールド音楽入門」講座講師、NHK-FM『音楽遊覧飛行エキゾチッククルーズ』のDJを担当。中東や東欧の最新音楽をノンストップDJ MixしたCD「Cafe Bohemia~Shisha Mix」(LD&K)も発売中。www.chez-salam.com

 

過去の「東京“エス肉”めぐり」はこちらから

                             
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