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アルゼンチンの大草原で豪快に焼く骨付カルビの岩塩焼き 【東京“エス肉”めぐり 第三回】

家では自炊ベジタリアン、外食は肉、というスタイルを貫くエスニック料理の研究家である筆者が東京近郊のエスニックな肉料理を食べ歩く連載です。連載第三回目に訪れたのは、駒場東大前・池尻大橋駅から徒歩5分の場所にあるアルゼンチン料理店「コスタラティーナ」。アサードと呼ばれるボリューム満点の肉料理があるようなのですが、どんな料理なのでしょうか?(代々木上原のグルメアジア・エスニック料理

アルゼンチンの大草原で豪快に焼く骨付カルビの岩塩焼き 【東京“エス肉”めぐり 第三回】

池尻大橋・三宿 サラーム海上 グルメレポ おすすめ

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アルゼンチンのバーベキュー料理「アサード」とは?

これまでありそうでなかった、肉料理に特化したエスニック料理食べ歩き企画「東京エス肉めぐり」第三回は、駒場東大駅または池尻大橋駅から徒歩5分ほど、渋谷から歩いても20分ほどの松見坂にあるアルゼンチン料理店「コスタラティーナ」だ!

 

ここはアルゼンチンのバーベキュー料理「アサード」のセットが食べられる都内唯一のお店なのだ。

 

アサードってどんな料理かって? お店のメニューにはこう書かれている。
パンパ(アルゼンチンの草原地帯)で豪快に肉を焼くガウチョ(カウボーイ)の料理です。味付けは主に岩塩のみで、炭火焼きでじっくりと焼きます。余分な脂肪も落ちるため、肉本来の味が楽しめます。アルゼンチン人が毎週末、イベント行事で必ず食べる、人々の交流を温める料理です」

 

おお、パンパにガウチョなんて懐かしい! 高校の地理の教科書で出てきた南米の地形を示す用語「パンパ、セルバ、グランチャコ」なんて言葉を覚えてる人もいるのでは? いや、いないって? 普通、世界史か日本史で受験するって? 失礼、オレは地理専攻だったのだ!

 

パンパとはアルゼンチンの中央部、関東平野の60倍の面積を誇る草原地帯で、アルゼンチンの農業と牧畜の中心地。そこで17世紀以降に暮らしたスペイン移民と先住民の混血の人々をガウチョと呼ぶ。南米版カウボーイと言えばわかりやすいだろう。

 

現在では伝統的なガウチョの生活様式を行っているアルゼンチン人はほとんどいないが、ガウチョという言葉には一ヶ所に留まらない自由な精神というロマンティックな響きがあるらしい。

 

そのガウチョが毎週末や冠婚葬祭の場となると、肉をさばいて、岩塩をすりつけ、炭火を熾して、炙るようにしてじっくりと焼き上げたのがアサードというわけだ。「アサード」とはスペイン語で「焼かれたもの」を意味する。

 

しかし、そんなアサードは日本ではほとんど知られていないし、提供しているレストランもない。アルゼンチンの隣国、ブラジルのシュラスコは現在ブームとなっているというのに、なぜなんだ!? そして、シュラスコとアサードの違いは一体どこにあるのか? どちらも岩塩のみで味付けしたバーベキューではないか? そんな疑問を胸に抱きながら、3月上旬の雨の夜、コスタラティーナに向かった。

 

駒場東大前・池尻大橋から徒歩5分「コスタラティーナ」

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お店は松見坂の淡島通りに面した三階建てのビルまるごと一棟。一階の入り口の正面にあるイカしたバーカウンターで迎えてくれたのがオーナーの前浜ディエゴさんだ。

 

「いらっしゃいませ、ブエナスノーチェス」
アサードを出す店の主人にふさわしく、全身鍛えまくった筋肉ガイ! 冬だというのにTシャツに膝下パンツ姿だ。

 

ディエゴさんはブエノスアイレス生まれ、19歳の時に祖父の故郷である日本を訪れ、飲食店でアルバイトを始めたところ、料理の楽しさに目ざめ、様々な店で修行した後に、コスタラティーナを開店。2005年に現在の松見坂に移転し、2010年からアサードを提供し始めた。
「いろんな料理を修業したけれど、アルゼンチンに生まれた以上、アルゼンチン料理で勝負したかったんです」

 

前持ってアサードのコースを予約しておいたが、出来上がるまでしばらく時間がかかるので、今のうちに疑問をぶつけておこう! まずアサードとシュラスコの違いは?

「シュラスコは回転させながら表面だけ焼いて、薄く切って提供するでしょう。それに対してアサードは余分な脂肪を落としながら、ゆっくり時間をかけて焼く。少なくとも1時間は焼く。だから前持って予約した人にしか出せないんです。アルゼンチンではアサード一人前は約500g。うちも同じくらいの量を出しています。チョリーソや血詰めソーセージのモルシーシャもアルゼンチン独特のものです。通常のアサードの他にも、団体さんの特別注文が入ると、豚の丸焼き、羊の丸焼きもやってますよ」

 

おお、岩塩だけで炭火焼きにした羊の丸焼き!?  それもいつか食べてみたいなあ!

 

店内は屋上を含む全4フロア 

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料理が運ばれて来る前にお店をじっくり見せてもらった。一階はバーカウンターとテーブル席。手前の細い螺旋状の階段を上ると、二階は厨房が半分を占めていた。三階はオープンスペース、そして、渋谷が一望出来る屋上にはインディアン・テントが張られ、左側には自作のアサード用の大きな窯が設置されている。晴れていれば、冬の渋谷を眺めながらテントの中でまったりするのも良さそうだ。

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「テントは寒い冬の間だけです。これから暖かくなると忙しくなりますよ。屋上まで入れると4フロアあるので、上下するだけで大変ですからね」とディエゴさん。
 
さて、一階に戻って飲み物を注文しよう。特製のサングリアも美味そうだが、アルゼンチンと言えばワインだろう。ディエゴさん、どれが美味しいの?

「うちはアルゼンチン・ワインしか置いていません。コストパフォーマンスが高いし、アルゼンチンにしかない葡萄を使ったワインもあるんです。マルベックという葡萄は元々はフランスの葡萄ですが、今はアルゼンチンが中心です」

ディエゴさんに勧められたマルベック種のワインをいただきながら料理を待とう。それにしてもボトルワインは酒屋の店頭価格とそう変わらないお値打ち価格ではないか!? 皆さん、コスタラティーナに行ったらボトルワインがお得ですよ~!

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いよいよ料理が! アルゼンチンの揚げ餃子「エンパナーダ」

グリーンサラダに続き、アルゼンチンの揚げ餃子のエンパナーダが運ばれてきた。小麦粉の生地を噛み切ると、中から肉汁が口の中に飛び出してきた。アチチッ! しっかり牛肉が詰まってる! 形こそ餃子に似ているが、肉詰めのパイと言ったほうが正しいかもしれない。そして更なる付け合わせにポテトフライ。これもにんにくがたっぷり効いていて美味い。

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肉にイイ焼き色が付いたと言うので、ここでもう一度厨房に戻り、アサードのための特注グリル機器を見せていただいた。炭火から少し上に、山形鋼をV字状に並べたグリル機器が設置され、その上にソーセージと鶏肉、豚肉が置かれ、V字に沿った焦げ目が付いている。肉は遠目の炭火でじっくり焼かれ、余計な脂はV字に沿って流れ落ちる仕組みだ。日曜大工の得意な方なら十分自作出来るはず。自宅でアサードも不可能じゃない!

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再び一階に戻ると、ディエゴさんがチョリーソとモルシーシャを長い金串に刺した状態で運んできてくれた。それを目の前でサーブしてくれる。この辺りはシュラスコと共通する。

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さっそくいただきま~す! チョリーソは皮がパリパリで、中がフワフワ。豚肉の旨味がプリプリに感じられる! モルシーシャは血の味がまろやかで、フランスの豚の血詰めソーセージであるブーダンノワールより素朴な味わいだ。美味い!

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次は沖縄料理でお馴染みの豚の皮付きの三枚肉と鶏のもも肉。これは炭ならではの強火の遠火が効いている! 肉の味を中に閉じ込めながらも、余分な脂は全て落ちている。焦げ目の付いた皮が美味いんだ! 骨付きの鶏のもも肉も長い時間をかけて焼いているので、水分が飛び、フランス料理のコンフィーや半分スモークのような濃厚な味になっていた。美味い! 美味すぎる! もっと食べたい!

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シンプルなアサードにはチミチュリと呼ばれるソースがよく合う。にんにくとパセリのみじん切りをワインビネガーと油で和えたものだが、こちらでは赤パプリカと玉ねぎのみじん切り、赤唐辛子パウダーなどが用いられて酸っぱ辛い。ディエゴさん、そのほかに何が入ってるの?

「チミチュリのレシピは企業秘密です(笑)」

そりゃその通り!

 

メインディッシュは骨付カルビのコスティーヤ 

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ここで口直しに魚介のマリネ、セビチェが運ばれてきた。セビチェはペルーやメキシコの料理として知られているが、最近ではフランスやトルコ、イスラエルでも目にするようになった。生の白身魚や烏賊や海老や貝などの海の幸を玉ねぎなどの香味野菜と一緒にライム汁でマリネした酢の物だ。コスタラティーナでは烏賊と貝柱を中心に赤唐辛子を効かせたピリ辛なセビチェだった。

 

そして、お待たせしました! 肉のフィナーレはコスティーヤ。厚い骨付きカルビを遠火の強火で長い時間かけて焼いたものだ。しかも一切れがデカい! アルミのお皿からは肉が焦げた煙が立ったままだ。

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コスティーヤにたっぷりのチミチュリをかけて、大きなナイフで切り分けながらいただきます! これはあばら骨のまわりのゼラチン質が美味い! こんなに美味いウェルダンの牛肉は初めてかも! 僕は牛のステーキは当然レアが大好き。シュラスコに行っても、一番美味いピッカーニャは表面はカリカリで中はレアという状態が好きなのだ。それにくらべてアサードはガチガチに火を通してしまっている。なのに、肉が堅くならず、かえって肉の味が濃縮されているように美味いのだ! これがアサードのキモか!?

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「アサードはアルゼンチン人の男性なら誰でも作れます。たいがいの家にはアサード用の窯があるくらいです。僕は日本に来てからアサードの作り方を覚えました。以来、アルゼンチンに帰るたびに、ブエノスアイレスだけでなく、田舎にあるアサードのレストランを訪ねて勉強しています。田舎はワイルドなガウチョ・スタイル! パンパの牛はブラジルの牛とも違うし、日本の牛とも違うし、切り方も違う。5年前にアメリカ産の似た牛肉を見つけて、初めてこの店でもアサードを出せるようになったんです」 

 

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確かにシュラスコとアサードは違う! ディエゴさん、アサードの美味さが十分に伝わりました!

 

今回取材したお店

COSTA LATINA
住所:東京都目黒区駒場1-16-12 
電話:03-5465-0404


プロフィール

サラーム海上 Salam Unagami
音楽評論家/DJ/中東料理研究家。肉食。中東やインドを定期的に旅し、現地の音楽と料理シーンをフィールドワークし続けている。活動は原稿執筆のほか、ラジオやクラブのDJ、オープンカレッジや大学での講義、中東料理ワークショップ等、多岐にわたる。著書に『おいしい中東 オリエントグルメ旅』(双葉文庫)、『21世紀中東音楽ジャーナル』(アルテスパブリッシング)ほか。朝日カルチャーセンター新宿にて「ワールド音楽入門」講座講師、NHK-FM『音楽遊覧飛行エキゾチッククルーズ』のDJを担当。中東や東欧の最新音楽をノンストップDJ MixしたCD「Cafe Bohemia~Shisha Mix」(LD&K)も発売中。www.chez-salam.com

 

過去の「東京“エス肉”めぐり」はこちらから

r.gnavi.co.jp

                             
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