前回の900グラムステーキに完勝し、メガ盛りの企画もひと段落。いつもと変わらないオフィスだが、フクちゃんは最近、ある変化を感じていた。
「誰かに見られている…?」
PCのモニターに対峙しているとき、昼食に出るとき、トイレで用を足しているとき…ふとした瞬間に突き刺すような視線を感じるのだ。
普通だったら気になるところだが、そこは持ち前のポジティブさが先行するフクちゃん。
(前回肉1キロ[実際は900グラム]ぺろりだったから、そりゃ注目されちゃうよね♪)
どこまでも前向きなフクちゃん。今なら己のリミッターを解除できるかもしれない。新たなメガ盛りロードをスタートさせるのだ!
いざ!ロメスパの聖地、ジャポネへ
本日のメガ盛りにフクちゃんが選んだのは、全国のロメスパの聖地とされる超人気店「ジャポネ」。ロメスパとはなんでも路麺スパゲッティーの略で、立ち食い蕎麦のスパゲッティー版らしい。フクちゃんとスパゲッティーといえば、何と言っても連載Vol.3「秋葉原パンチョ」での完敗という苦い記憶が甦るが……大丈夫なのだろうか。取材同行者たちにも一抹の不安がよぎる。
「茹でた太麺を和風に味付けして炒めたスパゲッティーらしいんですよ。味もいろいろあるみたいだし、パンチョのときのようなことにはならないですよ!」
意気軒昂なフクちゃん。気合十分なようだ。
「なんでもレギュラー(麺量350グラム)、ジャンボ(560グラム)、横綱(720グラム)、親方(900グラム)、理事長(1,100グラム)って5段階に分かれてるらしいですよ」
下調べも完璧だ! 今日のフクちゃんは一味違う。やはり肉1キロ(実際は900グラム)を平らげてレベルアップしているようだ。待ってろ、理事長!
決戦の地、銀座インズ3に到着。
商用施設の一角に15席ほどのL字型カウンター席。厨房の中には巨大なフライパンを黙々と振り大量の茹で置きの麺をさばく屈強な男が3人。一心不乱に麺を口に放り込んでいく男たちを、行列に並んだ多数のギャラリーが無言で見守る。
「すごい雰囲気ですね…」
腹ペコ男性サラリーマンの長蛇の列に気圧されたように語るフクちゃん。戦いはもう始まっている!
と、その時だった。後ろに並んだ男が突然フクちゃんに話しかけてきた。
「肉900グラムってメガ盛りじゃなくないっすか?」
「えっ?」
フクちゃんと取材同行者に緊張が走る。誰だ、こいつ?
「俺なら1,500gいきますけどねー。つーか3ケタなんてメガ盛りじゃないっしょ」
「いや、それは…」一番突かれたくないところを突かれて、口ごもるフクちゃん。
「ま、いーや。とりあえず今日ここで勝負しません? ケチョンケチョンにしてやりますから。あ、もし俺が勝ったら次回からメガ盛り紀行、俺でやって欲しいんですけど。名前ですか? フナちゃんって言います。だから、フナちゃんのメガ盛り紀行、っていうタイトルで」
「みんなのごはん読んでくれてるんですね。ありがとうございます。いいですよ」と間髪入れず取材同行者が答える。「えっ!?」と耳を疑うフクちゃん。
(そんな…何のために今まで頑張ってきたんだ…全てを犠牲にして今までメガ盛りにかけてきたのに…)
つまり今日の敵は、ジャポネのメガ盛り、謎の男フナちゃん、そして己。フクちゃんの孤独な戦いが始まった!
ジャポネのスパゲッティーの味付けは合計で12種類。一番人気は醤油味のジャリコだそう。
(何を食べたら良いんだ…負けたくない。一番食べやすそうなのは…)
必死でメニューをセレクトするフクちゃん。
「理事長(1,100グラム)でいいっすよね?」フナちゃんが話しかけてきた。
「いいけど」とぶっきらぼうに返すフクちゃん。心優しいフクちゃんにはありえない返答で、取材同行者も耳を疑う……致し方ないが平常心が失われているようだ。
「ところで、フクちゃんさんは親方食べたことあるんすか?」
「ないよ。初めて来たから」
「マジすか~!? 親方食べたことないと理事長にチャレンジしちゃダメなんですよ。これだから困るな、素人は…。仕方ない、今日は横綱(720グラム)で勝負しましょうか。あーあ、3ケタなんて、おやつ食べに来てるわけじゃないんだからさー。頼むよー」
(初対面でこんな失礼なやつに負けるわけにいかない…!)フクちゃんのハートに火が点いた!
長蛇の列がようやく消化され2人の順番に。フクちゃんは明太子(横綱)を、フナちゃんは醤油味のジャリコ(横綱)をチョイス。
10分ほど待ち、今日の敵とご対面だ。
通常メニューの中で、もっとも盛りのよい横綱。その存在感はタバコと比べてもらえれば一目瞭然だ。一般的にスパゲッティーの一人前は乾麺の状態で100グラム、茹でた後で240グラムと言われている。つまり横綱は単純計算でスパゲッティー3人前と考えてもらっていいだろう。
(落ち着け俺。前回は肉を1キロ食べてるんだ[実際は900グラム]。3人前のスパゲッティーなんて余裕じゃないか。集中集中・・・)
「いただきます!」ゴングが鳴った!
「う、うまっ!」思わず感想が口をついて出てしまう。毎日、大量の行列を生み出す人気店の秘密は量だけではない! 具はしいたけ、小松菜、大葉、玉ねぎがほど良く麺にまぶされ、少し強めの塩味が食欲をそそる。そして大量の海苔と明太子。フクちゃん得意の味の調節にもってこいだ。順調に食べ進めながらも、パスタの苦い思い出がどうしても頭をよぎる。
(「パンチョ」って「ちょっと恰幅がいい」とか「ちょっとぽっちゃり」って意味らしいな・・・。あ、だからパンチョ伊東さんって言うのか・・・。まずい、集中集中・・・そうだ、隣の失礼なこいつはどうなんだ・・・)
「!!!!」
(巻きがデカイ!・・・。しかも早食い!こいつ・・・。待てよ、もしかして)
「あ、あのさ」「何すか、先輩」「もしかして、最近僕の方をちらちら見てたのって……」「そうっすよ。俺っすよ。なんか先輩のメガ盛りぬるいなあって思って、むかついてたんす。つーか先輩、話しかけてる余裕あるんすか?俺、もう食べ終わっちゃいますよ?」
(まずい! こいつ口だけじゃない。なんとかしないと・・・)
フクちゃんの驚異的な追い上げ。明太子の混ぜ方を減らしたり増やしたり、味を変えている暇はない。とにかくゴール向かってラストスパートだ。ただ汗はいつもどおり止まらない。必須アイテムのタオルハンカチが大活躍。右手にフォーク、左手にハンカチ。
2人ともラストスパート。取材同行者には、体格のいい2人が肩を寄せ合う姿が、まるでマラソン選手がトラックに入ってデッドヒートを繰り広げている姿とダブって見えた。
「ごちそうさまでした!」ほぼ同時にフィニッシュ。どうやら今回はどう見ても引き分けのようだ。
「ははは。先輩なかなかやるじゃないすか。引退が伸びましたね。マックでバニラシェイクでも飲みません? おごりますよ」
(どこまで上からなんだ、こいつ・・・)
「次回は理事長ってことで。時間がもったいないんで、親方はそれぞれ自主練ってことでいいすか? 別の候補あったらそこでも良いですよ?」
「オッケー。フナちゃんとか言ったっけ? 言っとくけど俺、絶対に引退なんてしないから。つまり君には負けないってことだよ」
(俺からメガ盛りをとったら、何も残らない)
次回2人があいまみえるのは、ジャポネか、あるいは別の店か。メガ盛りバトル第2章へと続く。
ぐるなび - ジャポネ(銀座/イタリアン(イタリア料理))