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- ヒレ
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◆かたくなな愛◆
ヒレには目がないのです。いえいえ私がヒレに目がないのではないのです。私にとってヒレは高嶺の花。でもヒレに目のない実に多くのお客様。これはそんなあるヒレにまつわる悲恋の物語なのです。
ロースやバラに囲まれて内懐に抱かれ育ったヒレには、正目(まさめ)も逆目(さかめ)もないのです。どう包丁入れようとまったくさわりは無いのです。“何とも無垢な”とか“いやむしろ知的なほどに”などとたとえる外無き柔らかさ。その意味でヒレには目がないのです。そんなヒレへの思い入れ、本人知ってか知らでか厨房さん、盲目の紛(まご)うことなき愛なのです。
師走の街に人溢れ、私共フロアーもお客様への対応が充分に叶わぬ程の夜でした。あ~、愛の破局のお膳立て。
予定のヒレを捌(さば)き尽くして次なるヒレに手を染めたのです。注文受けてやおら包丁入れるこだわりが裏目に出ました。確かに急(せ)いてもいたのです。
でも見映(みば)の秀でた高値のヒレゆえ露疑う事も無く、あろうことか吟味の鉄則、愛の証、“抑え難く愛(いとお)しく食べる”のを怠ったのです。更に“あたり”と称す予期せぬ硬さを切り手に伝える“鈍丁”を、ありきたりな切れ味冴える包丁に握り変えてもいたのです。
ヒレは、厨房さんの常と異なるおざなりで冷たい仕打ちに不信と恥辱に苛まれ、やがて怒りを悟られぬようこと静かに身構えた、とでも言うのでしょうか。
こうして当店のヒレにあるまじき前代未聞、噛みつかんばかりに頑なな二枚のヒレが
お客様のテーブルに運ばれたのでした。妹の私には何かと口やかましく厳(いか)めしい厨房さん、程なく事の真相に気づき、その顔が未曾有の失態に色も失せ“べそ”かかんばかりなのです。
この日この愛、ひれ伏す能わずおざなりな愛。 -
- 2,200円~
3,300円
- 2,200円~
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- ホルモン煮込み
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◆待って曲がって◆
今と異なる趣の目貫通りがありました。柳並木のそんな通りがありました。
通りの名前はお決まりの銀座通りといいました。
車の流れも人の動きも賑やかで、車歩道分けるガードレールがありました。
当店と歩道を挟んで丸くて白いガードレールがありました。
手狭な店で忙しく働く母や兄姉を、ガードレールで待ちました。小さなお下げの私には“白いお椅子”はお気に入り、お足揺らして待ちました。
やがて待つことも無く、時は過ぎて行きました。或る日、お椅子の前に立ちました。 “白いお椅子”は無惨に曲がっておりました。
焼肉、馬刺、それに素朴な和食の味の店としてご利用の多い当店ですが、このガードレールを曲げる程多くのお客様に愛されたホルモン煮込も欠かせません。「この煮込なら食べられる」とおっしゃる特に女性のお客様、最近とみに増えてます。
「暑さ寒さを厭(いと)わずにあのガードレールに腰掛けて、空席待たれたお客様、煮込の人気は健在です」
柳並木が伐られた頃に、ガードレールも無くなりました。遠い昔のお話です。
、 -
- 600円
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- 馬刺とレバ刺し
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◆花畑(はなばた)蝶蝶◆
熊本城下花畑(はなばた)町。この地でけなげに生きる花畑蝶蝶。その蝶の好物が霜降り馬刺に馬レバ刺。
「でも馴染みが無くて私はちょっと」というに、壮絶な愛のお話進ぜましょう。
情熱的な白馬ブルトン。穏やかな栗毛ペルシロン。仲の良い二頭のお馬がおりました。
二頭はお花畑で一匹の可憐な蝶を愛していました。
或る日、苦渋の末に蝶がブルトンにペルシロンを伴侶に選んだ事を告げたことから、お花畑ににわかに暗雲立ち込めました。失意のブルトン、荒れるブルトン。なだめ寄る蝶をあろう事か宙に舞うブルトンの尾がはずみで叩き落してしまったのです。
瀕死の蝶を前に既に死んだと思ったブルトンは自らの心臓を噛み砕いて後を追わんと
したのですが肋骨に阻(はば)まれ果たせず、食いちぎった胸肉を残して天翔(あまか)けるとあの“ブルトン星雲”になったのです。
一方、悲しみに打ちひしがれながらもペルシロンは、残されたブルトンの胸肉と最も滋養のある自らの肝臓で「どうか蝶の命を助けて欲しい」と馬神に願い託すと、やはり天翔けてあの“ペルシロン星雲”になったのです。そして今も遥か天空から蝶の健やかなるを願っているのです。
胸肉、霜降り馬刺はブルトンの情熱的な愛。肝臓、レバ刺はペルシロンの献身的な愛。
共に決して忘れられない花畑蝶蝶の思い出なのです。
注;ブルトンとペルシロン、超重量級のお馬の種類です。 -
- 1,300円
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- 桜バラ焼き
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◆名は体を表す哉?◆
新種の“薔薇”で当たればビリオネアー。
フランスの伝統ある薔薇市場、どこにでもあるセリ市独特のその“のどかさ”の裏側で香水等の艶(あで)やかな業界の熱き視線を世界中から集めんともなれば、巨万の富が薔薇の周りで蠢(うごめ)くのも頷けます。
一方、新種の“桜”で特に財を成した人の話も聞きませんがその季節、日本中の桜の下で費やされるバイタリティーと散財は、薔薇のそれに劣るものでは御座いません。
さて、おこがましくも当店の桜薔薇、どんな物にも名乗り負けず、その味キャビヤに勝ると人の言う、美肌に効果の桜薔薇。最高級の桜のバラ肉をミディアムレアーで戴く、常連さんの定番です。
派手な名前と裏腹に知名度は今ひとつ、きっとそこには仕入にまつわる厨房さんの思惑がありそうです。
「世界に名だたる和洋の花の名冠(かん)するあなた、名はお味を表すや?」 -
- 2,500円
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- 上ミノ
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◆満帆(まんぱん)の風◆
王者“黒毛和牛”向かうところ敵無し。しかし揺るぎなきかの、その実力の一角に風穴開ける“異端児”がこの<ミノ>なのです。
異国の荒野で思う存分草をはみ、産を重ねてはぐくんだ健やかな身の厚さ。えも言われぬ歯触りにさすがの王者も歯が立たず。でもその全てが焼肉に供せるものでもないのです。そんな身の程知らぬ“異端児硬派”、それがじっくり煮込まれて小気味良い歯応えの<牛ミノ旨煮>に生まれ変わるのです。只、下火とは申せ、全てのお牛を巻き込んだ流行(はやり)風、逆風満帆吹きやられ日本の港になかなか上陸出来ぬ“異端児”なのです。
「本日の上ミノ、上に値わず」と頭を抱え、あたふた、おろおろ。
そんな厨房さんを尻目に、さぁ、ここから私の出番。
さり気なく「済みません“春”盛り合わせの<上ミノ>切らしております」「代わりに何かお好みの<上ホルモン>とか・・・」と流暢に続けるつもりが、お客様「あっ、そう、残念!何でも良ければ、代わりは<上ヒレ>」間髪入れぬご要望、お見事!つい私も懐勘定差し置いて「承知しました。すぐご用意致します」
欠くべからざる<上のミノ>、たとえ代りが何であれ厨房さんとて拒みますまい。
“咎(とが)無き身の引き締まる 満帆の風” -
- 980円
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- はらみ
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◆進化周到vs.進化終頭◆
「あっさりして美味しか」と、このところ人気上々のはら身は横隔膜のことなのです。
太古の昔、低酸素時代の地球を生き抜く為に我が哺乳類が周到に進化させ手に入れた優れものだと聞きました。呼吸の度に上下運動繰り返す働き者なのです。
時に厄介な”しゃっくり”は働き者横隔膜のたまの息抜きなのでしょう。
或る日、執拗な”しゃっくり”に目を白黒の愚息。見かねた友人が「茄子の色は何色だ?」とさり気無く一言。一瞬戸惑い「グッ」と息を詰める愚息。これが効果覿面。
どうにもならなかった”しゃっくり”を予期せぬ他愛無い質問であっさり止められ、「わきゃ(訳が)わからん、なんか自分が情けなか」と憂いて、とうに進化を終えたとおぼしき自らの硬き頭(こうべ)を垂れるのです。
一方、他愛無きことにこそ意義をみて、たとえ息抜きの最中(さなか)とて機敏に反応するまで進化を遂げたはら身の繊細さ、その柔軟さ、美味しいわけです。 -
- 2,200円
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- 豚汁
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◆狸と褞袍(どてら)と豚汁と◆
肥後の手鞠歌、「あんたがたどこさ?肥後さ・・・・・船場山には ・・・・・」と歌われるこの街の狸達。丑三つ時の街外れ、家路を急ぐ車の灯りをさして警戒するでも無く暗がりに処かまわず出没する繁栄ぶり、この平成の世にどうした事でしょう?
狸はもとより、今ほど観光のお客様の姿も目立たず、名所の桜並木もまだ幼木の頃、お城の坂道を、髭面の若き紳士達が夜な夜な城下に繰り出しました。底冷えの夜、お目当ては湯気立ち昇る当店の“豚汁”なのです。二の丸跡に医学部が仮住まい、勉学の合間に褞袍を羽織って背を丸め、昭和のお狸さながら(失礼!)ご来店されたのでした。最も古くからのご贔屓として、今でも“豚汁”が恋しいと、お立ち寄り頂きます。
お城観光のお客様、御幸坂(みゆきざか)を下られて、当店の“馬刺”を堪能されたのち、通称“褞袍豚汁”を是非。
「煮てさ、喰ってさ、旨さがさっさ」とお勧めの太鼓腹。
左の挿し絵は我が“豚汁”の器三代です。
ひぃ~、ふぅ~、み~、三つ共見覚えがお有りになる。
貴方様!やはり船場山のお生まれなのでは! -
- 300円~
400円
- 300円~
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- 牛ロース
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◆ビーナスの商人◆
敢えて上質の<ヒレ肉>を、えも言われぬ穏やかなモナ・リザに、<カルピ>を清廉かつ妖艶なルクレチア・ボルジアに例えんとすれば、差詰<ロース>はミロのビーナスと呼ぶに相応(ふさわ)しい代物なのです。
「失った」「いや初めから存在しない」と諸説在るビーナスの腕(かいな)。しかし両腕を欠いたビーナスの美がそれ自体完璧なのは皆様異論の無きところ。
“リブロース”から“サーロイン”に到る他を圧倒する存在感がビーナスの美を彷彿 とさせるのです。
儀式めいた物腰で運び入れ、横たえた彼女に自ら注ぐ畏敬と信頼の眼差し。「如何です」とばかりに顧客に眼を移す間の取り方。
出入りのお肉屋さん、名うての商人なのです。
気乗りせぬ風を装っていた厨房さん、もうすでに感嘆の呻き声が漏れるのを堪(こら)えている様なのです。色合い、肌理(きめ)の細かさ・・・。指先にシットリからみ程なく溶けゆく脂質。
ついうっかり「良いね」と一言。
「良いでしょう」と商人にんまり一言。
“しまった”とばかり我に返って「抜けてるかな?」と値引きを促す探りをいれても、「抜けてます、徹頭徹尾抜けてます」と、そうはいかぬと確たる姿勢。
それではと「足は凄く短いね」と厨房さん,一転懐柔策で攻めてみる。
「短いですよ。誰しも納得の短さです」と類い稀なるビーナス故に商人強気で未だ譲らず。
なんだか暗に私を揶揄(やゆ)したような、まず「抜けてる」とは“リブロース”の芸術的な霜降りが、連なる最後尾の“サーロイン”までしっかり浸透しているという事
なのです。また「短い足」とは廃りがなく歩度まりが良い、つまりはお買い得を意味するのです。
貴方はモナ・リザ派 それともルクレチア? やはり豊穣(ほうじょう)のビーナスですか!! -
- 2,200円
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- 牛タン
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◆あざやかに厚皮剥(む)いて◆
和食の板前さんの“大根の桂剥き”なかなかああ巧くは参りません。早さといい、華麗なる手さばきといい。しかも何よりその薄さは見事です。足場のきまらぬ宇宙で剥いた毛利さんの林檎の皮もなかなかでした。
それに引き替え当店で剥かれる<牛タン>のその皮の厚いこと。厨房さんはボソボソと「牛タンの三分の一は煮ても焼いても・・・。他の三分の一は煮物用 。残り三分の一がやっと塩タン」
焼肉メニューでまず最初にご注文頂くのが塩タン。初めてのお客様の当店への評価が決まる気の抜けない品なのです。
皆様どなたも、あの美食家特有の懸念と期待の眼差しでこの<塩タン>に向かわれますので、ご期待に応えうるかといつも緊張させられます。
でも厚皮剥かれ、一見ひ弱な我らが<タン>は見かけによらぬ社交家で、薄切り厚切りお好み次第、ポン酢もタレもお手のもの、文字通り酸(すい)も甘いも知り尽くし先陣を仰せつかったふる強(つわ)者です。
ほどなく、おだやかに笑顔浮かべてお客様、塩タン追加のご注文。
「ほらほら、厨房さん。華麗なる板前さんなど気取ってないで、無骨なまでに厚皮剥いて!」 -
- 980円~
2,900円
- 980円~
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- 麦とろ
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◆すり鉢とすり粉木◆
素敵な若いお客様が、ご注文の折、「麦トロロって、何ですか?」とお尋ねになり、「え~、それはその・・・何です・・・」と世代差を感じる質問に、しどろもどろになる私。
「えっ、何?」
「え~ですから、麦ご飯と山イモのトロロ」ただちょっと二つの言葉を離しただけの私の答え。
「麦ご飯って、ひょっとして、あの線の入ったお米?」「え、え~まあ・・・お米でなく麦なんですが、確かに線は入ってます。麦トロロは栄養があって、健康的で・・・」
「あ、そう。それで、トロロは納豆?」
「は・・・いえまあ、トロトロ感は似てると言えば、似てますが・・・。え~山芋は山のイモで・・・」と、ごく当たり前のことを言う私。
すると、お連れのお客様が「トロロね~、昔、じい様が遊び盛りのこの俺を捕まえて『坊主、このすり鉢押さえとけ』と、味噌で溶いただし汁を少しづつ混ぜながらすり粉木で気長にゴリゴリやって作ったもんだよ」と、トロロ汁の懐かしい昔ながらの雰囲気をそのまま伝えてくれました。
当店では今でも昔と変わらず、大きなすり鉢と山椒(さんしょ)のすり粉木でゴリゴリと毎日トロロ汁を作っております。
ある日、すり鉢とすり粉木だけを写真に撮りたい、とおっしゃるお客様がいらっしゃいました。
他に素敵な被写体は、沢山ある気がしたんですが。例えば、私の生けたお花とか、まかり間違えばこの私とか! -
- 1,050円~
1,300円
- 1,050円~
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- 大トロ片炙り
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◆柔らかな幸せに◆
最近、お客様から「あれおくれ。あれだよ、アレ!」とおっしゃって頂く品。そのアレが、コレ。<牛の大トロ片焙り>
長い名前で覚えてもらうのはちょっと大変。現に学生のバイトさん達、伝票記入も殆ど“大トロ”あるいは“片炙り”で済ませてます。
厨房さんが言うには「ちゃんと、マグロと間違わないように牛、最高部位だから大トロ、
焼肉みたいに両面焙らないから片炙り・・・」 だそうです。
名の通り和牛の霜降りをさっと焙り、サラダ感覚で頂く。
「これはいける、うん、うまい!」 と、うなる味。
数あるメニューの中では新参なれど、幸せ感を十分に感じて頂ける品。最近の当店のクリーンヒットと申しておきましょう。
「君ね~、伝票はこれで良いけどお客様にはちゃんと牛の大トロ・・・」
「厨房さん!そんな堅いこといつまでも言ってないで、お客様はもう片焙りでとっくに柔らかな幸福感に浸っておいでですよ」
注)牛の大トロ片焙り:黒毛和牛大トロの片焙りサラダ風 -
- 1,600円
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- ヒレミニオン
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◆微妙に語り難き仲◆
胸に煌(きらめ)く霜降り勲章。肩にAの五つ星。真紅の軍服身に纏うプレミアロース
大将軍。霜降り軍団の総帥です。和牛旨味の極致です。
「あっそう、でも今日私あっさり系」 ・・・そんな時ヒレ姉妹。
ヒレは前が太くて先細リ、まるで空飛ぶ悟空の金頓雲。たかだが数キロ、いつも足地に
着かぬ最高値で“ぶっ飛んでる”のもどこか金頓雲に通じます。
太い方から<赤身ソフト><上ヒレ><ヒレ>と三分割。
<赤身ソフト>の言い分は「私が主役とまでは言わないけれど、“分かり易けりゃ”の
安易な名には納得できない。洒落た店では上品に“フィレミニヨン”と呼ばれている」そう
なのです。
すると最後尾の細身の<ヒレ>が「赤身ソフトで良いじゃない。ふっくら柔らかぴった
しよ、私こそなぜ細身を理由に“上”の冠頂け無いの」と尖ったお顔で御冠。
そこは長女の<上ヒレ>“シャトーブリアン”「まぁ、まぁ、膨れたり尖ったり。
しっとり穏やか、そんな旨味がわれらヒレの本領でしょう」と、妹二人を諌(いさ)めます。
新参の<プレミアヒレ>は三姉妹の質の高さが侮(あなど)れないのを知りました。
当初「私は王冠戴“シャトーブリアン”」と、少しお鼻にかけました。でも機も熟し、姉妹
の屈託の無いやり取りを楽しむ余裕もできました。その余裕が自らの旨味を不動のもの
にするのです。
さあ、ヒレ達の微妙に語り難き仲、その差異を少しはご理解頂けましたか。
「でも、“ミニオン”とか“ブリアン”とか・・・<赤身ソフト>って、やっぱり何?」と、お客様。
メニュー開けば旨味合戦鳥瞰図(ちょうかんず)。東は“赤身”西“霜降り”
ご覧下さい。西軍の古強者“霜降り塩タン”めがけて東から「鶏口となるも牛後となる
なかれ」とけたたましい鬨(とき)の声上げ飛び出した“赤鶏”だけに任せておけぬと、
薙刀(なぎなた)掲げ果敢に突進する鉢巻姿のふくよかな女戦士。あれがお尋ねの
“赤身ソフト”なのです、お客様。 -
- 2,200円~
3,300円
- 2,200円~
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- カルピ
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◆この薔薇界隈ミステリアス◆
お客様が「カルピって、バラ肉ですか?」と度々のお尋ねなのです。
カルピを措いて「焼肉」は語れません。
薔薇界隈ミステリー。さあ~カルピが焼ける僅かの間、そのカルピの謎をご一緒に。
ミステリーの常として多少の生臭さは避け得ません。
でもそこがそれミステリアスな臨場感。お気に障られましたらご容赦を。
ご存知カルピは時代の寵児。引く手数多(あまた)で多忙の極み。
かくてカルピはバラの中。バラの茂みに身をひそめ。この茂み代役候補に事欠かず、
筆頭格の胸元や腿、腕、首さえ控え居り。それら全てを幻惑的な香りに満ちた薔薇と
云う名でカモフラージュ。
痛み伴う茨(いばら)在らずも、分け入ることは躊躇(ためら)われ、曖昧模糊のこの言葉
「カルピとはバラ肉のことなのです」・・・たいがい皆様ご納得。
でも或るお客様「ここのお肉は並みで充分、一体全体どんなバラ?」と
一刀両断いきなり佳境に入るご質問。
「はい、当店では代役知らず、生粋の銘柄牛の三角バラのみ・・」などと、生臭い事
申す他御座いません。
カルピは個々のお店が皆様の心を射止めんと、満を持して放つ刺客なのです。
「百戦錬磨のお客様!今まさにお口に迫るとびっきりの今宵の刺客、果たしてどう
かわされますか」
カルピ人気の舞台裏、知る人ぞ知る“バラ薔薇事件” 貴方様にそっと耳打ち。 -
- 1,900円~
2,500円
- 1,900円~
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- クダ焼き
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◆豚の心根(しんね)、クダの本音◆
あれはいつのことでしたか。馬刺と桜焼を取材にみえた
遠来のスタッフの方々が一通りの取材を終えられた後、
「こんなものでもいかがですか?」と、
何気なくつまみの一つにオススメしたところ、
「<クダ>?こんなの、ほかの店には無いですね」
「硬すぎず、柔らかすぎず、珍しい歯ごたえだ」
「う~ん、とにかくうまい!」
と、目を輝かされ、
「これも、ぜひ!」
と仕舞った機材を取り出され、追加の取材になったのを思い出します。
クダは“ちくわ”や“マカロニ”などとも呼ばれていますが、
本来“豚の心根(しんね)”ともうします。
一頭ごとの質の違いが大きくて、選別にひときわ注意が必要です。
さらに、加熱後の“見掛け倒し”を避けるためにも、基本の基本、
やっぱり試食が一番なのです。ただ、一頭から七、八切れしか採れ
ない品で、わずかにお一人前でも豚、数頭分が必要です。
ここがクダの泣き所、数十頭もの完全試食は至難の技という訳です。
でもクダをご贔屓(ひいき)の大事な大事なお客様、
「厨房さん、出っ張りお腹気にせんでグタグタ言わんで・・・」
心根の本音のお話なのです。 -
- 1,100円
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- 馬ホルモン
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◆ほのかな土の香◆
霜踏みしめ枯れ葉踏み分け、途切れ枯れ蔓(つる)追う彼の目は狩人なのです。
獲物は無論、獲物の潜む地中の岩や木の根の有無をも推し測る。
その違(たが)わぬ“感”は秀逸です。事無げにほぼ垂直に掘り下げて、
次に刃先で傷つけぬよう獲物が纏(まと)った土の衣(ころも)を剥ぐのです。
みずみずしくはじけるごとく折れ易い、しかし粘りが命の自然ジョが堀師の粘りに
音をあげます。土の香が朝の冷気に匂います。
大トロ、キャビア、桜バラ、人の好みは十人十色。私の姪など帆立の“耳”が
好きなのです。でも普通帆立は貝柱、ですよね?
冒頭仰々しくご紹介した堀師。好物<小術(コジュツ)>を口にするたび
「うまか~、懐かしか~・・」寡黙な彼がそう呟くと、やがて意味深(いみしん)に
空(す)いた歯で“ニッ”と笑うのです。一体何を思い出すのやら、“秀逸な感”など
持ち合わせぬ私には想い及びもつきません。でも小術という名の響きがなんとなく
古風で淑(しと)やかな女性の姿を連想させるのです。
ホルモンも馬ホルが主流のこの地では、とりわけこの小術をして“上ホルモン”と
呼ぶのです。色艶(いろつや)まるで貝柱。その意味ではごく普通の食材なのです。
ただ、しばし妬いて焦がれたこの小術、食する人の心根(こころね)深くまどろむ
エロスにそっと委(ゆだ)ねた思い出を、勝手気ままにすくい上げ思い出させて驚かす
悪戯(いたずら)心が有るようなのです。
さあ~心して召し上がれ、魅惑の旨味、小術の魔術、ほのかに香る・・・。
いえご心配なくお客様、貝にあらざる小術ゆえその秘め事聞く“耳”持ちませぬ。 -
- 1,300円
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- 塩鰯
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◆時代の海にたゆたゆと◆
受け売りですが、かの”紫式部”もこよなく愛し、「七たび洗わば鯛の味」と言われる
魚偏に弱しと書く鰯。
歴史的スーパーレディーに愛されたとは微笑ましくも、頼もしい限りです。
ただ、七たび、とは、手の混んだ調理次第で美味くも、と言う意味なのか、
それとも鯛の味にはほど遠し、と言うことなのかは悩むところ。
熟練の手の指だけで捌ける程の華奢な鰯をそう何度も洗えば
「潰れちゃって“つみれ”に成るよ」と気を揉みます。
肉がメインの当店で唯一の魚がこの鰯。 保冷庫等の無い時代、或いは声を潜めて申し
ますなら“塩分控えめ”の一大シュプレヒコールと無縁(塩)の時代、<塩鰯>またの名
<塩蔵鰯>は、海から遠い古里の土地柄なのか、どの食卓でも極めて、重宝がられた味
でした。
「良く焼いて、一度湯通しして下さい」と、お客様。
お体を気遣いながらも懐かしい味を楽しむ、誠に理に適った召し上がり方なのです。
嘗て、私の祖母が好んだように、熱いお茶を注いでもその旨味が損なわれることは御座
いません。
麦飯には山芋とろろ、粟飯には<塩鰯>と、呼び親しまれたこの鰯、とりわけ真夏の
うだる暑さもこの塩味で戴けば食の進むこと請け合いです。
時代の逆潮故なのか
それとも昨今品薄のせいなのか、この<塩鰯> 只今メニューに記載無き“裏メニュー”。
時代が醸す潮に揉まれて、泳いだり、且つ潜んだりとりわけ小振り<塩鰯> -
- 400円
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- 馬刺
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◆中を取っても妥協なく◆
この街で<馬刺>を扱うお店は、かなりの数にのぼります。
それぞれに、質にこだわり、値段にこだわり、品揃えに
こだわって競い合い 名物<馬刺>を支えています。
<焼肉><馬刺><麦とろ>が看板の当店としても、
素材選びにひときわ力が入ります。
“中を取る”とは、魅力に満ちた両極端の個性に後ろ髪を
引かれながらも、二つを同時に生かす術が無く、
渋々妥協して“中を取る”普通はそんな意味ですよね。
ところが当店の<馬刺>選びに関しては “中を取る”のに
渋々なんてあり得ません。僅かしかない特上バラの、
しかもまたその中で最も“凄い”と定評の 三枚バラのど真ん中。
(左は大味)(右、硬め)両極端のそんな個性に目もくれず
こだわりにこだわって“中を取る”、それが<馬刺>なのです。
見映(みばえ)もお味も最高峰!
類い希なとまでは申しませんが、まさに当地の誇る味覚の王者と
申せましょう。揺るぎなき自信を持ってのお勧めです。 -
- 2,500円
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- ヒレ
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◆かたくなな愛◆
ヒレには目がないのです。いえいえ私がヒレに目がないのではないのです。
ヒレは私にとって高嶺の花。勿論ヒレに目のない多くのお客様。
これはあるヒレにまつわる悲恋の物語なのです。
ロースやバラに囲まれて内懐に抱かれ育ったヒレには、正目(まさめ)も逆目
(さかめ)もないのです。どう包丁入れようとまったく障りは無いのです。
“何とも無垢な”とか“いやむしろ知的なほどに”などと喩える外無き柔らかさ。
その意味でヒレには目がないのです。
そんなヒレへの思い入れ、本人知ってか知らでか盲目の紛(まご)うことなき愛なのです。
師走の街に人溢れ、私共フロアーもお客様への対応が充分に叶わぬ程の夜でした。
あ~、愛の破局のお膳立て。
予定のヒレを捌(さば)き尽くして次なるヒレに手を染めたのです。
注文受けてやおら包丁入れるこだわりが裏目に出ました。確かに急(せ)いてもいた
のです。
でも見映(みば)の秀でた高値のヒレゆえ露疑う事も無く、あろうことか
吟味の鉄則、愛の証、“抑え難く愛(いとお)しく触れる”のを怠ったのです。
更に“あたり”と称す予期せぬ硬さを切り手に伝える“鈍丁”を、ありきたりな切れ味
冴える包丁に握り変えてもいたのです。
ヒレは、常と異なるおざなりで冷たい仕打ちに不信と恥辱に苛まれ、
やがて怒りを悟られぬようこと静かに身構えた、とでも言うのでしょうか。
こうして当店のヒレにあるまじき前代未聞、噛みつかんばかりに頑なな二枚のヒレが
お客様のテーブルに運ばれたのでした。
妹の私には何かと口やかましく厳(いか)めしい厨房さん、程なく事の真相に気づき、
その顔が未曾有の失態に色も失せ“べそ”かかんばかりなのです。
この日この愛、ひれ伏す能わずおざなりな愛。 -
- 2,200円
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- 山独活ご飯 (写真は山独活酢もの)
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◆飽くなき戦い、灰汁(あく)抜く戦い◆
まだ初夏に間のある晴れた日に、山菜片手の野山散策、汗ばむとは言えいい気分です。
ただ独活(うど)の根本に潜む蝮(まむし)には皆様くれぐれもご用心。
育ち過ぎて役に立たぬものに例えられる“独活の大木” 旬の初々しい時期でさえ
強い灰汁(あく)持つ山菜ですが、一皮剥いたら山烏賊(やまいか)と言われ、
爽やかで味わい深く、先の山菜定食で既にご紹介の一品です。
当店オリジナル山ウド御飯の素材はこちら“剥かれた皮”。
劣悪な地形で冬を生き抜き深みを増したこの灰汁が、二、三ヶ月の桶の中ですんなり消える
はずも無く、それが夏まで山ウド御飯を皆様にお届け出来ない理由なのです。
心待ちのお客様の意に添うべき季節向かえて、ここで一気に勝負に出ます。
熱湯張った大鍋に、重曹(じゅうそう)、米糠(こめぬか)打ち振りながら何度
か山ウド潜らせて、頑固な灰汁を微妙な風味に押さえる戦。
天然故のばらつき多く、しかも調理後の適度の食感保つにはそう際限無く繰り返せぬ
この作業。
時に、戦い終えて厨房さん、失意の念が怒りとなってガス台の炎の前で震えおります。
開店間際、「山ウド御飯、本日品切れ」 -
- 350円
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- 山菜定食 (要予約)
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◆桜加えて野山賑やふ◆
<ゼンマイ>と<お煮しめ> 素朴な品々、揃えます。
まず、お酒には薄味のこれらをつまみに。暫くお待ち頂けますか。
“よごし”何のことかお分かりですか?
<白和(しろあえ)>のことなのです。
方言なのか、古語なのか、唯一この名でご注文のあのお客様
久しくお見え頂けません。
<おから>
これは説明不要ですね。只今、お持ち帰りのベストスリー。
<山芋トロロ>
お味は一応ついてはいます。お好みですが、
お手元の<醤油の実>で塩加減を整えるのが、ちょっと味噌。
時による品切れは、恐縮至極。この場を借りて「誠に申し訳御座いません」
<山ウド>
甘酢漬けでも、山椒風味のヌタで食べても、野山育ちのシャキッとした歯ごたえと
独特な気品の香る味が楽しい。昔から根強い人気の品です。
<煮豆と煮梅>
デザート感覚で意外にも男性の方にうけてます。
この他、季節によって <ぐるぐる><カブ><蕗><茗荷><にがうり> など
お楽しみ頂けます。
ご飯は、白・麦・粟・高菜・山ウド お好み次第。
香の物、汁物・・・素朴な旨味、多種多様。
これにひと花加わって<桜>味噌漬け焼き、少々。
ご注文の<山菜定食> お待たせしました。 -
- 2,800円
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